コンパウンドスタートアップは「どのデータ」から始まるのか
この回は、前回に続いて「コンパウンドスタートアップ」がテーマです。コンパウンドスタートアップとは、複数のプロダクトを持ち、そのプロダクト同士の連携がサービスの重要な価値になっている企業のことです。
コンパウンドスタートアップという言葉を考えたのは、人事・労務SaaSのRipplingを創業したパーカー・コンラッドさんです。草野さんは最初は知らない言葉だったと話し、宮武さんは「マルチプロダクト」と言ったほうがわかりやすいかもしれないと補足しています。
宮武さんによると、前回の結論は「最初にどのグラフ(データセット)を軸にするか」が重要だという点でした。たとえばSalesforce ── 企業向けの顧客管理(CRM)ソフトウェアを提供するアメリカの大手SaaS企業ですなら顧客データ、Ripplingなら従業員データが軸になります。
顧客データを軸にプロダクトを広げる
従業員データを軸にプロダクトを広げる
フィンテック企業のRampの場合は、顧客の取引データや決済データが軸です。Rampはその金融データを活用して、法人カードや経費精算のシステムを作ってきました。
草野さんはRampについて、サイトのビジュアルから社員用の法人カードのイメージを持っていたと話します。けれど宮武さんによれば、RampのCEOは最初から、金融データや決済データを使った「連携と自動化」を長期ビジョンに掲げていたといいます。
経費精算を「作らなくていい」Rampの自動化
Rampの連携は自社のサービスだけにとどまりません。宮武さんによると、Rampの顧客の一部はGmail、Amazon、Lyftなどを連携させています。
そうすると、そこ(連携先)から来たレシートを全部自動的に読み取っていて、それを自動的に経費精算の中に組み込んでるんですよね。
間違えたらちょっとでもやばいですね、それ。
草野さんの心配に対して、宮武さんは承認プロセスは通常の会社と同じように残ると説明します。Rampで変わるのは経費精算の「作成」の部分で、そこを一切やらなくてよくなるのだといいます。
宮武さんは、連携部分によほどのエラーがない限り、ヒューマンエラーより自動化のほうがミスは少ないだろうと見ています。私物を法人カードで買ってしまうようなケースも、承認者が確認できる仕組みになっています。
宮武さんはRampを、1つのトランザクションデータをもとに複数のプロダクトを作り、さまざまな連携を加えることで会社全体のコスト削減につなげている例として紹介しています。
マルチプロダクト企業には、どんな組織が必要か?
データセットから始めるという前回の話を受けて、宮武さんは次の問いに進みます。複数のプロダクトを作るコンパウンドスタートアップと、1つのプロダクトに集中するスタートアップでは、組織が根本的にどう違うのかという問いです。
複数のプロダクトを並行して作る以上、人は普通より多く必要になります。さらに、プロダクトAとBを作るだけでなく、それらを連携させるための別のチームも必要になると宮武さんは説明します。
複数プロダクトの並行開発
プロダクトを同時に作るため、普通以上の人員が必要になる
連携専任のチーム
プロダクト同士をつなぐ別チームが必要になる
高いエンジニア率
結果として開発メンバーの比率が高くなる
宮武さんによると、Ripplingの従業員が400〜500人ほどだった頃、そのおよそ半分がエンジニアでした。現在の数字はわからないとしたうえでの紹介です。
Ripplingには、インフラのレイヤーにあたるミドルウェア ── アプリケーションとOSなど基盤の間に入り、共通の機能を提供するソフトウェア層のことですを作る専用チームもあります。加えて、個々のプロダクトチームに一定の自由度、つまり権限を与えることも重要だと宮武さんは話しています。
なぜRipplingは元起業家を集めるのか
プロダクトチームに自由度を与えると、チームを率いる人の採用基準も変わります。宮武さんは、プロダクトマネージャーを採用するのではなく、1つの事業部門を運営できる人を採用しなければならないと説明します。
なんで、(事業部門のリーダーに)よりフィットするのが元起業家ですね。
草野さんは、元起業家なら独立して勝手に動いてくれると受け止め、社内起業家を指す「イントレプレナー ── 企業の中で新規事業を立ち上げ、起業家のように主体的に動く社員を指す言葉です」に近いと応じています。宮武さんは「スタートアップの中にスタートアップがある」という概念だと話します。
