ただの絵じゃないNFT。ディズニーの株券に見る原点
Off Topicの今回のテーマは「ただのアートじゃないよ。NFTアバターの可能性」です。草野さんは冒頭で、NFTアバターは単なる絵ではなく、もっと可能性があるものだと伝えたいと話します。
本題の前に、番組にポッドキャスト配信サービスAnchorの告知が入ることも報告されました。宮武さんは「初のOff Topicポッドキャストのマネタイズ」と喜び、草野さんも普段から使っているサービスだからこそ告知できるのが嬉しいと話しています。
今回のNFTの話は、前回のAxie Infinity回の続きです。宮武さんは、前回扱った「サービスが国化する」「ネットワークが経済化する」という見方を引き継ぎつつ、今回はNFTのユーティリティやソーシャルな要素を、NFTアバターを通して話したいと切り出します。
宮武さんがリサーチ中に見つけた面白い事例が、ディズニーの株券です。ディズニーは昔から株主に、キャラクターの絵が描かれた特別な株券を渡していましたが、株式のデジタル化によって紙の株券はなくなってしまいました。
そこでディズニーが2014年に始めたのが、株主だけが購入できる「株券のコレクタブル」です。株そのものではなく、自分の名前を入れられる記念品のようなもので、ウォルト・ディズニーやミッキーの絵が描かれていました。
それ(株券のコレクタブル)はNFT化されてるんですか?
いや、全然、全然。全く。
ディズニーのコレクタブルはNFTではありませんが、株を持っていないと購入の権利すらもらえない仕組みでした。宮武さんは、この「持っている人だけが手に入れられる」構造が、これから話すNFTのアクセスキーの考え方と似ていると説明します。
NFTがアクセスキーになると何が変わる?
宮武さんによると、NFTはいまさまざまな形でアクセスキーとして使われています。最も多いのは、NFTプロジェクトのコミュニティが集まるDiscord ── ゲーマー発祥のチャットコミュニティサービス。サーバーと呼ばれる部屋ごとに参加者を管理でき、NFTプロジェクトのコミュニティの拠点として広く使われていますサーバーへの入場制限です。
本当に鍵ですよね、そういう意味だと。その部屋に入る鍵っていうのがNFTで、制限されてるっていうところですね。
草野さんは、有名なNFTアバターを持つ人しか入れない場を、アメリカのソーシャルクラブやVIPだけが入れるクラブにたとえました。宮武さんも、まさにそういう使い方だと応じています。
宮武さんは別の使い方として、ArtifactArtifactという会社の取り組みを紹介します。NFTをデジタルな切符のように発行し、それを購入するとリアルな靴と交換できるという仕組みです。
宮武さんがこの仕組みを評価するのは、スニーカーの売買市場との相性です。StockXやGOATのようなマーケットプレイスでは、スニーカーの投資家が売買するたびに靴の配送や管理が必要になります。
スニーカーがNFT化されていれば、商品を動かさずに売買だけができます。投資目的なら在庫や劣化のリスクを抱えずに済み、本当に履きたいコレクターだけが交換してリアルな靴を受け取ればよい、という考え方です。
売買のたびに実物の配送・管理が必要で、投資家は在庫や劣化のリスクを抱える
デジタル上で売買だけが進み、欲しい人が交換したときに初めて実物が作られて届く
作り手側にとっても、新作を例えば100個のNFTとして限定販売すれば、売買されている間は靴を作らずに済みます。宮武さんは、投資家のマーケットが拡大しているスニーカー業界には向いているのではないかと話しています。
宮武さんはさらに、ブランドがNFTやソーシャルトークン ── 個人やコミュニティ、ブランドが独自に発行するトークン。ファンへの特典や参加の証として使われることが多い仕組みですでロイヤリティプログラムを作る可能性にも触れました。ブロックチェーン上で購入履歴を追い、熱心なユーザーやフィードバックをくれた人にNFTを渡す、という使い方です。
宮武さんが挙げるNFTの良さの一つが、MetaMask ── ブラウザやスマートフォンで使える暗号資産のウォレット。NFTの購入や保管、各種サービスへの接続に使われますのようなウォレットの存在です。メンバーのウォレットのアドレスがわかれば、そこへ直接NFTを送れます。
よくエアドロップって言うんですけど、そうすると、例えばクーポンコードをNFT化して送ることってできるじゃないですか。
エアドロップでは、クーポンのほか、サプライズのNFTや、他ブランドのコミュニティに入れるNFTを送ってコラボすることも考えられるといいます。草野さんは、セレブリティが熱心なファンにだけNFTを送ってクローズドなコミュニティを作れば、とてもプレミアになりそうだと反応しました。
400人で1体のCryptoPunksを買うとは?
