一人で買うコマースは、みんなで買うものに変わる?
この回は、Web3時代のコマース体験をテーマにした2回シリーズの後編です。前回は、クリプトのウォレットを持つ人は新しいタイプのバイヤーであり、ウォレットやNFTを通してエンドユーザーをより深く理解できる、という基礎的な話をしています。
宮武さんは前回の要点として、NFTを「カルチャー情報をコンピューターに入れられるもの」と捉え、その人のバイブスまで理解できるようになる点を挙げます。
今回は、まあそこの続きとして、それを知った上で何ができるんだっていう話だったり、次の世代のコマースを作るにはどういうことが必要かとか、どういう体験がありそうかっていう想像をする回にしていきたいなと。
宮武さんの問題意識は、これまでのオンラインコマースが一人で楽しむ「シングルプレイヤー体験」に偏っていたことです。それが複数人で関わる「マルチプレイヤーコマース」に変わるのではないか、というのが宮武さん個人の考えです。
草野さんは、シングルとマルチプレイヤーという概念自体が難しいので、あとで改めて説明してほしいと頼みます。話はまず、前回の終わりに出た「コマースには摩擦が必要」という論点から始まります。
ブランドが要らない買い物と、ブランドが要る買い物
宮武さんの言う摩擦とは、購入までにあえて設けるチャレンジのことです。草野さんが補足したように、わざと買いにくくしても、それが購入者にとって楽しさや達成感になる場合があります。
宮武さんによれば、摩擦を乗り越えて買うことでブランドとの関係値が生まれ、そのブランドを好きになる意味が作られます。コマースはチャレンジの結果として何かを購入するものだ、と考えるのが重要だと話しています。
対照的な例として宮武さんが挙げるのが、単3電池のような必需品です。AmazonやウォルマートやコンビニでとりあえずAmazonベーシックでも何でも買えればよく、多くの人はブランドにこだわりません。
宮武さんは、この種の買い物をロートラスト ── ここでは、売り手やブランドへの信頼がそれほど高くなくても成り立つ買い物を指す言葉。逆に信頼やブランドが決め手になる買い物がハイトラストです、つまり信頼性が低くてもOKな買い物と呼びます。草野さんは、100円ショップで買うものがそれに近いと受け止めつつ、自分は電池ならレビューを見てしまうと笑います。
宮武さんは、どこまでがロートラストかは人によって違うと付け加えます。靴下にこだわりがなくAmazonですぐ買う人もいれば、ブランドやレビューをじっくり見たい人もいます。
信頼性が低くても成り立ち、ブランド性がなくてもよい。究極の場所はAmazon、ウォルマート、コンビニ、100円ショップ
信頼性が求められ、ブランド性が重要になる。競争が激しくなるほど築くのが大変になる
宮武さんは、ハイトラスト側の難しさを、数回前に話したリモートワークの例でたとえます。地域内で採用していた頃は競争が緩くても、リモートにすると世界中と競争になるのと同じく、小売店舗もEC化によって地域の店だけでなくグローバルなプレイヤーと競うことになりました。
オンラインで「摩擦」をどう作るか、次世代のドロップはストーリー?
