12年かけた上場は何を変えたのか?
民泊仲介サービスのAirbnbが上場しました。宮武さんは、創業から12年かけてようやくIPO ── 新規株式公開。未上場企業が株式を証券取引所に上場し、一般の投資家が売買できるようにすることにたどり着いたと話します。
草野さんは、Dropboxも上場まで10年ほどかかったことを挙げます。宮武さんも、アメリカのスタートアップは大体それくらいかかると応じています。
草野さんがAirbnbの上場を特に感慨深いと感じるのは、Airbnbが単なるソフトウェアのサービスではないからです。当時はクレイジーだと思われた概念を広め、世の中の見方そのものを変えたサービスだと語ります。
(Airbnbが)知らない人の家に泊まるっていう概念を覆したっていうのは、そこで新しい市場を作ったっていうのはすごいですよね。
Airbnbの創業期には、資金がなく借金をして会社を作ったという逸話があります。宮武さんは、クレジットカードを何枚も限度額まで使い、シリアルを売ったという話に触れています。
宮武さんによると、Airbnbは何度もローンチを繰り返し、3回ほど失敗して4回目ぐらいでようやく伸び始めました。その創業者たちに賭けたポール・グラハム ── スタートアップ養成機関Y Combinatorの共同創業者。初期のAirbnbに投資したことで知られていますさんもすごいと評価しています。
Off Topicではこれまでも、PinterestやWeWork、一部Uberなど、上場企業のS-1を解説する回を配信してきました。今回はその流れでAirbnbを取り上げています。
シリコンバレーで「悪く言えない」空気
草野さんは、アメリカのシリコンバレーやメディアがAirbnbの上場をどう見ているのかを宮武さんに尋ねます。
宮武さんによると、シリコンバレーではAirbnbの上場がめちゃくちゃ喜ばれています。Airbnbはシリコンバレーを代表する会社の1社で、VCやスタートアップの関係者にはIPOを待ち望んでいた人が多かったからです。
宮武さんは、ポジティブに受け止められている理由をいくつか挙げます。UberやWeWorkと比べてスキャンダルが少ないこと、そして競合がホテルなどのレガシー企業で、技術と新しいコンセプトで業界を覆すという話がシリコンバレーのアメリカンドリームに合っていることです。
一方で宮武さんは、Airbnbがポジティブに見られすぎて、シリコンバレー内では悪く言えない雰囲気になっているとも指摘します。
その例として宮武さんが挙げるのが、テックメディアザ・インフォメーション ── シリコンバレーを拠点とする有料購読制のテック系ニュースメディア。ジェシカ・レッシンさんが創業しましたの記事です。同メディアがCEOブライアン・チェスキーさんについて、一部事業がうまくいっていないといったネガティブな面も含めて書いたところ、Airbnbの株主であるVCが社長のジェシカさんに電話をかけてきたといいます。
(記事について)「お前ふざけるな」と。この行が間違っているとか、この文面が間違っているっていうのを一つ一つ指摘していたらしくて。
ザ・インフォメーションはファクトは正しいとして記事を何も変えなかったそうです。宮武さん自身は記事を割とフェアだと見ており、良いイメージが守られる反面、悪い話が一切できなくなっている点はネガティブな面もあると話しています。
草野さんは、UberとLyftのような対立関係がないからこそ、みんながAirbnbを応援するのだと受け止めます。宮武さんも、競合はマリオットやヒルトンといった大手で、見た目に大きな相手と戦う構図がAirbnbを応援したくなる理由だと応じています。
なぜコロナ禍のタイミングで上場したのか?
