第5位「アメリカの負債」はどれほど膨らんでいるのか?
Off Topicの2023年最後のエピソードは、毎年恒例の「2023年テックニュースTOP10」の後半です。今回は5位から1位を発表し、10位から6位は前回のエピソードで扱っています。
第5位は「アメリカの負債」です。宮武さんは、今年はアメリカの消費者を支えるシステムに、部分的にヒビが入り始めたタイミングだったと見ています。
今年すごい個人的に気になったのが、アメリカの消費者の中のいろいろなシステムが、部分的にヒビが入り始めたっていうか、壊れ始めてるタイミングかなと思ってまして。
宮武さんによると、アメリカの合計家計債務額は、2023年9月時点で17トリリオン(17兆ドル)に達しています。1ドル100円で単純計算すると、2000兆円以上の負債をアメリカの家計が抱えている計算になると説明しています。
家計債務の内訳でもっとも大きいのは住宅ローンですが、それ以外にもクレジットカードや学生ローン、自動車ローンが積み上がっています。宮武さんが挙げた数字を並べると、規模感がわかります。
| 項目 | 金額 | 宮武さんの円換算の目安 |
|---|---|---|
| 合計家計債務額 | 17トリリオン | 2000兆円以上 |
| 住宅ローン | 12トリリオン | 最大の割合 |
| クレジットカード | 1トリリオン超 | 150兆円ぐらい |
| 学生ローン | 1.6トリリオン | 200兆円ぐらい |
| 自動車ローン | 1.5トリリオン | 200兆円ぐらい |
さらに宮武さんは、アメリカ人の36%は、クレジットカードの負債額が預金額を超えていると指摘します。草野さんは、ホリデーシーズンにBNPL ── Buy Now, Pay Laterの略で「後払い」サービスのこと。購入時に支払わず、後日分割などで払う仕組みで、アメリカで利用が広がっていますの利用率が大きく上がったというニュースや、Apple Payでも後払いができるようになった話を重ねました。
後払いをするのは発想としてはいいんですけど、ちゃんとその分の預金額があるかどうかっていう、すごいベーシックな問題ですけど。
サンフランシスコのオフィスビルが5〜8割引でも売れない理由
宮武さんは、消費者の負債だけでなく、まだ大きく表面化していないもう1つの問題として、不動産、とくにオフィスビルの状況を挙げます。業界の人たちは全員「やばい」と理解しているものの、その後の影響がまだ起きていないだけだといいます。
コロナ禍でオフィスを使わない人が急増し、コロナ明けになってもオフィスに人が戻っていません。宮武さんによると、空きスペースの割合は、アメリカやイギリスのロンドンなどで過去20年間で最高レベルになっています。
とくに深刻なのがサンフランシスコで、オフィスの空きは20%ほどあるといいます。スタートアップがコストカットを進めていることや、他の業界よりリモートワークを推進する傾向があることも背景にあると宮武さんは説明します。
(ビルの価格は)50から80パーのディスカウントなんですよ。
草野さんは「逆に安く借りられる」「シリコンバレーは人気だから良さそう」と反応しますが、宮武さんは、結局そこに誰も入らなければ意味がないと返します。実際、その価格ですら買いたい人は少ないそうです。
オフィスビルを住宅に転用すればいいという考え方もあります。ただ宮武さんによれば、自治体の許可が必要なうえ、オフィスビルは住まい向けに設計されていないため転用のコストが大きく、ある調査ではオフィススペースの0.8%ほどしかアパートに変えられないとされています。
オフィス不況が銀行の取り付け騒ぎにつながる可能性
宮武さんが本当に怖いと考えているのは、オフィスビルの値下がりが銀行に波及するシナリオです。ビルオーナーは購入資金の多くを銀行から借りており、借り換えをするか、資産を売るかしか選択肢がありません。
銀行は現在、ビルの価値を現在の時価ではなく、以前の評価で見ています。もし5〜8割引の時価で評価し直せば、銀行はその分を損失として計上しなければならなくなります。
オフィス需要の低迷
コロナ明けも人が戻らず、空きスペースが増える
ビル価格の急落
5〜8割引でも買い手が少なく、オーナーは売っても儲からない
銀行の損失計上
時価で評価し直すと、融資先の資産が損失になる
信頼の喪失
銀行への信頼が失われ、取り付け騒ぎが起きうる
