事前収録は怖い?公開時期と速報のジレンマ
この回の収録は10月、公開は11月です。草野さんは、先に収録するスタイルに変えてから「公開する頃にはもう11月か」という感覚になると話します。
宮武さんは、事前収録には、その間に大きなニュースが出たら情報が古くなるというリスクがあると指摘します。今回は雑談回なので心配はないとしつつ、イーロン・マスクのTwitter買収のときは、異例の週2回配信をしたことを振り返りました。
(イーロン・マスクのTwitter買収のときは)超レアケースで週2回(配信を)出しましたよね。
8時間のポッドキャストで語られた「素数の迷路」とは?
宮武さんが最初に紹介したのは、ポッドキャスターのレックス・フリードマン ── AI研究者でもあるアメリカのポッドキャスター。科学者や起業家を招き、数時間に及ぶ長尺の対談を配信していることで知られますさんの番組です。ゲストは、Off Topicでも取り上げた『Network State』の著者バラジさんで、収録はなんと8時間に及びました。
(8時間のポッドキャストは)もう週末聞いてても超大変だったんですけど。
バラジさんは、元CoinbaseのCTOで、アンドリーセン・ホロウィッツのパートナーも務めた人物です。自身の会社をCoinbaseに売却した起業家でもあり、科学者・研究者でもあると宮武さんは説明します。
8時間の対談の中で宮武さんが面白かった話の1つが、Prime Number Maze ── 素数(2、3、5、7、11…のように1とその数自身でしか割り切れない数)を手がかりにした迷路の思考実験という概念です。ネズミに迷路を走らせる研究では、トレーニングを重ねれば「偶数番目の角で右に曲がる」ことは覚えさせられるといいます。
ところが、「素数番目の角で曲がる」というトレーニングはできないそうです。宮武さんは、人間でも数を数えながらでないと難しいはずだと話し、草野さんも「わかんないですね」と同意します。
でも面白いのって、この、そのルール自体は超シンプルじゃないですか。
バラジさんはこの迷路を人生にたとえています。人間には見えていないだけで、人生にも超シンプルなパターンやルールが存在しているのではないか、という考え方です。そうしたパターンを見つけて次のステップに進むためにAIなどを活用できるのでは、と彼は常に探しているそうです。
偶数ルール
ネズミは訓練で「偶数の角で右に曲がる」を学べる
素数ルール
ルールは単純でも、ネズミは学べず人間にも難しい
人生への応用
見えないシンプルなパターンが人生にもあるのでは
次のステップ
AIなどを使えばそのパターンを見つけられるかもしれない
本を「GitHub化」したら何が変わる?
同じ対談で出たもう1つのアイデアが、本をGitHubのように更新可能にするというものです。宮武さんの記憶では、言い出したのはレックス・フリードマンさんだったようです。
(本って)いちスナップショットでしかないじゃないですか。その瞬間、その人が書いたものを表してるだけで。
本をアップデートするには新しい本を出すしかありませんが、小さな更新は本来ちょこちょこあるはずです。そこで、本はオンラインで購入し、追加でサブスク料金を払えば更新版を読める、という仕組みが語られました。
プラットフォームは購読料を著者にレベニューシェアする形にすれば成立するかもしれない、と宮武さんは話します。草野さんが「改訂版を細かくできるようにする」ということかと尋ねると、宮武さんは、本の中のグラフが更新されたり、過去のバージョンを見られたりするイメージだと答えました。
本は書いた瞬間のスナップショット。更新には新刊が必要
購入後もサブスクで更新版や過去バージョン、最新のグラフを読める
草野さんは、読者がずっと読み続けるかは疑問だと率直に返します。宮武さんも全部の本ではないとしたうえで、たとえばWeb3の本なら毎回戻って読み返すかもしれないし、更新がないから読み返さないだけかもしれない、と話しました。正解はわからないものの、発想自体が面白いというのが宮武さんの受け止めです。
本と本のつながりを地図にできないか?