宮武さんによると、Ripplingは400〜500人ほどのメンバーのうち40〜50人が元起業家でした。従業員のおよそ10パーセントが元ファウンダーという計算です。買収で加わった人もいれば、単純に採用した人もいるといいます。
ここで宮武さんが重要なポイントに挙げるのが、パーカー・コンラッドさんがなぜYコンビネーター(YC)に参加したのかという点です。コンラッドさんは前にZenefits ── パーカー・コンラッドさんが以前に創業した、人事・福利厚生管理のアメリカのスタートアップですを立ち上げた人で、すでにネットワークを持っていました。
宮武さんの説明では、YCは125Kドルの出資で7パーセントの株式を取得します。それでもコンラッドさんがわざわざ参加した理由は、YCファウンダーへのアクセス権だったといいます。
これはもうパーカーさん自身が言ってるんですけど、Ripplingの初期って大体2パターンの人しかいなくて。
めちゃくちゃ複雑な課題、問題を解決できる頭のいい人と、あとは元YCファウンダーなんですよ。
宮武さんは、YCの中にも失敗する人は多いが、それがスタートアップというビジネスであり、めちゃくちゃ優秀な人は必ずいると話します。草野さんは、コミュニティを採用に使うのはパーカーさんでなければできない荒業だと驚いています。
宮武さんは、各プロダクトのトップがミニCEOのように動く構造は、以前Off Topicで取り上げたアンドリーセン・ホロウィッツ ── シリコンバレーを代表するベンチャーキャピタルです。Netscapeの共同創業者マーク・アンドリーセンさんらが設立しましたの「HP2.0」の回の話と似ていると言います。かつてのHPでは各事業部門のトップが起業家的で、のちに引き抜かれて起業していきました。Ripplingはその逆のパターンだという見立てです。
新しいプロダクトがすぐ売れるディストリビューションの強み
宮武さんは、前回話していなかったコンパウンドスタートアップの強みとしてディストリビューションを挙げます。すでに顧客との関係を多く持っているため、新しいプロダクトを作ってもすぐに売り込めるという点で、Microsoftにも通じる話だといいます。
宮武さんによると、Ripplingは去年5〜6個ほどのプロダクトをローンチし、今年も同じかそれ以上のペースで出す見込みです。しかも、ローンチするたびに成長スピードが速くなっているといいます。
その例が、今年の初め頃にRipplingがローンチしたCloudITClosetというサービスです。従業員データを活用したもので、従業員が退職するときやレイオフ時の、会社のパソコンやスマホの返却を自動化します。
人事部と、そのIT部めちゃくちゃ楽になりますね。
宮武さんによると、このサービスはローンチから4ヶ月でARR ── 年間経常収益(Annual Recurring Revenue)のことです。サブスクリプション型ビジネスの規模を測る代表的な指標です800Kドルまで成長しました。Ripplingが連携を深めているからこそ、こうした速い成長ができるのだと宮武さんは説明しています。
ByteDanceが3年で140アプリを試せた理由
宮武さんは、こうした組織構成やプロダクト連携の考え方を消費者向けプロダクトに当てはめると、真っ先に出てくるのがTikTokを運営するByteDanceだと話します。ByteDanceはTikTokのほか、中国版のDouyin ── ByteDanceが中国で展開するショート動画アプリで、TikTokの中国版にあたりますやニュースアプリのToutiao ── ByteDanceが最初に成功させた中国のニュース配信アプリです。アルゴリズムによる記事の推薦で知られますなど多くのプロダクトを出しています。
宮武さんによると、ByteDanceにもRipplingと同じようにミドルウェアのレイヤーがあり、SSPと呼ばれているそうです。SSPの部門は、ユーザーヒアリング、リーガル、アルゴリズムなどを担当しています。
ByteDanceで新しいアプリを立ち上げるときは、完全に会社化する必要はありません。PMとエンジニアを2〜3人集めて新しいプロジェクトを始め、ユーザーヒアリングなどはSSPの部隊に頼む、という形でどんどんプロダクトを作れるといいます。
ByteDanceの軸となるデータセットはインタレストグラフ ── 人と人のつながりではなく、ユーザーの興味・関心のつながりを表したデータのことですです。宮武さんによると、Toutiao、Douyin、TikTokは多少カスタマイズされているものの、ほぼ同じアルゴリズムを共有しています。
