後編のテーマは「どう作るか」。キーワードは相互運用性と分散型
Off Topicのオープンメタバース特集は、前編で「なぜオープンメタバースが重要なのか」と「作るうえでの大きな壁」を扱いました。壁としてはAppleのような巨大プラットフォームの存在が挙げられていました。
後編となる今回は、オープンメタバースを実際にどうやって作れるのかを、草野さんが宮武さんに聞いていく形で進みます。
宮武さんがまず挙げたキーワードは、相互運用性(interoperability)、クロスプラットフォーム、そして分散型(decentralized)の3つです。
分散型の話をするとブロックチェーンに踏み込むことになりますが、宮武さんは細部に入ると複雑になりすぎるため、ブロックチェーンはさらっと触れる程度にして、コアな仕組みの話をしたいと前置きしています。
今回の話題は、オープンメタバースに必要なコアのインフラ、デジタルとフィジカルの世界の橋渡し、取り組んでいる会社、残っている課題、そして宮武さんが個人的に面白いと感じたクリエイターの取り組みです。
オープンメタバースを作ろうとしているプレイヤーとして、宮武さんはEpic Games ── 『フォートナイト』やゲームエンジン「Unreal Engine」を手がけるアメリカのゲーム会社。CEOのティム・スウィーニーはオープンなメタバースの必要性を繰り返し発信していますのティム・スウィーニーさんのほか、Outlier VenturesやCrucibleを挙げます。
宮武さんは最近、Crucibleの社長であるライアン・ギルさんと話す機会があり、今回の内容の多くはCrucibleやEpic、Outlier Venturesなどが考えていることがもとになっているといいます。
草野さんの質問に答える形で、Outlier VenturesはVC的な役割も担い、オープンメタバース関連の会社に投資や支援をしている組織だと説明されます。同社はオープンメタバースのOSについてのホワイトペーパーも書いており、今回の話でもかなり参考にされています。
デジタルの世界では、なぜ服を着たまま移動できないのか
宮武さんはまず、オープンメタバースとは何かを振り返ります。今のデジタルの世界は、世界ごとに壁があり、ほかの世界へ移りにくい状態です。
オープンメタバースは、その壁を越えて、自分のアイデンティティや持っているアセットを、いろいろな場所へ一緒に持っていける状態を指します。
宮武さんは、フィジカルの世界ならこれは当たり前にできていると説明します。家で着ていた服のまま、ディズニーランドへ出かけられます。
別にディズニーランドに入って着替えないといけないとか、そういうのはないじゃないですか。
着替えたくはなりますけど。
草野さんのツッコミを受けて、宮武さんは話を広げます。仮にディズニーランドで着替えたとしても、着替えた服を置いて帰らなくてはいけない、ということはありません。
フィジカルの世界では自分のものは自分のものとして持ち続けられ、そのうえでいろいろな場所に入っていけます。デジタルの世界ではそれができないため、フィジカルに近い状態にするには、いくつものインフラが必要になるというのが宮武さんの説明です。
自分の服を着たまま別の場所へ行ける。行った先で手に入れたものも持ち帰れる
世界ごとに壁があり、アイデンティティやアセットを別の世界へ持っていきにくい
必要なインフラは4つ。アバターよりも先に考えるべきこと
宮武さんは、オープンメタバースに必要なインフラはおそらく4つだと整理します。
1つ目のアイデンティティについて、宮武さんは自身の考えの変化を語ります。2年ほど前からメタバースについて考えていた当時は、アバターこそが重要だと思っていたそうです。
そのころの宮武さんは、GenieやSnapchatのBitmoji ── Snapchatが提供する、自分に似せたキャラクターを作れるアバター機能。チャットのスタンプやマップ上の表示などに使われますのようなアバター事業が、メタバースで重要なポジションを持つと考えていました。アバターをいろいろなプラットフォームで使える状態が、メタバースらしいと見ていたからです。
ところが、Z世代の動きを見たり、未公開回で草野さんとSNSについて話したりするなかで、宮武さんは考えを改めます。その回では、Bitmojiの見た目や表情が日本っぽくなく、日本人はあまり使わないという話が出ていました。
宮武さんの1つ目の気づきは、人によってはアバターそのものを使いたくない、ということです。2つ目の気づきは、SNSでもプラットフォームごとに違うパーソナリティやプロフィールを出している人が多い、ということでした。
(違うパーソナリティを使い分けるのは)リアルな世界でもそういうのあるじゃないですか。いわゆる仕事とパーソナルで性格変わる人もいれば。
友達によって対応が変わることもあると考えると、宮武さんは、アバターはプロフィールと同じ概念として捉えたほうがよいのではないかと考えるようになりました。草野さんが「分人」という言葉で応じると、宮武さんは「まさに」と同意しています。
アバターの裏に置く「アイデンティティのレイヤー」とは?
