ゲーマーの通話アプリDiscordはどんなサービス?
2021年3月末、MicrosoftがDiscordの買収を交渉中だというニュースが流れました。収録はその1〜2週間後で、草野さんと宮武さんはこの報道を入り口に、Microsoftが買収を考える理由を掘り下げていきます。
草野さんの説明では、Discordはビデオ通話や音声通話ができるサービスで、ビデオゲームのチャットコミュニティなどの運営に使われています。宮武さんは、Discordが特に音声からスタートした会社だと補足しています。
草野さんが調べて驚いたのは、Discordが2015年にできた比較的新しいサービスだという点です。2019年5月にはユーザーが2億5000万を突破しており、ゲームをする人なら一度は使ったことがあるのではないか、と草野さんは話しています。
最近は小規模なスタートアップが、Slackの代わりにDiscordを使う例もよく耳にするそうです。草野さんは、Discordではサーバーを作って人を招待し、権限を細かく与えられるなど、Slackよりカスタマイズ性が高い印象があると語っています。
(Discordは)ビデオ通話とか音声通話ができる、ビデオゲームとかチャットコミュニティとかを運営してる、あのサービスですね。
売上の77倍、1兆円超の買収額は妥当なのか
Discordの料金体系について、宮武さんはまずSlackとの違いを挙げます。Slackは一定以上使うと1ユーザーあたり月800円ほどかかりますが、Discordは基本機能がずっと無料です。
Discordの収益源は、プレミアム課金機能です。カスタム絵文字や、より高品質な音声通話やビデオ会議を使いたい人が追加で支払う仕組みで、広告は一切出していません。宮武さんによれば、Discordはこの仕組みで前年に130億円ほどの売上を出しています。
一方で、報道された買収額は10ビリオン以上、つまり1兆円以上とされています。宮武さんは、130億円の売上と比べると、売上マルチプル ── 企業価値が年間売上の何倍にあたるかを示す指標。成長企業の価値を測る際によく使われ、倍率が高いほど将来の成長が強く期待されていることを示しますが77倍にもなると指摘します。
この10ビリオンという数字の妥当性は、VCの間でも議論になっています。宮武さんが紹介したあるVCのアンケートでは、知り合いの約半分が「高すぎる」、残りの半分が「低すぎる」と答え、見方が真っ二つに分かれたそうです。
大体半分の人が(10ビリオンは)高すぎるって言ってまして。で、半分が低すぎるっていうのを言っていて。
判断材料として、宮武さんは過去の評価額をいくつか挙げます。Discordは赤字事業で、前回ラウンドのバリュエーションは7ビリオン(約7000億円)ほどでした。また2018年にも売却を検討しており、そのときの価格は2〜6ビリオン程度でしたが、結果として売却はしていません。
宮武さんがもう一つの手がかりとしたのが、セカンダリ市場 ── 未上場企業の株式を、既存の株主や従業員などが投資家に売買する市場。上場前の企業価値を推し量る材料として参照されますです。番組では以前、WeWorkが47ビリオンの時価総額だった当時、セカンダリ市場では20ビリオン以下だったという話をしていました。
Discordのセカンダリ市場での時価総額は11〜12ビリオンほどです。宮武さんは、これを踏まえると10ビリオンという価格は割と妥当という結論になるかもしれない、と慎重に述べています。
| 時点・指標 | 評価額 | 補足 |
|---|---|---|
| 2018年の売却検討時 | 2〜6ビリオン | 結果として売却せず |
| 前回の資金調達ラウンド | 約7ビリオン | 赤字事業での評価 |
| セカンダリ市場 | 11〜12ビリオン | 現在の取引水準 |
| 今回の買収報道 | 10ビリオン以上 | 割と妥当との見方も |
Microsoftの買収はなぜ「コミュニティ」ばかりなのか
宮武さんは、MicrosoftのM&A戦略を振り返ります。Microsoftはこれまで、Minecraftを開発するMojang、GitHub、LinkedIn、Zenmax ── Zenmax。書き起こしでの表記。ゲーム会社ZeniMax Mediaを指している可能性がありますなどを買収し、PinterestやTikTokの買収も試みましたが、後者2つは実現しませんでした。
宮武さんと草野さんは、これらの買収に共通する肝が「コミュニティ」だという点で一致します。草野さんもPinterestやGitHubを挙げ、コミュニティを持つサービスだと応じています。
