テック業界はなぜトランプ支持へ傾いたのか?
2024年7月、イーロン・マスクさんがトランプ支持を表明し、アンドリーセン・ホロウィッツの創業者マーク・アンドリーセンさんとベン・ホロウィッツさんもトランプへの寄付を明言しました。宮武さんは前週の「テック業界の保守化」の話の後編として、この2組がなぜトランプ支持に至ったのかを具体的に見ていくと切り出します。
宮武さんによれば、彼らはもともと合理性のある人たちで、何らかの理由があって考えが変わっています。草野さんが「逆に合理性しかないのでは」と返すと、宮武さんは政治には宗教性があると答えます。
(支持する側を)選んだ方に偏ってしまうとか、どっちを支持してるって言った瞬間、後戻りができなくなっちゃうみたいな感じはあるので。
全体的な理由は合理的ではあるんですけど、間間に宗教的な行動っていうのはやっぱ見えてくるなっていうのは思いますね。
宮武さんは前回と同じく注意事項として、2人が「個人的に」と断らない限り、紹介する内容はマークさんやベンさん、イーロンさんの考えであり、正誤を論じるものではないと念を押します。草野さんも、情報は番組側で選んでいるので、リスナー自身でもちゃんと調べてほしいと付け加えました。
寄付履歴に見るイーロン・マスクの政治的な揺れ
イーロン・マスクさんは最近「保守的になった」と言われます。宮武さんは、投票は本人の発言でしか追えないものの、寄付の履歴は追えると説明し、その記録を見ると民主党にも共和党にも寄付してきた人だと指摘します。
2004年は共和党のブッシュにも民主党のケリーにも寄付し、2008年はオバマやヒラリー・クリントンに寄付しています。2016年はクリントンに投票したはずだが寄付はどちらにもしておらず、どちらかといえば民主党寄りでした。
宮武さんによると、2017年あたりからマスクさんの寄付は共和党に偏り始めます。直近ではウォール・ストリート・ジャーナルが、マスクさんがトランプ派のスーパーPAC ── 候補者陣営とは独立して、上限なく資金を集めて政治広告などを出せるアメリカの政治団体。2010年の判決以降に広がりましたに毎月4500万ドルほど寄付すると報じましたが、本人はそれを否定しています。
バイデン政権とテスラの冷えた関係
マスクさんとバイデン政権の関係は、宮武さんいわく「フレンドリーではない」ものです。Twitter買収以降に悪化した印象があるとしつつ、テスラの例だけでも関係の悪さがわかると話します。
2021年、バイデン大統領は電気自動車メーカーを祝うためにGM、フォード、ステランティスをホワイトハウスに招きましたが、テスラは呼ばれませんでした。当時GMのアメリカ売上に占める電気自動車は1.5%ほど、フォードは1.3%ほどで、市場の大半を握っていたのはテスラでした。
テスラが外された主な理由は、テスラに労働組合がないためだと言われています。同じ2021年にバイデン大統領が打ち出した電気自動車普及策でも、補助金の対象は労働組合のある会社の車に限られ、テスラは除外されました。
2030年までに新車販売の半分を電気自動車に。購入者に補助金を出すが、労働組合のある会社の車に限定
米国電気自動車市場の大半を握るが、労働組合がなく補助金対象外。ホワイトハウスの会合にも招かれず
2023年末時点でもテスラはアメリカの電気自動車市場の53〜54%ほどを占めていました。2022年2月になってようやくバイデン大統領がテスラに言及したものの、そうした「やりとりのなさ」が関係悪化の一因だと宮武さんは見ています。
草野さんが「労働組合の件はどちらが譲歩すべきだったのか難しい」と問うと、宮武さんは、マスクさん自身が労働組合を支持しておらず、逆に大手自動車メーカーはほぼ組合を抱えていると説明します。組合や自動車メーカーからバイデン氏が圧力を受けたという噂もあるが、真偽は置いておくとしました。
「狙われている」と感じさせた訴訟と調査
宮武さんは、テスラやスペースXをめぐる調査や訴訟が重なったことにも触れます。ニューヨークの検事による「テスラの資金でマスクさんの家を建てているのでは」という調査、カリフォルニアの政治家ロレナ・ゴンザレスさんによるTwitter上の罵倒、政府側からの訴訟などです。マスクさんはその後、テスラ本社をカリフォルニアからテキサスへ移しました。
それぞれのその訴訟内容がフェアなのかどうかっていうのは置いて、明らかに何かターゲットされてるような気持ちになってしまう。