本の話を受けて、草野さんは自分のアイデアを語ります。参考図書や「次に読むべき本」の紹介を見るたびに、本同士のつながりを図にした「アイディアツリー」を作ってみたいと思ってきたそうです。
この本に影響されてとか、この本はこの本を参照してとか、この本があったことによってこの新しい本が生まれたとか。
草野さんが見たいのは、どの本が土台かというより全体像です。宮武さんが「1つの本が異常に頼られている」ことも見えそうだと言うと、草野さんは「こことここ、意外とつながってるんだな」という発見もありそうだと続けます。
やっぱりその1つ本読んだら、その周りにある本とかも読みたくなるじゃないですか。だからそれが一発でわかったらいいのになって。
宮武さんは、アメリカなら部分的には誰かがやっていそうだが、すべての本を網羅するのはさすがに無理だろうと話しました。
人は暇な時間に何をしてきたのか?
話題は、宮武さんが最近考えていた「人は暇な時間に何をしてきたか」というテーマに移ります。食べたり寝たりしていない時間、つまり余暇の使い方の歴史です。
宮武さんによれば、1000年前の余暇の中心は宗教でした。ここ100年ほどでマスメディアが登場し、映画や政治活動などが現れ、そこから「趣味」という言葉が出てきたのではないかといいます。
宮武さんは、今は趣味がない人が多いのではと考えています。話を振られた草野さんは、料理、絵を描くこと、音楽を聴くことを挙げつつ、「生きるためにしていること」に近いベーシックなものだと話します。
生活の延長線にあるものが趣味になってるみたいなのって、若干あるなっていうのは思います。
宮武さん自身の趣味はバスケットボールで、最近はプレーより観戦が中心です。宮武さんは、昔は切手集めやコイン集めのような趣味を持つ人がもっと多かったのではないかと話します。
草野さんは、同じ「映画好き」でも、Netflixで手軽に観られる今と、映画館に足を運んでいた時代とでは熱量がまったく違うのではと指摘しました。宮武さんもこれに同意します。
「趣味:インターネット」はなぜ消えたのか?
宮武さんは、熱狂的な趣味が減った理由の一部はインターネットにあるのではと考えています。アメリカでは「Going online(オンラインに行く)」こと自体が趣味だった時期があり、1994年から2005〜2006年ごろまで聞かれた言葉だといいます。
当時のアメリカでは、仕事から帰ってAOL ── アメリカの大手インターネットサービス事業者。1990年代にダイヤルアップ接続とチャットなどのサービスで広く普及しましたなどでオンラインになり、チャットなどを楽しんでいました。宮武さんによれば、趣味だったのはチャットそのものではなく、オンラインに行くことでした。
(2005、6年以降は)オンラインに行くっていう発言をみんなしなくなったんですよ。
なぜかというと、みんな常にオンラインになってたからっていう。
常時オンラインが当たり前になったことで、「オンラインに行く」ことは趣味ではなくなりました。では代わりに何が出てきたのか、というのが宮武さんの次の問いです。
趣味からムーブメントへ。宗教との共通点は?