LinkedInもMinecraftも、いわゆる特定のコミュニティを獲得しに行ってるのかなっていうところで。
宮武さんの見立てでは、Microsoftは既存のユーザーとは違う層を取りに行こうとしています。LinkedIn以外は、Microsoft Officeを使う層とは若干異なるユーザー層だというのが、その根拠です。
Discordとの連携で最もわかりやすいのは、ゲーム領域です。Microsoftはゲーム機Xboxを作っており、複数人でチャットできる「パーティーチャット」という機能を、もともと有料だったのに最近無料にしました。
宮武さんは、Xboxのパーティーチャット無料化が、Discordを当てはめるための準備かもしれないという考え方もできる、と話します。さらにMinecraftの中でコミュニケーションしやすいよう、Discordを組み込むのも自然な流れだとしています。
ナデラCEOが掲げた「クリエイターエコノミー」の裏の狙い
ゲーム以外でもう一つ重要なポイントとして、宮武さんはクリエイターエコノミー ── 個人のクリエイターが作品や発信を通じて収益を得る経済圏のこと。動画配信者、ゲーマー、ライター、開発者などが含まれますを挙げます。MicrosoftのCEOであるサティア・ナデラさんが、最近のカンファレンスで久しぶりに今後の注力テーマを発表したのがきっかけです。
ナデラさんは就任当初、AzureやTeamsといったクラウド事業を前面に押し出していました。ところが今回は、クリエイター向けのツールや、クリエイターのエンパワーメント、コミュニティ作りにMicrosoftが入るべきだと語っていたそうです。
草野さんは、GitHubやMinecraftにはコミュニティがあっても、Microsoftそのものにコミュニティがあるイメージはなかったと率直に話します。宮武さんも、MicrosoftはOfficeなどBtoBのビジネスの印象が強く、SNS領域に入りたがることには違和感もあるだろうと認めています。
でもやっぱり、まあ彼ら(Microsoft)も理解してるのは、その次の事業を作る人たちってこういうクリエイターなので。
DiscordにはMAUが1.4億人おり、YouTuberやクリエイター、ゲーマーが非常に多いといいます。宮武さんは、ゲームがSNSになり、ゲームクリエイターが次世代のクリエイターになるという流れの中で、Microsoftがゲーミングコミュニティに入りたいのではないかと見ています。
さらに宮武さんは、クリエイターエコノミーという言葉を使うことには別の理由もあるという仮説を示します。アメリカ政府は大手テック企業を独占禁止法 ── 市場での独占や不当な取引制限を禁じる法律。アメリカでは近年、巨大テック企業の買収や事業拡大に対する当局の監視が厳しくなっていますの観点から厳しく見ています。
宮武さんによれば、MicrosoftがDiscordを買う3つ目の理由はクラウドやTeamsです。ただしTeams領域にDiscordが加わると、Officeは市場シェアを9割ほど持っているため、独占禁止法に引っかかる可能性が高くなります。
いわゆる独占禁止法に引っかからないために、Discordをクリエイターエコノミーの一環として買収しようとしてるのかなっていうのが。
コミュニケーションツールではなく。
草野さんは、「名目としてクリエイターエコノミー寄りにするのですね」と受け止めつつ、実質的にはTeamsとDiscordが組めば独占に近く、ほかに対抗できるのはSlackくらいだと指摘しています。
クリエイターエコノミーの一環。ゲーマーやクリエイターのコミュニティを取り込む
Teamsに加わるとOffice寄りに見え、シェア9割のOfficeとの組み合わせで止められる可能性が高い
買収で競合クラウドからAzureへ乗り換えさせる
Slackの話に入る前に、宮武さんはMicrosoftのクラウド事業Azure ── Microsoftが提供するクラウドコンピューティングサービス。AWSやGoogle Cloudと競合していますに関わるもう一つの狙いを説明します。MicrosoftがTikTokを買収しようとしたときも、表向きのコミュニティに加えて、裏の理由はTikTokをAzureへ移管させることだったといいます。
宮武さんによれば、TikTokはGoogle CloudかAWSを使っていました。競合のクラウドから自社のサービスに乗り換えさせることは、意外と重要なポイントだと宮武さんは話します。