宮武さんは、ByteDanceがこれだけ検証できるのは組織構成のおかげであり、同時に複数アプリを立ち上げることを信じているからだと説明しています。
TikTokで別アプリを売り込むクロスプロモーション
直近の例として宮武さんが挙げるのが、ByteDanceの音楽サービスRessoです。実はTikTokミュージックにあたるサービスだといいます。
Ressoが立ち上がった国では、TikTok上で「音楽はRessoで聞いてください」といったプロモーションが行われました。宮武さんは、これはRipplingやMicrosoftのディストリビューション戦略と似ていると話しています。
よくTikTokのByteDanceが新しいアプリ開発してるらしいみたいなニュースって結構いろいろ出るじゃないですか。で、後々これ(TikTok)に組み込まれるみたいな。
宮武さんは、TikTokのディストリビューションを活用しつつ、同じインフラに乗れる点がとても強いと評価しています。似た戦略をとる例として、元Musical.lyのプレジデントが立ち上げた9countも紹介されました。
9countは最初からマルチプロダクトを前提にした会社で、出会い系サービスや友達同士で話せるサービスなどを持ち、積極的にクロスプロモーションをしているといいます。草野さんは、カメラアプリのSnowを開くと別の画像編集アプリや動画編集アプリが出てくるのも近いと話し、宮武さんもNaver系のアプリとして近しい事例だと同意しています。
メディアのアンバンドル化で、個人ライターは何に悩むのか?
ここから話題はメディア業界に移ります。宮武さんは、いまメディア業界ではアンバンドル化が起きていると見ています。日本ならnote、アメリカならSubstack ── 個人がニュースレターを配信し、有料購読で収益化できるアメリカのプラットフォームですのように、クリエイターが簡単にニュースレターを収益化できるサービスが出てきました。
宮武さんによると、メディアは個人寄りのSubstackと、完全に企業のニューヨークタイムズという2つのパターンに分かれていて、今後はその間にあたる存在が出てくると考えています。
その例が、ニューヨークタイムズを辞めた有名ライターのチャーリー・ウォーゼルさんです。ウォーゼルさんはSubstackを立ち上げたものの7ヶ月でやめ、確かザ・アトランティックに移ったと宮武さんは話します。現在はザ・アトランティックの配下で、自分の名前でニュースレターを出しているそうです。
宮武さんは、Substackで独立したライターは新規ユーザー獲得を自分でやらねばならず、プレッシャーを抱え、Twitter頼りになりがちだと指摘します。草野さんも、記事を書き、宣伝もし、収入の仕組みも作るのは大変だと応じています。
そこで宮武さんは、個人と大企業の間にあたる会社が必要だと考えます。B向けで言うマルチプロダクトの考え方をメディアに当てはめると、ニューヨークタイムズでは各ライターが「プロダクト」にあたるという見方です。
Substackのレコメンド機能は何を変えたか
宮武さんによると、Substackもこの課題に気づいており、アプリ体験の強化を進めています。特に効いているのがディスカバリー、つまり新しいニュースレターとの出会いの部分です。
草野さんは、新しい面白いニュースレターを探すのは難しいと話し、宮武さんも結局はTwitterで誰かがシェアしたものを読む形だったと振り返ります。そこにSubstackが加えたのがレコメンド機能で、誰かのニュースレターに登録すると、その書き手がすすめるニュースレターが表示され、それにも登録できます。
草野さんは、D2Cブランドで買い物をすると他のD2Cブランドを紹介するツールに似ていると話し、パブリッシャー側はどう感じるのかと疑問を投げかけます。宮武さんは、書き手が許可を出したうえで互いに紹介し合っているので、うまくいくのだと説明しています。
宮武さんが挙げた数字が、PM向けニュースレターとしてSubstack内で有名なレニーさんの例です。過去90日間で、新規登録者の7割がレコメンド機能から来ているといいます。
勝手に増えてるようなものですよね。
宮武さんは、メディアではプロダクトが「人」であるため、BtoBのように1つの会社の配下にプロダクトを置くのとは考え方が変わると話します。会社が完全にコントロールしてしまうと、書き手はSubstackに逃げてしまいます。
メディア企業はレーベル会社になれるのか?
