Spotifyの首位はいつまで続くのか?
今回のテーマは「Spotifyがなぜポッドキャストに注力するのか」です。宮武さんは、Spotifyが今、音楽とポッドキャストを合わせた音声領域でトップにいるという前提から話を始めます。
宮武さんがこのテーマを選んだ本当の問題意識は、その首位がどこまで続くのかという点にあります。前半ではSpotifyが音楽だけでなくポッドキャストに入った理由を整理し、後半では誰がSpotifyに取って代わる可能性があるのかを考える構成です。
次の1、2年でリプレースするっていうよりは、2年から5年ぐらいのスパンでリプレースされる可能性が、いわゆるそのトップとして(あると思う)。
草野さんは「久しぶりの音声回」と受け止めます。番組では以前にもClubhouseなどライブ音声の話題を扱っており、今回はその流れの中でSpotifyに焦点を当てた回になります。
音楽配信が儲かりにくいのはなぜ?
宮武さんはまず、音楽配信サービスとして上場したSpotifyには大きな課題があると切り出します。売上は大きく伸びている一方で、利益率が厳しいという課題です。
一般的なテック企業、特にソフトウェア企業は、規模が大きくなるほど固定費や営業・マーケティング費の比率が下がり、利益率が上がります。Spotifyも研究開発費や営業・マーケティング費は売上に対して低く、宮武さんはそれ自体は「すごい良いこと」だと評価しています。
問題は、音楽の著作権ホルダーに支払うロイヤリティです。このコストは売上が増えると一緒に増えるため、規模を拡大しても利益率が上がりにくい構造になっています。
Spotifyは結局、去年だけで7ビリオンぐらい(著作権ホルダーに)払ってるはずなので。結構払ってるんですよね。
支払先はアーティストやレーベルで、場合によってはレーベル以外の著作権保有者にも支払います。草野さんが「クリエイターに支払っているという意味ではいいこと」と応じると、宮武さんも同意しつつ、会社としてはお金儲けがすごい難しいビジネスだと話します。
音楽配信をさらに厳しくしているのが、楽曲の供給に独占がほとんどない点です。ヒット曲はSpotifyでもApple Musicでも聴けるため、サービス間の違いが出にくくなります。
独占できない供給
ヒット曲はほぼどのサービスでも聴ける
違いが出ない
競合も同じ楽曲を持つため「どっちでもいい」状態になる
価格やUIの勝負
差別化の軸が価格や小さなUIの違いに寄る
流通を持つ側が有利
iPhoneを持つAppleが強くなる
宮武さんは、Web2.0の世界では供給側を囲い込むことが重要なのに、Spotifyは音楽ではそれができなかったと整理します。だからこそポッドキャストに向かった、という見立てです。
音楽業界ですと、やっぱり3、4社の大きなレーベル会社が基本的にコンテンツをコントロールしてる中で、ポッドキャストは個人がコントロールしてるじゃないですか。
しかもポッドキャスターはアーティストと比べてマネタイズしづらいと宮武さんは指摘します。音楽とは違い、供給側の力関係が大きく異なる領域だということです。
ポッドキャストは初期のウェブに似ている?
宮武さんは、ポッドキャスト業界が昔のウェブ業界とよく似ていると話します。ポッドキャストの多くは広告で収益化しており、その広告は基本的に「何か買ってください」というアフィリエイト型です。
宮武さんが注目するのは、ポッドキャスト広告で売られている商材の種類です。初期のウェブ広告では、クレジットカードの登録、Netflixのアカウント登録、サブスク型のオンライン講座など、LTV ── Life Time Valueの略で顧客生涯価値のこと。1人の顧客が取引期間全体でもたらす利益の総額を指し、サブスク型の商品は高くなりやすいが高い商材、特にサブスク系が多く売られていました。
あー、Squarespaceとか。
まさに僕もSquarespace言おうと思って。
草野さんが挙げたSquarespaceは、高額なサブスクで、しかも長年使われるサービスです。宮武さんは、ポッドキャスト広告の商材がまさにこうした初期ウェブの広告と似ていると見ています。ただし、そうした商材はそれほど多くないという問題もあります。
宮武さんは2018年のデータを挙げ、注目度と広告予算のずれを示します。
宮武さんは、アテンションが集まっているのに広告予算が追いついていない状態だと表現します。そしてこの現象は、かつてのインターネットとも重なると話します。
参照されたのはマリー・ミーカー ── 著名な投資家・アナリスト。毎年発表していた「インターネット・トレンド・レポート」はテック業界で広く読まれたさんのレポートです。2005〜2007年ごろのレポートでは、テレビやラジオ、インターネットなどの各チャネルについて、人々が費やす時間と広告予算を比較していました。
2005年ごろのインターネットは、費やされる時間に対して広告予算が明らかに少なく、ミーカーさんは今後お金が流れ込むと予測し、それは当たりました。宮武さんは、広告予算が集まるとそれを支える技術も次々に生まれる点を強調します。
インターネットでは、2003年にGoogleがAdSense ── Googleの広告配信サービス。ウェブサイト運営者が自分のサイトに広告枠を設け、表示やクリックに応じて収益を得られるをローンチし、広告が集約されました。1か所で広告を購入でき、1社が多くの場所に届くことでデータが集まり、ターゲティングも良くなります。宮武さんは、このウェブの流れがSpotifyのポッドキャスト戦略に似ていると見ています。
