クリプトの冬に、なぜいまWeb3コマースを語るのか
『Off Topic』の今回のテーマは「Web3時代のコマース体験とは何か」です。宮武さんによると、この年はすでに30話近く配信しており、Web3の話題はちょこちょこ扱ってきたといいます。
宮武さんがこのタイミングでWeb3×コマースを取り上げた理由は、クリプト市場が「冬の時代」に入っているからです。草野さんも「めちゃくちゃ寒いです」と応じるほど、相場は冷え込んでいます。
まあでも、(冬の時代の)中でやっぱりその、もっとその新しいユースケースだったり、新しいコンセプトっていうところを話すべきだなっていうところで。
宮武さんは今回と次回の2回にわたり、これまでのオンラインコマースになかった体験がWeb3で可能になる、という話をすると予告します。ただし、正しいユースケースの答えは宮武さん自身もまだ持っていないと率直に認めています。
なんかいくつか事例とかは、あの今回と次回挙げるんですけど、まあ正直それが普通、なんか一般普及するのかもわかんないですし。
それでも宮武さんは、コマースの体験は根本的に変わると考えています。リスナーからアイデアを募り、一緒にブレインストーミングしたいという姿勢で話が進みます。
本題の前には告知もありました。Spotify Originalで配信する『bytes by Off Topic』がシーズン3として8月から再開します。休止中の7月には、イーロン・マスク氏の件が結局取りやめになり訴訟に発展するなど大きなニュースが続いたため、そこもカバーしたいと宮武さんは話しています。
ユーザーにオーナーシップを渡すコマースとは?
宮武さんはまず、Web3コマースでよく出てくる「オーナーシップベースのコマース」から話を始めます。過去回で語ったオーナーシップ経済の延長にある考え方です。
オーナーシップ経済の問題意識は、サービスやネットワークが大きくなるほど、ユーザーにとってのアップサイドがなくなるという点にあります。その解決法の1つが、ユーザー自身もオーナーシップを持つことだと宮武さんは説明します。
宮武さんによると、この動きはWeb3以外のコマースでも起きています。例として挙がったのが、Glossierの卒業生であるヘンリー・デイビスさんが立ち上げたAlphaという、DTCブランドを束ねるコングロマリットのような会社です。
Alphaのあるブランドでは、新商品の開発に貢献した顧客に対して「利益の5%のシェアを渡す」という仕組みを用意していました。株そのものではありませんが、レベニューシェアのような形です。
まあいわゆるその、経済的なインセンティブをベースに、よりその、ロイヤルな顧客を作れるんじゃないかっていうのが、まあ仮説としてあったっていうところで。
Glossierは「Web2.5」の会社だった
宮武さんは、そもそもGlossierがWeb2.5的な会社だったのではないかと話します。理由の1つは、Glossierがメディアからスタートしたブランドだという点です。
Glossier創業者のエミリー・ワイスさんは、Into The Gloss ── エミリー・ワイスさんが始めたビューティー系のブログメディア。インタビューを通じて女性のスキンケアやメイクの習慣を紹介し、のちのGlossier誕生の土台になりましたとGlossierを立ち上げる際、従来のビューティーカンパニーがトップダウンすぎると感じていたといいます。女性が自分のストーリーを伝えられる場所として、ボトムアップ型のブランドを作りたかったという話です。
草野さんも、Fenty Beauty ── 歌手のリアーナさんが立ち上げたコスメブランド。幅広い肌の色に合わせた製品展開で支持を集めた新興ブランドの代表例ですのような新興ブランドが出てくる前は、大企業のコスメやスキンケアブランドが強かったと振り返ります。
Glossierの具体的な施策として、宮武さんは顧客にメイクのルーチンを投稿してもらったことや、トップ顧客を集めたSlackグループでフィードバックを得ていたことを挙げます。今ならDiscordになっていたかもしれない、とも話しています。
エミリー・ワイスさんのビジョンには、カルトブランドを作ることに加えて、ビューティー領域の民主化がありました。宮武さんによると、ワイスさんはトークンではなく「ソーシャルキャピタル」を通貨のようにしてコミュニティを作っていたといいます。
