年始一発目、アンケート400人超えと動画シリーズの報告
2022年最初のOff Topic収録は、草野美木さんの「年始一発目すごいグダグダしてる」という照れ笑いから始まりました。Spotifyの別番組「bytes」の配信はすでに再開していたものの、Off Topic本編の収録は久しぶりだったといいます。
本題の前に、2人はリスナーへのお礼を伝えます。番組が実施した2021年のまとめアンケートには400人以上が回答し、応援コメントのほか「インターンしたい」という声も寄せられました。
(アンケートは)草野さんで今じっくり見てるので、一緒に仕事したい方々でしたり、インターンしたい方々に対して、連絡とかもするかもしれないので。
応援コメントをたくさんいただいて、すごい頑張ってきてよかったなって思いましたよね。
宮武さんは、Off Topicを聴いて入りたい会社が見つかったというコメントがあったことにも触れ、その反響を喜んでいました。
あわせて、デイビッドさんへのインタビュー動画も公開されたことが紹介されます。字幕はすべて草野さんが担当し、「何度も心折れながら」仕上げたそうです。草野さんはWEB3 ── ブロックチェーン技術を基盤に、ユーザー自身がデータやデジタル資産を所有・管理できるとされる次世代インターネットの構想初心者として、デイビッドさんの解説がとても勉強になったと振り返ります。
このインタビューシリーズは今後、WEB3に限らずアメリカの起業家やVCにも広げていく予定で、リクエストも募集しています。宮武さんは「メタのマーク・ザッカーバーグとか言われるとちょっと困る」と笑いつつ、そこまで行けるよう頑張ると話しました。
なぜ日本の広告のサラリーマンはサーフボードを抱えるのか?
この回のメインは、2021年に読んで面白かった本や観た映像を紹介し合う企画です。草野さんが最初に挙げたのは『サラリーマンはなぜサーフボードを抱えるのか?』という本でした。
著者は日系アメリカ人のグラフィックデザイナー、正木怜さん正木怜です。アメリカ生まれでニューヨークにも住み、2017年に東京へ移った経歴を持ち、日本のグラフィックデザインやカルチャーをアメリカと比べながら論じています。
本で扱われる問いは、たとえば「なぜ日本の広告には白人や欧米人のモデルが多いのか」「なぜパッケージやアパレルに間違った英語が使われるのか」といったものです。草野さんは、日米両方で仕事をしてきた人だからこそ書ける内容だと感じたといいます。
タイトルの由来は、著者が日本で関わったスーツブランドの案件です。出てきたクリエイティブは、スーツ姿でサーフボードを抱えたハーフのアジア人男性がピースをしている、という不思議なものでした。
草野さんによれば、著者はアメリカのアートディレクションならこうした表現は不自然に映り、リアルさやオーセンティシティ ── 「本物らしさ」「真正性」を意味する言葉。広告やブランドでは、作り物っぽさのない誠実さや実在感を指して使われますに焦点が当たる、と述べています。
スーツ姿でサーフボードを抱えピースする男性など、欧米への憧れを感じさせる非現実的なクリエイティブが出てくる
リアルさやオーセンティシティが重視され、そうした表現は不自然とされやすい
草野さんは、モデル雑誌に白人が多いことや、日本に根強い美のスタンダードにも触れ、難しく怖いトピックだからこそ話し合うことが大事だと語りました。
代表して話す資格はないとは思うんですけど、意見を共有することとか、なんか大事だなって思う本ですね。
宮武さんは、日本やアジア全体にアメリカへの憧れがあり、アメリカのブランドが日本で人気になることも含め、それがデザインに影響しているのが面白いと応じました。
土下座の絵文字はいつから「自己防衛」になった?