スペースXでも、大型ロケットの打ち上げによる環境へのダメージについて魚類野生生物局の調査が入りました。宮武さんは、大企業だからこそという面も認めつつ、マスクさんの立場から見ればバイデン政権を嫌うのは不自然ではないとまとめます。
民主党派だったマーク・アンドリーセンの転向
次はアンドリーセン・ホロウィッツの創業者2人です。宮武さんによると、マスクさんほど直接攻撃を受けているわけではなく、2人が求めているのは政策面の変化です。2人は従業員に対し、トランプ陣営に個人として多額の寄付をすると伝えており、ファンドとしての寄付ではない点が重要だと宮武さんは強調します。
2人は今年すでに個人でそれぞれ2400万ドルほど寄付していますが、その多くは民主党・共和党ではなく、クリプトの規制緩和を求めてロビー活動をする中立的な団体に向かっていました。
マーク・アンドリーセンさんはもともとかなりの民主党派です。宮武さんは、2人がポッドキャストで語った政治遍歴をもとに、その歩みを紹介します。
ただし、アンドリーセンさんは積極的に政治活動をしていたわけではなく、寄付も多少で、一部は案件や法案に応じて共和党側にも渡していました。投票歴で見れば基本的に民主党派だった、というのが宮武さんの整理です。
クリプトとAIの規制が分けた評価
アンドリーセンさんとベンさんがトランプ支持へ動いた理由の1つはクリプトです。2人はビッグテックの支配から抜け出すためにWeb3やクリプトが重要だと考えていますが、SEC ── 米国証券取引委員会。証券市場の監督を担う連邦機関で、暗号資産を証券とみなして取り締まる姿勢が業界の反発を招いてきましたをはじめアメリカ政府は厳しく見ています。
宮武さんは、民主党のエリザベス・ウォーレン議員が「アンチクリプトアーミーを作ろう」と語った例を挙げ、規制というより潰そうとしているように見えると説明します。一方のトランプ氏は現在クリプトを「いいもの」と言い切っていますが、2021年にはビットコインを詐欺だと呼んでいました。
宮武さんは、クリプトで寄付金を集められるようになって考えが変わった可能性も、理解したうえで変えた可能性もあるとし、トランプ氏が本当はどちら派なのかはわからないと話します。
AIについては、バイデン政権が安全面を押し切りすぎ、既存プレイヤーの支配を強めかねないという不満があります。トランプ氏は大統領になればバイデン政権の大統領令を覆すと言っていますが、実行されるかは置いておく、と宮武さんは付け加えます。
さらに2人は、フィンテック、バイオテック、エネルギー、教育、不動産など、政府が深く入り込んだ領域ほど価格が上がると考えています。イノベーションのための規制緩和をしてほしい、というのが2人の主張です。
未実現利益への課税はなぜ嫌われるのか?
もう1つの理由が税制です。バイデン政権は、1億ドル以上の資産を持つ人に対し、まだ売却していない資産の値上がり分、つまり未実現利益 ── 保有資産の時価が上がっても、売却していないため現金としては確定していない利益。含み益とも呼ばれますに25%課税する案を出しています。
宮武さんは、これは個人的な意見としても「意味がわからない」と述べ、具体的な数字で問題点を説明します。
二年前と同じ価値なのに25ミリオン損してるんですよ。
宮武さんは、ユニコーン企業の創業者が10%以上の株式を持っていれば対象になるため、キャッシュ化していないのに税金を払う仕組みは起業そのものを難しくすると指摘します。政府が本当にフェアにするなら返金が必要ですが、手続きは煩雑で、家など株以外の資産の評価も難しいと付け加えました。
この案は民主党内でも懸念されており、キャピタルゲイン税を20%から40%台に上げる話もあります。宮武さんは、VCに限らず起業家やヘッジファンド、PEなど株式を扱う人たちが当然嫌がると話します。
ただし宮武さんは、トランプ氏がこれらをすべて解決するかは「正直わかりません」とします。バイデン政権が続けば方向性は変わらないため、それよりはマシになるという考え方だと説明しました。
TikTokと移民ビザに見るトランプの「変わる意見」
宮武さんは、トランプ氏が銃規制、中絶、TikTokなど多くの論点で意見を変えてきたと指摘します。TikTokについては、大統領在任中に禁止しようとしたのに、最近は賛成派に回っています。
意見が変わったのは、バイトダンスのアメリカ人大株主がトランプ陣営に寄付したタイミングあたりからだといいます。宮武さんは「完全にそうとは言い切れない」としつつ、タイミングとしては怪しいと話します。