前回の、6位で話したシリコンバレー(バンクの)騒動がまた起きる可能性があって。
シリコンバレーでは、AI企業がオフィススペースを借りるなど、需要が多少戻ってきています。それでも需要が本当に戻らなければ、オフィスビルの問題は2024年により大きな問題になる可能性があると宮武さんは話しています。
宮武さんは、消費者の後払い利用にも限界は来るとしつつ、アメリカ政府がお金を刷って配れば話は変わるため、先行きはわからないとも述べています。そのうえで、根本的な問題は「払うコストよりもお金を儲ける」という前提が崩れていることだと見ています。
スタートアップにとっては、オフィスビルの価格が下がっていることはチャンスでもあります。ただ、消費者がそもそもお金を出したくない状況になると困るため、これまでとは違う戦い方が必要になると宮武さんは話しています。
第4位OpenAI騒動、サム・アルトマン解任はどう始まったのか
第4位は「OpenAIの組織関連ニュース」、つまりサム・アルトマンさんのCEO退任から復帰までの騒動です。宮武さんは、シリコンバレーバンク騒動もあった2023年の中でも、下半期で一番やばかった5日間かもしれないと振り返ります。
宮武さんの説明によると、アメリカ時間の11月17日、サム・アルトマンさんがOpenAIを突然解任されます。同時にプレジデントのグレッグ・ブロックマンさんもプレジデントではなくなりました。
(解任のことは)誰一人予想してなかったですと。誰一人事前に聞いてなかったですと。Microsoftが事前に聞いたのが数分前でしたと。
OpenAIに投資したVCも誰一人知らされておらず、アメリカ中のVCが「今何が起きたんだ」とメッセージを送り合ったといいます。宮武さんもちょうどアメリカにいて、関係者すら何が起きているのかわかっていない状況を目の当たりにしました。
取締役会のプレスリリースを見て、多くの人はサムさんが本当に何かやばいことをしたのではないかと考えました。その後、グレッグ・ブロックマンさんが自ら退任を発表し、シニアな研究者3人も退任します。グレッグさんは後のツイートで、共同創業者のイリヤ・スツケヴェル ── OpenAIの共同創業者でチーフサイエンティスト。深層学習の第一人者として知られる研究者ですさんが黒幕の1人だったと示唆しました。
宮武さんが「サムさんはそこまでやばいことをしていないかもしれない」と感じたのは、Airbnb CEOのブライアン・チェスキーさんが「サムは最高の人だ」とツイートしたときでした。そこからシリコンバレーの人たちが一斉にサムさんを支持するツイートを始め、おそらくチェスキーさんが起点だったと宮武さんは見ています。
翌18日には、暫定CEOになったCTOのミラさん以外、OpenAIの経営チームも知らされていなかったことが明らかになります。従業員株の一部売却の取引も止まり、サムさんは投資家に新会社の立ち上げを伝え始めました。
19日には、サムさんとグレッグさんがOpenAI本社を訪れ、ゲストカードを持った写真が話題になります。暫定CEOのミラさんや、MicrosoftのCEOサティア・ナデラさんも復帰に向けて動いていましたが、交渉はうまくいきませんでした。
取締役会は別の道を探り、Anthropic ── OpenAIの元メンバーらが設立したAI企業。対話AI「Claude」を開発していますとの合併や、Scale AIのCEO、GitHubの元CEOへの打診などを試みますが、全員に断られます。最終的に選ばれたのは、TwitchのCEO兼創業者だったエメット・シアさんでした。宮武さんは、エメットさんもサムさんもYC ── Y Combinatorの略。シリコンバレーの著名なスタートアップ育成プログラムで、サム・アルトマンさんは元プレジデントですの1期生だという偶然にも触れています。
従業員700人超の署名とマイクロソフトの一手
取締役会が「サムさんではない」という判断を下したのを見て、OpenAIの従業員たちが11月20日に動き出します。きっかけは、同じ日にサムさんとグレッグさんがマイクロソフトに入ると発表されたことでした。
これはさすがサティアさんだなと思うのが、(マイクロソフトは)他のOpenAIの従業員も受け入れますと。
その後、黒幕の1人とされたイリヤさんも判断を公にし、ミラさんも含めて、およそ770人中500人の従業員が「取締役が全員退任し、サムさんをCEOに戻さなければ辞めてマイクロソフトに行く」と表明しました。