宮武さんは、アクセスキーやコレクタブル、ネットワークの経済化、オーナーシップエコノミー ── サービスの利用者や参加者が、そのサービスの所有権や利益の一部を持つ経済のあり方。Web3の文脈でよく語られる考え方ですといった要素が、すべて最近のNFTアバターにつながっていると話します。そのうえで、NFTアバターは最初はアートとして見られがちだと前置きしました。
宮武さんが「ちょっと違うかも」と思い始めたきっかけは、ある週末に400人ほどが集まって、1体のCryptoPunksを共同で買いに行った出来事でした。舞台はPartyBidというサービスです。
PartyBidでは、400人がそれぞれ少しずつイーサリアムを出し合い、オークションでCryptoPunksを落札しました。その後、約400人が一斉にTwitterのプロフィール写真をそのCryptoPunksに変えたのを見て、宮武さんも自分で試してみたくなったといいます。
宮武さんが参加したのは、ニュースレター「Not Boring」を書いているパッキーさんの呼びかけでした。最終的に数百人が一緒に入札してCryptoPunksを購入し、購入者だけが入れる専用のDiscordサーバーも立ち上がりました。
専用サーバーでは、元のCryptoPunksにNot Boringのロゴの黄色を加えようという話になり、少なくとも4パターンほどの案から選ばれました。宮武さんのTwitterのプロフィール写真も、いまはそのCryptoPunksになっています。
クリプトパンクのアイコン持ってんのめちゃくちゃお金持ちじゃないですかっていう話ありましたけど、そういう購入の方法の仕方があるんですね。
CryptoPunksにアレンジを加えられるかという草野さんの質問に、宮武さんは、結局は所有権を誰が持っているかの話であり、CryptoPunksではできると答えます。権利を持つのはパッキーさんと数百人の参加者で、宮武さん自身はイーサリアムで数千円を出したレベルだそうです。
宮武さんによると、直近は下がったものの、最も安いCryptoPunksでも3000万円台ほどの値段がついているといいます。
NFTアバタープロジェクトはどう作られている?
Bored Apesの話に入る前に、宮武さんはNFTアバタープロジェクトの作り方を説明します。まず、発行するアバターの数には上限があり、1万体が最も多いそうです。2万体、8000体、5000体などもあり、数は運営側が自由に決められます。
アバターのベースの形は、どのプロジェクトでも基本的に同じです。Bored Apesなら猿の形、恐竜のDinomonksダイナモンクスなら頭の形、Pudgy Penguinsならペンギンの全体の形がそろっています。
一体一体をユニークにするのは、運営が用意する「特徴」です。目や耳の形と色、アクセサリー、Tシャツ、髪の毛などの特徴を100〜200個ほど作り、それぞれに何体まで適用するかというルールを決めることで、レアな特徴とそうでない特徴の差が生まれます。
この髭ついてるのはそんなにレアじゃないけど、この帽子被ってるのめっちゃレアだよみたいな。
宮武さんの例では、1万体のうち髭をつけられるのが1000体なら10%で、わりと普通の特徴です。逆に、サングラスをかけられるアバターが5体しかいなければ、とてもレアな特徴になります。
CryptoPunksで最も高く売れたとされる1体は、肌がグレーっぽいエイリアンのタイプでした。宮武さんによると、この肌色のCryptoPunksはコレクション全体で9体しかいないため、何十億という値段がついたといいます。
人気が出るプロジェクトとそうでないプロジェクトの差について、宮武さんは「NFTアバタープロジェクトを作る前にDiscordサーバーを作れ」とよく言われると紹介します。初期のコミュニティがないと盛り上がらず、過去にCryptoPunksに関わった人が作ると人気になりやすいなど、作り手が誰かもよく見られているそうです。
特徴はミント時にランダムに割り当てられるため、高いお金を出せばいいアバターがもらえるわけではありません。運営は事前にDiscordで作品に込めた思いを語り、ローンチ日にサイトを開き、購入者はそこでウォレットをつないでミントします。
宮武さんによると、ミント価格に手数料を足すと1体あたり3〜4万円ほどになるといいます。ミントは日本語では「鋳造」にあたる言葉ですが、番組ではミントのまま使われています。
宮武さんが自身の失敗談として勧めるのが、NFTアバターは少なくとも2体買うことです。1体だけだと、売った瞬間にコミュニティへのアクセス権を失い、将来のプロジェクトにも関われなくなってしまうからです。
Bored Apesはなぜ5ヶ月で2.4ビリオンになったのか?