草野さんの質問を受けて、宮武さんはソーシャルキャピタルを、影響力やフォロワー数のような社会的地位、ステータスのことだと説明します。Glossierを買うことやコミュニティに貢献することが、そのステータスを上げる手段になっていたという見立てです。
Glossier創業時にワイスさんが自分に投げかけた問いは「ユーザーがグッズを着たがるビューティーブランドはあるのか」というものでした。宮武さんは、初期のGlossierはまさにそういうブランドだったと話します。
レアで、ちょっとその(Glossierの)ステッカー持ってるのおしゃれ。ピンクのあのプチプチの袋持ってるの。
草野さんは、Glossierのグッズを持つことに優越感や「それを持っている自分が好き」という感覚があったと語ります。宮武さんはこれを、プロフィール写真をNFTに変える行為と似ていると捉えています。
一方で草野さんは、エミリーさんのようなコミュニティ力を発揮できているブランドは他になく、Alphaも結局ソフトウェアサービスになったと指摘します。宮武さんもタイミングの要素はあるかもしれないとしつつ、初期Glossierのようなコミュニティを作れた会社は今のところいないと同意します。
ファンが勝手にコミュニティを作る点もGlossierの強みでした。草野さんは、店舗で休憩する彼氏の写真を投稿し続ける「Glossierボーイフレンド」のようなアカウントがミーム化し、それ自体がコンテンツになっていると紹介します。
宮武さんは、コミュニティの中でステータスを求めるからこそUGCが上がってくると分析します。最高のステータスは、自分の投稿がGlossier公式インスタのストーリーに載ることだったといいます。
ヘッドレスブランドとお金のインセンティブは両立するか
宮武さんは、UGCにキャッシュバックのようにお金を払うサービスの次に来るのが、貢献するとブランドのオーナーシップをもらえる形だと見ています。その一例として挙げたのが「ヘッドレスブランド」という考え方です。
草野さんがヘッドレスコマースとの関係を尋ねると、宮武さんは別の話だと答えます。ここでのヘッドレスブランドは、一人のリーダーがいない状態で、さまざまなエキスパートが集まってブランドを立ち上げることを指します。宮武さん自身、このコンセプトがワークするかはわからないとしています。
草野さんは、お金が発生しないからこそいい部分もあるのではないかと疑問を投げかけます。
インセンティブが発生するから、なんかこう、投稿しよう、コミュニティに還元するような行動をしようって思ってる自分が、なんかちょっと嫌になっちゃいそうだなと思って。
草野さんは、純粋に好きだから投稿し、ブランドに見てもらえたらうれしいという気持ちと、Alphaのようにインセンティブと競争が生まれる仕組みとでは、コミュニティの作り方が変わってきそうだと話します。
宮武さんもこの指摘を「すごい大事」と受け止めます。金銭的インセンティブはコミュニティを汚すと感じる人もいれば、投資目的の人を呼び込む面もあるからです。
(認知されることは)ソーシャルキャピタルだったりするので、それをどういうふうにトークン化するとか、それをどういうふうにNFT化するとか、そういう形で考えた方が正直いいかなとは思うんですよね。
宮武さんの考えでは、ブランドがうまくいけば、そのソーシャルキャピタルの価値も同時に上がる設計が望ましいということになります。
NFTは「アウトプット」ではなく「インプット」
宮武さんは、Web3×コマースにはロイヤリティポイント、アクセス権の付与、NFT販売、デジタルからフィジカルへの商品販売など多様な話があるとしたうえで、多くの人がNFTを「アウトプット」として考えていると指摘します。
NFTを販売しよう、ロイヤリティポイントのためにNFTを売ろう、という発想は、NFTを売り物として扱っています。宮武さんは、そうではない考え方が大事だと話します。
その考え方の出どころは、Shopify ── カナダ発のECプラットフォーム。個人や企業がネットショップを開設・運営するための仕組みを提供していますのクリプトチームにいるアレックス・ダンコさんの議論です。ダンコさんは、クリプトを行動の種類として見ることが大事だとし、NFTはコマースのアウトプットではなくインプットだと述べているといいます。