草野さんは、従業員を丸ごと引き抜くのは実質的に買収のようなもので、訴えられないのかと疑問を投げかけます。宮武さんは、実際にそうなっていればマイクロソフトにとって天才的なプレーだったと答えました。
だって買収がマイクロソフトの規模感だとできないじゃないですか、OpenAIを。でも実質上買収してるので。
宮武さんは、ただ採用しているだけなので独占禁止法で止めるのは難しいだろうと見ています。サムさんなら新会社を作って1000億をすぐ調達できたはずなのに、あえてマイクロソフトに入るという形だったからです。
最終的に700人以上が署名したことで、取締役会も「さすがにダメだ」と判断し、11月21日にサムさんとグレッグさんはOpenAIに復帰します。新しい取締役会にサムさんは入らず、最終的には9人体制になる予定ですが、収録時点では3人ほどしかいないそうです。
草野さんは、結局なぜこんなことが起きたのかと問いますが、宮武さんによれば理由はまだ明らかになっていません。スマートマットレスのEight Sleepのデータでは、騒動の期間中、サンフランシスコで睡眠5時間未満の人が27%増えたといい、夜中にも事態が動き続けていた様子がうかがえます。
OpenAI騒動の勝者は誰だったのか?
宮武さんは、OpenAI騒動の「勝者」は複数いると整理します。1人目は意外にも取締役会で、解任には失敗したものの、サムさんが取締役の席を得られず、サムさんへの調査も決まったため、取締役会が求めていたことの一部は実現しました。
2人目はマイクロソフトのサティア・ナデラさんです。10ビリオン以上の投資がほぼゼロになりかねない状況から、サムさんがOpenAIを離れたらマイクロソフトに入るという状況を作り、「買収せずに買収する」戦略を成立させかけたことを、宮武さんは「すごすぎる」と評価しています。
草野さんは、OpenAIが非営利組織という体系だったからこそ起きた騒動なのかと問います。宮武さんは、非営利でなければVCが役員に入っているため、創業者をクビにすることはなかっただろうと答えました。
3人目はグレッグ・ブロックマンさんです。サムさんの解任を受けてすぐに退任し、ロイヤリティを示したことで、シリコンバレー中から愛された瞬間だったと宮武さんは話します。
(サムさんの)昔のブログ投稿で、理想な共同創業者とは?っていうブログ投稿があるんですよ。で、そのタイトルがグレッグなんですよ。
| 勝者 | 勝ったと言える理由 | 失ったもの |
|---|---|---|
| 取締役会 | サムが取締役から外れ、調査も決まった | 解任は撤回された |
| サティア・ナデラ | 「買収せずに買収する」状況を作れた | 一時は10ビリオン超の投資が危うくなった |
| グレッグ・ブロックマン | 即座の退任でロイヤリティを示し、支持を集めた | 一時はOpenAIを離れた |
ハートマークの裏にあった「策士」サム・アルトマンの無敵モード
サム・アルトマンさん自身も勝者として戻ってきました。ただ宮武さんは、復帰を求めてシリコンバレー中にハートマークが並んだ光景を、個人的には怖いと感じたといいます。
草野さんが、世論や業界を味方につけるイーロン・マスクさんとは違うタイプの策士だと表現すると、宮武さんは「策士」こそ重要な言葉だと応じました。
完全これオペレーションだったと思うので。完全に勝ちに行くオペレーションだったと思うので。じゃなければ全員同じハートマーク出さないと思いますし。
宮武さんは、サムさんが今、ある意味で非常に自由な立場にいると指摘します。従業員の信頼を得ているため解任はできず、さらに取締役から外れたことで、責任を負わずに済む立場になったからです。
同時に宮武さんが感心したのは、サムさんがシリコンバレーでどれだけ恩を作っていたかです。とくにYCの卒業生には、サムさんが見返りを求めずに助けてくれたというストーリーを持つ人が多いといいます。
宮武さんは、サムさんを最も評価している1人であるポール・グレアム ── Y Combinatorの共同創業者。エッセイの書き手としても知られ、サム・アルトマンさんをYCの後継者に選びましたさんのブログの一節も紹介しました。サムさんを人食い人種の住む島に置いていったら、5年後には王になっているという内容です。