アバターをプロフィールと同じものと捉えるなら、その裏にはもう1つ、ベースになるレイヤーが必要になると宮武さんは話します。
SNSの場合、そのベースはメールアドレスや電話番号です。1つの電話番号でTwitterやFacebook、フォートナイトなど複数のアカウントを持てるように、メタバースにも1つのアイデンティティのレイヤーが必要になる、という考え方です。
この仕組みを提供している例が、冒頭で触れたCrucibleです。CrucibleはUnreal Engine ── Epic Gamesが開発するゲームエンジン。ゲームだけでなく映像制作やバーチャル空間の構築にも広く使われていますやUnityなどと提携し、各プラットフォームにSDKを提供して、クロスプラットフォームでアイデンティティを管理できるサービスを作っています。
草野さんが具体的な仕組みを尋ねると、宮武さんは、Epic Gamesがフォートナイトに組み込んだ場合を例に説明します。フォートナイトの画面上にオーバーレイでメニューが出て、フォートナイト以外のアバターも表示されるそうです。
場合によっては全部うまく連携できれば、アバターを選んで次の違う世界に行けたりとか。
CrucibleはGenieのようなアバター企業や、Unreal EngineのMetaHuman ── Epic Gamesが提供する、写実的なデジタルヒューマンを手軽に作れるツール。Unreal Engineと組み合わせて使われますとも連携しており、自分でアバターを作ることもできるようにしているといいます。
宮武さんによれば、Crucibleは「1つのアイデンティティに複数のアバターが紐付く世界」をきちんと考えている会社です。草野さんは「難しそう」と感想を述べ、前編でも話したように多くの企業の連携が重要になると指摘しました。宮武さんも、連携できる前提での話だと認めています。
ゲームが終わってもスキンは残るべきか。デジタルアセットの所有権
アイデンティティの2つ目の要素は、アイデンティティに紐付くデジタルアセットです。宮武さんは以前のNFT回の話を振り返り、今はフォートナイトのアセットをRobloxへ動かせないが、NFTによってそれが可能になる、という話をしたと述べます。
ただし宮武さんは、アセットを動かせるようになっても、もう1つ課題が残ると指摘します。
例えばアセットを動かせたとしても、フォートナイトが例えば明日シャットダウンした場合に、アセットって全部消えるんですよね。
スキンをほかで使えるようになっても、フォートナイトがアセットの親元であれば、フォートナイトがなくなった時点で消えてしまいます。草野さんも「そのゲームの中でしか使えないですもんね」と納得しています。
宮武さんはここでもフィジカルの世界と比べます。ナイキが明日倒産しても、すでに買ったナイキの靴が消えるわけではありません。
魔法の魔法の靴ですね。ある意味面白いかもしれない。
冗談めかした草野さんに対して、宮武さんは「まあまあびっくりしますよね」と返し、自分で買ったものは自分のものになるのが本来の考え方だと強調します。
宮武さんの主張は、デジタル世界がなくなってもアセットは手元に残る状態を、メタバースでは実現しなければならない、というものです。
アセットの親元はゲーム。ゲームが終了すると購入したスキンも消える
デジタル世界がなくなっても、購入・所有したアセットは持ったままになる
これを実現するのは難しいものの、フォートナイトの外に完全な第三者のプラットフォームとして作るというやり方もあり、アーティファクトがまさにそうした取り組みをしていると宮武さんは紹介しています。
オープンな標準と、ひと握りの企業が握るクラウドの問題
2つ目のインフラは、オープンなスタンダードとプロトコルです。宮武さんは、インターネットと同じように、オープンなメタバースにもオープンな標準が必要になると話します。
メタバースの中でたくさんのデジタル世界が生まれると、世界ごとにルールや通貨が違うことが想定されます。そのため、世界と世界を連動させる技術が欠かせません。
宮武さんが挙げる例は、オープンソースのウォレットや通貨、そして分散型のクラウドインフラです。