どう自分が利益を得るかっていう話ですよね、政治って。
宮武さんはさらに、TikTok禁止騒動の際に名前が出たオラクルのラリー・エリソンさんがトランプ氏の資金集めを手伝っており、現在TikTok USのクラウドプロバイダーがオラクルである点にも触れます。テック業界からすれば、支持して多少お金を出せば話を聞いてもらえると考えても不思議ではない、と宮武さんは見ています。
テック業界への影響が大きいのは移民・ビザ政策です。トランプ氏は2016年から2020年の任期中、日本人も多く使う就労ビザのH-1Bビザ ── 専門職の外国人がアメリカの企業で働くための就労ビザ。IT企業のエンジニア採用で広く使われていますやスタートアップビザを止めました。
宮武さん自身も2020年頃にLAのスタートアップで働く予定でしたが、ビザが止められたことが渡米できなかった理由の一部だったそうです。草野さんが「そしてオフトピックが」と続けると、宮武さんも「結果的には良かった」と笑います。
聴衆によって話し方を変えるトランプ
トランプ氏は最近、テック業界で人気のポッドキャスト「All-In」に出演し、アメリカの大学を卒業した移民には全員グリーンカードを渡すべきだと発言しました。ところが公開の数時間後、陣営は「全員ではなく限られた人に」と修正しています。
宮武さんが注目するのは話し方の違いです。All-Inでのトランプ氏は割と落ち着いていて、テレビやMAGA支持者の集まるイベントでのエネルギッシュで尖った姿とは別人のようだといいます。
多分どっちもトランプで、どっちも多分彼としては、そのオーディエンスにアピールするための姿勢ではあるっていうところ。
テック業界でトランプ氏と直接話した人は少ないため、メディアのイメージとの差に驚き「メディアがずっと嘘をついていた」と言う人もいます。宮武さんはメディアのバイアスを認めつつ、イベントでの発言もフルで見られるので、リスナーには両方を見比べてほしいと呼びかけます。
カマラ・ハリスはテック業界に歩み寄るのか?
収録日の2024年7月25日時点で、カマラ・ハリスさんが民主党のトップになる状況でした。カリフォルニア出身でテック業界とのつながりがあり、陣営がビリオネアのマーク・キューバンさんのチームにクリプト政策について意見を求めるなど、ビジネスに歩み寄る兆しも出ています。
ただし、バイデン政権のAI規制を主導していたのはハリスさん本人です。どこまでフレンドリーになるかは正直わからないとしつつ、宮武さんは、Netflix共同創業者のリード・ヘイスティングスさんが過去最高額とみられる700万ドルを寄付するなど、テック業界にはハリスさんの登場を喜ぶ人も多いと話します。
90年代シリコンバレーの「当たり前の民主党支持」
マーク・アンドリーセンさんはポッドキャストで、1990年代のシリコンバレーではほぼ全員が当たり前のように民主党派だったと語っています。理由はシンプルで、民主党のほうがビジネスやテック、スタートアップにフレンドリーだったからです。
当時の民主党的な理想像は、会社を立ち上げて成長させ、大きな利益を得て、最後は慈善活動で寄付するというものでした。代表例はマイクロソフトを創業し、財団を立ち上げたビル・ゲイツさんで、アンドリーセンさんもその道に乗っていたといいます。
1990年代: 民主党がビジネスやスタートアップに好意的。起業して成功し、慈善活動で寄付する道が称賛された
2010年代以降: 民主党内でビリオネアやビジネス、慈善活動に対するアンチが台頭し、2016年以降はアンチテックの空気に
慈善活動まで批判されるという違和感
アンドリーセンさんが特に不思議がっていたのが、慈善活動へのアンチです。マーク・ザッカーバーグさんと妻のプリシラ・チャンさんがチャン・ザッカーバーグ・イニシアティブを立ち上げ、資産の99%を最終的に渡すと表明した際、民主党内の過激派や一部の政治家が強く批判しました。
宮武さんは、税金を政府が配分すべきだという考え自体はあってよいとします。問題視するのは「税制メリットを得るためだ」という批判で、99%を手放せば手元に1%しか残らない以上、税制メリットはあり得ないと話します。
こうした批判はビリオネアや慈善活動にとどまらず、テック業界全体にも広がりました。宮武さんは、特に2016年の選挙以降、アンチテックの時代が始まったと見ています。
Facebookはなぜスケープゴートになったのか?