宮武さんの説明では、NFTはプロダクトではなく「バイヤーの種類」、つまり買い手の属性です。クリプトが生んだ新しい属性とは、クリプトウォレットを持つインターネット上の買い手だといいます。
クリプト系サービスでは、MetaMask ── 代表的な暗号資産ウォレット。ブラウザ拡張機能などとして使い、Webサービスにウォレットを接続してログインや決済を行いますなどでウォレットを接続してサインインします。宮武さんは、ウォレットがサービスに入るドアの鍵になるこの仕組みを、ShopifyがToken Gated Commerceと呼んでいると紹介します。
ウォレットを持つ人は、NFTやENS、イーサリアム、ビットコインなどの所有者です。宮武さんは自身の経験からも、ウォレット保有者には特有の行動があると話します。
ウォレット持ってる人たちって、なぜかいろんなものに自分のウォレットを繋げたくなるんですよ。
Discordでウォレット接続のオプションがあれば大体つなぐし、NFTを何も持っていなくてもマーケットプレイスにとりあえずつなぐ、と宮武さんは言います。その理由は、自分の持ち物がウォレットに入っているからこそ、サービスに自分として認められ、より自己表現ができるからだといいます。
その世界が自分を認識してくれて、なおかつ変わってくれると、それが多分最初のTokenGateのマジックモーメントなんですよね。
SXSWのDoodlesブースで起きた「認識される」体験
宮武さんは、過去の『bytes』で取り上げたSXSW ── アメリカ・テキサス州オースティンで毎年開かれる、音楽・映画・テクノロジーの大型イベント。サウスバイと略されますでのDoodlesのイベントを例に挙げます。草野さんの言葉では、Doodlesは「可愛い虹色の」NFTプロジェクトです。
DoodlesのSXSWのポップアップは誰でも入れましたが、DoodlesのNFT保有者は何かをスキャンすると違う体験ができたといいます。無料の来場者がアクセスできない体験に加え、保有するDoodlesを認識して「ようこそDoodlesホルダー、千何百番」のように表示してくれたそうです。
草野さんは「人間って単純ですね」と笑いつつ、ハイテクな話でも、認知されたり自分のものとつながったりした瞬間に「ちょっと嬉しい」気持ちになると共感します。
宮武さんは、この体験が草野さんの言う「貢献して認知される」うれしさとつながっていると指摘します。お金の話ではなく、DoodlesのNFTを買ったという行為を理解し、限られた人しか入れない世界の一員として認識してくれた、ということです。
草野さんも、NFTを買っても普段はDiscordなどでの一方的な関係になりがちなので、こうしたリアクションがあるとうれしいと話します。宮武さんは、Doodlesホルダーがこれでよりプロジェクトを好きになり、NFTが「アイデンティティトークン」であることを証明した瞬間だったと見ています。
ブランドの中で「Fit in」して「Stand out」したい心理
宮武さんは、NFTがカルチャーアイデンティティのトークンでもあり、ブランドとは同じ商品を買う人の集まりだと話します。いいブランドほどカルトブランドになる、という話もここにつながります。
宮武さんは過去の「カレント・シングス」の回とも話をつなげます。人はグループの一員であることを証明したがり、さらにグループが大切にしていることへの熱意をより強く示したがるという、グループのダイナミクスです。
例として挙がったのが銃の議論です。宮武さんによると、銃の反対派と賛同派を別々のグループに分けて雑談させると、3時間後には反対派はより反対に、賛同派はより賛同に傾くといいます。いいメンバーであることを証明したい心理の表れです。
この心理がブランドでどう働くかを、宮武さんは「Fit in」と「Stand out」という2つの概念で整理します。
コミュニティのメンバーであることを証明する。例: クローンXのNFTやSupremeの服を持っている
コミュニティの中で際立つことを示す。例: レアなクローンXや複数保有、Supremeの特定コレクションや一点物の限定品