クラウド市場を見ると、Amazon、Google、Microsoft、AWS、Azure、Googleクラウドですよね。が、市場の66パー持ってるんですよ。
草野さんの「強い」という反応に、宮武さんは、そうなると3社のルールに従わなければならず、パーラー ── 保守派ユーザーが多く集まったアメリカのSNS「Parler」。2021年1月、AWSなどからサービス提供を停止され、一時的に利用できなくなりましたのような事件が起きると続けます。だからこそ、誰も完全にはコントロールしないインフラが必要になる、という主張です。
さらに宮武さんは、メタバースはデジタル空間だけで完結しないため、デジタルとフィジカルのつながりも必要だと指摘します。そのためには、フィジカルのプロダクトもトークン化しなければなりません。
宮武さんの例えでは、デジタルの世界でクーポンが発行されても、フィジカルの世界で使えなければ意味がありません。デジタルで作った経済圏が、フィジカルとつながっている必要があるということです。
その仕組みを実現しようとしている技術として、宮武さんはBoson Protocol ── 物理的な商品の取引をブロックチェーン上で扱うためのプロトコル。デジタル上の権利と実物の商品の受け渡しをつなぐことを目指していますを挙げ、具体的な説明は省いたうえで、そうした考えを持つ人たちが実際にいると紹介しました。
メタバースは誰が治めるのか。DAOという考え方
3つ目のインフラは分散型のガバナンスです。宮武さんは、メタバースはインターネットと同じく国がコントロールするものではないため、「誰がコントロールするのか」という問いが生まれると話します。
その答えとして出てくるのがDAOです。宮武さんによれば、シリコンバレーでは数週間から1か月ほど前にNFTが大きく流行し、その次に話題になっているのがDAOだといいます。
DAOはDecentralized Autonomous Organizations ── 日本語で「自律分散型組織」。ブロックチェーン上のルールに基づいて、特定の管理者がいなくても参加者の投票などで運営される組織の形ですの略で、宮武さんはごく簡単に言えば「会社をブロックチェーン化すること」だと説明します。以前の回で話したソーシャルトークンもDAOの一例です。
宮武さんはまず、今の会社の意思決定を例に出します。取締役や社長が会社の方向性を決めるため、1000人規模の会社でも、方向性を決めるのは5人や10人ほどに限られます。
それがフェアかどうかは組織によるとしたうえで、分散型にするなら、全社員に貢献度に応じたトークンを配り、トークンを持つ人全員が投票や議決権を持つ形になる、と宮武さんは説明します。草野さんが「株ですね」と言うと、宮武さんは「株っぽいもの」と応じています。
取締役や社長など、1000人規模の会社でも5〜10人ほどが方向性を決める
貢献度に応じてトークンを配り、持っている人全員が投票・議決権を持つ。ルールはコードで自動化される
もう1つの特徴は、ルールの自動化です。DAOはイーサリアム ── プログラムを組み込めるブロックチェーン基盤。条件を満たすと自動で処理が実行される「スマートコントラクト」を作れます上で運営され、スマートコントラクトによって組織のルールをコードで書き留めます。
この投票が通れば、こういうプロセスでこうなりますっていうのが全部決まってるので。
人間が途中でルールを変えたり、誰かが止めたりできない点が面白いところだと宮武さんは話します。一方で、DAOが本当に機能するかはまだわかっていません。
宮武さんによれば、2016年から2017年に最初の事例が登場しましたが、ハックや詐欺などがあって失敗しています。それでも、オープンメタバースのガバナンスを1人が握るのは怖いため、分散型にする手段としてこうしたアイデアが出てきている、というのが宮武さんの整理です。
草野さんの「権利が集中しちゃいけない」という言葉に、宮武さんは、DAOでなくてもよいので、いろいろな人がリスクフリーで参加できる方法が必要だと応じました。
Vバックスをロバックスに換えられない問題と、メタバースの通貨