草野さんは、ウォーゼルさんにとってはザ・アトランティックが、自分の名前で書きつつ大手メディアでも書けるいい塩梅だったのではと問いかけます。宮武さんは、ウォーゼルさんが求めたのは大手メディアのインフラだと答えます。たとえばリーガルチェックや、訴訟があったときに守ってもらえる点です。
ただし、雇うだけでは、トップレベルのライターはどんどん辞めてしまうと宮武さんは言います。そこで宮武さんは、以前アンドリーセン・ホロウィッツの回で話した「レーベル会社のようなストラクチャー」を持ち出します。
レーベル会社は、オペレーションのインフラを提供する存在です。宮武さんは、Ripplingのミドルウェア、ByteDanceのSSPがそれにあたると整理します。一方でレーベルはクリエイターファーストで動き、アーティストの名前を前に出し、その分手数料を下げなければなりません。
宮武さんによると、ニューヨークタイムズやMorning Brew ── ビジネス系ニュースレターで急成長したアメリカのデジタルメディア企業ですのようなクリエイティブ領域の会社は、ビジネスモデルを根本から考え直す必要があります。プロダクトが個人であるほど、個人をどう前に出し、どうビジネスモデルに組み込むかが重要になります。
ニューヨークタイムズはもともと新聞社で、2014年にデジタル戦略に関する重要なレポートを出しました。宮武さんの説明では、このままでは生き残れない、完全にデジタルを受け入れるべきだという内容で、SNS、オーガニック検索、UX、エバーグリーンコンテンツ、記者の扱い方まで見直す必要があると書かれていたそうです。
宮武さんは、もう一度その転換のタイミングが来ていると見ています。今回の焦点は、個人ライターをどう扱い、コーポレート側とどうバランスを取るかです。ニューヨークタイムズ、アトランティック、The Information ── テック業界の取材に強いアメリカの有料購読型ニュースメディアです、Morning Brewが個人を押し出しているのはそのためですが、それでもカラ・スウィッシャーさんはニューヨークタイムズを辞めています。
Morning Brewのクリエイタープログラムはなぜ大胆か
宮武さんが「すごい面白い」と紹介するのが、Morning Brewが最近始めたクリエイタープログラムです。個人がMorning Brewのディストリビューションネットワークを使いながら、自分のブランドとしてニュースレターを出せる仕組みです。
Morning Brewにとっては、自社でコンテンツを作らずに、起業家精神や生産性といったニッチな領域の特化型ニュースレターを持てる利点があります。宮武さんによると、Morning Brewは7人のクリエイターと提携し、まずフルタイム従業員と同じ給料を払っています。
具体例が、26歳のポッドキャスターのケイティ・ガティさんです。パーソナルファイナンスのポッドキャストとSubstackを運営していたガティさんは、今年1月にMorning Brewと提携し、Substackの登録者数が1万人から10万人まで増えたといいます。
ガティさんのコンテンツはMorning Brewに転載され、Substackへの誘導もしてもらえます。草野さんはMorning Brew側の利点を尋ね、宮武さんは、ガティさんのファンがMorning Brewの他のコンテンツも読む可能性や、Morning Brewで知った人がそちらで読む可能性を挙げています。
どちらかというと企業側によりリスクがあるっていうところですよね。(ケイティさんは)明日辞めますって言えるので。