草野さんが「誰に対して言っているのか」と尋ねると、宮武さんはコミュニティ内に対してであり、「みんなより貢献していますよ」と示すものだと答えます。
宮武さんは、この構造がリアル店舗の接客でも働いていると話します。店員が客の着ているパーカーを見て「これ2018年のコレクションのやつですよね」と声をかけ、そこから別の服を薦めるようなやり取りです。
オフライン上ではあるんですけど、オンライン上ではないんですよ。
複数の人がその人に何を買うべきかを話し合うやり取りが、オンラインにはありません。宮武さんは、その理由を「自分が何を持っているかがわからないから」だとし、ウォレットを通せばそれがわかるのではないかと考えています。草野さんの言葉を借りれば「ちょっとクールな人がわかる」ということです。
NFTは「人のバイブス」を入れるフォーマット
宮武さんは、Web3が新しいスタンダードを作っていると話します。ウォレットのアドレス、トークンID、スマートコントラクトは、どこでも同じように扱われる共通の規格です。
宮武さんはこれをCSV ── データをカンマで区切って並べたシンプルなファイル形式。表計算ソフトをはじめ多くのアプリで読み書きできますにたとえます。どのパソコンでも開ける形式だから、ディストリビューションが無限に広がるという理屈です。草野さんは「NumbersのファイルをWindowsに送られても開けない」という例で応じています。
では、NFTは何のフォーマットなのか。宮武さんの答えは「カルチャーインフォメーション」を入れるフォーマットです。
宮武さんによると、これまでオンラインで人のバイブスを把握するのは難しいことでした。ブランドのロイヤリティプログラムでは、そのブランドや店舗での購入情報しか見えず、他に何を買い何が好きなのかはわかりません。アバターもまだ普及していません。
草野さんの確認に対し、宮武さんはバイブスを「雰囲気」が一番近いと説明します。カルチャー的な雰囲気、好きなブランド、所属コミュニティといった情報です。
宮武さんは、Facebookでもどのページに登録しているかはわかるが、その中でのステータスはわからないと指摘します。本当に好きなのか、とりあえず「いいね」しただけなのか、友達に誘われただけなのかが見えないからです。草野さんはFacebookグループの貢献者バッジに触れますが、属性が限られているとも話しています。
宮武さんの整理では、Token Gateはこのフォーマットにアクセスする技術です。ウォレットをつなぐと中身が見え、それに応じて体験を変えられるようになります。
実店舗では全員が同じ体験。サイトでも多少の出し分けはできたが、人のバイブスを知らないためパーソナライズに限界があった
ウォレットで「バイブスチェック」ができ、特定のNFTを持っていれば店舗がゲームに変わる、UIがNFTに合わせて変わる、といった体験の出し分けが考えられる
宮武さんによれば、ウォレットの中身を理解する技術やアルゴリズムの開発が、ウォレットの次の進化になると考えられます。宮武さん自身、そうした体験を作る人たちと最近話しているといいます。
これまでの一つのブランドから得られる属性情報だけの「シングルプレイヤー」の体験から、よりソーシャルな情報を取り込めるようになる。さらに次回は、複数の人とのやり取りから生まれる「マルチプレイヤー」の体験を話すと宮武さんは予告します。
ウォレット保有者を「属性」として理解する意味
草野さんは、冒頭の「バイヤーの属性」の話に立ち戻り、Web3的なことをしたいコマース企業はウォレット保有者を相手にすべきという意味なのかと尋ねます。
宮武さんの答えは、まずウォレット保有者が1つの属性になるということでした。クリプトのものを作る話ではなく、ウォレット保有者がウォレットをつなぐという特定の行動をすることを理解するのが重要だといいます。
そのウォレットをつなげるって何を意味してるかっていうと、より自己表現をしたかった、よりそこのコネクションを欲しがってる。
宮武さんは、ブランド側はそのコネクションを理解しなければいけないと話します。オフラインでは店員がその役割の一部を担ってきましたが、オンラインではできていませんでした。