2016年の選挙後、トランプ氏が勝った責任を最初に負わされたのはFacebookでした。宮武さんによれば、2008年と2012年の選挙ではメディアがSNSを称賛し、民主主義を世界に広げるものとまで語っていたのに、2016年を境に評価が逆転しました。
宮武さんは、トランプ陣営のSNSの巧みさ、ヒラリー・クリントン陣営のミス、メディアがトランプ氏にエアタイムを与えすぎたことなど他の要因もあったとし、Facebookが本当にどこまで責任を負うべきだったのかは問われるべきだと話します。
Facebookは批判を受けて、2016年から2021年にかけて安全面やセキュリティに約130億ドルを投じ、コンテンツモデレーションを強化しました。それでも「検閲している」「検閲が足りない」と両側から批判され、嫌われ方はむしろ強まったといいます。
2016年の選挙
トランプ氏勝利の責任を問われる
大規模投資
安全面に約130億ドルを投じ、モデレーションを強化
さらなる批判
検閲しすぎ・足りないの両方から攻撃される
業界への影響
アンチ民主党に傾くテック関係者が出る
宮武さんは、テック業界を代表する会社が攻撃され、解決しようとしてさらに攻撃されるのを見れば、トランプ派にならずともアンチ民主党派になってもおかしくないと話します。保守寄りになった人も、より過激になった人もいるといいます。
テック業界が「新しいエリート層」になった
宮武さんは、民主党やメディアがテック業界を嫌った理由の一部として、業界の規模の変化を挙げます。テック業界の経営者は権力とお金を持つようになり、新しいエリート層への批判が起きたと見ています。
2024年のトップ10でテック以外は、ベルナール・アルノーさん、ウォーレン・バフェットさん、ムケシュ・アンバニさんの3人だけです。宮武さんは個人的な意見として、2016年の選挙に負けた民主党とメディアには責任を負わせる先が必要で、それがたまたまテックだったのかもしれないと話します。
シリコンバレーとワシントンDCの「暗黙の契約」
宮武さんはここから根本的な話に入ります。テック業界で民主党支持がデフォルトだったのは、ほとんどの人が毎日政治のことを考えたくなく、ものづくりやビジネスに集中したかったからです。
ベンチマークのビル・ガーリーさんは、シリコンバレーがワシントンDCから2851マイル、約4600キロ離れていることこそ成功の理由だと語っています。宮武さんは、これがテック業界と民主党の暗黙の契約だったと説明します。
(政府がテック業界を)放置してくれたら、我々は君たちに投票しますよと。
テックが大きくなり、政府が規制で入り込むようになったことで、その条件が変わりました。宮武さんは規制自体は当然だとしつつ、デフォルトの選択ではなく、問い直さざるを得なくなったことで、保守に動く人が出てきたと見ています。民主党が放置していれば民主党派のままだったかもしれないが、大手がさらに巨大化する危険もあり、バランスは難しいと話しました。
「キングメーカー」ピーター・ティールの影響力
宮武さんがこの流れの中で「すごい」と感じたのがピーター・ティールさんです。前回話したとおり、ティールさんは今回の大統領選ではどちらにも寄付しない姿勢ですが、宮武さんは、この世代で一番のキングメーカーと呼ばれる人かもしれないと話します。
ティールさんはPayPalを始め、Facebookに初期投資し、Palantir ── ティールさんらが設立したデータ分析企業。政府機関や軍、情報機関向けのソフトウェアで知られますを設立し、VCのFounders Fundを立ち上げた人物です。政治面でも、2016年のトランプ支持に続き、副大統領候補のJ・D・ヴァンスさんは弟子にあたります。
ヴァンスさんはイェール大学ロースクール時代にティールさんの登壇で出会い、のちにティールさんのVCファンドのミスリル・キャピタルに加わりました。政界進出の際、ティールさんは約1500万ドルを寄付しています。
政治のトップの右腕に弟子がいて、あらゆるテックビリオネアに友達がいてみたいな。すごいですよね。
宮武さんは、ティールさんのおかげで、トランプ氏が大統領になればテック業界はホワイトハウスへの直接的なルートを持てると話します。前週に触れたAll-Inのチャマス・パリハピティヤさんとデビッド・サックスさんによる資金集めイベントも、きっかけはヴァンスさんだったそうです。