最後のインフラは、グローバルで流動性のある経済と通貨です。今のゲームは、RobloxならRobux、フォートナイトならVバックスのように、それぞれ独自の通貨を持っています。
宮武さんによれば、ドルや円をRobuxやVバックスに換えることはでき、逆方向は少し難しいもののできなくはありません。難しいのは、フォートナイトの通貨をRobloxの通貨に換えることです。
一回なんかお金、リアルなお金挟まないとできなそうです。
宮武さんは、今は円やドルが間に入るのと同じように、オープンメタバースではベースとなるメタバースの通貨が生まれるかもしれないと話します。全デジタル世界がその通貨を使うのか、それとも通貨同士の転換が起こるのかは、まだわからないとしています。
今
フォートナイトの通貨をRobloxの通貨に直接換えるのは難しい
現実の通貨を挟む
円やドルを経由しないとやりとりしにくい
メタバースの基軸通貨
ベースとなる通貨を全世界で使うか、それを介して転換する
候補としては、インターネットマネーとして扱いやすいビットコイン案と、イーサリアム系のもの案があるといいます。イーサリアムの利点は、スマートコントラクトでさまざまなルールを書けるため、借り入れのような金融機関のシステムをその上に作れる点です。
宮武さんの例は、トラヴィス・スコットのコンサートの限定スキンです。価値が大きく上がったスキンを担保に借り入れをして、デジタル世界やフィジカルな世界で家を買う、といった世界が生まれうるといいます。
本当はもっともっと複雑で、そのプロコンってすごいあるんですけど、でも全アセットに対して、そのイーサリアムベースのトークンを入れることによって、いろんな金融アプリケーションが生まれる。
これがアメリカのトップ投資家やセレブ、特にアンドリーセン ── ベンチャーキャピタル「Andreessen Horowitz」の共同創業者マーク・アンドリーセンのこと。暗号資産分野への積極的な投資で知られますらが語るDeFi ── Decentralized Finance(分散型金融)の略。銀行などの仲介者を介さず、ブロックチェーン上で融資や取引などの金融サービスを提供する仕組みですが必要とされる理由だと宮武さんは説明します。
草野さんは、グローバルで考えるならアメリカ企業だけでなく世界中を巻き込む必要があると指摘します。宮武さんは、だからこそドル建てにしないほうがよい場合があり、ドルではアメリカがコントロールすることになるため、ブロックチェーン上の分散型の通貨が必要とされていると答えました。
「難しい」とこぼす草野さんに、宮武さんは自分も全部わかっているわけではないと認め、DAOやDeFiに詳しい人にぜひ話を聞いてみたい、と連絡を呼びかけています。
世界と世界をどうつなぐか。橋渡しとハードウェアの課題
4つのインフラの話を受けて、宮武さんは次に、たくさんのデジタル世界とフィジカルの世界をつなぐ「ブリッジ」の話に移ります。世界ごとにアセットやルールが違うため、橋渡しは非常に難しいといいます。
宮武さんが挙げる要件は多岐にわたります。各デジタル世界にアクセスするときのユーザー認証、その世界で買ったものをリアルタイムで自分のデジタルクローゼットに移管すること、手持ちのアセットのリアルタイムな更新、さらにフィジカルで持っているものの把握です。
加えて、これらをすべて処理できるハードウェアを全員が使えなければなりません。
えー、もうこれ無理ゲーじゃないですか。これ実現できます?本当に。
無理じゃないんですよ。無理じゃないんですよ。実現するんですよ。
草野さんは、技術的には可能性に満ちているものの、企業同士が本当に信頼し合って協力しなければ実現しないと感じたと話します。
ハードウェアについて、宮武さんはスマホを例に挙げます。スマホの普及率は年々上がり、価格には大きな差があっても、ベースとしてはどれもインターネットにつながります。
宮武さんは、メタバースのハードウェアも同じように、誰でもアクセスできる安価なものから、多機能なプレミアムなものまで出てくるだろうと見ています。
オープンメタバースの会話はDiscordが担うのか?