ここ数ヶ月のNFTアバターで必ず名前が挙がるのが、猿のアバターで知られるBored Ape Yacht Club(Bored Apes)です。草野さんはグラフィックのかっこよさやストリートカルチャーっぽさを挙げ、宮武さんもそこが重要な要素だと応じます。
宮武さんによると、Bored ApesはCryptoPunksに着想を得たプロジェクトです。最初にアイデアを考えた共同創業者2人が、NFTに関わる人たちは2031年には億万長者になって引退し、猿みたいになるのではないかと冗談を言ったことから、猿のコンセプトが出てきたといいます。
もともとクリプト業界では、Apeという言葉が親しまれていました。1つのNFTや仮想通貨に資金を全投資することを「Aping in」と呼ぶため、業界にとって身近な言葉だったことも追い風になったと宮武さんは話します。
Bored Apesは4月23日にプレローンチし、Discordでコミュニティを作ってミントを受け付けましたが、この時点ではアバターのデザインは見えませんでした。4月30日の本ローンチでデザインが公開されるまでの間、1万体のうち数百体しかミントされず、微妙なプロジェクトだと見られていたそうです。
流れを変えたのは、4月30日の夕方6時半ごろに公開されたデザインでした。それまでのNFTアバターは8ビットで少し古いインターネット感のあるCryptoPunks風が主流でしたが、Bored Apesはストリートやヒップホップの要素を取り入れた、アニメのキャラクターのようなかっこいいデザインだったのです。
そのデザインをミントした人たちが全員PFP化し始めて。で、PFPって何かというとプロファイルピクチャーなんですけど。
ミントした人たちがSNSのプロフィール写真をBored Apesに変えたことで一気に広がり、公開から12時間で売り切れました。その後、二次流通でも値段が跳ね上がっていきます。
宮武さんが収録時点の過去7日間の数字を見ると、二次流通で約350体が売買され、合計は67億円、平均価格は190K(約2000万円)でした。さらに、オークションハウスのサザビーズ ── 1744年にロンドンで創業した世界有数のオークションハウス。美術品や宝飾品などを扱い、近年はNFTのオークションも手がけていますでは、101体のコレクションが24.4ミリオンで落札されています。
宮武さんは単純計算として、1万体の100分の1にあたる101体が24.4ミリオンなら、全体の時価総額は約2.4ビリオンになると説明します。ローンチから5ヶ月でゼロから2.4ビリオンに達したことになります。
ただし宮武さんは、5ヶ月でここまで価格が上がるのはデザインだけでは説明できないと考えています。Bored Apesは世界観やナラティブの作り方が上手く、それによってステータスシンボル、コミュニティ、アクセスキー、ネットワークを一体で作っている点がすごいと話します。
ナラティブとは何か?モナリザが有名になった理由
Bored Apesの強さを説明するために、宮武さんはまず「ナラティブ」という言葉を整理します。手がかりにするのは、アメリカのVC業界で「スターターキット」に入るほど読まれているという、日本でもベストセラーの『サピエンス全史』です。
宮武さんによると、『サピエンス全史』の中心にあるのは、地球の動物の中で人間だけがナラティブを作れるという考え方です。宮武さんはナラティブを「いろんなストーリーの組み合わせ」と定義し、ストーリーとは区別します。
1本の記事、1本のブログ、1本のポッドキャストのような単体の話
複数のストーリーが組み合わさり、新しいテーマや意味、価値が生まれたもの
ナラティブの力を示す例として、宮武さんはNFTではない実際の絵画の話をします。1910年ごろ、お金持ちのアメリカ人がフランスなどヨーロッパのアートを買い集めており、フランス側は自国の文化を買われることを嫌がっていました。
同じころは第一次世界大戦の直前で、フランスとドイツの関係も悪化していました。宮武さんは、これらは本来別々のストーリーだったと前置きしたうえで、1911年8月21日、3人の男性がルーブル美術館からある絵を盗んだ事件に話をつなげます。