ブランドの仕事は、バイブスをどうNFTとして表現し、どう理解すればよりいい体験を提供できるかを考えることだと宮武さんは整理します。ただし、特定のNFTを持つ人向けに店舗をゲームにするのが本当に正しいのかはわからず、いろいろ試す必要があるとも認めています。
草野さんは、Doodlesの認知のやり方以上に面白いやり方がありそうだと期待を示し、宮武さんも「絶対あると思う」と応じます。ただ、それが何かはまだわからないというのが正直なところだといいます。
あえて「摩擦」を作るコマースへ
宮武さんは、ウォレット接続がユーザーにとって追加のステップになる点に注目します。草野さんは、ウォレット接続を作ったサービス側にとってはうれしいはずだと話します。
一方でブランド側には、追加のステップでコンバージョン率が落ちるのを嫌う人もいると宮武さんは指摘します。オプションを与えすぎるな、摩擦をなくせ、というのがよく言われる考え方です。
摩擦を作るの、実はいいことで。
宮武さんは、作りすぎはよくないとしたうえで、次の世代のコマースは摩擦がないコマースと摩擦があるコマースに分かれ、ほとんどの会社は摩擦がある側になると予想します。
追加ステップを減らし、すぐに買える体験を目指す
あえてハードルやチャレンジを作り、需要を生み出す。宮武さんは、ほとんどの会社がこちらになると見ている
宮武さんは、摩擦がないと需要が生まれないと話します。ここでの摩擦とは、ユーザーにアクションやチャレンジを課すことで、実店舗に足を運ぶ必要があることも1つのハードルだといいます。
宮武さんによると、この摩擦の作り方を一番うまく表現しているのがミュージシャンです。
ミュージシャンのグッズはなぜライブで売れるのか
宮武さんは、ミュージシャンの仕事は音楽を作ることなのに、マネタイズの多くはグッズで行われていると指摘します。そして、コアファンが毎日曲を聴いていても、グッズを買おうとは思わないことが多いといいます。
ほとんどの人は音楽を聴いてて、それで泣いたとしても、そのバンドのグッズを買おうとその瞬間思わないんですよね。
宮武さんは、アーティストにとってのグッズのデフォルトの状態は「需要がない」ことだと言います。そのうえで、アーティストのビジネスモデルを次のように説明します。
レコーディング
音楽を録音すると赤字になる
コンサート
チケットを売ってトントンになる
グッズ販売
ここで儲かる
宮武さんは、テイラー・スウィフトのようなトップアーティストは違うとしつつ、ほとんどのミュージシャンは音楽でオーディエンスを集め、グッズを買う理由づけをしなければならないと話します。
ここで宮武さんは、グッズがオンラインとライブ会場でどう売れているかを草野さんにクイズとして出します。草野さんの答えは9:1で、宮武さんは「すごい近い」と応じます。
草野さんは、オンラインならすぐ買えるのにライブではわざわざ並ぶと話します。宮武さんは、日本に当てはまるかはわからないとしつつ、オンラインのグッズ事業は結構少ないと説明します。
宮武さんによると、コンサートは、アーティストとファンの関係性が最も強くなるタイミングで、そこで需要が作られます。ファンは「このコンサートにいた」と言いたいのだといいます。
(ライブ限定の話で)フジロック2022って書いてあるタオルがいいみたいな。
宮武さんは「2021とは違いますよね」と応じ、その場で買うことが重要だと強調します。バンドにとってコンサートはトークンゲートされた空間であり、そこに入ったことを証明するためにグッズを買うという見立てです。
宮武さんの整理では、ミュージシャンはライブを見に行くというチャレンジ、つまり摩擦を作っています。そのチャレンジを完了した証としてグッズを購入できる、という構造です。
摩擦
ライブ会場に足を運ぶというチャレンジがある
特別な体験
チャレンジを乗り越えることで特別な体験が生まれる
購入意欲
その場にいた証としてグッズを買いたくなる
宮武さんは、これを「アクティベーションされた需要」と呼びます。摩擦は避けるものではなく、需要を生む仕掛けとして扱うべきだという考え方です。
草野さんの質問に、宮武さんは摩擦は英語のフリクションで、間にステップを入れるといった話だと説明します。実店舗がより体験型になっているのも、ブランドの特別な体験を作り購入意欲を高めるためで、オンラインコマースにはそれがほぼないと宮武さんは指摘しています。
Spotifyで毎日聴いても、グッズは買わない?