草野さんは、サムさんは優しく、下からも慕われ、上からも好かれている点で、他のリーダーとは違うと話します。草野さんによると、一番巻き込まれたのはエメット・シアさんかもしれず、CEOを務めたのは55時間ほどでしたが、宮武さんはサムさんの復帰で重要な役割を果たした人物だったと補足しています。
第3位、EUが本格化させたテック規制
第3位は「独占禁止法、政府側の規制の始まり」です。このテーマは6年続くTOP10で毎年のように入っていましたが、2022年は入っておらず、2023年はついに本格的に動き出した年だと宮武さんは位置づけます。
草野さんがサム・アルトマン騒動より上位なのかと驚くと、宮武さんは、OpenAI騒動は5日間の出来事であり、規制は社会的なインパクトがはるかに大きい話だと説明しました。
まずEUがデジタル市場法 ── DMA。巨大プラットフォーム企業を「ゲートキーパー」に指定し、自社サービスの優遇などを禁じるEUの規制ですとデジタルサービス法を実際に運用し始めました。収録の数日前には、EUがAI規制法を承認したことにも宮武さんは触れています。
こうした規制を受けて、大手SNSを中心にヨーロッパ向けのサービスを変える動きが広がりました。宮武さんが挙げた主な例は次のとおりです。
| 企業・サービス | ヨーロッパでの対応 |
|---|---|
| Meta(Instagram、Facebook) | 広告を表示しない有料サブスクを導入。18歳以下への広告を停止 |
| X | 広告を表示しないサブスクプランを提供 |
| TikTok、Snapchat | 同様の取り組みを検討 |
| ChatGPT | プライバシー問題で、イタリアなど一部の国で一時提供停止 |
| Threads | ヨーロッパではリリースされなかった |
| Microsoft | Office 365からTeamsを切り離した |
アメリカ側も動いています。宮武さんによると、FTCを含むアメリカやEU、イギリスの政府機関が、AdobeによるFigmaの20ビリオンの買収を阻止しようとしています。マイクロソフトのActivision Blizzard買収は阻止できなかったものの、条件を変更させました。
アメリカ政府vs Googleが示す「各国政府対策」の重要性
独占禁止法をめぐっては、2023年に重要な裁判が複数ありました。収録時点で進行中のGoogle対Epic Gamesのほか、FTCが独占禁止法違反の疑いでAmazonを提訴しています。
宮武さんが2023年で最も大きかったと見ているのは、アメリカ政府対Googleの裁判です。マイクロソフト以来、アメリカ政府が大手テック企業を独占禁止法の疑いで訴えた初めてのケースで、裁判は10週間ほどかけて行われました。
2023年の裁判は検索市場が対象でしたが、2024年には広告市場を対象にした別の裁判も予定されています。宮武さんは、テック企業が大きくなるうえで、各国政府への対策がすごく重要になることが2023年ではっきりしたと話します。
草野さんが日本への影響を尋ねると、宮武さんは影響は出てくるだろうと答えました。Googleが負けた場合の対処は明確ではありませんが、場合によっては事業の分割を命じられる可能性があります。
最終的に一番影響されるのは、消費者ですと。この手のサービスは全世界にユーザーがいるわけなので。
宮武さんは極端な例として、AmazonがAWSを切り離せと言われれば、EC事業が単体で利益を求めざるをえなくなり、提供できないサービスが増えると説明します。草野さんがなぜGoogleばかりが責められるのかと聞くと、宮武さんは、AmazonやMeta、Apple、マイクロソフトも含め、大手テック企業すべてが対象だと答えました。
第2位、レイオフ続きの1年を「ニューノーマル」と呼ぶ理由
第2位は「VC市場のニューノーマル、レイオフ」です。宮武さんは、2023年はスタートアップの創業者もVCも大変な年だったと振り返ります。
宮武さんによると、2023年に入ってから12月初めまでに、1144社のテック企業が合計25.6万人をレイオフしました。直近ではSpotifyがレイオフを行い、GoogleやMetaは年に2回、Amazonもレイオフを実施しています。
草野さんが「ニューノーマル」の意味を尋ねると、宮武さんは、環境が悪化したかどうかは何を比較対象にするかで変わると答えました。
(比較対象を)市場のピークにしてはいけないと思うんですよ。そのタイミングがおかしかったんですよ。