世界をつなぐうえでもう1つ必要なのが、コミュニケーションのレイヤーです。別の世界にいる友達と、ボイスやテキスト、動画で話せる仕組みが求められます。
この話を聞いてた時に、あれ、これってすでにこの会社ありますよね?と思って。それがDiscordなんですよ。
宮武さんによれば、Discordはもともとフォートナイトなどのゲームで友達と遊ぶときに使われてきました。しかもゲームとは切り離されているため、ゲームをしていてもいなくても、同じボイスチャットに入れば話せます。
さらにDiscordのコミュニティは、主にゲーマーとクリプトやNFT好きな人たちで構成されています。宮武さんはこれを、メタバースのアーリーアダプターがすでに集まっている状態だと捉え、Discordはオープンメタバースのコミュニケーションレイヤーとしていいポジションにいると考えています。
草野さんは、それならMicrosoftに買収されないほうがいいのかもしれない、と反応します。宮武さんは、だからこそMicrosoftが買おうとしているのかもしれないと返し、オープンメタバースのコミュニケーションレイヤーを取れるサービスは相当な価値を持つはずだと話しました。
オープンでも人は集まらない。Empty World Problemとフォートナイトの役割
宮武さんは、大手企業が開発を止めるかもしれないという前編の話とは別に、実際に止められなくても課題が残ると指摘します。それが「Empty World Problem」です。
メタバースは作られてから徐々に進化していくものの、最初のうちは体験がほとんどありません。人はオープンなプラットフォームだからという理由だけで集まるわけではなく、何かしらのユースケースが必要です。
草野さんも「ただ操作してても楽しくないですもんね」と応じます。宮武さんはこの構造がSNSとよく似ていると話し、SNSでよく言われる「Come for the tools, stay for the network」という言葉を紹介します。
ツールで集める
キラーアプリやコンテンツが良いから人が来る
良さを理解する
入ってきた人がメタバースの良さを知る
ネットワークで残る
人が集まってネットワーク効果が生まれ、居続ける
作り手になる
自分たちでも新しいコンテンツやアプリを作る
この課題を解決するうえで、宮武さんはフォートナイトを作るEpic GamesやRobloxのような「メタバース候補者」が重要なポジションにいると考えています。キラーアプリケーションやコンテンツがなければ、そもそも人がメタバースに入ってこないからです。
宮武さんによれば、ティム・スウィーニーさんはこの点に気づいていて、フォートナイトをとても慎重に扱っています。フォートナイトがメタバースの最初の入り口になると理解しつつ、すぐにメタバース要素を入れ込むと、もともとの魅力が失われてしまうからです。
(ゲームの部分を)潰してしまうと、一気にその3.5億人登録してる人たちが消えるかもしれないので。
ユーザーはもともとバトルロイヤルのゲームとして集まっており、メインはあくまでゲームです。ゲームが好きな人と、新しい世界観を作りたいという方向性とのバランスが難しい、と草野さんも共感していました。
ヒップホップとゲームエンジン。メタバースを押し広げるのは誰か
メタバースに大きく貢献するグループとして、宮武さんはエンタメ業界、特にアメリカのヒップホップ業界を挙げます。ヒップホップ業界はNFTやテクノロジーを積極的に受け入れているからです。
トラヴィス・スコットがフォートナイトでコンサートを開いたことで、多くの人がフォートナイトを知り、フォートナイトやRobloxでコンサートができることに気づきました。宮武さんは、特に消費者向けの領域では、エンタメやヒップホップ業界が新しいテクノロジーの進展をリードしていると考えています。
もう1つ重要なのが、ゲームエンジンの開発者と3Dマップを作っている企業です。宮武さんはUnity、Unreal(Epic)、Snapchat、Googleを挙げています。
メタバースではユーザーが簡単にデジタル世界を作れなければなりません。宮武さんによれば、世界を作るのは場合によってはゲーム開発以上に大変です。
そのため、デジタル世界を簡単に作れるツールや、フィジカルなアセットをそのままデジタルに移せる技術が必要になります。宮武さんは、半年から1年前に話題になったGPT-3 ── OpenAIが2020年に発表した大規模言語モデル。自然な文章の生成で大きな注目を集めましたのようなAI技術も取り入れ、ノーコードで誰でも世界を作れる状態が必ず必要になると話します。
草野さんは、最近はプログラミングより3DやBlender ── 無料で使えるオープンソースの3DCG制作ソフト。モデリングやアニメーション、レンダリングまで幅広く対応していますを勉強したほうがいいと言う人も多いと話します。宮武さんも賛同し、今はコードを勉強するよりUnreal Engineを勉強したほうがいいかもしれない、と応じました。