実際にMinecraftは、もともとAWSで動いていたのを最近Azureに切り替えています。Outlookも、Acompliという会社を買収して作ったサービスで、もとはAWSだったインフラをAzureに変えているそうです。
| サービス | 元のインフラ | 買収後・想定 |
|---|---|---|
| Minecraft | AWS | 最近Azureに切り替え |
| Outlook(Acompli) | AWS | Azureに変更済み |
| TikTok(買収未成立) | Google CloudかAWS | Azure移管が裏の狙い |
| Discord | Google Cloud | 切り替えれば大型顧客の獲得に |
Discordのインフラは現在Google Cloudです。宮武さんは、Discordを買収してAzureへ切り替えさせることも、大型顧客を獲得する意味で理由の一つだろうと見ています。
草野さんは、TikTokを運営するバイトダンスがLarkというオフィス向けのコミュニケーションツールを作っていることも、関係しているのではないかと付け加えました。宮武さんもその見方に同意しています。
TeamsのDAU7500万人は本当にアクティブなのか
クラウドの一環として、宮武さんはOffice、そしてコラボレーションツールのTeamsへと話を進めます。Microsoftはかつて社内SNSのYammerを1ビリオンほどで買収しており、この領域に力を入れてきました。
宮武さんによれば、Microsoftがよく理解しているのは、自社のユーザー層が年を取ってきているという課題です。そのため、どうすれば若者層を取れるかが問われています。
TeamsはDAUが4年間で7500万人になったと発表しています。宮武さんは、Slackが2019年時点で1200万人ほどだったことを挙げ、Teamsはその約6倍の数字を主張していると説明します。
ただし、この数字にはSlackが指摘を入れており、宮武さんもその指摘は正しいと考えています。Teamsはパソコンを立ち上げると自動的にログインするため、それが本当にDAUと呼べるのかという疑問です。
Teamsって自動的に、パソコンを立ち上げると自動的にログインするんですよ。なんで本当にDAUなのかっていう。
宮武さんはさらに、Teamsの数字は既存ユーザーをアクティベーションしているだけだとも指摘します。新規ユーザーはSlackに流れているため、新しいユーザーを取るためにDiscordを買収するのは非常に良いアイデアだと宮武さんは話しています。
Slackの本当の強み「Slack Connect」とは?
宮武さんは、Slackの一番のすごさはグロースの数字ではなく、Slack Connectという機能にあると語ります。Slack Connectは、チームAとチームBのように別々の組織をつなぐ機能で、共有チャネルとも呼ばれます。草野さんは「外部の人がちょっとだけ入れる」機能だと言い換えています。
宮武さんによれば、ユーザーはSlack Connectができる前から、似たことを勝手にやっていました。たとえば組織Aと組織Bのコラボ専用に、別のSlackグループを新しく作ってしまうやり方や、ゲストユーザーとして招待し、特定のチャネルだけ見せるやり方です。
そのいわゆるその会社間のネットワーク効果を作るっていうところって(Slackは)すごいな。
草野さんは、Discordには確かにこうした機能はなさそうだと応じ、もしあればリスナーに教えてほしいと呼びかけました。宮武さんも、他のサーバーの通知やメッセージを自分のサーバーに反映させる機能はあるはずだが、別組織と直接やり取りする仕組みはないと思う、と話しています。
宮武さんが気になっているのは、Discordでも昔のSlackのように組織Aと組織B専用のサーバーを作る使い方があるのかという点です。草野さんは、Discordはサーバーを作るのが超簡単で、複数のサーバーに入っている人が多いため、そうした使われ方をしているのではないかと個人的に考えています。
宮武さんは2年ほど前、前職のDGにいたころにサンフランシスコへ出張し、Slackの開発者カンファレンスに参加したことがあります。そこではスチュワート・バターフィールド ── Slackの共同創業者でCEO。写真共有サービスFlickrの共同創業者としても知られていますさんが長い時間をかけてSlack Connectの話をしており、カンファレンスのほとんどがその話題だったそうです。当時はなぜそこまで推すのか不思議だったものの、今はここが肝だと宮武さんは考えています。