ハイトラストなブランドを作るために、よく言われるのはコミュニティや関係性の構築です。ただ宮武さんは、結局は意図的に意味のあるコマース体験を作らなければならないと話します。
宮武さんによれば、その意味を生むのが摩擦というチャレンジです。店舗に足を運ぶこと、他のブランドとのコラボ品を限られた時間と在庫の中で手に入れることなどがその例です。
(摩擦を)じゃあどうやってオンライン上で作るかっていうのが、すごい今まで難しくて。
オンラインで摩擦を作りにくかった理由として、宮武さんは、体験を作る手法が少なかったことに加え、そもそもエンドユーザーのことを理解できなかった点を挙げます。
これまでのオンラインでの摩擦の作り方で最も多かったのがドロップ ── 限定アイテムを数量・期間限定で一斉に発売する手法。ストリートブランドのSupremeが毎週の新作発売で広めたことで知られますです。草野さんは、定期的に限定アイテムを数量限定で出し、ハイプを作るものと説明します。
ただ宮武さんは、ドロップはSupremeがオフラインでうまくやったモデルをオンラインに移しただけだと指摘します。インターネットネイティブなやり方が別にあるはずだ、というのが宮武さんの考えです。
実はこれツイートしてるんですけど、いいねゼロなんですけど、ちなみに。その次世代ドロップっていうのはストーリーだと思っていて。
宮武さんはストーリーを軸にしたドロップの詳しい説明はこの回では省きますが、そうしたブランドが今後出てくると見ています。草野さんが10KTFを挙げると、宮武さんは「まさにそういう感じ」と応じます。
宮武さんは、最近はYuga Labs ── NFTコレクション「Bored Ape Yacht Club」を手がけるアメリカの企業。NFTを起点にゲームなどへ事業を広げていますもストーリー化を進めていると話します。草野さんは、Yuga Labsはもともとストーリーづくりの筆頭ではと尋ねますが、宮武さんはこれまでそこまでではなく、開発中のゲームなどで最近そちら寄りになってきたと答えます。
ベテランバンドが若手を呼ぶ理由とブランドコラボ
宮武さんは、マルチプレイヤーコマースを考える手がかりとして、以前のOff Topic動画インタビューで、デイビッド・フェルプスさんとWeb3×音楽の話をしたことに触れます。そこでは、ファン同士が一緒に音楽を作るような「マルチプレイヤー化」が語られていました。
草野さんは、デイビッド・フェルプスさんを、Web3に詳しいアメリカのカウファンドの方と紹介し、インタビューはYouTubeで見られると案内します。
宮武さんは、マルチプレイヤーコマースは音楽だけの話ではないものの、音楽の視点から見ると意外とわかりやすいと話し、バンドの例を持ち出します。
昔から人気でファンも多く稼いでいるものの、今イケているとは限らないバンドがいます。一方で、ファンはまだ多くないけれど熱狂的なファンがいて勢いのある若手バンドもいます。
よりファン層が多い、まあ大体もうちょっと古いバンドが、コンサートやる時に、その若手バンドを呼ぶんですよね。
このオープニングアクトの仕組みは、両者にメリットがあると宮武さんは説明します。若手は認知を広げ、場を盛り上げます。ベテランは若手のファン層を取り込み、「この若手を選んだ」という目利きでイケてる感を出せます。
うーん、こいつをチョイスしたぜっていう。
宮武さんによれば、お互いのコミュニティが入り混じり、ファンは自分が支援していたバンドだけでなくコラボ相手も好きになり、商品を買ってくれます。草野さんは、アメリカの音楽でフィーチャリングがとても多いのも同じ構造だと重ねます。
共演
ファンの多いベテランバンドが、勢いのある若手をオープニングに呼ぶ
相互の効果
若手は認知が広がり、ベテランは新しいファン層とイケてる感を得る
コミュニティの合流
ファンが両方のバンドを好きになる
購入
ファンが両方の商品を買ってくれる