草野さんが同じ本で印象に残ったもう一つの話題が、日本の「恥の文化」を扱った部分です。そこでは土下座の絵文字が例に挙げられています。
本によると、土下座の絵文字は本来、深い敬意と羞恥心を表すためにひざまずいて頭を下げる姿に由来します。しかし使われすぎた結果、最近では自己防衛として使われることが増えているといいます。
深い敬意と羞恥心を表す、本気の「ごめんなさい」
使われすぎて、軽い謝罪や自己防衛として使われる
(土下座の絵文字が)自己防衛として使われてることが増えているっていうのは、めちゃくちゃわかるなと思って。
宮武さんが「その変化にアメリカの影響はあるのか」と尋ねると、草野さんはiPhoneの絵文字が普及した影響はあるかもしれないとしつつ、逆にアメリカで土下座の絵文字がどう使われているのか気になると返します。宮武さんは、使っている人はなかなか見ないと答えました。
話は日米の絵文字の意味の違いにも広がります。宮武さんは、絵文字は日本が最初にいろいろやっていたはずで、アメリカはそれに倣いつつ自分なりに変えていったようだ、と見ています。
元バナナ・リパブリックのブランド責任者が説く「ステータス」の変化
宮武さんの1冊目は、日本語版のないビジネス書『The Business of Aspiration』です。著者のアナ・アンジェリックさんは、直近ではバナナ・リパブリック ── アメリカのアパレルブランド。Gap傘下で、ビジネスカジュアルを中心とした衣料品を展開していますのチーフブランドオフィサーを務めていたブランドの専門家です。
宮武さんは彼女のブログもよく参考にしており、Off Topicで話してきたブランドの作り方やカルトブランドの考え方も、アンジェリックさんから借りたコンセプトが多いと明かします。本はZ世代、ステータスの考え方、ブランドの作り方を扱っています。
宮武さんが紹介した中心的な主張は、ステータスの源泉が変わったというものです。
お金を持っていることがステータスにつながっていた
アクセスや知識がステータスにつながっている
宮武さんによれば、この本は人の行動と社会学とビジネス戦略を掛け合わせ、今いいブランドを作るには何が必要かを説明しています。コミュニティやコンテンツが重要だという話も、そもそもの行動の変化を見たうえで語られているといいます。
本は150ページほどと短く、さらっと読めたそうです。宮武さんは、以前番組で紹介したゲイリー・ヴェイナチャックさんの話をもう少しブランド寄り、今のビジネス戦略寄りにした内容だと位置づけ、著者のSubstackのニュースレターもあわせて勧めていました。
『コンヴァージェンス・カルチャー』とマトリックスの壮大な設計
草野さんの2冊目は、ヘンリー・ジェンキンズヘンリー・ジェンキンズさんの『コンヴァージェンス・カルチャー ファンとメディアがつくる参加型文化』です。草野さんは、本の中のコンヴァージェンス・カルチャーの定義を3つ紹介しました。
草野さんがこの本を読みたいと思った理由は、メディアとしての側面もあるOff Topicにとって、形を変えて様々なプラットフォームに行けることが面白いと感じたからです。WEB3の文脈にも近く、ファンでありクリエイターでもある関わり方が重要になる点に通じると考えたといいます。宮武さんは「まさにこの間デビットさんが言ってたこと」と応じました。
本で面白かった例として、草野さんは映画『マトリックス』を挙げます。マトリックスは映画単体ではなく、映画・ゲーム・アニメシリーズが相互作用するコンテンツとして評価すべきだという話です。
本では、フランチャイズは経済的ロジックに支配され、芸術的なビジョンによる統制が十分でないと指摘されています。一方で成功例では、1人のクリエイターやクリエイティブチームが統制していることが重要だとされ、マトリックスでも作り手がゲームのプロットまで最初に作り、全体を見ていたそうです。
一つのクリエイターとか、その事務所、会社が統制してることの強さってあるなと思って。
草野さんはその例として、マトリックスのほかにマーベル、SMエンターテインメント、スター・ウォーズを挙げていました。
統制とファンの自由はどう両立する?カエルのペペが示した暴走
宮武さんはここで、1人のクリエイターや事務所による統制と、ファンが能動的に動くことはどう関係するのか、と問いかけます。
草野さんは、スター・ウォーズがファンフィクションを推奨し、著作権侵害になるかどうかを相談できる窓口をルーカスフィルムが無料で設けていた例を挙げ、ファンの遊び場を作ることの大切さを語りました。
世界観が広がるには、やっぱりそういう、ファンが能動的に動くっていうのは絶対重要だと思っていて。
宮武さんはさらに、1人のクリエイターが仕切るトップダウン型とは逆に、複数人が集まって新しい世界観を作るボトムアップ型の動きも出てきていると指摘します。どちらも存在するだろうとしたうえでの見立てです。
1人のクリエイターやクリエイティブグループが仕切り、世界観がある程度コントロールされる