Gimlet・Megaphone・Anchor買収の狙いは何か
Spotifyはポッドキャスト領域に入るために複数の企業を買収しています。宮武さんはまずGimlet ── アメリカのポッドキャスト制作会社。多数の人気番組を抱え、2019年にSpotifyに買収されたの買収から説明します。
宮武さんによれば、Gimlet買収の狙いの1つは、Apple Musicに対して優位を作ることでした。草野さんは「Apple Musicとポッドキャストは別物では」と問いかけますが、宮武さんはApple Podcastは無料なので、Apple MusicはApple Podcastと音楽をセットにしたものとして比較されると説明します。
多分今Gimletの番組見るとほとんど、もしくは全部がSpotifyエクスクルーシブだったりしたはずなので。
Gimlet買収のもう1つの理由は、広告ビジネスモデルを作れることです。ポッドキャストには音楽ロイヤリティのような大きな支払いがないため、広告で事業をスケールさせやすくなります。
ポッドキャストのホスティングサービスであるMegaphoneの買収は、ポッドキャストに広告を入れるインフラを持つためでした。Anchorの買収にも一部同じ理由がありますが、宮武さんはもう1つの狙いを挙げます。
Anchorはポッドキャストを簡単に作れるため、新しいポッドキャスターの多くが使います。Spotifyはそこからデータを得て、有望な番組を独占配信に持っていけるため、Anchor買収は供給側を集めるためのものだと宮武さんは見ています。
草野さんと宮武さんのOff Topicも、最初からAnchorで配信しています。かつてのホスティングはサーバーを借りるなど面倒な手順が必要で、草野さんはAnchorが登場してからポッドキャストが増えた印象があると話します。宮武さんは、新規ポッドキャスターの半分以上がAnchorで作られているという数字を昔見た気がすると、記憶ベースで補足しています。
これらの買収によって、Spotifyは「Spotify Audience Network」という広告ネットワークを作りました。宮武さんが重要だと指摘するのは、このネットワークが番組ではなく聴き手をベースにしている点です。
Spotifyからすると、そのエピソードが10回聞かれてるだろうが、1万回聞かれていても同じじゃないですか、エンドユーザーとしては。
10人しか聴かない番組は、番組単位では広告主に魅力的とは言いにくいかもしれません。しかし「この人はこういう番組を聴いているから、この広告に反応するかもしれない」とユーザー単位で見れば、広告を動的に出すことができます。宮武さんは、これを完全にFacebookの広告モデルだと表現しています。
SpotifyはNetflixと同じ道をたどっている?
Spotifyの独占配信には、ユーザーをアプリに呼び戻す狙いもあります。宮武さんは、ジョー・ローガンさんのポッドキャストの例について、Spotify自身が、そのリスナーはより頻繁にSpotifyに戻り、他のコンテンツも聴くようになったと述べていると紹介します。
その結果として、Spotifyの広告売上は年75%ほど成長し、年間で1ビリオンほどになっているのでは、と宮武さんは話します。数字は宮武さんが記憶をたどりながら挙げたものです。
さらに宮武さんは、Spotifyの音楽からポッドキャストへのコンテンツ戦略が、Netflixの歩みに似ていると指摘します。
| 段階 | Netflix | Spotify |
|---|---|---|
| 出発点 | 誰でも同じ供給を持てるDVDの市場 | 誰でも同じ曲を扱える音楽配信 |
| 認知拡大 | ブロックバスターなどと戦いブランドとユーザー数を伸ばす | 音楽でブランド認知度を高める |
| 独占の獲得 | 配信に移る際に独占契約を取り始める | ポッドキャストで独占契約を進める |
| オリジナル | オリジナル作品を制作 | 最近はオリジナル番組も作り始めている |
共通するのは、まず誰でも手に入る商品で顧客を集め、その後に独占やオリジナルで差をつけていく流れです。
ダニエル・エクはClubhouseをどう見ていたか
ここから話は「誰がSpotifyを覆せるのか」に移ります。対象はアメリカ市場です。宮武さんは、2021年1〜3月ごろにこの質問をしていれば、多くの人がClubhouseと答えただろうと振り返ります。
懐かしい。懐かしい。
当時、SpotifyのCEOであるダニエル・エクさんは、四半期ごとの株主向けアップデートでClubhouseについて質問されました。エクさんの答えは、Clubhouseを1つの体験として見るのは間違いで、コンテンツ制作と聴く側の体験という2つに分けて考えるべきだというものでした。
ライブなので常に良いものがある保証がない。記録が残るSpotifyには勝てない
すぐにカジュアルにでき、圧倒的に楽。クリエイターを失う恐れがある
宮武さんの解釈では、エクさんが一番怖かったのは制作側、つまりクリエイターを失うことでした。草野さんも、1エピソードを作るより楽で、ライブだからこそ意外とすごい人を呼べるといった、ライブならではの作り方があると共感します。
結局リスナーってクリエイターを追っていくので、クリエイターが別の場所に行けばそこに行くだけなんで。
ただし宮武さんは、現在ではClubhouseとSpotifyはそこまで競合しておらず、ClubhouseがSpotifyを追い越すことはおそらくないと見ています。
本当のライバルはYouTubeか?