宮武さんは、Web3の領域でもこの動きが見られると話します。GUCCIとフィギュアのWeb3系企業Superplastic ── デジタルとリアルのフィギュアやキャラクターを手がけるアメリカの企業。著名ブランドとのコラボで知られますのコラボ、アディダスとBored Apeのコラボ、ナイキによるRTFKT ── デジタルスニーカーやNFTを手がけるスタジオ。2021年末にナイキが買収しましたの買収、10KTFとプーマのコラボなどです。
コラボ商品は作れても「相手のファン限定」が難しい
宮武さんは、コラボ商品を作ること自体はできても、ECでコラボを再現するのは意外と難しいと話します。たとえば10KTFのコラボ品を、プーマの熱狂的なファンだけが買えるようにするのは手間がかかります。
自社のファンだけなら、メールアドレスやロイヤルティプログラムで把握できます。けれど相手が第三者になると、その人が相手ブランドのファンかどうかを確かめるのが一気に難しくなります。
宮武さんは、Off Topicのニュースレターを例に説明します。Off Topicが有料版のSubstackを作り、別の有料ニュースレターとコラボして、相手のコンテンツを自分たちの課金メンバーにも見せたいとすると、それが面倒だというのです。
草野さんは、アメリカのニュースレター同士がSubstackでコラボしていた例を思い出しますが、それはYouTuberのように記事を1本ずつ書き合ったり、同じ記事を両方に出したりして補っていた形でした。
例えばそれがサブスタックとMediumとか、サブスタックとnoteのコラボをしようとすると、より難しくなるじゃないですか。全く違うシステムですし、場合によってはメールアドレスを見れなかったりするので。
そこで宮武さんが一つの認証方法として挙げるのが、前回も話したトークンゲート ── 特定のNFTやトークンを持っているウォレットだけに、商品購入やコンテンツ閲覧などの権利を開放する仕組みです。ブランド同士のコラボ商品をオンラインで売る際の技術的な難しさを、ブロックチェーンがまず解決するという見立てです。
NFTで買える人を絞ると、転売屋は防げるのか
宮武さんによれば、トークンゲートを使うと、コアファンのNFTを持っていれば買える、あるブランドのNFTを3つ持っていれば買える、といったフィルタリングができます。従来はこうした絞り込みが非常に難しかったものです。
でもなんか転売屋のいない世界にできるかもと思ったんですけど、(NFTを)持ってたら逆に何でもできると思ったら、なんか金で物を言わせて。
草野さんの懸念に対し、宮武さんは、お金を持っていれば何でもできるのは今も同じだと返します。そのうえで、ブロックチェーンでは履歴が見られる点が違うと説明します。
BANしやすいですし、例えば何年持ってるとか。そういうのもわかるじゃないですか。いつ購入したかもわかるので、転売したのかもわかるので。
宮武さんは、転売屋を排除したくないブランドもあるとしつつ、より細かいフィルタリングができること自体がメリットだと話します。従来の世界では、転売したかどうかも、何を買ったかもわかりませんでした。
今の仕組みでブランド同士が絞り込みをしようとすると、お互いのロイヤルティプログラムで条件を作り、メールリストを共有し合うことになります。宮武さんは、規約次第でダメとは限らないものの、個人情報を共有し合う違和感と手間があると指摘し、ブロックチェーンやNFTがそこを解決すればブランド同士のコラボがしやすくなると理論上の見立てを語ります。
お互いのロイヤルティプログラムで条件を作り、メールリストを共有し合う。手間がかかり、個人情報を共有する違和感がある
NFTの保有でトークンゲートする。保有期間や転売の有無まで見て、細かくフィルタリングできる
取引のためのサイトから、どのチャネルも同じウォレットへ
宮武さんは、ブランド単体の観点からも利点があると話します。過去のSHEIN ── 中国発のファストファッションEC企業。低価格と大量の新作投入で、アメリカをはじめ世界で急成長しましたの回で触れたように、アメリカや日本のECはサイトに行って取引するための「取引型」です。
一方で中国は、ライブコマースやアプリ内でのコンサートなど、取引だけではない体験を組み込んだソーシャルコマースが発達しています。さらにVRやARのようなチャネルも増えるなか、各プラットフォームでユーザーが何をしたか、どんな人かを集めるのは面倒です。
