テック番組がハリウッドを語る理由
テック番組のOff Topicは、音楽やエンタメの話題をたびたび取り上げています。以前にも、宮武さんがDJ役で曲を紹介しながら、音楽とテクノロジーの影響関係を話した回がありました。
宮武さんによると、テック番組がエンタメを語る理由ははっきりしています。シリコンバレーは、実はエンタメ企業に大きな恩があるからです。
なんでテック番組がこれだけエンタメカルチャーについて話してるんだろうって思うかもしれないんですけど、実はシリコンバレーってすごいエンタメ企業に恩があって。
宮武さんが挙げるハリウッドとシリコンバレーの最初の共通点は、どちらもカリフォルニアで始まったことです。ハリウッドのあるLAとサンフランシスコは、車で5時間ほど、飛行機で1時間ほどの距離だといいます。
もう1つの共通点は、どちらも起業家精神が強いことです。サンフランシスコのカフェでは起業家が自分のアイデアを持ち寄り、LAのカフェではパソコンを開いて脚本を書く人がいると、宮武さんは話します。
みんなアイデアを持ってるんですよね。LAでも。
草野さんは、サンフランシスコでピッチの場面までは見たことがないとしつつ、カフェでパソコンを叩いたりミーティングしたりする人はよく見かけると応じています。
映画産業はなぜハリウッドで生まれた?
宮武さんは、そもそも映画産業がなぜハリウッドで生まれたのかを草野さんに問いかけます。草野さんの答えは「撮影の場所が広いから」というものでした。
宮武さんによると、撮影地としての利点は確かに大きく、理由は2つあります。1つは雨が少ない天気、もう1つはビーチや海、砂漠、森、山など、さまざまな背景を1か所で撮れることです。
ただし宮武さんは、ハリウッド誕生にはビジネスとテクノロジーに関わる別の理由があったと続けます。ハリウッドの人たちは、東海岸から逃げてきた人たちだったというのです。
逃げた相手は、発明家のエジソン ── トーマス・エジソン。電球や蓄音機などで知られるアメリカの発明家・実業家。映画の初期技術にも関わりましたです。宮武さんの説明では、エジソンの従業員が初期のカメラのような装置であるキネトスコープを作り、エジソンが特許を申請しました。
エジソンは一時期アメリカで1000以上の特許を持ち、その特許で映画の生産もディストリビューションもコントロールしようとしていたといいます。映画業界にいたければ、エジソンの配下にいるしかなかったわけです。
(エジソンから)逃げるためにカリフォルニアにみんな行ったんですよ。
当時は州をまたぐのに大きなコストがかかったため、法的にグレーゾーンでも追跡されにくいと考えられていた、と宮武さんは話します。
特許による支配
エジソンが特許で映画の生産と流通をコントロールする
東海岸からの脱出
既存のインフラを嫌った映画人がカリフォルニアへ移る
撮影地の利点
雨が少なく、海・砂漠・森・山など多様な背景が撮れる
ハリウッドの誕生
新しいものを作りたい人たちの拠点になる
草野さんはこの話を聞いて「起業家ですね、本当に」と反応しています。宮武さんも、ハリウッドは既存のインフラを拒絶して新しいものを作りたい人たちが始めた場所で、シリコンバレーとよく似た精神を持っていたと応じます。
「バカな甥っ子現象」と、ハリウッドが育てたシリコンバレー
現在のシリコンバレーとハリウッドは、ストリーミングなどの分野でぶつかり合っています。宮武さんは、音楽業界で最も影響力のある人物はカニエ・ウェストやビリー・アイリッシュより、AppleやGoogleのCEOかもしれないと話します。
草野さんも「プラットフォーマー」とまとめ、映画ならAmazonやNetflixが強いと続けています。
宮武さんによると、テック業界はかつてハリウッドを馬鹿にしていた時期がありました。そのときによく語られたのが「バカな甥っ子現象」です。
後継ぎを考えた時に、最も適切な人を採用するのか、それともバカな甥っ子にそれを渡すのかっていうと、バカな甥っ子に渡す方が多いと。
英語では「stupid nephew phenomenon」と呼ばれ、宮武さんの言葉は直訳だそうです。宮武さんは、映画スタジオやレーベルの後継者選びがこうだったことを個人的に「もったいない」と感じています。
もったいないと感じる理由は、シリコンバレーの立ち上げを大きく支えたのがハリウッドだったからです。宮武さんは具体例を3つ挙げています。
1つ目はHP ── ヒューレット・パッカード。ビル・ヒューレットとデビッド・パッカードが創業したアメリカのIT企業で、シリコンバレー発祥の企業の代表格とされますです。HPの最初の契約はディズニーで、1939年ごろの映画『ファンタジア』用の特殊な映画館に置くスピーカーのためでした。
当時フリーランスだった2人は、この仕事をきっかけに会社化しました。社名をどちらの名前から始めるかはコイントスで決めたそうで、草野さんは「PHになってた可能性も」と驚いています。
2つ目はデータストレージの会社Ampexです。最初に資金を出したのは歌手のビング・クロスビー ── アメリカの歌手・俳優。1930〜40年代を中心にラジオや映画で絶大な人気を誇りましたで、自分のラジオ番組で録音を流すための磁気テープを求めていたといいます。
3つ目はトランジスターです。シリコンバレー初期の技術であるトランジスターの最初の用途は、トランジスターラジオでした。
なんで(トランジスターの最初の用途は)音楽なんですよ。
| テック企業・技術 | エンタメ側 | 関わり |
|---|---|---|
| HP | ディズニー | 『ファンタジア』用スピーカーが最初の契約 |
| Ampex | ビング・クロスビー | ラジオ用磁気テープのために出資 |
| トランジスター | 音楽 | 最初の用途がトランジスターラジオ |
AppleはiPodに救われた?