TwitchのVTuber、CodeMikoはなぜ「メタバースクリエイター」なのか
ゲームエンジンの話からつながる形で、宮武さんは、オープンメタバースそのものとは別の、今いる面白いクリエイターを紹介します。宮武さんが「メタバースクリエイター」の候補だと考えているのが、Twitchで配信するCodeMiko ── Twitchで活動するVTuber。3Dモデルや仮想空間、モーションキャプチャーの環境まで、配信者本人が自ら構築していることで知られますです。
CodeMikoはVTuberでありながら、本人の顔も見せるという特徴があります。本人だけが出る回、VTuberの姿だけが出る回、両方が出る回があるそうです。
草野さんが、どちらも同じキャラとして出ているのかと尋ねると、宮武さんはキャラを分けていると答えます。VTuberのほうは「ミコ」というキャラクターで、リアルな本人は「ザ・テクニシャン」という名前で、ミコを作った人として出ています。
宮武さんによれば、日本では数年前からVTuberが人気ですが、アメリカで人気が出たのはごく最近です。『Among Us』で有名になったCorpse Husbandのように、顔を見せずに人気になる配信者も出てきています。
CodeMikoはここ1年で急速に注目を集めました。数字を見ると、その伸び方がよくわかります。
宮武さんは、成人向けの内容も含まれることがあるので、見る人は理解したうえで見てほしいと注意しています。
宮武さんがCodeMikoを高く評価する理由は、本人のバックグラウンドとコンテンツの見せ方です。CodeMikoを始める前に、本人はUnreal Engineなどを使ったライブアニメーションを4年間研究しており、宮武さんは、おそらくゲーム会社で働いていたのではないかと話しています。
リアルとデジタルの両方の姿を見せる理由は複数あり、クリエイターとしてよりオーセンティックに見えることもその1つだと宮武さんは考えています。
ゲームキャラになり損ねたミコと、デジタル空間でのインタビュー
宮武さんが特に面白いと語るのは、ミコの側にきちんとしたバックストーリーがあることです。
そのミコはその大手のゲームのキャラクターになるはずだったんですけど、システムのバグでいろんなデジタルの世界をさまよい続けないといけない状況になってしまいましたと。
ミコとして出ているときは、そのキャラとして話します。草野さんも「しかもそのストーリーもいいですね」と反応しています。
ミコはキャラのままリアルな人にインタビューもしています。宮武さんが例に挙げるのは、有名なTwitchストリーマーのPokimaneとのインタビューです。
インタビューはZoomのような電話会議の形で行われますが、ミコの顔はVTuberのもので、座っている場所もUnreal Engineで作ったデジタル空間です。
草野さんは、日本のVTuberは声の担当者とグラフィックの制作者が別だったり企業が運営していたりすることが多いと思っていたため、3Dモデリングからキャラ作り、中の人まで1人でこなすのは「ハイスペックすぎる」と驚きます。
宮武さんによれば、3DモデルにはMayaを、デジタル空間とアニメーションにはUnreal Engineを使っています。デジタル空間だからこそ、細かなコントロールが利くのだといいます。
通常のオンラインインタビューでは、自分の顔と相手の画面を切り替えて映すのが一般的です。CodeMikoのインタビューでは、ミコが座るデスクを後ろから見せ、ミコの頭越しにインタビュー相手が映るシーンもあるそうです。
Pokimaneとのインタビューでは、ミコのデスクにPokimaneのグッズを置くカスタマイズもしていました。草野さんは、バーチャル空間を作ることで、リアルとの境目がなくなってきていると感想を述べています。
モーションキャプチャーで現実と仮想を重ねる「ザ・テクニシャン」
CodeMikoの中の人であるザ・テクニシャンは、Xsens ── モーションキャプチャー機器のメーカー。全身にセンサーを付けたスーツで、人の動きをそのまま3Dデータとして取り込めますのモーションキャプチャースーツを着て配信しています。顔の表情のトラッキングソフトも使っているため、本人が立てばミコも立ちます。
宮武さんによれば、このスーツはおよそ300万円です。さらに本人のアパートには、ミコのデジタル空間と同じ位置にものが置かれており、現実と仮想が重なるように作られています。
モーションキャプチャーの設定を切り替えると、ゲームモードにもできます。その場合、ザ・テクニシャンがコントローラーでミコを操作し、走り回らせることもできるそうです。
インタビューに使っている部屋はデジタル空間の一室にすぎず、実はほかにも多くの部屋があります。ザ・テクニシャンは3Dゲームを作りたいと話しており、ミコはそのゲームのキャラクターという位置づけです。