宮武さんによると、その絵は1507年に作られたもので、1860年代ごろまではあまり注目されず、当時はルーブル美術館で一番有名な絵でもありませんでした。その作品がモナリザです。
盗難が発覚したのは28時間後で、誰かが修理しているのだろうと思われていたそうです。ルーブル美術館が盗難を公表すると世界中の新聞が報じ、ニューヨーク・タイムズは60人の探偵が捜査に関わっていると伝えました。
フランスでは、JPモルガンのようなアメリカのお金持ちが仕組んだのではないかという疑いも出て、一時はピカソまで事情を聞かれました。モナリザは28ヶ月後にようやく戻ってきます。
そういうストーリーがいろいろ重なっているからこそ、モナリザっていうものがすごい有名になって。そこのナラティブが作られたっていうところですよね。
草野さんも、モナリザを題材にした映画やアニメが数多くあるのは謎が多いからこそだと応じます。宮武さんは、ナラティブとは複数のストーリーが重なって新しい意味や価値を生むものであり、Bored Apesもその視点で見るべきだと話を戻しました。
Bored Apesはどうやって世界観を積み上げたのか?
宮武さんが挙げるBored Apesの1つ目のストーリーは、アバターのデザインそのものです。2つ目は公式サイトで、アバターたちが一緒に過ごしそうなバーの絵が描かれ、「こういう世界です」という世界観が示されています。
Bored Apesのサイトのバーの中には「The Bathroom」というトイレがあり、ここはNFTの保有者だけがアクセスできる場所になっています。サイト上の小さな仕掛けも、アクセスキーとして機能しているわけです。
Bored Apesは、ストリートウェアブランドのThe Hundredsとのアパレルや、Artifactとのスニーカーなどのコラボも手がけています。宮武さんは、ここまではある程度想像できる取り組みだとしたうえで、次の一手が面白いと話します。
その一手が、Bored Ape Kennel Clubです。Bored Apesの保有者が専用の犬のペットをミントできる仕組みで、犬もNFTアバターと同じく特徴がランダムに割り当てられ、レアな犬も存在します。
ペットの犬は別のNFTなので二次流通で販売でき、販売された場合は売上の一部を運営会社がアニマルシェルターに寄付します。宮武さんによると最初の6週間で約1億円を寄付しており、宮武さんが見た中で最も高く売れた犬は金色の犬で、5億円で購入されていたそうです。
宮武さんは、ペットの仕組みには2つの意味があると考えています。1つは、自分のBored Apesを手放さずにマネタイズできること。草野さんも「2体買った方がいい」という前の話と近いと反応しました。
(Bored Apesの世界で新しくペットの概念が出てくると)そうするといわゆるその、マーベルの世界で新しいキャラクターが入ると同じことだと思っていて。
もう1つの意味は、マーベル作品のように世界に新しいキャラクターが加わり、今後もいろいろなキャラクターが生まれる可能性があることです。
Bored Apesは直近で、自分のアバターをミュータント型に変えられる仕組みも始めました。3種類の「液体」のNFTがあり、自分のアバターと組み合わせると、タイプごとに違うミュータント型の新しいNFTが生まれます。
3つ目のタイプの液体は世の中に8つしかないとされ、組み合わせるとこれまで見たことのないNFTになるといいます。宮武さんによると、誰が持っているのかはまだわかっていないそうです。
ペットの犬は元のアバターとは無関係の別NFTですが、ミュータント型は元のBored Apesと同じ特徴を引き継ぎます。カウボーイハットをかぶったアバターなら、ミュータント型も劣化したり変化したりした同じ帽子をかぶっているのです。宮武さんは、これらを運営によるトップダウンの世界観作りだとまとめます。
持ち主が勝手に広げる世界。ボトムアップのIP作り
宮武さんによると、Bored Apesの面白さはトップダウンだけでなく、ボトムアップの世界観作りもしている点です。Bored Apesでは商業利用の権利であるコマーシャルライセンスを、アバターの所有者が持っています。
例えば私がボードエイプスのアバターを持ってたら、それを使ってフィギュアとか作ってもOKですか?