宮武さんの見立てでは、インターネットが可能にしたのは、ムーブメントやカルトの増加です。昔なら切手集めが趣味だった人が、今は社会主義、トランプ支持のMAGA、ビットコイン、イーロン・マスクといったムーブメントに時間を注いでいるのではないか、といいます。
切手集めやコイン集めなど、個人で楽しむ趣味
社会主義、MAGA、ビットコイン、イーロン・マスクなど、集団で参加するムーブメント
こうした名前を並べると危うく聞こえる一方で、宮武さんは世の中がより面白くなったという見方もあると話します。
(ムーブメントに入ることで、100年前や500年前の人間と比べると)より一般の人たちが、その大きな歴史の出来事により関わってるんじゃないかなと思ってて。
草野さんが環境問題を例に挙げると、宮武さんは、賛成派か反対派かを問わず、以前は少数派しか時間をかけなかったテーマに、インターネットによって多くの人が関われるようになったと説明します。個人の趣味から、グループの行動へと余暇の使い方が移っているという見方です。
草野さんは、グループで何かを信じ支持するという点で、冒頭の宗教の話に近いのではと指摘します。宮武さんも「めちゃくちゃ近い」と同意しました。
だからやっぱ宗教化してしまうと、いわゆる反対意見を受け入れなかったりとかするのは、まあそれ自体はすごい良くないと思うんですけど。
宮武さんは、環境派・反環境派、トランプ派・バイデン派を問わず宗教化の危うさはあるとしたうえで、ムーブメントに人が入っていく現象そのものが起きている、と整理しました。
このテーマを考え始めたきっかけを草野さんが尋ねると、宮武さんは「ふと」自分の趣味は何だろうと考えたことだと答えます。より正確には、自分の趣味が本当に自分の趣味なのか、本当に好きなのか、という疑問から出てきたそうです。
「趣味は何ですか?」はなぜ答えにくい?
草野さんは、「趣味ありますか?」はとても難しい質問だと話します。宮武さんは、自分はとりあえずバスケと言っておけばいいと考えていると返しました。
音楽を挙げればいいのではと宮武さんが言うと、草野さんは「みんな聞くじゃないですか」と答えます。宮武さんは、前職のころに草野さんへ趣味を聞いたら「趣味ないんですよ」と答えていた記憶があると明かし、草野さん本人は覚えていませんでした。
(趣味がないのは)自ら行動する、新しいことに挑戦するのって億劫になるからじゃないですか。
宮武さんは、特殊な答えを出さなければいけないプレッシャーもあるかもしれないと話します。映画と答えると、みんな観るから一般的すぎる、という感覚です。
草野さんは、「趣味は何ですか?」と聞く意図には、共通点を探す場合と相手の情報を知る場合があると整理します。宮武さんは、一般的すぎると面白くないので、あえて不思議なことを言う人もいると付け加えました。
自転車で顔が変わり、不倫が広まる?
宮武さんが年末に向けたテーマを考える中で掘り下げたのが、テクノロジーのサイクルです。新しいテクノロジーは、馬鹿にされ、批判され、最終的に受け入れられる、という流れがあると以前の回でも話していました。
登場
新しいテクノロジーが出てくる
嘲笑・批判
馬鹿にされ、批判される
受容
最終的に受け入れられる
宮武さんは、このサイクルがどこまで本当なのかを探り始めました。テクノロジーが馬鹿にされた歴史を、過去の新聞記事で集めた専用サイトもあるそうです。
宮武さんはまず、今「子どもにとって危ない」と言われるSNSの前にも、同じことがテレビ、ラジオ、本について言われていたと指摘します。
なかでも面白い例が自転車です。自転車に乗ると風が顔に当たって顔の形が変わり、不細工になる、という新聞記事が実際に出ていたといいます。同様の主張は車や飛行機でもあったそうです。
さらに自転車は行動範囲を広げるため、不倫が広まるのではないかとも書かれました。男女ともに対象にした記事があったそうで、草野さんは自転車で必死に不倫相手の家へ向かう姿を想像して笑います。
本も電球も写真も批判されていた?