宮武さんは、それが1つのウォレットで全部わかるのは便利だと言います。今はオンラインのECショップだけをトークンゲートする話が中心ですが、今後はオフライン店舗も含めた全チャネルがトークンゲートされてもおかしくないと見ています。
宮武さんは、前回話したDoodlesの店舗もその例だとし、Shopifyなどにとってウォレット認証は今後必須になると話します。そして普及した先に、その上でさまざまなアプリや体験が生まれてくるところが重要だと続けます。
このNFTを持っていれば、別ブランドの会員にもなれる
ではウォレットベースのマルチプレイヤー体験とは何か。最もシンプルなのは、ブランドAとブランドBの両方のNFTを持っていれば限定商品にアクセスできる、というものです。
宮武さんはその先の例として、あるNFTメンバーシップを持っていれば、別ブランドのNFTメンバーシップへのアクセス権を一時的、またはずっともらえる形を挙げます。
これは実際に存在しないですけど、例えばAmazonプライムに入っていればコストコのメンバーシップもらえますとか。そういうのってあるじゃないですか。そのバンドル感みたいな。
草野さんはGrubhubの例を、宮武さんはVerizonの契約者がDisney+を1年分無料でもらえた例を挙げ、オフラインやこれまでのネットでもあるバンドルが、NFTなら簡単にできると話します。
実例として宮武さんが挙げるのが、リテールブランドのNFTコレクションPoolsuiteです。PoolsuiteはNFTメンバーシップのGalleryと提携しており、PoolsuiteのNFTを持つ宮武さん自身もGalleryのNFTをコストゼロで作れたそうです。本来は有料で、すでに売り切れて二次流通で買う必要があったものです。
草野さんは、似た属性の人へとコミュニティを広げられる点を評価します。宮武さんも、ブランドはライフスタイルを売り込むものなので、似たライフスタイルのNFTコレクション同士で簡単に連携したり、レンタルを可能にしたりできると話します。
2社ではなく10社で、商品ではなく体験を作る
宮武さんは、マルチプレイヤーにはブランド同士だけでなく、ブランドとユーザー、ブランドと全く知らないユーザー、ユーザー同士の組み合わせもあると整理します。部分投資やグループバイイングも、より簡単にできるといいます。
さらに宮武さんは、これまでブランドコラボはほぼ2社だったのが、3〜4社、場合によっては10社でも技術的にやりやすくなったと話します。ただし10社で1つの商品を作るのではなく、1つの体験を作るという話です。
逆に何ができるかちょっと見てみたいですけどね。なんか結果誰も望んでないものが作りそうな気がするんですけど。
宮武さんが想定するのは、10社でコレクティブのようなグループを作り、その中でチャレンジを用意したり、お互いのファン同士で競い合ったりする形です。
草野さんが、複数のブランドを抱えるLVMH ── ルイ・ヴィトンやディオールなど多数の高級ブランドを傘下に持つフランスのコングロマリットのような企業は強そうだと言うと、宮武さんは、これまではまさにそこがLVMHのアドバンテージだったと応じます。グループ内でできていたコラボを、Web3によって分散化して他のブランドもできるようになった、という見方です。
ポケモンはNFTっぽい?交換で進化する体験
宮武さんは、友人と話していて気づいたこととして、ポケモンのゲームがとてもNFTっぽいと話します。草野さんはルビー・サファイア世代で、サファイアをプレイしていたそうです。
ルビーとサファイアには片方にしかいないポケモンがいて、交換しないと手に入らないものや、交換によって進化するものもありました。
ポケモンGOで捕まえたポケモンを他のポケモンのゲームに交換できるんですよ。
宮武さんによれば、今はポケモンホームを通じて、ポケモンGOや昔のシリーズで捕まえたポケモンを最新作に送り込めます。草野さんは「激アツですね」と驚きます。宮武さんは、完全なNFTではないものの、ゲームをまたいだ交換はNFTを交換し合うのとよく似た概念だと話します。