複数人が集まって新しい世界観を作る、最近出てきた動き
一方で草野さんは、自由の裏側にある危うさとして、ドキュメンタリー映画『フィールズ・グッド・マン』を紹介します。コミックのキャラクター「カエルのペペ」が誰かにミーム化されて大バズりし、オルタナ右翼や白人至上主義のヘイトシンボルになってしまった話です。
草野さんは、WEB3で所有の権利があっても、作者の意図しないものにコンテンツが変わってしまうことはあるのでは、と本を読んで考えたといいます。宮武さんも、自由にすれば勝手に広がる可能性がある反面、そうした事例も出てくると受け止めました。
スター・ウォーズのようなファミリー向け作品で、PG指定のある二次創作を許すかどうかも難しい問題だと草野さんは話します。
完全自由にするべきかしないべきかっていうのは、やっぱりそのコンテンツ次第だと思うので、相性がいいコンテンツとないコンテンツってあると思うので。
宮武さんは、いろいろな事例を見ることで、自分のコンテンツやIPが自由化に合うかどうかを理解しやすくなるかもしれない、とこの本の価値をまとめました。
76ersはなぜ「わざと負ける」と言われる道を選んだのか
宮武さんの2冊目は、日本語版のないバスケ本『Tanking to the Top』です。NBAのフィラデルフィア・76ers ── フィラデルフィアを本拠地とするNBAチーム。1946年創設の歴史あるフランチャイズですの実話で、表面はバスケの物語でも、裏ではビジョンとリーダーシップを描いていると宮武さんは言います。
もともと弱かった76ersが変わり始めたのは、GMとしてサム・ヒンキーさんを採用してからです。ヒンキーさんは大学でもバスケをしておらず、データに強い人物でした。
ヒンキーさんはバスケの歴史を調べ、優勝候補のチームには少なくとも2人以上のスター選手が必要だと結論づけます。GMの仕事はスターをどれだけ集められるかの勝負になります。
NBAでスターを獲得する方法は大きく2つあると宮武さんは説明します。他チームから自由契約などで連れてくる方法は難しく、もう1つが大学から出てくる選手を取るドラフトです。NBAでは前シーズンの成績が悪いほど、ドラフトで上位の選手を選べる仕組みになっています。
ヒンキーさんの作戦は「誰よりも長期目線であること」でした。スーパースターを獲得するチャンスを最大化するため、まあまあいい選手を他チームに出す代わりにドラフト指名権をもらう、といった取引を繰り返したのです。
前提
優勝には2人以上のスター選手が必要
手段
いい選手を放出し、ドラフト指名権を集める
代償
2〜3シーズンひどい成績が続き、ヒンキーさんは解任
結果
スーパースターを獲得し、76ersは強いチームに
その結果、2〜3シーズンは本当にひどい成績が続きました。82試合のシーズンで、最悪の年は10勝72敗だったといいます。「わざと負けているのでは」「指名権を取りすぎでは」と批判され、NBAからも「さすがに負けすぎ」と言われ、ヒンキーさんは解任されます。
ヒンキーさんは退任時に13ページの手紙を書き、自分のセオリーと感謝をつづりました。今では76ersは強いチームになり、少なくとも1人、数えれば2人のスーパースターがいるそうです。
そのスーパースターもヒンキーさんを信じ、苦しんだ数シーズンを「プロセス」と呼んでいました。「trust the process」「enjoy the process」といった言葉は、長期で考えれば今苦しんでも最後はいいチームになれる、という考えを表しています。
草野さんは、スポーツは短期の成績で見られがちで、ファンからすれば「何やってんだよ」と思ってしまうだろうと共感しました。ヒンキーさんは解任後ヘッジファンドを経て、今はVCをしているといいます。宮武さんは、あと少しで同じ案件に関われるところだったと明かしました。
何回もバットを振る。真ん中のチームが一番悪い理由
宮武さんは当初ヒンキーさんの戦略を信じていなかったものの、今では面白く、正しかったと語ります。ドラフト1位を得ても、その選手がレブロン・ジェームズやマイケル・ジョーダンのようなスーパースターになるとは限らないからです。
結局スーパースター獲得するのってホームランを打つことと同じなので。
(ホームランを)狙って打つのか、それとももう何回もそのバットを振るチャンスをもらうのかっていう話で。
ヒンキーさんはチームビルディングをコーチに任せ、自身はホームランを打ちに行く準備だけに集中しました。宮武さんは、その割り切りに「ちゃんとした経営者」を見たといい、バスケ選手出身でないことが利点だったのかもしれないと話します。
後任には経験豊富なベテランが就き、成功を収めました。ただし宮武さんは、ヒンキーさんの3年間があったからこそいい選手を取れたのであり、プロセスがなければ今の76ersはないと考えています。
| チームの成績 | ドラフト | その後 |
|---|---|---|
| 悪い | 上位指名を得られる | スーパースターを取れる可能性がある |