草野さんは、コロナ禍で移動が難しい中、Airbnbがこのタイミングで上場した理由が気になると話します。
宮武さんによると、Airbnbはもともと前年にダイレクトリスティング ── 新株を発行せず、既存株主の株式をそのまま取引所に上場させる方式。通常のIPOと違い、上場時に新たな資金調達を行いませんで上場するという話がありました。背景には株主からのプレッシャーがあり、10年前に出資したVCもいる中で、そろそろキャッシュアウトしたいという声があったといいます。
宮武さんは、初期の従業員も同様にキャッシュアウトを望んでいたと説明します。株のままでは売買がしにくく、自分の会社を立ち上げる、家を買う、家族を養うといったニーズに応える必要がありました。
さらに宮武さんは、Airbnbがキャッシュを持っていても、今後の追加の資金調達に備えて上場というオプションを取りたかったと見ています。2020年はテックIPOが主流でポジティブな上場が多く、その流れに乗りたかったという話です。
株主の要望
10年前から出資するVCがキャッシュアウトを求めていた
従業員の要望
初期従業員も株を売って資金化したかった
資金調達の選択肢
今後の追加調達に備えて上場というオプションを確保したかった
市場の追い風
2020年はポジティブなテックIPOが多く、その流れに乗れた
宮武さんは、結果として300億ドル以上の時価総額がつく見込みで、PRやIRの面ではかなり成功しているのではないかと評価しています。セカンダリー市場で一部売れるとしても、上場した方がみんなハッピーになるという話が出ていたと語ります。
売上72%減から18%減へ、どう立て直したのか?
草野さんがS-1で面白かった点を尋ねると、宮武さんはコロナの影響の記載を挙げます。アメリカで最初にコロナがひどかった2020年のQ2(4〜6月)に、Airbnbの売上は大きく落ちました。
宮武さんによると、Q2の売上は前年比72%減でしたが、Q3には18%減まで戻しています。売上の一部が戻ったことに加え、コストカットも両軸で進め、きちんと対応したことがすごかった点だといいます。
回復の中身として宮武さんが挙げるのは、短距離の旅行や長期滞在の増加、ヨーロッパの需要の戻り、そしてアメリカ国内旅行の増加です。Airbnbはその流れにうまく乗れたと説明しています。
草野さんは、アメリカのYouTuberがニューヨークからアリゾナに引っ越したり、旅をしながら生活したりする動画を見ており、そうした動きは日本だけでなくアメリカにもあると感じたと話します。
引っ越して家を探すのってやっぱ時間かかるので、その間エアビーで1ヶ月泊まったりとか。
宮武さんによると、シリコンバレーやニューヨークを離れ、テキサス州などに移るテック業界の人が増えています。Airbnbはこうした需要に合わせてレコメンド機能を入れるなど対応しており、同じ価格ならホテルよりAirbnbを選ぶ人も多いのではないかと見ています。
トラフィックの91%がオーガニックという強み
宮武さんがS-1で明らかになったAirbnbの強みとして挙げるのが、ブランド力です。リテンションの数字もすごいとしたうえで、トラフィックの内訳に注目しています。
宮武さんによると、Airbnbのトラフィックの91%はオーガニックで、3分の2にあたる66%はダイレクトです。検索すら経由せず、ユーザーがURL欄にAirbnb.comと直接入力して訪れていることを意味し、他社に対する圧倒的な優位性になっているといいます。
比較対象として宮武さんが挙げるのが、Booking.comやExpediaです。両社はGoogle検索が非常に重要で、前年に両社がGoogleの検索広告などに使った費用は110億ドルほどにのぼると話しています。
ブランドが好きなユーザーが直接訪れ、検索広告費を大きく削減できる
Google検索が集客の要で、広告に多額の費用をかけている
ExpediaとBookingは単純に検索の中でたまたま当たれば行くみたいな感じなんで、そこはなんか結構強みっていうのはあるのかなとは思いますね。
草野さんも、検索すると出てくるのはBooking.comやExpediaのイメージがあると応じます。宮武さんは、場所とホテルで検索するとBooking.comやExpedia、Kayakなどが出てくるのに対し、Airbnbはそこを狙わず、Airbnbが好きだから来てくれる状態を目指していると見ています。
Booking.comと驚くほど同じ成長曲線
宮武さんが面白いと話すのが、AirbnbとBooking.comの成長の比較です。ブッキング額では約6年、売上では約8年のラグがあり、過去のBooking.comと今のAirbnbの成長がほぼ同じ形をしているといいます。
| 項目 | Airbnb | Booking.com |
|---|---|---|
| ブッキング額 | 今のAirbnbの水準 | 約6年前に同じ水準 |
| 売上 | 今のAirbnbの水準 | 約8年前に同じ水準 |
| 利益 | 過去5年ほどほぼマイナス | ずっと黒字で伸びている |
怖いぐらいなんか同じで、こんなに似てんだみたいなところがあって。
ただし宮武さんによると、唯一違うのが黒字か赤字かという点です。Airbnbは利益率がめちゃくちゃ低く、過去5年ほどはほとんど赤字でした。
宮武さんはその理由として、S-1では一部しか触れられていないものの、Experiencesなどの新規事業への投資を挙げます。かなりお金をかけているのに、思った以上に伸びていないのではないかという見方です。
Experiencesはなぜ伸び悩むのか?