電車でスマホを見るのはよくないという話も、昔は本について同じことが言われていたと宮武さんは話します。本を読むこと自体がよくないとされた時期もありました。
宮武さんが挙げたのは1901年ごろの新聞記事です。ジョンズ・ホプキンス大学 ── アメリカ・メリーランド州の私立研究大学。医学・公衆衛生分野で世界トップクラスの評価を受けていますのプレジデントが、本を読むと変な発想が生まれるから社会的によくない、と語っていたそうです。
電球も批判の対象でした。明るすぎるため、家の中で白い服を着るのはよくない、本の白いページもよくない、と言われていたといいます。
写真については、当時初めて撮られたら驚くだろうと草野さんも共感します。宮武さんによれば、写真によって見た目で判断する社会になるのではと批判され、マーク・トウェインも、窓の外を見る時間を奪うとして写真に否定的だったそうです。
1862年には、女性が見た目をよく見せようと写真を撮ることが社会を悪くするのでは、という批判もありました。宮武さんは、インスタグラムの自撮りやフィルター、インスタ映えに向けられた「ナルシストが増える」という批判と同じだと指摘します。
ラジオが「悪魔の機械」と呼ばれた時代
ラジオの例はさらに極端です。ある先生がラジオを抱えて村を訪れ、夜にラジオをつけていたところ、村人たちは一人しかいないのに誰かと話す変な音がすると思い込みました。
村人たちはその先生を魔女とみなして殺してしまった、という出来事が新聞に載っていたと宮武さんは紹介します。ラジオは「悪魔の機械」とも呼ばれていたそうです。
過去こういうことがずっと繰り返しあったんだって、もう一回わかれば、「あ、なんか今回もまたそういう風に言われてるんだ」っていう。
草野さんは、ディストピアのように言われていても結局は違ったりするので、もう少し客観的に見られるということかと受け止めました。宮武さんは調べ始めた理由について、未来を見るためには過去も見ないといけないと考えたからだと話しています。
SNSは原因なのか、ただの器なのか?
宮武さんが最後に投げかけたのは、若者のメンタルヘルスの課題などが「SNSのせい」と言われることへの問いです。SNSが本当に原因なのか、それとも中身を運ぶメディウム、ただの箱にすぎないのか、という視点です。
よい方向の例として宮武さんが挙げたのが、LGBTQコミュニティの広がりです。SNSがあったから拡大したと言う人もいるだろうが、SNSがなくても、ペースは違ったかもしれないが拡大していたのでは、と宮武さんは考えます。
でもそうするとSNSがその拡大した原因だっていうのは言えなくて、いちエンジンでしかなくて。
宮武さんは、拡大の背景にはカルチャー的な要素や受け入れられる土壌があったはずだと話します。この違いを理解すれば、SNSが悪いことを起こしているのか、もともと起きていたことをSNSが加速させたり可視化したりしているのかを分けて考えられるといいます。
SNSがメンタルヘルスの課題やコミュニティ拡大を生み出した
もともとあった流れを、SNSが加速・可視化しているだけ
悪い方向の例として、宮武さんはグループが集まって暴動を起こすことを挙げ、過去にもバリバリあったと話します。ナチスもラジオを活用して思想を広げており、それはSNSと変わらないといいます。
そのテクノロジーが実際の原因なのか、そこの広げ方のただのフォーマットでしかないのか。
宮武さんは「原因だったかもしれない」と断定は避けつつ、過去にも似たことが繰り返されてきた以上、テクノロジーは当時の広げ方のフォーマットにすぎないのでは、と見ています。そう考えるとテクノロジーの見え方が変わってきたと語り、これは自分だけでなく多くの人が言っている話だと付け加えて、回を締めくくりました。
まとめ
バラジさんの素数迷路や本のGitHub化という発想から始まり、余暇の歴史、趣味からムーブメントへの変化、そしてテクノロジー批判の繰り返しへと話が広がった雑談回です。過去を振り返ることで、今のSNS批判も少し落ち着いて見られるかもしれない、という視点が示されました。
- 人生にも、素数の迷路のように見えにくいシンプルなパターンがあるのでは、という考え方が紹介された
- 余暇の中心は宗教から趣味へ、そしてインターネット以降は集団で参加するムーブメントへ移っていると宮武さんは見ている
- 自転車、本、電球、写真、ラジオなど、新しいテクノロジーは繰り返し批判されてきた
- SNSが問題の原因なのか、もともとある流れを広げるフォーマットなのかを区別することが大事だと語られた