市場のピークは異常値として扱い、コロナ前の水準に戻るのが「ニューノーマル」だというのが宮武さんの考えです。何が普通で、何が良くて何が悪いのかを再定義するタイミングだと話しています。
市場はずっと伸びる。調達は簡単にできる。VCはファンドサイズを増やし続けるべき
ピーク時は異常値と捉え、コロナ前を基準に「何が普通か」を再定義する
草野さんが、単に景気が悪くなったのではなく、あの頃が異常だったということかと確かめると、宮武さんは、景気も悪くなっているが、それも比較対象次第だと答えています。
WeWork、Bird、Arm上場…数字で見るスタートアップ市場
比較対象を正しく取ったとしても、落ちているものは落ちていると宮武さんは言います。ベンチャー調達額はピーク時の半分以下で、平均調達額も下がり、投資の検討期間も長くなっています。直近の四半期に生まれた新規ユニコーンの数も、四半期ベースでは比較の起点となる年以降で最も少ないそうです。
スタートアップのシャットダウンも相次ぎました。宮武さんはHopin、Zeus Living、Convoy、そしてTwitterの代替として「T2」とも呼ばれたPebbleなどを挙げています。
上場企業が安値で買収されたり、破産したりする例もありました。WeWorkは44ミリオンで破産申請し、eスポーツ企業のFaZe Clanは17ミリオンで買収され、スクーター企業のBirdは上場廃止時の時価総額が7ミリオンだったといいます。
一方で、IPOがまったくなかったわけではありません。2022年はほとんどIPOがありませんでしたが、2023年9月にはArm、Klaviyo、Instacartがほぼ連続で上場し、宮武さん自身も希望を持ったと話します。
やっぱりその市場(を)切り開いてくれたのかというと、全くだったので。
宮武さんは、Sheinが上場申請をしたことにも触れ、2024年はもっと市場を切り開くサービスが出てほしいと期待を語りました。そのうえで、5位の消費者負債やインフレも含め、2023年に「何が普通なのか」が多少なりとも再定義されたことは良かったと話しています。
第1位、生成AIのハイプは良いニュースか?
第1位は「AI生成技術のハイプサイクル」です。宮武さんは「まあこうなりますよね」と、これしかないという1位だと話します。
草野さんは、厳しいニュースが続いた中で、AIは盛り上がった面白いニュースだと受け止めています。一方で宮武さんは、良い部分と悪い部分の両方があると見ています。
部分的にはその2021年のWeb3のハイプサイクルと似てる部分もあったりするので。
宮武さんが厳しさとして挙げたのは、技術の進化があまりに速く、コピーされやすくなったことです。OpenAIが新しい機能を出すたびに、それまで有料でサービスを提供していた10社から100社が一気に意味を失うこともあったといいます。
それでも、2023年のスタートアップ業界を支えたのはAIでした。VCファンドの調達も厳しかった中で、AIというハイプがあったからこそ乗れる流れがあった一方、AI以外のカテゴリーは調達額ベースでほぼすべて落ち込みました。最近は、VCの中にもAIに投資しすぎたと感じる人が増えているそうです。
大手テックとアンギラ島が得をしたAIの1年
宮武さんは、AIは大手テック企業にとって非常に良い年だったと見ています。草野さんもマイクロソフトや、動画などに取り組んだMetaを挙げ、宮武さんはNVIDIAやGoogleが株価をAIで押し上げたことにも触れました。
思わぬ恩恵を受けたのが、イギリス領のアンギラ島です。アンギラは国扱いされているため独自のドメインを持っており、それが「.ai」でした。
(アンギラは).AIのドメインを売るだけで30ミリオンぐらい儲かってるらしいので。
宮武さんは、2023年のAIの動きを振り返り、本当に毎週のように何か新しいことが起きたと話します。
草野さんは、TikTokのAIフィルターのように、AIがマスに届き、面白いと受け入れられるフェーズをすでに超えていることがすごいと話します。宮武さんも、想定以上のスピードでChatGPTを含むAIサービスが使われていると同意しました。
日本のAI業界は「追いつく」から「対等に議論する」へ
宮武さんが2024年の日本のテック業界に期待するのは、既存のAIサービスの使い方ではなく、AIで次に大きく変わりそうな領域についての議論と、それに取り組むスタートアップです。