| 良い | 下位指名になる | 成績がいいので、それはそれで良い |
| 真ん中 | 中途半端な指名になる | 成績が上がりも下がりもせず抜け出せない |
宮武さんによると、一番最悪なのは真ん中の成績のチームです。毎回なんとなく勝つため抜け出せず、そのチームを一回ぶっ壊したのがヒンキーさんだといいます。草野さんが「スクラップアンドビルド」と言うと、宮武さんは「まさに」と応じました。
草野さんは、この話はスポーツチームの創業物語のようで、会社づくりとも共通点が多いと感じたそうです。宮武さんは、選手が移籍してしまうため創業メンバーがいない点だけが違うとしつつ、ボストン・セルティックスでスカウトのインターンをした経験から、選手の見極めはVCの投資判断に近いと振り返りました。
誰も好きになれない『サクセッション』の面白さ
本の次は映像の話です。宮武さんが挙げたのは、2021年末にシーズン3が出たドラマ『サクセッション』で、VC業界でも好きな人が多い作品だといいます。
物語は、FOXニュースなどのオーナーであるマードック家がモデルではないかとよく言われる、メディア王一家の後継ぎ争いです。宮武さんは、ルパート・マードックさんが90歳ぐらいで、子どもたちの誰が後を継ぐかという状況に重ねて紹介しました。
宮武さんが面白いと感じるのは、主人公がはっきりしない点です。シーズン1から3まで観ても好きなキャラクターがおらず、「みんなちょっと嫌い」だといいます。
自分のことを考える人たちが多いんで。
父親から愛されなかった子どもたちが、父親を訴えたり、会社を乗っ取ろうとして失敗したりする展開が続きます。宮武さんは、なぜ面白いのかわからない人も多いだろうと認めつつ、家族がこう動くのかというヒューマンドラマとして惹かれているようです。
おすすめの相手を聞かれると、宮武さんはVCやビジネスに関わる人を挙げます。ビジネスの学びは正直あまりないものの、レバレッジの使い方や交渉については多少あり、何より1つのビジネス帝国の取り合いが単純に面白いと話しました。途中で観るのをやめていた草野さんは、もう一度挑戦してみると言います。
『ユーフォリア』にOff Limitsが映る、トレンドのトーン
草野さんが2022年に絶対観たいと挙げたのが、U-NEXTなどで日本でも観られるドラマ『ユーフォリア』です。SNSなどに囲まれて生きるティーンエイジャーの苦しさや葛藤を描く作品です。
草野さんが惹かれているのは、曲やファッション、撮り方です。今月出るシーズン2では、シリアルブランドのOff Limits ── アメリカのD2Cシリアルブランド。キャラクターやパッケージデザインのユニークさで注目され、Off Topicでも取り上げてきましたがドラマの中に登場していて、最新のものが出てくるのはさすがだと感じたといいます。
そういう意味でも、そのトレンドのトーンがわかるドラマなのかなっていうのをちょっと思います。
宮武さんは、2人ともストーリー以上に、どう撮っているか、どんな音楽を使っているかといった制作側に興味を持っているのだろうと話し、草野さんもうなずきました。
撮影中に配信開始?『ラストダンス』大ヒットの舞台裏
最後に宮武さんが挙げたのは、2020年に観て2021年にも見返したNetflixのドキュメンタリーシリーズ『ラストダンス』です。マイケル・ジョーダンがシカゴ・ブルズで過ごした最後のシーズンに、特別にカメラクルーがアクセスして撮影した映像をもとにしています。
その映像は20年ほど誰も手をつけなかったものの、ようやくドキュメンタリーシリーズになりました。公開はちょうどコロナ禍が始まり、誰もスポーツを見られなかった時期で、それも大ヒットの一因だと宮武さんは見ています。
公開は1〜2週間前倒しされ、第1話の配信開始時点では第8話や第9話がまだ編集中だったそうです。草野さんは「Netflixすごい」と驚き、宮武さんはNIKEの靴がバカ売れするなど各方面に影響があったと話しました。
番組はここで締めくくられ、YouTubeやニュースレター、Spotifyで配信中の「bytes」の案内で年始の雑談回が終わりました。
まとめ
年始の雑談回では、日米のデザイン文化からブランド論、ファン参加型コンテンツ、NBAチームの長期戦略、ドラマの制作手法まで、2人の関心がゆるやかにつながっていきました。
- 『サラリーマンはなぜサーフボードを抱えるのか?』は、日本の広告に表れる欧米への憧れや、土下座の絵文字の意味の変化を扱っている
- アンジェリックさんによれば、ステータスの源泉はお金からアクセスや知識へと移っている
- コンテンツは強い統制で世界観を守るか、ファンの自由で広げるか、作品との相性で考える必要がある
- 76ersのサム・ヒンキーさんは、批判と解任を受けながらも長期目線でチームを再建する土台をつくった
- 『サクセッション』『ユーフォリア』『ラストダンス』は、物語だけでなく作り方やタイミングの面からも語られた