SalesforceがSlackを買った理由と、Excelが広まった道筋
宮武さんは、SalesforceがSlackを買収した理由を2つ挙げます。1つ目は、Salesforceを率いるマーク・ベニオフ ── Salesforceの共同創業者でCEO。クラウド型の顧客管理ソフトを広めた人物として知られていますさんが、顧客企業の全従業員に自社のサービスを使ってほしいと考えていることです。
これまでSalesforceのCRMツールやパイプライン管理を使うのは、営業部門やマーケティング部門に限られていました。Slackを買えば、全従業員がSalesforceのソフトウェアを使うようになります。ベニオフさんは以前、Slackの競合となるChatterというツールを作っていたこともあったそうです。
2つ目は、Slack Connectによって組織の境界を越えて広がりやすい点です。別の組織がSlackのエコシステムに勝手に入ってきて、そこで密なコミュニケーションが行われるため、メールのやり取りがなくなっていくと宮武さんは説明します。
(Slackで)アカウント作っちゃったら、そこで紐付いてたら他のサービスとか機能も使いたくなりますよね。
宮武さんによれば、Slackにはすでにアプリのエコシステムがあり、Salesforceのエコシステムと似ています。一方でSlackの課題は、エンタープライズ向けの営業体制が遅れていたことでした。宮武さんは、30ビリオンでExitしているので結果としてはミスではないとしつつ、営業部隊をもっと早く用意すべきだったと話し、だからこそ営業が得意なSalesforceに売ったのだろうと見ています。
Microsoftが理解しているのは、Slackのユーザー層が若く、Discordはさらに若いという点です。宮武さんは、若者からソフトウェアを浸透させるのは、実はMicrosoftの昔のやり方だと続けます。
例に挙がったのが、1985年に登場したExcelです。宮武さんの推測では、当時の上司や50歳以上の人たちはExcelを使っておらず、使っていたのは22歳のアナリストのようなテックに詳しい若手でした。その若手が管理職になったとき、部下にExcelを使わせたといいます。
若手が使い始める
1985年、Excelを使ったのは上司ではなく22歳のアナリストたち
若手が管理職になる
テックに詳しい世代が組織の上のポジションに就く
部下に使わせる
管理職になった世代が、部下にも同じツールを使わせる
組織の標準になる
Word、PowerPoint、Outlook、Windowsも同じ道をたどった
宮武さんは、ユーザーと一緒に育つことがMicrosoftにとって重要であり、MinecraftやGitHubの買収、TikTokの買収検討もそこにつながっているのではないかと話しています。
宮武さんの見立てでは、もしDiscordがSlackのように組織をまたいでコミュニケーションできるなら、Teamsと組んだときに誰も勝てないほど強いツールになるかもしれません。草野さんは、それはもう独占だと反応しています。
宮武さんは、MicrosoftがDiscordを買う理由を、Slackへの対抗と、Officeを潰されないための守りの両面だとまとめます。ベニオフさんはずっとOfficeと戦いたがっており、だからこそSlackを買ったのだろう、Microsoftはそれに対して身構えているのかもしれない、と宮武さんは話しています。
なんかすごい雲の上の戦いに聞こえてきました。
Sunrise、Wunderlist、Mixerの記憶から見る買収の不安
宮武さんは、Microsoftには独占禁止法の懸念に加えて、最近の買収で失敗した事例もあると指摘します。代表例は、Microsoftが運営していたライブストリーミングサービスのMixerで、結局は終了しています。
草野さんは、そうした予感がするので、個人的にはDiscordにはあまりMicrosoftに買収されないでほしいと話します。宮武さんは、DiscordはSlackのようにIPOを目指すべきか、それとも別の会社が買うべきかと草野さんに尋ねました。
草野さんが買収に好意的でない理由は、自分が大好きだったサービスが2つ、Microsoftに買収されて変わってしまった経験にあります。1つ目は、デザインとUIが最高だったカレンダーアプリのSunriseです。宮武さんによれば、Microsoftは100億円ほどで買収したといいます。