AppleやAmazonも候補に挙がる中で、宮武さんが「Spotifyを覆す可能性がある」と考えるのはGoogle、具体的にはYouTubeです。草野さんも、YouTubeのポッドキャスト戦略は最近勢いがあると応じます。
宮武さんによれば、YouTubeは昔から、動画の世界でポッドキャストと同じことをやってきました。映画のような申請プロセスがなく、誰でもアップロードできます。制作コストもある程度低く、ホスティングも無料です。
幅広いコンテンツがあることで、YouTubeはユーザーの興味の度合いを把握でき、それが広告やアルゴリズムによる発見にもつながります。そのうえで宮武さんは、YouTubeとSpotifyの決定的な違いはGoogleの存在だと話します。
赤字でも全然Google(は)OKだったっていう。多分最初の10年ぐらい赤字でも全然OKだったので。
草野さんは、本業を別に持つディズニーがストリーミングに全力を出せるのと似ていると例えます。宮武さんも、YouTubeは大きなキャッシュを回す組織の中にいるため、コストをあまり気にせずスケールできたと説明します。
でもSpotifyってそれができないじゃないですか。それだけの会社なので。
つらいですね。
もう1つの強みが広告システムです。宮武さんは、YouTubeは過去3年で30ビリオンをクリエイターに支払っており、クリエイターに最も多く支払っている会社ではないかと話します。そのYouTubeがポッドキャスト領域に目をつけている、というのが宮武さんの見立てです。
課金ユーザー数で見ると何が起きているのか
宮武さんがこのテーマを話したかった一番のきっかけは、音楽配信サービスPandoraについての記事でした。Pandoraは利用者が多い一方で課金ユーザーが少ないという内容で、その中に2018〜2025年のアメリカでの各サービスの課金ユーザー数を示す図がありました。
その図で宮武さんが最も面白いと感じたのは、2023年ごろにYouTube PremiumとYouTube Musicの合計が、2位のApple Musicを超えるという予測です。2025年の予測では、Spotify Premiumが5220万人、YouTube Premiumが4660万人と、ほぼ並ぶ水準になるとされていました。
グローバルの数字では、2021年の音楽サブスクユーザーは全世界で5.2億人です。宮武さんが挙げたシェアの推移は次のとおりです。
| サービス | シェア | 動き |
|---|---|---|
| Spotify | 2021年に31% | 2019年34%、2020年33%から低下 |
| Apple Music | 約15% | 2位 |
| YouTube Music | 8% | 2020年から2021年で50%成長 |
Spotifyのシェアが落ちる一方で、最も伸びているのがYouTube Musicです。ほかにTencent MusicやNetEase Cloud Musicなど、アジア系のサービスも伸びています。
ユーザー数の実数では、Spotifyは2021年時点でMAU4億人、有料のプレミアム会員が1.8億人と圧倒的な1位です。Apple Musicは2019年時点の数字で6000万人、Amazon Musicは2020年1月時点で5500万人でした。宮武さんは、AmazonについてはPrime会員の存在も影響しているのでは、と見ています。
Tencentは無料ユーザーを含めると6億人、課金は7100万人です。アメリカ中心のPandoraは月間ユーザー5260万人に対し、課金は650万人と非常に低い水準です。
AppleMusicも好きなんですけど、そんなにいなかったんだっていう。
そしてYouTubeは、YouTube PremiumとYouTube Musicの登録者数を5000万人と発表しました。草野さんは、2019年時点のApple Musicの6000万人にかなり近づいていると驚きます。
さらに宮武さんが重要だと話すのが、YouTube全体で音楽を聴く人の数です。2020年11月にYouTubeの音楽部門のトップが語ったところでは、YouTubeで音楽を消費するユーザーは20億人にのぼります。無料のミュージックビデオを、多くの人はバックグラウンドで聴いています。
YouTubeは音楽業界にいくら支払っているのか?