Appleと音楽の関係も深いと宮武さんは話します。スティーブ・ジョブズが一度Appleを離れて業績が落ち、復帰後に会社を立て直す大きなきっかけになったのがiPodでした。
宮武さんによると、2006年のAppleの売上の4割がiPodでした。さらにiPodがなければ、iPhoneの開発資金もなかったかもしれないといいます。
草野さんは、iPodの「カチカチカチ」と回すクリックホイールを懐かしみます。ピンボールやブロック崩しのミニゲームもあり、今思えば変なUIだったと笑っています。
なんであんなとこでピンボールゲームとかブロック崩しとかしてたんだろうっていう。
草野さんはカラフルな細長いiPodを持っていたそうです。宮武さんは、兄が初期の白いiPodを持っていたので違う色が欲しく、U2とのコラボモデルを持っていました。本体が黒、クリックホイールが赤だったと振り返っています。
音楽業界が生んだ最後のイノベーションは何か
宮武さんは、テック業界ではなく音楽業界自身が生んだ最後のイノベーションは何かと問いかけます。思い当たるのはソニーのウォークマンとCDで、それ以来あまりないのではないかといいます。
最も売れた音楽フォーマットのLPも、70年前に作られたものです。音楽配信のような新しい聴き方は、テック業界が作りました。
草野さんは「それを作ったらテック企業と呼ばれるのでは」と疑問を返します。宮武さんの答えは、CDなどを作ってきた音楽業界はもともとテックなことをしていて、それがどこかで止まってしまった、というものです。
(音楽業界は)イノベーティブなことをずっとやって、やり続けてたはずなんですけど。
宮武さんは変化の兆しとして、ワーナーミュージックが元YouTubeのCBOを新CEOに迎えたことに触れます。その人物はNetflixにも7年ほどいた人だそうです。
一方で歴史を見ると、音楽業界はCDやカセットなどのイノベーションを嫌ってきました。理由はコピーです。カセットはコピーしても音質がそれほど良くないのに対し、CDはデータの完全なコピーになります。
さらに昔、ミュージシャンは楽譜の登場も嫌がったといいます。楽譜がない時代、曲を聴くにはそのミュージシャンを家に呼ぶしかなかったからです。
いや、どうするんだって、ミュージシャンがなって。もう呼ばれなくなっちゃうみたいな。
| 技術 | 警戒した理由 | その後 |
|---|---|---|
| 楽譜 | 誰でも同じ曲を弾けてしまう | 曲が広まり、ライブの価値は下がらなかった |
| カセット | コピーされる | コピーの音質はそれほど良くなかった |
| CD | データを完全にコピーできる | 音楽業界が生んだイノベーションの1つになった |
ただ、楽譜の結末はいい方向に進んだと宮武さんは話します。草野さんは「いい意味で拡散される」「誰が作ったかが紐付いていればいい」と応じます。ライブの頻度は減ったかもしれませんが、オリジナルを聴きたい、作った人をもっと知りたいという価値は残りました。
ピクサーとPhotoshopを生んだルーカスフィルム
宮武さんによると、エンタメ業界が技術のイノベーションを作らなくなったのは音楽だけではありません。CGでも、かつての最先端はピクサーやルーカスフィルムでしたが、今はEpic GamesやUnityが担っています。
スター・ウォーズを作ったジョージ・ルーカスのルーカスフィルムの配下には、ILM ── Industrial Light & Magic。スター・ウォーズの特殊効果のために設立された視覚効果スタジオですもピクサーもありました。ILMは今、マーベルなどハリウッド映画のエフェクトを手がけています。
ルーカスはピクサーを売却し、スティーブ・ジョブズが買い取ります。宮武さんによると、ピクサーがスピンアウトしたとき、35人のVCが投資を見送っていました。
それ、あの、トイストーリーとか出てない時ですよね。
宮武さんは「全く出てない時」と答え、草野さんも見送る気持ちはわかると話します。当時のピクサーはハードウェアも売っていて、ジョブズはキャッシュを作るためにその事業を売却し、アニメーション関連のソフトウェアが残りました。トイ・ストーリーの前には、マイクロソフトへの売却も検討していたといいます。