トランプへの投票を後悔するティール
ティールさんが2016年にトランプ氏を支持した理由は、候補者の中で一番悲観的な視点を持っていたからです。「Make America Great Again」は今のアメリカが偉大ではないことを認める言葉であり、ティールさんは政府に入って革命を起こすことを期待していました。
今年4月頃、トランプ氏は電話を避けていたティールさんをようやく捕まえ、ヴァンスさんとブレイク・マスターズさんにそれぞれ1000万ドル以上寄付したのだから、自分にも1000万ドルくれないかと頼みました。ティールさんの答えは「ノー」でした。
ティールさんはインタビューで、トランプ氏への投票は間違いだったと後悔を語り、政権は「想定以上にクレイジーで、想定以上に危険だった」、政府の基本的なことさえ回せなかったと述べています。それでも銃を突きつけられたらバイデン氏ではなくトランプ氏を選ぶ、とも話していました。
草野さんは、ハリスさんへの交代やヴァンスさんの副大統領候補決定のあと、ティールさんがどう考えているのか気になると話します。宮武さんも、決まってからの発言は聞いていないと応じました。
PayPalマフィアとスタンフォード・レビュー
宮武さんは、前週紹介したトランプ支持のテック著名人を見ると、ティール派閥の人ばかりだと指摘し、草野さんも同意します。草野さんはリバタリアンやテック楽観主義との近さにも触れ、OpenAIのサム・アルトマンさんの立ち位置が気になると話しました。宮武さんは、多くの政治家と関わる立場なので発言しないだろうと見ています。
ティールさんはスタンフォード在学中、リベラルな大学に保守的な意見を持ち込もうと新聞「ザ・スタンフォード・レビュー」を立ち上げました。その出身者には、現在のトランプ支持者が多いといいます。
| 人物 | 立ち位置 | 番組で触れられた背景 |
|---|---|---|
| キース・ラボイス | トランプ支持 | スタンフォード・レビュー出身 |
| デビッド・サックス | トランプ支持 | スタンフォード・レビュー出身 |
| ジョー・ロンズデール | トランプ支持 | スタンフォード・レビュー出身 |
| ケン・ハウリー | トランプ支持 | スタンフォード・レビュー出身 |
| イーロン・マスク | トランプ支持 | PayPalマフィア |
| リード・ホフマン | アンチトランプ | PayPalマフィア |
| ヴィノッド・コースラ | アンチトランプ | テック業界の代表的な反対派 |
宮武さんは、PayPal組が政治に深く関わっているのは、お金と権力を持ち、以前ほど仕事に追われていない世代がそろったタイミングの問題かもしれないと話します。
ティール対ホフマン、公開の場での衝突
同じPayPalマフィアのピーター・ティールさんとリード・ホフマンさんは、トランプ氏をめぐってかなり仲が悪くなりました。決定的だったのが、ビジネスやテックのリーダーが集まる招待制カンファレンス「サンバレー」での出来事です。
登壇したホフマンさんはニューヨーク・タイムズの記者からティールさんとの関係を聞かれ、トランプ氏の件で最近は話していない、これは倫理的な問題だと答えました。客席にいたティールさんは立ち上がり、その場で2人の言い合いが始まりました。
ティールさんは、ホフマンさんのアンチトランプ発言はトランプ氏を強くするだけで、トランプ氏を殉教者にしていると批判しました。これに対しホフマンさんは「本当に殉教者にしたかった」といった言葉を返したといいます。
宮武さんは、ホフマンさんが本気でそう思っているわけではなく、喧嘩の中での言葉だと念を押します。その夜はみんなその話しかできなかったそうです。
今年のトランプ支持は「逆張り」ではない
宮武さんは、今のテック著名人のトランプ支持が、8年前のティールさんの支持とはタイミングが違う点を重要視します。ティールさんは投資でもコントラリアン ── 多数派とは逆の判断に賭ける投資姿勢。外れれば損をしますが、当たれば最大のリターンが得られますなベットをする人ですが、今年のトランプ支持は勝つ可能性も高く、逆張りではありません。