草野さんは、チャレンジという概念が面白いと話します。店舗に行けばいい体験ができる、ライブに行けば限定グッズがある、というのは誰もが知っている事実ですが、それをこうした考え方で捉えられるのが新鮮だったといいます。
宮武さんは、需要がどのタイミングで作られるかを一つのゲームとして考える必要があると話し、特別な関係性作りはミュージシャンがこれまで一番うまくやってきたと評価します。草野さんは、音楽で稼ぐのが難しいという背景もあると補足しています。
Spotifyでめちゃくちゃいい音楽を聴いても、そのアーティストのグッズを購入したくなるっていう気持ちにならない?
宮武さんにとって不思議だったのは、音楽はカルチャームーブメントになるほどの力があるのに、ストリーミングで聴くだけでは購入につながらないことでした。CDの時代とは違う、とも付け加えています。
草野さんは、買いたい気持ちはあってもグッズの存在を知らないことが多いのではと指摘します。たまにアーティストのショップを見つけて「めちゃくちゃかっこいいグッズ作ってんじゃん」と思うこともあるそうです。
確かに(グッズを)買ってないですね。すいません。嘘つきました。
宮武さんは、今のSpotifyにはそういう購入体験がないこと、そして今後Spotifyがそうした仕組みを作るだろうと話します。それでもほとんどの人は買わない、というのが宮武さんの見方です。
草野さんが「100人中100人が買っていたらやばい」と言うと、宮武さんも、聴いている人の一部が買うだけで大きな売上になるはずのアーティストは多いと応じます。それがライブ以外では起きない理由を調べた結果が、今回の摩擦の結論だったといいます。
宮武さんは次回、摩擦の話を続けながら、ウォレットやNFTを活用した体験がどうなりうるかを語ると予告します。ここ数か月考え続けているキーワードはマルチプレイヤーコマースだそうです。
まとめ
今回の『Off Topic』では、Glossierのコミュニティ作りからWeb3コマースの土台となる考え方をたどり、NFTを売り物ではなく買い手の属性として捉える視点、ウォレットで人のバイブスを読み取る可能性、そしてミュージシャンのグッズ販売に見る「摩擦が需要を生む」構造が語られました。宮武さんは正解のユースケースはまだないとしつつ、オンラインコマースの体験は根本から変わりうると考えています。
- 初期のGlossierは、トークンではなくソーシャルキャピタルを通貨のようにしてコミュニティを作った「Web2.5」的なブランドだった
- 金銭的インセンティブはコミュニティの性質を変えうるため、認知やステータスをどうトークン化するかが論点になる
- アレックス・ダンコさんの議論では、NFTはコマースのアウトプットではなくインプットであり、ウォレット保有者という買い手の属性を表す
- ウォレットは人のバイブスを読み取る鍵になり、Fit inとStand outの欲求に応える体験の出し分けが考えられる
- ミュージシャンのグッズがライブで8割売れるように、乗り越えるべき摩擦が「アクティベーションされた需要」を生む