結局ピクサーはディズニーに売却され、ジョブズはディズニー株の7%ほどを得ました。宮武さんは、この買収が数年後のディズニーによるルーカスフィルム買収にもつながったと話します。ルーカスはディズニーがピクサーをどう扱うかを見ていて、扱いが良かったので売却を決めたそうです。
宮武さんはもう1つの例としてAdobeのPhotoshopを挙げます。ILMにいたジョン・ノールさんと兄弟が夏のプロジェクトとして作り、Adobeに売却したといいます。
すごい。それがこんなにも全世界で使われる。
ただ最近は、Unity、Epic、Apple、Snapchatなどがこの領域を攻めています。宮武さんによると、Unityは『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソン監督が関わるWeta Digitalを買収しました。Netflixも『ストレンジャー・シングス4』のエフェクトを手がけたScanline VFXを買収しています。
草野さんの「ハリウッド大丈夫ですか」という問いに、宮武さんはハリウッドがかなり危ないのではという話があると答えています。
新曲は意外と聴かれていない?
宮武さんは、音楽業界にイノベーションが少ない理由を、今のエコノミクスでは古い曲を使ったほうが儲かるからだと説明します。
宮武さんが挙げるデータでは、音楽の消費全体の72%が古い曲です。ここでの古い曲とは、18か月以上前の曲を指します。
さらに、18か月以内に出た新曲のトップ200がストリーミング全体に占める割合は約5%でした。3年前は10%だったので、明らかに落ちていると宮武さんは話します。
2022年上半期にアメリカで最も売れたアルバムのトップ10を見ても、半分が2021年に出たアルバムだといいます。
結果として、その音楽業界としては、その新しいヒットを作るのがどんどん難しくなっていて。
草野さんは、1年半前の曲が「古い」なら、そういう曲を聴くのは体感としても納得だと話しています。
映画の主役はなぜ年を取っていくのか
宮武さんは、文化はもともと新しいものに興味を向けて進化すると思っていたと話します。しかし歴史を見ると、古いものが文化を占める時期もあり、例えばルネサンスは古代ローマや古代ギリシャを真似るところから始まりました。
今の映画業界で目立つのは続編の多さです。宮武さんは、主役を演じる俳優の年齢を追った調査で、主役の年齢がとても上がっていると紹介します。
例として挙がったのが、2022年にアメリカの興行収入でトップになりそうなトップガンの続編です。主演のトム・クルーズは60歳で、ハリソン・フォードも80歳でインディ・ジョーンズの映画を作っています。
そろそろいいんじゃないかって思うんですけど。
宮武さんによると、20世紀の映画の主役の平均年齢は30代半ばから後半で、アメリカの平均年齢と近い数字でした。ところが過去10〜15年で上がり、今は40代半ばで50歳に向かっています。
20世紀は30代半ばから後半で、アメリカの平均年齢に近かった
今は40代半ばで、50歳に向かっている
草野さんはこれを、日本のお笑い界で上の世代が詰まっている現象と重ねます。今の50代は昔より若く、若手と同じくらい活躍しているという見方です。宮武さんも、60歳でアクションができるトム・クルーズを例に挙げ、文化への影響は必ずあると話しています。
古い曲の権利に投資する人たち
音楽業界では、古い曲の権利を買う投資家が多くいます。宮武さんによると、2021年には5000億円以上が古い曲の権利の買い取りに使われました。
例として、ボブ・ディランさんはカタログをユニバーサルミュージックに400ミリオン(約400〜500億円)で、ポール・サイモンさんはソニーに250ミリオンで売ったといいます。
草野さんは、フレディ・マーキュリーやエルヴィスなど、昔の歌手の映画が増えているのは権利を持つ人たちの狙いかもしれないと話します。草野さん自身は「推測でしかない」としていて、宮武さんも権利を持つ人たちの目的は気になると応じています。
宮武さんが懸念するのは、過去への投資を続けることの将来の影響です。今は良くても5年、10年後には厳しくなると考えています。
いわゆる新しい曲に投資しないってことなんで、投資してるかもしれないですけど、投資額が低いっていうところなんで。
すでにファンド側でも、古い曲が思ったほど売れないケースがあるそうです。宮武さんは、過去の回で話したアルゴリズム文化を考えると、新しい音楽はとても出にくいのではないかと話します。