全く問題ないです。
実際に、自分のBored ApesでTシャツなどのアパレルを作る人がいます。ミシガン州のビール会社のオーナーは2体を購入し、そのキャラクターを使った「Bored Ape IPA」を販売しているそうです。自分のアバターを主人公にしたアメコミ風のコミックを作る人もいます。
さらにBored Apesのコミュニティは、保有者だけが入れる「Writers Room」というサイトを作りました。コミックや映画のアイデアを投稿すると、コミュニティが投票したり資金を出したり、自分のアバターをライセンスして売上を分け合ったりできます。
いわゆるそのコミュニティがIPを作ってるっていうところで。
宮武さんは、運営がトップダウンで作る世界を、保有者たちが勝手に進化させていく様子を、以前番組で話したDream SMPに近い感覚だと話します。草野さんも、保有者が単体で動くより、全員でBored Apesの価値を上げる相乗効果が生まれていると受け止めました。
宮武さんは、Bored Apesのようなコミュニティはもはや小さなSNSだと考えています。Twitterで作ったフォロワーをInstagramやDiscordへ移すのは大変ですが、NFTアバターならプロフィール写真を変えるだけで、どのSNSでも自分のステータスを示せるからです。
今の既存のSNSのレイヤーの一個上のレイヤーのSNSだと思ってて。
草野さんが「リテラシーが高い人向けのコミュニティ」だと受けると、宮武さんはリアルな世界ではハーバードのような大学に近いと説明します。ブランド価値を保つために入れる人を制限し、卒業生は仕事でもSNSでも「ハーバード卒」と言えてステータスがつく、という構造が似ているといいます。
一方で宮武さんは、ハーバードもBored Apesも、運営が制限をかけている点ではトップダウンのアプローチだと付け加えました。ここから話は、より徹底したボトムアップのプロジェクトへ移ります。
文字だけのNFT「Loot」はなぜ注目されたのか?
8月末からクリプト業界や一部のテック業界がこの話題で持ちきりだというのが、Lootです。作ったのはVineや動画アプリByteの創業者でもあるDom Hofmann(domさん)で、草野さんは、domさんが作るサービスはいつもトレンドの先を行っていると話します。
宮武さんも、Vineはどの会社よりも早くショート動画を手がけていたと応じます。domさんはNFT系のプロジェクトを3〜4つ手がけており、その中でもいま最も盛り上がっているのがLootだといいます。
宮武さんは、Bored ApesとLootの違いを家とレンガにたとえて説明します。Bored Apesのようなトップダウン型は、同じ形の家を与えられ、中をリノベーションするようなものだといいます。
レンガを渡されれば、家を作る人もいれば、橋やスタジアム、椅子を作る人も出てきます。宮武さんは、素材だけを渡して何を作るかを委ねる点こそが、Bored ApesとLootの違いだと話しています。
同じ形の家を与えられるトップダウン型。デザインや世界観は運営が決め、持ち主がその中で手を加える
レンガだけを渡されるボトムアップ型。ベースのNFTの上に、誰でも自由にプロジェクトを作れる
Lootは最初に「Loot Bag」を8000個発行し、ミントの手数料以外は無料でした。8000個はすぐに売り切れています。
Lootの画像は、草野さんの言葉を借りれば「黒い背景に白い文字が並んでいるだけ」です。文字は8つのテキストで、剣や鎧など、ゲーム内のアイテムのような名前が書かれています。
何なの?って感じですよね。
それでもLootは、ローンチから5日後には合計46ミリオン分の取引が行われました。宮武さんは、無料だったことやdomさんが関わっていることも理由の一部だとしつつ、それ以上に可能性を感じた人が多かったと見ています。
テキストだけだからこそ、誰でも、自分の世界観をその上に作れるんですよね。もちろんある程度その8つのアイテムで制限されますけど。
アイテムには、ドラゴンソードのような剣や、レアなものだとディバインローブという鎧などがあります。すでに、テキストをもとに各アイテムを自動で画像化するサービスや、アイテムからキャラクターを作るプロジェクトが、保有者でない人も含めて勝手に作られています。
Lootの上に何が生まれ、誰が参加できるのか?