(今寄付しても)支持してるって意思表明しても、別にリターンが全然ないですと。
宮武さんによれば、ティールさんは最大のリターンをすでに2016年に得ており、今「ティールはすごい」と語られていること自体がそのリターンの一部だといいます。
選挙中は相対評価、選挙後は絶対評価
宮武さんが特に正しいと感じたのが、選挙中と選挙後で気持ちが大きく変わるというティールさんの指摘です。2人しか候補者がいない選挙はA/Bテストのようなもので、どちらを支持するかではなく、どちらのアンチかという話になってしまいます。
トランプ派はハリス氏を選んではいけない、民主党派はどんな人であってもトランプ氏を選んではいけないとなり、互いを嫌い合うグループができるだけになります。その結果、選挙後には必ず後悔が来るとティールさんは語っています。
情緒不安定な、なんか思春期の人みたいな。「なんであんなこと言っちゃったんだろう」みたいな。
相対的な判断。2人のどちらがましか、相手のアンチになることが目的化する
絶対的な判断。選んだ人そのものを評価し、どちら側も後悔する
宮武さんはこれを、政治のカルト化・宗教化だと説明します。アンチになると自分の党が何をしてもよくなり、トランプ支持を表明した人は過去の過激な発言も無視せざるを得ません。民主党側も、高齢で話がうまくできない候補でも支持しなければならず、メディアの前で「バイデンはキレキレだ」と言った末に、大統領討論会で皆が「あれ?」となったと話します。草野さんは、多額の寄付をしたら後戻りできない面もあると付け加えました。
ニュアンスのある議論はどうすれば取り戻せるか?
宮武さんは、アメリカの政治がA/Bテストになっているため、ニュアンスのある討論や議論ができなくなっていると残念がります。草野さんも、テレビ討論会は施策の中身より、その場をどう制するかというディベートの要素が強いと指摘しました。
宮武さんは、ルーズベルト大統領がラジオの炉辺談話 ── フランクリン・ルーズベルト大統領が1930年代からラジオで国民に直接語りかけた番組。英語ではファイアサイドチャットで考えを国民に伝えた例を挙げ、伝え方はいろいろあると話します。二大政党制や、なぜこうした候補者しか選ばれないのかも問題かもしれないとしました。
テックビリオネアと一般の人々のあいだで
草野さんは、テクノロジー好きとして規制緩和を望む一方、今回話題にしたのはテックビリオネアという最上層の話であり、テック業界で働く人やFacebookやTwitterを使う一般層とは違うと話します。その層が政治と仲良くなりすぎることへの懸念もわかるとし、バランスの難しさを語りました。
宮武さんは、昔テック業界がある程度放置されていたのは運が良く、だからこそ成長できたと振り返ります。それが続かないなら、今のような反応はおかしくないとしつつ、正しいかどうかは置いておくとしました。
草野さんは、国家を会社のように運営するという考えをもっと学びたいと話します。宮武さんは、政府も会社も大きくなりすぎると課題が出てきて、お金があるところにはそれを取りに行く人が必ず現れる、それはテック業界も含めてだと締めくくりました。
まとめ
シリコンバレーで当たり前だった民主党支持は、政府がテック業界を放置しなくなったことで、自ら問い直すべき選択に変わりました。イーロン・マスクさんやアンドリーセン・ホロウィッツの転向、ピーター・ティールさんの影響力と後悔からは、合理的な理由と、党派に縛られる宗教的な力学の両方が見えてきます。
- イーロン・マスクさんは寄付履歴上もともと両党に寄付しており、テスラやスペースXへの扱いからバイデン政権に不満を募らせた
- アンドリーセンさんとホロウィッツさんは、クリプト・AI規制や未実現利益課税への不満から、政策面でトランプ支持に回った
- テック業界と民主党の間には「放置してくれれば投票する」という暗黙の契約があり、テックの巨大化と規制強化でそれが崩れた
- トランプ支持者にはティール派閥やPayPalマフィアが多く、ティールさん自身は2016年の投票を後悔している
- 二者択一の選挙はアンチの対立を生み、選挙後にはどちら側も後悔するとティールさんは指摘している