ほかにも、ARのような機能や、Twitchの配信内でファンが投票する機能、投げ銭に反応してアニメーションが起きる仕組みも取り入れているといいます。宮武さんは「本当に次世代のクリエイター」と評しています。
宮武さんがもう1つ印象的だったと話すのが、スマホの演出です。リアルで持っているスマホを、デジタル空間のミコも同じように持ち、画面もそのまま共有されています。
ミコさんが携帯を自分の顔の前に持つと、ミコさんが映るのではなくて、テクニシャンが映るんですよ。
デジタルの世界にいるミコが、リアルな世界のテクニシャンと話しているように見えるという演出です。草野さんも、アバターとリアルな人間が会話しているように見えると反応し、リスナー向けに概要欄へ動画を貼ると話しています。
草野さんは、MetaHumanのようなインフラ技術も発展しているため、一からモデリングしてVTuberをやる人は増えそうだと話します。宮武さんも、CodeMikoのようなキャラクターがどんどん出てくる可能性があると同意しました。
草野さんは、YouTuberがコメディ用のキャラアカウントと素の自分のアカウントを分けている例にも触れ、表現の幅が広がっていると話しています。
指が6本になる未来?Facebookが描く人体拡張とメタバース
最後に宮武さんが紹介したのは、Facebookの話です。FacebookはOculusやCTRL-labsなどを買収し、VRとARに年間10〜15ビリオンUSDほどを投資しているといいます。宮武さんは、世の中で一番メタバースに投資しているのはおそらくFacebookだと見ています。
Facebookは最近、手首に付けるデバイスを発表しました。宮武さんが面白いと感じたのは発表そのものより、その後にAR・VR担当トップのアンドリュー・ボズワースさんとマーク・ザッカーバーグさんが語った内容です。
2人が話していたのは、人間の神経細胞などには余分なキャパシティがあり、それがAR・VRの領域でさまざまな可能性を生む、ということでした。
自分の脳をトレーニングできれば、6本目の指を動かすことができるようになるんですよ。
宮武さんの例えでは、ARメガネで自分の手を見たとき、5本のはずの指が6本に見える状態です。6本目はARの中にしかないデジタルの指ですが、脳を訓練すれば動かせるようになり、今のフィジカルな人間を超える瞬間が訪れるといいます。草野さんはこれを「人体拡張」と表現しました。
宮武さんは、これがメタバースで重要な理由を、アバターの話に結びつけます。今のアバターはほぼ人間の形しかありませんが、人間ではないアバターを自分の体のようにコントロールできるようになるからです。
草野さんは「半分面白いけど、半分怖い」と率直に語り、犬になりたければ犬にもなれるのかと尋ねます。宮武さんは、これまでボタンやコントローラーで操作していた尻尾も、筋肉と同じように頭で動かせるようになると答えています。
宮武さんによれば、この訓練は意外とできるらしく、最も恩恵を受けるのは腕を失った人かもしれません。メタバースの中では、普通にできることが増えるからです。
草野さんは、これまで身体を補う技術の考え方しか知らなかったため、人間以上の何かになれるという発想は新鮮だったと話します。宮武さんも、ロボットアームを脳で動かす技術も重要だとしたうえで、それ以上に行く時代が来ると語りました。
草野さんは、CodeMikoのように自分で作った足が4本、指が10本あるキャラクターも、自分で考えたとおりに動かせるかもしれないと想像を広げます。宮武さんは、CodeMikoの話とFacebookの話は実はメタバースでつながっていると締めくくりました。
宮武さんによると、こうした話はプレゼン動画では語られておらず、表向きは「頭で考えるだけでタイピングできる」といった説明にとどまっています。それでも行き着く先は同じだという見方です。宮武さんは、オープンメタバースのインフラは少なくとも1〜5年ほどで作られていくとみて、今後も注目していきたいと語りました。
まとめ
後編では、オープンメタバースを作るための4つのインフラと、世界をつなぐ橋渡しの課題、そしてCodeMikoやFacebookの事例から見えるメタバースの先の表現が語られました。技術はそろいつつある一方で、企業間の協力や、人が集まる体験づくりが鍵になりそうです。
- オープンメタバースには、アイデンティティとデジタルアセット、オープンな標準、分散型のガバナンス、グローバルな経済と通貨の4つのインフラが必要とされています
- アバターはプロフィールの一種と捉え、その裏に1つのアイデンティティのレイヤーを置く考え方が示されました
- ゲームが終わってもアセットが残る所有権や、DAOによる分散型の意思決定が、オープン性を保つ手段として語られました
- Empty World Problemを越えるには、フォートナイトのような入り口と、誰でも世界を作れるツールが重要だと考えられます
- CodeMikoやFacebookの人体拡張の研究は、人間の形にとらわれない表現がメタバースで生まれる可能性を示しています