ガティさんにとっては、給料をもらいながら発信を続け、大きなディストリビューションネットワークにも乗れる仕組みです。宮武さんは、それだけ個人が強くなったという話だとまとめています。
TikTokでバズった曲に、レーベルが殺到する理由
宮武さんは、音楽業界でも個人が強くなる同じ変化が起きていると話します。Spotifyのレーベルへの支払いは、ざっくり言えばストリーム数の割合で決まります。たとえば1〜3月の全ストリームのうち10パーセントがワーナーの楽曲なら、それに応じた割合の売上がワーナーに渡る仕組みです。
このためレーベル会社にとっては、ストリーム数の奪い合いになります。TikTokでバズった曲と契約したがる理由はそこにあり、アメリカではTikTokで曲がバズると、ほぼ全レーベルから電話がかかってくるといいます。常にモニタリングしている人がいるためです。
2曲目、3曲目も同じようにヒットさせられるかという課題はあるものの、シェアの奪い合いになっているからこそ、アーティスト個人が交渉力を持てるようになったと宮武さんは話します。
昔は、楽曲の音源である「マスター」の所有権を完全にレーベルが持っていました。アメリカでは、レーベルがアーティストに「アドバンス」と呼ばれる、ほぼローンに近いお金を渡す慣行があります。
数千万のアドバンスと引き換えにマスターの所有権を永久にレーベルへ。ロイヤリティはレーベルが85パーセントを保持し、アーティストはアドバンスを返したあと15パーセントのみ
TikTok発アーティストの交渉力が増し、取り分が50:50になる例も。マスターは所有権の譲渡ではなく12〜15年のライセンス契約に
宮武さんは、こうした個人寄りの変化は1つの大きな変化だと評価しています。草野さんも、アーティストにとっていいことだと受け止めています。
バンドル化とアンバンドル化はなぜ繰り返すのか
宮武さんは、ここまでの話が示しているのは、業界ごとにバンドル化とアンバンドル化が常に起きているということだと話します。コンパウンドスタートアップの概念も、SaaS業界ではアンバンドル化の時代が終わりつつあり、再びバンドル化が重要になっているのではないか、という「タイミングの問題」だといいます。
またバンドルされる可能性もあるし、またアンバンドルの波が来るっていう。
そうですね、(アンバンドルの波は)絶対来るので。
宮武さんによると、アメリカではバンドル化にネガティブなイメージを持つ人が多く、その一因はケーブルテレビへの不満だそうです。導入が遅く、対応も悪いためです。音楽でも、1990年代には1曲しか聞きたくないのにCDを買わされるのが嫌だという人がいました。
宮武さんは、バンドル化かアンバンドル化かが切り替わるのは、新しいテクノロジーが生まれた瞬間だと説明します。新聞はニュース、スポーツ、株価情報などをまとめたバンドルで、それが成り立ったのは新聞社が印刷工場を抱え、情報と配布をそこに集中できたからです。
宮武さんは、以前のオフィスの回とも重ねて、新聞というバンドルは「時間と場所の技術」だったと話します。いまの時間と場所の条件で考えると、新聞という形は正しくないかもしれず、違う形になる必要があるかもしれないということです。
インターネット自体も、誰でもコンテンツを作れるという意味では完全なアンバンドル化です。そこからGoogle、Facebook、Twitterといった形で再びバンドル化が起きた、と宮武さんは説明しています。
なぜ既存企業ほど変化が見えないのか?