宮武さんによると、Lootのテキストだけでゲームを作ろうとしている人も何人もいます。Axie Infinityの創業者をはじめ、クリプト業界のトッププレイヤーがこぞってLootに取り組んでいるそうです。
8つのアイテムがまとめて1つのNFTになっているLootを、アイテムごとの別々のNFTに分けるサービスや、そのアイテムを取引するマーケットプレイスも作られています。Lootのゲームが生まれれば、そこにアイテムを組み込めるという発想です。
草野さんは、Lootを取り巻く人たちの開発力の高さに驚いたと話します。宮武さんは、アメリカには昔から週末にとりあえず作ってみるハッカソン ── 短期間に集中してソフトウェアやサービスを開発するイベント。エンジニアやデザイナーがチームを組み、アイデアを形にする文化として広く定着していますの文化があり、SquareのCash Appもハッカソンから生まれたと説明しました。
宮武さんが強調するのは、Lootにはルールも答えもないことです。アイテムが出されているだけなので、誰でも何でも作れ、domさんの許可も必要ありません。Bored Apesではデザインやクリエイティブが制限されていましたが、Lootの唯一の制約はテキストのアイテムだけです。
宮武さんは、これが本当のボトムアップのアプローチだとしつつ、成功するかは正直わからないとも話します。IPのユニバースが生まれるかどうかは、コミュニティがどれだけ動き、面白いものを作れるかにかかっているからです。
Lootには後から、More Lootの略である「mLoot」が加わり、追加で100万個を無料でミントできるようになりました。宮武さんも4つほど持っているそうです。さらにdomさんは、NFTではない「合成Loot」も作りました。ウォレットを持っていれば自動的に与えられ、ミントも必要ありません。
宮武さんによると、この3種類によって、参加できる範囲の異なる3つのゲートが生まれました。作り手は、どこまでの人に開くかを選べるようになったのです。
| 種類 | 規模 | 特徴 |
|---|---|---|
| Loot | 8000個 | 最初の8000人だけが持てる元のNFT |
| mLoot | 100万個 | 追加で無料ミントできるNFT |
| 合成Loot | ウォレット保有者全員 | NFTではなく、ミント不要で自動的に与えられる |
このゲームを開発してた人が、合成Rootであなたも遊べますって言って、私も遊べるみたいなことですか?
ああ、まさに、まさにそうです。
合成Lootなら、Lootを持たない人もゲームやアプリを作れます。宮武さんは、Lootを持っていない自分がLoot保有者向けのアプリを作っても検証できないが、合成Loot向けなら検証も、自分で遊ぶこともできると説明しました。
3つの区別をどう使うかも、コミュニティが判断します。宮武さんは、アートもなく、チームや会社がリードせず、完全無料でコミュニティに開いてアプリを作らせるのは、これまでのNFT業界ではあり得なかったことだと話します。
ふとゲシュタルト崩壊しますね、なんか。これなんか、でも結局何もものないんだよなみたいな。
草野さんはそのうえで、NFTはもともと物理的なものがないことが多く、文字と情報だけで価値がつくのは同じ話だと気づきます。宮武さんも、ユーザーが価値を大きくしていくという点でまさにそうだと同意しました。
宮武さんによると、サッカーのポジションと能力値がランダムに発行され、それでチームを作るといったLootに似たプロジェクトも生まれています。今年はこうした「Loot for X」が数多く出てくるのではないかと見ています。
宮武さんは、コミュニティがIPを作るという考え方自体は昔からあるとも話します。映画『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』は人気小説『トワイライト』のファンフィクションから生まれ、Counter-StrikeやDota 2も別のゲームのMOD ── 既存のゲームを改造したり拡張したりする、ユーザー制作の追加データやプログラム。MODから独立した人気タイトルが生まれた例も多くありますから生まれています。Lootは、それをNFT業界でどう実現するかへの初挑戦だという位置づけです。
フォートナイトはファッション企業?メタバースとNFTアバター
宮武さんは、NFTとメタバースの関係にも話を広げます。以前の回では、デジタルアセットを複数のサービスで使えるようにする基盤としてNFTが必要になると話していましたが、NFTアバタープロジェクトにも別の関連があるといいます。