宮武さんは、Spotifyがクリエイターに約7ビリオン、7000億円ほどを支払ったという先ほどの数字と比べる形で、YouTubeの支払額を草野さんに尋ねます。
2020年の6月から2021年の6月の間に4ビリオンぐらい(音楽業界に)払っていて。
この4ビリオンには、YouTube Musicのサブスク収入の一部と、ミュージックビデオやUGC動画で使われた楽曲に発生した広告収入の一部が含まれます。草野さんは、自分で好きな動画を作り、それがアーティストにも還元されるのは「めっちゃハッピー」な仕組みだと評価します。
宮武さんは、この仕組みはSpotifyにはできないことだと指摘します。草野さんは、ポッドキャストに曲を入れる機能自体はあるものの、ポッドキャストと音楽を同時に流すようなことができたらいいと話し、宮武さんもSpotifyが後々やりそうだと応じます。
宮武さんは、支払額が広告売上全体のおよそ20%にあたるという数字をもとに、実際の数字かどうかは置いたうえで単純計算をしてみせます。
宮武さんは、この数字からYouTubeの勢いが結構やばいとまとめます。YouTubeが具体的に何をしているのか、YouTube MusicやYouTube Premiumの施策、そしてSpotifyがそれにカウンターできるのかは次回に話す予定だとしています。
2人はふだん何で音楽とポッドキャストを聴いている?
最後は2人の使い方の話です。宮武さんは音楽はApple Musicで聴き、ポッドキャストはSpotifyで聴くこともあるものの、主にYouTubeで聴いていると明かします。
そんな回答が出てくると思わなかった。
宮武さんがYouTubeを選ぶ理由は、ながら聴きができないからです。Spotifyでポッドキャストを聴きながら仕事をしようとしても、聴くのは教育系の学びが多い番組なので、どちらかにしか集中できず、メモも取りたくなってしまいます。
だからこそYouTubeで結構あの動画ポッドキャストを見るケースが多いですね。
しっかり編集された動画ポッドキャストもあり、宮武さんは話している人の表情を見たくなるといいます。「なんでポッドキャストやってるんだ」と自分でつっこみつつ、2人はビデオポッドキャストやリアル収録への関心も話します。Off Topicでのリアル収録はコロナ前以来ほぼやっていないそうです。
草野さんは料金面にも触れます。SpotifyやApple Musicは1000円弱で、YouTube Musicも同じ価格ですが、YouTube Premiumは1180円ほどとやや高めです。宮武さんは、そのぶん動画の広告がなくなる点を挙げ、草野さんはバックグラウンド再生もありがたいと話します。
宮武さんは、YouTubeがカナダ限定で、無料でもバックグラウンド再生をできるようにする試みを始めていると紹介します。ただしYouTube Musicだけの可能性もあるとしたうえで、全体に広げてもおかしくないと見ています。
それは奇跡的な状況ですね。1機能でこんなに変わるとは。
宮武さんは、YouTubeのながら聴き専用アプリが多く存在することを挙げ、この機能の影響の大きさを示します。エンディングでは、Spotifyオリジナルの新番組「Bytes」がSpotifyでしか聴けないと紹介され、宮武さんの「ぜひSpotifyで聴いてください」という一言で締めくくられました。
まとめ
Spotifyがポッドキャストに注力するのは、売上に連動して増える音楽ロイヤリティと、独占できない楽曲供給という音楽配信の構造的な限界を超えるためだと宮武さんは見ています。一方で、Googleの資金力と広告システムを背景にしたYouTubeが、課金ユーザー数でも音楽業界への支払額でもSpotifyに迫りつつあり、首位の行方は2〜5年のスパンで注目すべきテーマとして示されました。
- 音楽配信は売上に比例してロイヤリティが増えるため、規模を拡大しても利益率が上がりにくい
- ポッドキャストは独占コンテンツを持ちやすく、聴き手ベースの広告ネットワークでスケールを狙える
- Gimlet・Megaphone・Anchorの買収は、独占供給・広告インフラ・クリエイター獲得をそれぞれ担っている
- ダニエル・エクさんは、Clubhouseの脅威を聴く側ではなく制作側、つまりクリエイター流出に見ていた
- YouTubeは課金ユーザー数でApple Musicに迫り、試算上の音楽支払額もSpotifyとほぼ並ぶ勢いがある