Sunriseは買収後にサービスを終了し、Microsoftのツールとして作り直されました。草野さんによれば、UIは残っていたものの、カラーはMicrosoft風になり、ログインもMicrosoftのIDが必要になって、悲しい思いをしたそうです。
2つ目は、ベルリンのタスク管理アプリWunderlistです。草野さんはUIが超イケていてコミュニティも熱いこのサービスが大好きで、ベルリンのオフィスに遊びに行ったこともあるほどでした。しかし買収後はデザインがMicrosoft風になり、使いづらくなったと感じています。創業者が買い戻したいと申し入れたほどだったそうです。
草野さんはさらに、Discordのようなサービスには中立性があったほうがよいのではないかとも話します。番組で取り上げてきたメタバースの話とも重ね、ゲームやメタバースの場は1つの企業の1サービスになるより、独自路線で進んでほしいと考えています。
元のものを好きだった人を愛してほしいってことですね。
宮武さんは、Microsoftの買収には、別々に運営するパターンと、自社に統合するパターンがあると整理します。MinecraftやGitHubはほとんど手を入れられていない一方、SunriseやWunderlist、Mixerは取り込まれ、Mixerは完全にリブランディングされました。宮武さんは、違いはサービスの規模かもしれないと述べています。
MinecraftやGitHubは、買収後もあまり手を入れられていない
SunriseやWunderlist、Mixerは、デザインやブランドがMicrosoft風に変えられた
Google、Amazon、Facebook。1兆円を出せるのは誰か
宮武さんは、Microsoft以外の買い手候補を挙げていきます。1兆円規模を払える会社はほとんどないため、実際に買収を検討していそうなのはGoogle、Facebook、Amazonあたりだといいます。さらに個人的に面白いと思う候補として、Unity、Epic Games、Twitterを挙げ、最後にダークホースも紹介すると予告しました。
まずGoogleです。GoogleにはクラウドゲーミングのGoogle Stadia ── Googleが提供していたクラウドゲームサービス。ゲーム機がなくても、ネット経由でゲームをプレイできる仕組みですがありますが、宮武さんは調子が良くないため、連携の本命はそこではないと見ています。
2つ目の連携先はYouTubeです。宮武さんによれば、YouTubeはこれまでTwitchに本気で挑んだことがありませんでしたが、そろそろ動き出しています。草野さんも、日本ではライブ配信はYouTubeがデフォルトでも、アメリカでは配信はTwitch、録画動画はYouTubeというイメージがあると話します。
宮武さんは、その明確な理由の一つが収益の取り分だと説明します。YouTubeは7割を取る一方、Twitchは配信者と半々くらいなので、Twitchのほうがマネタイズしやすいのです。それでも、YouTubeが本気を出せばTwitchを潰しに行けるはずで、Discordと組むのはありだと宮武さんは見ています。
Googleにとって最大の連携ポイントは、Microsoftと同じくクラウドだと宮武さんは言います。Googleにもチャット機能はありますが、実際の社内コミュニケーションではGmailが使われています。このチャット部分をDiscordで置き換えれば、Googleのスイートの中でSlackは必要なくなる、というのが宮武さんの見立てです。
草野さんは、会社員時代にGoogleハングアウトのチャット機能が便利だったと振り返り、なぜなくなったのかと思うほどだったと話します。宮武さんは、組織間のコミュニケーションをメールだけでなくチャットでもできるようにし、DocsやSpreadsheetに寄せていけば、Microsoft Officeを倒せると話しています。
宮武さんは、本来GoogleはSlackを買収すべきだったと個人的に考えています。今のGoogleスイートも、実は買収によって作られてきました。
| サービス | 元になった買収先 | 補足 |
|---|---|---|
| Google Sheets | ExceltoWeb、DocVerse | 表計算 |
| Google Docs | 上記2社とQuickOffice | 文書作成 |
| Google Slides | 上記3社とTonic Systems | プレゼン |