Airbnb Experiencesは、宿泊先の現地でさまざまな体験ができるサービスです。宮武さんによると、ホスト側が体験を提供するケースが多く、人に依存する仕事になるため、ビジネスとしてスケールしにくいといいます。
宮武さんによると、Experiencesの2019年の売上は3500万ドルほどとされ、目標の4000万ドルほどには届かなかったと言われています。
S-1にはExperiences単体の詳しい情報はあまり載っておらず、数字はブッキングと合算されています。宮武さんは、詳細を見せていないからこそ悪いのではないか、隠しているのではないかという噂が流れていると紹介しています。
宮武さんは、新規事業を立ち上げる理由もS-1から読み取れると話します。Airbnbの売上の成長率は、コロナ前から落ちていたからです。
事業が大きくなるほど同じ成長率を保つのは難しいとしたうえで、宮武さんは上場直前期のUberと比べても低いと指摘します。理由として、法律面などさまざまな要因で思うほど成長できなかった可能性を挙げています。
さらに宮武さんは、Booking.comやExpediaが強力な競合となり、Airbnbの領域にも入り始めていると話します。両社はホテルの在庫も持っているため、ユーザーにとっての便利さでは、Airbnbがよほど特殊な在庫を持っていない限り、Booking.comやExpediaが勝つ可能性があるといいます。
(部屋を)貸し出す側もどっちも登録すればいいやって思いますもんね。
宮武さんも、実際に両方に登録しているホストは多いと応じます。こうした課題があるからこそ新規事業を立ち上げているものの、Experiencesのような事業は長期目線で見る必要があり、すぐにキャッシュが回るわけではないと話しています。
横浜のジャズ喫茶巡りで試したExperiences
草野さんは、日本でAirbnb Experiencesを使ったことがあります。友人と一度使ってみたいと話し、横浜のジャズ喫茶を巡る体験に参加したそうです。
草野さんによると、メッセージのやりとりはとても簡単で、プランは海外の旅行者向けでありながら日本に住む人も楽しめるものばかりでした。日本では体験型のサービスをインターネットで探しにくいと感じていたこともあり、部屋探しと同じ場所で体験を探してマッチングできる点を評価しています。
宮武さんもその流れを自然だと受け止めます。一方で草野さんは、Airbnbのメインのサービスが有名なぶん、Experiencesを知らない人も多く、日本の体験の数も少なかったと話しています。
人気すぎて予約が減った旅行コンテンツ
宮武さんは、Airbnbが常にブッキングへの影響を重視している例として、旅行コンテンツの話を紹介します。Airbnbは2012年ごろから、たとえば東京で何をするべきかといった、記事や写真、観光地やローカルなレストランの紹介などの専門的なコンテンツを作り始め、とても人気になりました。
ところがAirbnbは、そのコンテンツをやめています。宮武さんによると、サービスが良すぎてみんながコンテンツばかり見てしまい、ブッキングをしなくなったからです。
旅行コンテンツが人気になり、ユーザーが見るだけで満足してブッキングが伸びなかった
コンテンツをやめたところ、ブッキングの数が上がった
それと同じようにサイトに行って、コンテンツ見て、ああいいなって癒されたり、なんかすごいなと思って。それで、それで終わっちゃうんですよ。セッション、セッションが。