新しい音楽はどこで生まれるのか
新しい音楽への投資を考えるには、まず音楽のイノベーションがどこから来るのかを知る必要があります。宮武さんは20世紀の例として、ビートルズ、エルヴィス・プレスリー、ヒップホップのNWA、ジャズを挙げます。
宮武さんが面白いと話すのは、これらがどれも大都市から生まれていないことです。
| 音楽 | 生まれた場所 | 場所の特徴 |
|---|---|---|
| ビートルズ | リバプール(ロンドンではない) | 港町で、貧富の差があった |
| エルヴィス・プレスリー | ミシシッピ | 州単位でとても貧しかった |
| NWA | コンプトン(ブルックリンではない) | 貧しく、ハブシティと呼ばれた |
| ジャズ | ニューオーリンズ(ニューヨークではない) | 港町で、世界中の人が集まった |
宮武さんが納得したジャズの仮説は、ニューオーリンズが港だったことです。草野さんは「港の人が作業中にラジオを聴くからかな」と予想しましたが、宮武さんの答えは多様性でした。スペイン、フランス、カリブ海、アフリカから人が集まる中でジャズが生まれたのではないか、という仮説です。
宮武さんは、音楽のイノベーションの条件として、いろいろな文化が集まる場所であることと、貧しい場所であることの2つを挙げます。どちらか、または両方が当てはまるという仮説です。
ほかの例も挙がりました。最初のラブソングが生まれたとされるエジプトの村は、ピラミッド建設のために各国からアーティストが呼ばれ、当時最も多様性が高かったといいます。歌詞という概念が生まれたとされる古代ギリシャのレスボス島はヨーロッパへの玄関口で、オペラが生まれたベネツィアも港です。
宮武さんは、貧しさが大事なのは、ステータスを持つ人たちへの「カウンター」のステータスを作るからだと説明します。ポップ業界のトップにいる人には、ゼロからジャズを作る意味がありません。
でもそこにいない人たちからすると、ポップ業界に入るよりもゼロからジャズを作った方がそっちのトップになれますし。
別の山を作る。
宮武さんは、最初のハリウッドの話もインサイダーから逃げて自ら始めた例だと結びつけます。音楽業界でイノベーションを生むには、カルチャーが集まる場をいかに作れるかが重要なポイントになると話しています。
ヒット曲はなぜ同じコード進行なのか
宮武さんによると、モノカルチャーは曲の作り方にも表れています。特に1980年以降のアメリカのポップソングはパターン化していて、よく似ているそうです。
最も有名なのが「1-5-6-4」のコード進行 ── 和音(コード)を並べる順番のこと。数字は音階の何番目の音を土台にした和音かを表しますです。2009年にはアメリカのコメディーグループが、ビートルズ、エド・シーラン、エルトン・ジョン、アデル、ジャーニーなどの有名曲が同じコード進行だと示す動画を出したといいます。
宮武さんが例に挙げたのは、ビートルズの『Let It Be』のピアノのイントロです。Cメジャーでは「C、G、Aマイナー、F」となり、このサイクルがとても落ち着きが良いそうです。1950年代には派生した別のバージョンもあったといいます。
日本にも、アニメソングなどでよく使われる「4-5-3-6」の進行があります。宮武さんは、いきものがかりの『ホタルノヒカリ』、モーニング娘。の『LOVEマシーン』、ELTの『Fragile』を例に挙げ、スーパーマリオ64やゼルダ、ファイナルファンタジーの一部の曲も当てはまると話します。
J-POPとか日本人に刺さりやすいコードなんですかね。
宮武さんは、コードの「1」には家に戻ったようなホーム感があると説明します。そこにテンションを作るかどうかの組み合わせが、たまたまアニメソングによく合っているのかもしれないといいます。
みんなで歌うと一体感が生まれる科学
宮武さんは音楽の科学の話として、歌うと体内でオキシトシン ── 脳の下垂体から分泌されるホルモン。信頼感や人とのつながりに関わるとされ、「絆ホルモン」と呼ばれることもありますが作られることを紹介します。オキシトシンは信頼や人と人とのつながりに関わるため、みんなで歌うと一体感が出るといいます。
その例が国歌、スポーツチームの歌、そして会社の歌です。IBMは1927年に社歌集『Songs of IBM』を出していて、宮武さんが見たバージョンは54ページほどあったそうです。
何歌ってるんですか?