宮武さんによれば、Googleでは広告が落ち始めており、今最もホットなクラウドに寄せないといけない時代になっています。そのため、Discordの買い手候補としてGoogleはMicrosoftの次くらいだろうと宮武さんは見ています。
Amazon、Facebook、Epic・Unity、Square+Twitterの可能性
Googleの次の候補として、宮武さんはAmazonを挙げます。AWSとTwitchの2つの領域でフィットするうえ、Amazonはゲーム領域に本気で入りたがっており、1〜2年前には自社ゲームの開発もしていました。結果は失敗だったものの、本気度があるならDiscordを買う理由はあるといいます。
Facebookについて、宮武さんは正直厳しいと見ています。コミュニケーションツールとして見られた瞬間、WhatsApp、Instagram、Facebook Messengerを持つFacebookは、最も独占禁止法に引っかかりそうだからです。草野さんが「クリエイターエコノミーです、と言えばどうか」と冗談めかすと、宮武さんは「できないじゃないですか」と返しています。
宮武さんはここで重要なポイントとして、アメリカ政府との関係性を挙げます。Facebook、Twitter、Googleは政府との関係が悪く、大手テック企業の中で最も関係が良いのはMicrosoftだといいます。前年にTikTokが禁止されかけた際にMicrosoftが買い手として入れたのも、関係性の問題だろうと宮武さんは見ています。
Microsoftってペンタゴンとかも一緒に契約してたりもして、それ(Amazonの契約)を勝ち取ったりもしてるんで、明らかに関係性でMicrosoftの方がいいんですよ。
それでもFacebookには、ゲーム領域への注力や、FacebookグループへのボイスチャットをはじめDiscordを組み込める余地があります。社員向けのコミュニケーションツールであるWorkplaceにDiscordを統合する道も見えるそうです。なお草野さんの質問に対し、宮武さんはアメリカではMessengerの人気はそこまででなく、SMSのほうが圧倒的に強いと答えています。
次に面白い候補として挙がったのが、Epic GamesとUnityです。時価総額が28〜30ビリオンほどなので1兆円は出しづらいものの、オープンメタバース ── 特定の企業に閉じず、さまざまなゲームや仮想空間が相互につながる世界観。Epic Gamesなどが提唱していますという概念を信じるなら、Discordをコミュニケーションの層として全ゲームに当て込む形は面白い、と宮武さんは話します。
Twitterは単独では難しいと宮武さんは見ています。ただ、番組で以前考察したTwitterとSquareの合併があれば話は別です。Squareの時価総額は104ビリオンで、そのレベルなら10ビリオンを出せます。Twitterの時価総額は50ビリオンほどで、単独ではぎりぎりだといいます。
でもスクエアプラスTwitterプラスDiscordって。最強じゃないですか。
宮武さんによれば、Twitterは最近コミュニティ機能を作っており、Twitterスペースのような音声機能もDiscordと連携しやすいそうです。Discordもすでに似た機能を作っているため、いろいろな意味で相性が良いと見ています。
ダークホースはStripeとShopify。決済とコミュニケーションの組み合わせ
最後に宮武さんは、ダークホースとしてアメリカの会社を2社挙げます。草野さんにヒントを出しながらのクイズ形式で、1社目は「YC卒業生」で「決済系」というヒントから、草野さんがStripe ── オンライン決済のインフラを提供するアメリカの企業。開発者向けのわかりやすいAPIで広く使われていますと当てました。
宮武さんは、StripeとDiscordは連携できるポイントが若干少ないとしつつ、ビジネスに組み込むStripeにDiscordのようなコミュニケーション層を加える道はありうると話します。Stripeが個人向けに進み、VenmoやCash Appに対抗するためにDiscordをきっかけにSNS化する可能性もある、という見立てです。
2社目のヒントは「Sから始まる」「カナダ出身」「超大手」「D2Cなら絶対使っているインフラ」「日本展開もしている」でした。草野さんはなかなか当てられず、答えはShopify ── カナダ発のECプラットフォーム。ネットショップの開設や運営に必要な機能をまとめて提供し、D2Cブランドに広く使われていますでした。
もう悔しいですね。Shopify確かにストライプ、Sから始まるストライプしか出てこなくて。