宮武さんが例に挙げた議論のテーマは、検索という概念がどう変わるのか、10個の青いリンクを出すべきなのか、合成データをどう使えるのか、といった問いです。ほかにもRLHF ── 人間のフィードバックによる強化学習。AIの回答を人が評価し、その評価をもとにモデルを調整する手法ですのモデル自体が正しいのか、LLMをOSとして考えるとどんなサービスが生まれるのか、オープンソースかクローズドか、といった論点も挙げています。
そのUSが先端で走って、それをなんか追いついてるっていうレベル感なんですけど、なんかやっぱり対等に話すっていう、対等に議論する(段階まで行けたら)。
宮武さんは、日本がアメリカに追いつくだけでなく、対等に議論し、一緒に未来を作っていく段階まで行けたらベストだと話します。それをどう進めるかが、2024年の大きな課題になると見ています。
TOP10に入らなかったテイラー・スウィフトとスポーツコンテンツ
ランキングの外の話題として、草野さんは候補に挙がっていたテイラー・スウィフトさんが「今年の人」に選ばれたことや、ハリウッドのストライキを挙げます。宮武さんは、やはりテイラー・スウィフトさんだと応じました。
草野さんは、ファンを指す「スウィフティー」が辞書の今年の言葉に選ばれそうになったことに触れ、もともと人気だった人がさらにすごい存在になったと話します。宮武さんが驚いたのは、NFLの女性ファンを大きく増やしたことでした。
熱愛報道であれだけ、あのNFLを見る女性が増えるってなんかすごいなと思いましたもん。
宮武さんは、テイラーさんが2023年にビリオネアになったことも挙げ、ビジネスウーマン、カルチャーモーメントの作り手、音楽アーティストのどの観点から見ても、ここまでメインストリームな人はなかなかいないと話します。草野さんの「カルチャーアイコンですね」という言葉に、宮武さんは2023年に本当にそのレベルに到達した感覚があると同意しました。
草野さんは、スポーツコンテンツの盛り上がりも入れたかったと話します。メッシやF1、WNBAや女子サッカーなどの女性アスリート、アスリートによるコンテンツ制作や起業も含めて、2024年に期待しているそうです。宮武さんは、大谷翔平さんの大型契約にも触れました。
経済サイクルの「この瞬間」を忘れないために
最後に宮武さんは、2023年は厳しい年でありながら、経営者にも従業員にもVCにも大きな学びになった年だったと振り返ります。経済はサイクルなので、必ず落ちるタイミングがあるからです。
宮武さんは、今がボトムかどうかはわからないとしつつ、これから上がっていけば、また2021年のようなピークが来ると見ています。そのときにこの瞬間を覚えているかどうかで行動が変わるというのが宮武さんの考えです。
宮武さんによると、前回の大きな不況はリーマンショックで、テック業界はそれほど影響を受けませんでした。そのため、今の状況を理解しているのは2000年代のインターネットバブル期を経験した人たちくらいで、宮武さん自身も社会人としてこうした時期を知らなかったといいます。
だからこそ、この経験から今まで考えてこなかったインサイトが生まれるはずで、2023年はある意味で非常に重要な年だったと宮武さんは締めくくります。草野さんの「韻を踏むということですね」という言葉に、宮武さんは「ライムしてますと」と応じました。
まとめ
2023年のテックニュースTOP5は、家計負債とオフィス不況、OpenAI騒動、政府規制、VC市場の正常化、生成AIのハイプと、明るい話題より厳しい話題が目立つ顔ぶれでした。宮武さんは、ピーク時を異常値として捉え直し、この下降局面を記憶しておくことが次のサイクルでの判断を変えると語っています。
- アメリカの家計債務は17兆ドルに達し、オフィスビルの値下がりが銀行の取り付け騒ぎにつながる可能性もあると指摘された
- OpenAI騒動は5日間でサム・アルトマンさんの復帰に至り、取締役会、サティア・ナデラさん、グレッグ・ブロックマンさんも勝者として挙げられた
- EUの規制とアメリカ政府対Googleの裁判で、テック企業にとって各国政府への対策の重要性が明確になった
- レイオフや調達減は、市場のピークを基準にせず「何が普通か」を再定義するニューノーマルとして語られた
- 生成AIは業界を支えた一方でコピーされやすく、日本には米国と対等に議論できる段階を目指してほしいという期待が示された