そこから宮武さんは、NFTを交換したら勝手に変わる、時間に応じて劣化する、といった体験を想像します。草野さんが成長するのもありでは、と加えると、宮武さんも同意します。
宮武さんはもう一つ、ブランド内のミニコミュニティを挙げます。ユーザーのバイブスがわかるので、以前話題にしたGlossierのファンによるInstagramアカウント「Glossier Boyfriends」のようなものを、より簡単に作れるといいます。
たとえば、そのブランドのファンで、他のNFTからバスケ好きだとわかる人を集めて「ブランド×バスケ」のコミュニティを作れます。草野さんは、自分たちを好きな人がどんな人かブランド側にもわかりやすくなると受け止め、宮武さんは人と人を結びつけて熱狂的なコミュニティを作れると話します。
おごったボバティーがフィードに流れるソーシャルギフティング
次に宮武さんが挙げるのが、アメリカのアプリSnackpass ── 学生を中心に広がった、飲食店のテイクアウト注文アプリ。友人への「おごり」や注文がフィードで共有されるソーシャル機能が特徴です。草野さんは、決済にSNSの要素を組み合わせたVenmo ── アメリカで普及している個人間送金アプリ。誰が誰に送金したかがフィードに流れるSNS的な仕組みで知られますのテイクアウト版と説明します。
宮武さんによれば、Snackpassが広がった理由の一つがギフティングです。好きな人にボバティーをおごる学生がたくさんいて、それがすべてフィードに出てきました。
例えば僕が草野さんに何かギフティングしましたと。で、草野さんがそのギフトを実際使わなかったらフィードに出てこないんですよ。
宮武さんは、ギフトを受け取ること自体に意味があり、好きではないから受け取らない、といったコミュニケーションも生まれうると話します。お金のない学生が多いので使う人が多いだろう、とも付け加えています。
草野さんは、二人の間のやり取りを、それ以外の誰かが見ているところが面白く、一人の購入体験ではないと受け止めます。宮武さんは、Web3を使わなくてもいいので、ソーシャルギフティングでユーザー獲得をするブランドを見てみたいと話します。
草野さんは、Uber Eatsの招待コードを友達に配る仕組みや、LINEのギフトがタイムラインに出たら面白いと発想を広げつつ、すぐに「でも出したくないな、それは」と本音をこぼします。宮武さんは、出したくない人もいるので、アプリごとに誰に見せるかを考える必要があると応じます。
同じ時期に同じ旅先へ行く他人同士をつなぐCtrip
宮武さんは、同じ興味やタイミングをもとに顧客を一緒にオンボーディングさせる例として、中国の旅行サイトCtrip ── 中国最大級のオンライン旅行会社(OTA)。航空券やホテルの予約サービスを提供していますを挙げます。Ctripは、同じタイミングで同じ場所に行く人たちをグループチャットにまとめるそうです。
チャットにはCtripのコンシェルジュ的な人もいますが、お互い知らないユーザー同士が質問し合い、行き先で実際に会うケースもあるといいます。
地元の人に美味しいお店教えてくださいって連絡するより、なんか結構同じニーズ、同じニッチなニーズを持ってる人たちで集まるっていいですよね。
宮武さんは、出張先の秘伝という店の混雑状況を、同じ時期の出張者同士で共有できていたら、という例を出します。草野さんは、そのチャットに商品情報を流せれば広告主として相性がいいと話し、宮武さんはタイミングや興味でコミュニティを作る切り口もありだと応じます。
一緒に育てるNFT、コーディネートで稼ぐユーザー
宮武さんの次のアイデアは、2人や複数人でNFTを育てる「デジタルネイティブ版のたまごっち」です。育て続けると特典がもらえるような仕組みを想像しています。
草野さんが、Dapper Labsの猫のキャラクターに近いかと尋ねると、宮武さんはCryptoKitties ── Dapper Labsが2017年に公開した、猫のキャラクターを集めて交配させるブロックチェーンゲームには育てる概念はあまりなかったと答えます。草野さんはデザインや属性の面でデジモンのようなものが合いそうだと話し、宮武さんも同意します。