宮武さんは、Square+Twitterに対抗できるのは、Shopify×DiscordやStripe×Discordかもしれないと話します。草野さんも、インフラ系のサービスとコミュニケーションサービスが一緒になると面白いことができそうだと応じました。
宮武さんによれば、普通はこの逆のパターンが多いといいます。ShopifyはもともとECインフラとして始まりましたが、今は決済のほうが儲かっているはずです。UberやGrabも決済に寄せており、決済というバックエンドを取りに行く動きはよくあります。
よくあるパターン:ECや配車などのサービスが、決済というバックエンドを取りに行く(Shopify、Uber、Grab)
逆パターン:決済インフラ側が、Discordのようなコミュニケーションサービスを取り込む
本当はOfficeを倒してほしい。宮武さんが見るDiscordの行方
草野さんに「MicrosoftにDiscordが買収されるべきか」と問われた宮武さんは、Microsoftは買収しそうだと答えます。そのうえで、個人的にはOfficeを倒す会社が出てきてほしいと本音を語りました。
(Microsoftは)買収しそうかなと思いますね。それをするべきかというと、個人的にはOfficeを倒す会社が出てほしいんですよね。
その意味で宮武さんが期待するのはGoogleですが、Googleは動かなそうだとも感じています。草野さんが、Googleには個人向けのコミュニケーションサービスのイメージがあまりないと言うと、宮武さんはGoogle+の結末に触れました。
宮武さんが懸念するのは、GoogleでもMicrosoftでも、買収後にDiscordをそのまま残すのか、エンタープライズ寄りにするのかという点です。エンタープライズ寄せにするとリブランディングされ、ユーザーが離れる可能性が高く、SunriseやWunderlistの例のようになりかねないと宮武さんは話します。
草野さんは、Googleが買う場合でも、YouTubeの一機能にするのかGoogleスイートに組み込むのかで、既存ユーザーの受け止めは変わるだろうと指摘しました。
一方で宮武さんは、大企業が買収した技術をさまざまな場所にうまく組み込む成功例もあると話します。例に挙げたのは、Googleが400億円ほどで買収したDeepMind ── イギリス発のAI研究企業。囲碁AIのAlphaGoで知られ、Googleの傘下に入りましたです。宮武さんは、正直めちゃくちゃ安かったと評しています。
宮武さんの説明では、DeepMindは人間らしい動きとコンピューター並みの処理能力を組み合わせ、チェスではどのチェスエンジンより強くなりました。その技術は囲碁やStarCraft、最近はバイオ分野にも応用されています。
裏ではDeepMindの技術がYouTubeやGoogle検索にも使われ、YouTubeのレコメンドエンジンの一部にもなっています。その結果、ユーザーの滞在時間が大きく伸び、その年の広告収入が大幅に上がったそうです。
宮武さんは、買収にはうまくいくものもいかないものもあると述べ、Microsoftが買うのか、2018年のときと同じくDiscordが売却しないのかを今後見ていきたいと締めくくりました。
まとめ
この回では、MicrosoftによるDiscord買収報道をきっかけに、1兆円超という価格の妥当性、コミュニティと若いユーザーを取りに行くMicrosoftの戦略、Slackとの比較、そしてGoogleやShopifyなどほかの買い手候補までが語られました。草野さんはサービスの良さとコミュニティが失われることを懸念し、宮武さんはOfficeを倒す存在が出てほしいという本音を示しています。
- 報道された10ビリオン以上の買収額は売上の77倍だが、セカンダリ市場の評価額を踏まえると割と妥当という見方もある
- Microsoftの狙いはゲーム、クリエイターエコノミー、Azureへの移管、Teamsの若返りと多層的で、独占禁止法を避ける名目づけも絡むと宮武さんは見ている
- Slackの本当の強みは組織間をつなぐSlack Connectで、Discordが同じ機能を持てばTeamsと組んで非常に強いツールになりうる
- Google、Amazon、Facebookに加え、Square+Twitter、Stripe、Shopifyといった意外な買い手候補も挙がった
- 買収後にエンタープライズ寄りにリブランディングするとユーザーが離れる恐れがあり、SunriseやWunderlistの例が懸念として語られた