宮武さんも中身ははっきり答えられず、2人で「いいソフト作ってます」「頑張ろうね」のようなものかと想像しています。モチベーションを保つためのものだったのだろうと宮武さんは話します。
オキシトシンは作られるまでに時間がかかります。宮武さんは、アーティストは科学的に見ていなくても感覚的に理解していて、コンサートで伴奏を長くしたり、最後のサビを繰り返したりするのではないかと考えています。
宮武さんが収録前に見たコールドプレイのライブ映像では、曲がSpotifyの音源より2〜3分長く、遅いピアノバージョンから入ったり、観客だけが歌う部分があったりしたそうです。草野さんは、DJミュージックで盛り上がりが爆発する瞬間の気持ちよさを重ねています。
宮武さんによると、全員で10分ほど歌い続けるとより高まるそうです。ジェイ・Zとカニエ・ウェストの有名なコンサートでは同じ曲を12回連続で歌い、2017年にはトラヴィス・スコットが14回連続で歌って「更新」しました。
多分そこまで戦略的じゃないと思うんですけど。でも感覚的に多分理解してると思うんですよ。
30年後にトップガン5は見たいか
宮武さんは、過去に投資する話はこれまでのモノカルチャーの回ともつながっていると振り返ります。課題は、新しい音楽や新しいアーティストにどう投資していくかです。
草野さんに「どうしたらいいのか」と聞かれた宮武さんは、過去の音楽で稼ぐエコノミクスを諦めるしかないと答えます。今や次の5年、10年は良くても、30年後に新しい音楽が前に出てこられない状況を作るのが一番良くないという考えです。
草野さんは、マーベルやスター・ウォーズのような続くストーリーが好きな宮武さんにしては意外だと突っ込みます。宮武さんは、続編はがっかりすることが多く、いいタイミングで切り上げるべきだと話します。マトリックスの新作も、個人的には必要なかったのではと感じたそうです。
宮武さんは、続編も売上があれば成功ではあると認めます。そのうえで、新しい人材や才能、フォーマットを作るための活動をもっと増やすべきだと、調べる中で感じたと話しています。
注目のアーティストを聞かれた2人は、ビリー・アイリッシュ以降、たくさん出てはいるものの同じレベルの人は少ないと話します。宮武さん自身も、つい古い音楽を聴いてしまうそうです。
草野さんは映画の例として、女優出身の監督が手がけた『ブックスマート』や、ハリー・スタイルズが出演する『ドント・ウォーリー・ダーリン』を挙げ、新しいジャンルとして見てみたいと話します。
草野さんは音楽のカテゴリーの境界にも触れます。ニッキー・ミナージュがグラミー賞でラップ部門に入らず怒った件や、言語が違うだけで海外音楽や海外映画として扱われることを挙げ、境界線の難しさを指摘しています。
でもなんか次のエルヴィスとか次のNWAとか、次のビートルズってどこで生まれるんだろうなっていうのは考えたい。
答えがわかっていたらそこにいる、と宮武さんは笑います。ミュージシャンとしてではなく、才能を発掘しに行きたいそうです。
まとめ
映画産業はエジソンの特許支配から逃れた人たちが作り、HPやAmpex、トランジスターなど、シリコンバレーの初期もエンタメと音楽に支えられていました。しかし今の音楽業界は古い曲で稼ぐ構造に傾いていて、宮武さんは新しい音楽が生まれる場への投資を課題に挙げています。
- ハリウッドはエジソンの特許支配を逃れた起業家たちが始めた場所で、シリコンバレーと精神が似ている
- HPの最初の契約はディズニーで、シリコンバレーの立ち上げはエンタメ業界に支えられた
- 音楽消費の72%が18か月以上前の曲で、新曲がヒットしにくくなっている
- 新しい音楽は、多様な文化が集まる場所や貧しい場所で「別の山」として生まれてきた
- 過去の音楽で稼ぎ続けると、30年後に新しい音楽が前に出てこられなくなるおそれがある