草野さんも、サンフランシスコの空港でAirbnb Magという雑誌を買った経験から共感します。唐辛子やスパイスにちなむ世界各地の場所や料理のストーリーを紹介する特集で、切り口も写真も素敵だったものの、「いいな」と思って終わったそうです。
この話は、宮武さんによると元Airbnbのグロースチームにいたレニーさんが語っていたものです。草野さんは、それでも「いいな」と思わせなければ旅は始まらないのではと問いかけ、宮武さんも、長期的には予約につながっていたかもしれないが短期的なデータではつながっていなかったと応じます。
草野さんは、タコベルとのコラボ宿のような企画も同じ部類かと尋ねます。宮武さんは、最後のブロックバスター店舗をAirbnb化した例のように、そこでしか泊まれない特殊な体験はブッキングに直接つながるので問題ないと見ています。周辺地域の紹介になると、コンテンツだけを消費して終わる人が多いのではないかという整理です。
短期滞在の外でブランド力を収益にできるか?
草野さんは、上場後のAirbnbがどうなるのかを宮武さんに尋ねます。コロナの影響もあり、Experiencesもうまくいっていない可能性がある中での問いです。
宮武さんは、ワクチンの開発で状況が変わるかもしれないとしつつ、コロナで一気に状況が変わったと話します。悪い面では、メイン事業である短期滞在の旅行には数年単位の影響が残る可能性があるといいます。
そのうえで宮武さんは、Airbnbが長期滞在やリモートワーカー向けの住まい、コーポレートハウジングに展開できるかが鍵だと見ています。アメリカでは、起業家同士が1〜2ヶ月同じ家に住み、励まし合いながら会社を作る「ローンチハウス」も増えているそうです。
宮武さんによると、Airbnb自身もこの機会を理解しており、長期滞在を提供するアーバンドアや、コーポレートハウジングを提供するZUSLIVINGへの投資や買収を進めています。
さらに宮武さんは、Experiencesのような滞在に関連するサービスや、リモートワーカー向けの保険などへの展開が市場規模を大きく変えると話します。ただし長期投資になるため、きちんとリターンが返ってくるかを計算しながら進める必要があるといいます。
草野さんは、デザインに詳しい創業者による見せ方やストーリーの伝え方のうまさ、医療従事者に宿泊場所を提供する非営利団体の取り組みなどを挙げ、ファンになりたくなるところがAirbnbの魅力だと語ります。
宮武さんは、関連ビジネスはBooking.comなどには提供しにくく、仮に提供できてもファンの有無で差が出ると見ています。黒字化を果たしたうえで、ブランド力を短期滞在以外で収益化できるかが今後の焦点だとまとめています。
まとめ
AirbnbのS-1からは、コロナ禍でも素早く立て直した回復力と、検索広告に頼らずユーザーが直接訪れるブランド力が浮かび上がります。一方で、成長率の鈍化や赤字、Experiencesの伸び悩みといった課題もあり、短期滞在以外の領域でファンの力を収益に変えられるかが問われています。
- シリコンバレーではAirbnbの上場が歓迎され、悪く言いにくい空気すらある
- コロナ禍のQ2に売上が72%減ったが、Q3には18%減まで回復した
- トラフィックの91%がオーガニック、66%がダイレクトで、広告に頼らない集客が強み
- 成長率はコロナ前から鈍化し、Experiencesなど新規事業も伸び悩んでいる
- 長期滞在や関連サービスでブランド力を収益化できるかが今後の焦点