宮武さんは、2人でやるからこそ意味が出たり、忙しいときにもう1人に育成を頼めたりする点も面白いと話します。
さらに宮武さんは、ブランドのルックブック ── ブランドがシーズンごとのコレクションやコーディネート例をまとめた写真集やカタログをコミュニティで一緒に作り、新しいアフィリエイトプログラムにする案を出します。
ユーザーがコーディネートして、そのコーディネート(を誰か)が購入したら、ユーザーも例えばちょっとキックバックをもらえるみたいな。
ブランドはTシャツ、ジャケット、パンツなどのパーツをNFT化して出し、ユーザーがそれを組み合わせてコーディネートを作ります。草野さんは「それ面白いですね」と反応し、宮武さんは一種のキュレーターのような役割も生まれると話します。
宮武さんはほかにも、純粋な想像としてブランドが脱出ゲームのような体験を作ることを挙げ、草野さんはリアル脱出ゲームが日本で人気だから合いそうだと応じます。
また宮武さんは、ブランド内のコミュニティではなく、バスケ好きのような興味のコミュニティそのものにブランドがスポンサーとして入る形も挙げます。DAO ── ブロックチェーン上でメンバーが共同で運営する組織。Decentralized Autonomous Organizationの略の立ち上げを手伝い、その中にスポンサーとして入るといったことも、よりやりやすくなると見ています。
買い物ではなく「ブランドと遊ぶ」時代へ
宮武さんは、ここまでの例はどれもゲームっぽいとしたうえで、それが重要だと話します。Spotifyの番組「Bytes」のメタバース特集でも触れたように、購入体験そのものが変わっていくと考えているからです。
宮武さんの見立てでは、ブランドを意識しない買い物はAmazonのワンクリックのように摩擦を減らす方向で進化します。一方でそれ以外は、摩擦をより作り、取引型の購入体験から離れていかなければなりません。
ブランドで買い物をするっていう概念っていうのがなくなって、ブランドと一緒に遊ぶ、もしくはブランドを場所と例えてブランドで遊ぶっていう。
宮武さんは、次の世代はイマーシブな体験やゲーム体験が好きなので、こうした変化が起きるのではないかと話します。そしてその体験は、前回話した音楽の体験に近いといいます。
遊んでいるあいだは購入を考えず、特定の瞬間に購入意欲が一気に高まる。その瞬間をブランドがいかに作れるかが問われる、というのが宮武さんの考えです。草野さんは、普段はストリーミングやYouTubeで聴いていても、ライブに行くとグッズを買いたくなるのと同じだと重ね、宮武さんも「まさにそういうこと」と応じます。
ブランドで買い物をする。サイトで取引する、一人で完結するシングルプレイヤー体験
ブランドと、またはブランドで遊ぶ。普段は遊び、特定の瞬間に購入意欲が高まる、複数人の体験
宮武さんは、約3年半のOff Topicで扱ってきたD2Cブランドの盛り上がり、メディアやコミュニティの変化、リミックスカルチャーなどを全部考えると、購入という体験が根本的に変わらないといけないと思ったと振り返ります。究極的なハイトラストのブランドとは、音楽のような体験を作ることだという見方です。
Figmaも最初は批判された、シングルからマルチへの流れ
宮武さんは、これまでのオンラインコマースは店舗スタッフとのやり取りも限られ、シングルプレイヤーでしか体験を作れなかったため、取引型にするしかなかったと話します。将来はマルチプレイヤーコマースが特別な呼び名ですらなく、単に「コマース」と呼ばれるかもしれないとも言います。
その根拠として宮武さんが挙げるのが、インターネットの歴史の流れです。プログラミングはもともと一人の作業から始まり、今ではチームで開発するのが当たり前になりました。
Figmaのおかげでコラボレーション型になったりとか。で、当時Figmaが最初に出た時ってすごい批判されたんですよ。デザイナーは自分個人のワークフローがあるから。