宮武さんが重要だと強調するのは、バンドル化やアンバンドル化が起きるタイミングでは、ほぼ毎回新しい会社が出てくるという点です。草野さんがSubstackを例に挙げると、宮武さんは「まさにそう」と応じています。
既存の大企業もスタートアップも、その新しい会社になれるか、そこへ進化できるかが問われます。ところが宮武さんによると、既存の会社ほどこのシフトは見えづらいといいます。
でも自分がその業界の中に入っていて、そこで事業運営している場合に、まあ周りがやっぱり見えづらいので。
そこで宮武さんは、昔と今でテクノロジーがどう変わったかを踏まえ、ゼロから作るならどんなプロダクトになるかを考え直すべきだと話します。既存のプロダクトからの進化ではなく、ゼロスタートで考えるという発想です。
多くの起業家や経営者は、今のプロダクトをどう進化させるかを考えます。宮武さんは、そうではなく、たとえば今メディア企業やソフトウェア企業をゼロから作るならどういう会社がベストかをまずイメージし、そこに近づくかどうかは後で判断すればいいと説明しています。
AOLからFacebookへ、止まらない分解と再統合
宮武さんは、この繰り返しをインターネット企業の歴史でたどります。AOLはダイヤルアップのインターネット接続やさまざまな情報サービスをまとめたバンドルでした。
AOL
接続や情報サービスをまとめたバンドル
Yahoo
AOLからコンテンツ側を切り出した。ただしYahoo自体もコンテンツのバンドル
Yahooの中から検索だけを切り出した
情報を集めるGoogleの中から、人だけの検索を切り出した
宮武さんは、アンバンドル化とその後の再バンドル化という流れは永久に止まらないと話します。
Netscape上場時の答え「お金儲けの方法は2つしかない」
宮武さんが紹介するのは、ブラウザの会社Netscapeが上場する前のロードショー ── 上場前に経営陣が投資家を回り、会社について説明する説明会のことですでの逸話です。マーク・アンドリーセンさん、CEOのジム・バークスデールさん、CFOのピーター・カリーさんがヨーロッパを回り、最後の会場はロンドンでした。
ロンドンで投資家から出た最後の質問は、「Microsoftが似たようなプロダクトをブラウザにバンドルするのを恐れていないか」というものでした。CEOはMicrosoftを否定せず、こう答えたといいます。
宮武さんは、CEOにとってはMicrosoftがバンドル化するのも戦略として正しいという話でもあったと解釈しています。勝てるかどうかはわからなくても、戦い方はアンバンドル化かバンドル化のどちらかしかない、ということです。
宮武さんは、100回目のエピソードで話した「歴史は繰り返さないが韻を踏む(ライムする)」という考え方にも触れ、バンドル化とアンバンドル化では似たことが毎回起きていると話します。草野さんは、毎回新しいアプローチで改善されている点が面白いと応じています。
宮武さんは、この動きはビジネスに限らず、政府や国同士の争いにも見られると考えています。メディアでは個人によるアンバンドル化が続いたあと再びバンドル化に向かうタイミングにあり、SaaSでもバンドル化したソリューションが長期的に勝つという考え方が再び出てきているのではないか、と話します。各業界で両方が同時に起きているからこそ、タイミングを見定めることが重要だというのが宮武さんの考えです。
サンクコストとイノベーションのジレンマ
草野さんは、個々の企業にいると波を見極めるのは難しいと話します。今あるプロダクトありきで考えたくなるサンクコスト的な気持ちはよくわかる、というのが草野さんの実感です。
それ結局会社のためなの?みたいなことを言い出しちゃダメなんですね、企業側が。そしたら個人でやっちゃうし、別の会社に、じゃあ持ってってやりますわってなっちゃいますもんね。
宮武さんは、サンクコストの問題はとても難しいポイントだと受け止めます。すでにプロダクトがある会社がゼロから考え直すのは難しく、自分のポジションを守る方向に進みがちで、それがいわゆるイノベーションのジレンマ ── 優良な既存企業ほど既存事業を守ることを優先し、新しい技術や市場への対応が遅れてしまう現象です。クレイトン・クリステンセンが提唱しましただといいます。
結果として自分のプロダクトを進化させるっていうパターンかもしれないですけど、今この瞬間で理想的なプロダクトを作るとすると、自分のプロダクトをいっさい考えずに作るとしたら何かっていうのを想像するのって結構重要かなとも思うところですね。
まとめ
コンパウンドスタートアップは、データセットを軸に複数のプロダクトを連携させる企業であり、それを支える組織やディストリビューションに特徴があります。その背景には、業界ごとに繰り返されるバンドル化とアンバンドル化の波があり、今がどちらのタイミングかを見極めることが重要だと宮武さんは話しています。
- コンパウンドスタートアップは、顧客・従業員・決済など、軸となるデータセットの選択から始まる
- Ripplingはエンジニア比率の高さ、ミドルウェア専任チーム、元起業家の採用で複数プロダクトを並行開発している
- ByteDanceはSSPと共通アルゴリズム、TikTokでのクロスプロモーションで大量のアプリを検証してきた
- メディアや音楽では個人の交渉力が増し、企業はレーベル会社のように個人を前に出す形が求められている
- 既存企業ほど変化が見えにくいため、ゼロから作るなら何を作るかを想像することが重要になる