宮武さんによれば、当時は「デザイナーはコラボレーションなんて絶対しない」と言われていましたが、その概念は変わりました。草野さんは、今ではデザイナー以外もFigma ── ブラウザ上で複数人が同時に編集できるデザインツール。共同作業を前提にした設計で広く普及しましたを使っていると驚きます。
宮武さんは、中国ではソーシャルコマースですでにマルチプレイヤー化が始まっていたと補足しつつ、別の形になる可能性も含めて、コマースもシングルからマルチプレイヤーになるという仮説を立ててもおかしくないと話します。
共同購入は欧米にも来る?購入の起点には必ず人がいる
草野さんは、Ctripやグループバイイングなど中国の事例が多いことに触れ、共同購入や共同でのコミュニケーションの文化は欧米にも来るのかと尋ねます。
中国と同じような体験が来るかというと、正直わからないです。ただ、根本として、なんで人は何かを購入するかっていうのを見ても、結局他の人が影響してるんですよ。
宮武さんは、グループの中で目立ちたいから買う、グループへの所属を示したいから買う、サブカルを信じているからマッドハッピーのようなブランドを買う、憧れの人が着ているから買う、といった例を挙げます。どれも他の人が起点にあるといいます。
草野さんは、アーティストを応援したい気持ちや、誰かにこう見られたいという気持ちも含まれるのかと確かめ、宮武さんはどちらも含まれると答えます。
宮武さんは、その関係性や購入意欲をデジタルネイティブな形で再現するのが、次のコマース体験を作る人たちの仕事になると話します。購入の起点には必ず他の人がいるという見方が、この回のマルチプレイヤーコマース論の土台になっています。
宮武さんは、今は自分たちが考えたようなことしか思いつかず、5年後や10年後に振り返れば「なんでこんなベーシックなことしか考えてなかったんだ」と言われるかもしれないと話します。草野さんは、逆に何も変わっていなかったというパターンもありうると返し、宮武さんもその可能性を認めつつ、マルチプレイヤーコマースは次のコマースのキーワードになると考えています。
マルチプレイヤーコマースという言葉はどこから来た?
最後に宮武さんは、この回の内容をまとめるにあたって相談した人たちとして、Not Boringのパッキーさん、デイビッド・フェルプスさん、トークンゲート用のShopifyツールを作っているセイリー・テイラーさんの名前を挙げます。
草野さんがマルチプレイヤーコマースという言葉の由来を尋ねると、宮武さんは、Not Boringのパッキーさんと、Shopifyのアレックス・ダンコさんによるトークンゲートについての記事で最初に見かけた言葉だと答えます。
まだ正直まだ新しい言葉だと思うんですけど、マルチプレイヤーコマースという言葉じゃないかもしれないですけど、その複数人集めたコマース体験っていうものがもっともっと今後出てくるんじゃないかなと思います。
その記事では言葉の深掘りよりもトークンゲートの意味合いが中心だったため、宮武さんは、この概念自体はまだ新しく、名前が変わっても複数人で集まるコマース体験は今後増えていくと見ています。
まとめ
この回では、ウォレットやNFTでユーザーやファン同士のつながりが見えるようになることで、一人で取引するECから、ブランド同士、ブランドとユーザー、ユーザー同士が関わり合うマルチプレイヤーコマースへ移る可能性が語られました。宮武さんはその先に、ブランドで買い物をするのではなくブランドと遊ぶ体験を描いています。
- ブランドが要らないロートラストの買い物は摩擦を減らす方向へ、ハイトラストのブランドは意味のある摩擦を作る方向へ進むと考えられています
- トークンゲートにより、相手ブランドのファン限定のコラボや、別ブランドのメンバーシップ付与、10社規模のコラボ体験がやりやすくなるといいます
- ポケモンの交換、Snackpassのギフティング、Ctripのグループチャット、共同で育てるNFTなどが、複数人で関わる購入体験の例として挙げられました
- 購入の起点には必ず他の人がいるため、その関係性をデジタルで再現することが次のコマースづくりの仕事になる、と宮武さんは話しています