Bored Apesは、ペットやミュータント型に続き、自分のアバターの3D版をミントできる取り組みを運営自身が始めました。宮武さんは、3Dアバターを今後ゲームなどに導入するための布石だと見ています。
いや、もう数年後フォートナイトに出てくることを。
いや、絶対出てくると思います。
Artifactが新たに手がけるアニメ風のアバタープロジェクト「AKIRA」も、最初から3D化されています。宮武さんは、アバターがフォートナイトのようなゲームに登場する未来をArtifactは以前から考えていると話します。
宮武さんによると、いまは多くのゲーム会社がNFTの導入を検討している時期で、大半は新作ゲームでアイテムをNFT化する方向に進むと予想されます。ただし宮武さんの個人的な予想では、Epic Gamesは既存のフォートナイトに組み込むといいます。
クリエイターモード
ユーザーがフォートナイト内で世界やデジタルアセットを作る
NFT化
作られたデジタルアセットがNFTになる
Unreal Engineのマーケットプレイス
NFTがEpic Gamesのマーケットプレイスに並ぶ
他のゲームへ
Unreal Engineを使う開発者が、自分のゲームに簡単に導入できる
宮武さんは、フォートナイトはもはやゲーム会社ではなくファッション企業だと考えています。2018年から2019年にかけての売上9ビリオンのほとんどがデジタルスキンで、毎年3〜5ビリオンのスキン売上はプラダと同水準、ドルチェ&ガッバーナやボッテガ・ヴェネタを上回るといいます。
しかもこの売上は、フォートナイトというクローズドな世界の中だけで生まれています。宮武さんは、スキンが他のゲームやSNS、ミラーワールド ── 現実世界をデジタル上にそっくり再現した世界を指す言葉。ARなどを通じて現実とデジタルが重なる未来像として語られますでも使えるようになれば、各スキンの価値は上がると予想します。
宮武さんはさらに、デジタルファッションの市場は、リアルなファッション市場の何倍もの規模になると見ています。草野さんも、自分がその服を着られるようになると聞いて「めっちゃ楽しい」と反応しました。
宮武さんは、この領域が普及するには、ポップカルチャーや企業がNFTをどれだけ受け入れるかが鍵だと話します。最近ではThe ChainsmokersがBored Apesを購入しており、草野さんは彼らが有名な投資家でもあると補足しました。
スポーツも重要な入口です。宮武さん自身が最初に買ったNFTは、バスケットボールのハイライトをカード化したNBA Top Shotでした。クリプト業界の調査で精度はわからないとしながらも、最初のNFTをNBA Top Shotで買った人は78%にのぼるといいます。
NBA Top Shotはクレジットカードで買え、ウォレットも裏で自動的に作られるため、購入のハードルが低くなっています。宮武さんは、よくわからない猿のアバターより、コービー・ブライアントのような有名選手のほうが親しみやすいと話し、ポップカルチャーに当て込むことや、VISAがCryptoPunksを購入したような動きが普及には重要だとまとめます。
NFTに手を出すなら、まず何をすべき?
結論に入る前に、宮武さんは現実的な注意を挟みます。NFTを投資として扱う人に向けて、ほとんどのNFTプロジェクトは失敗するという点だけは理解してほしいというのです。
急に現実に戻す。
宮武さんは、投資をするならNFTが何かを学び、自分で少し購入してみることを勧めます。なかでも一番の勧めは、良いクリプト業界のコミュニティに入ることだといいます。
宮武さんが例に挙げるのは、誰でも入れるCryptoPunksのDiscordサーバーです。しっかりしたコミュニティなので、価格の話だけでなく、何を見るべきかを教え合う雰囲気があるそうです。NFTプロジェクトArt BlocksのDiscordサーバーもおすすめだといいます。
草野さんは、Bored ApesやCryptoPunksは成功したトップの事例だと受け止めます。誰でもNFTを作れるからこそ「ただの絵なんじゃないの」と思われてしまうのは悲しいとしつつ、成功の裏にはナラティブや戦略、アメリカという環境、domさんという人物、コミュニティに根付いたプロダクトなど、見た目以外の要素がいくつもあると話しました。
宮武さんもこれに同意し、ユーティリティ化、アクセスキー、ペットの仕組みなど、ナラティブの作り方が非常に重要になると話します。Bored Apesのようにトップダウンとボトムアップを組み合わせるもの、完全にボトムアップのもの、トップダウンだけのものがあり、その組み合わせで文化にどう根付くかが価値を左右するといいます。
おもちゃに見えるNFTは次のインターネットになるか?
最後に宮武さんは、NFTプロジェクトはいまも多くの人にとって「おもちゃ」のように見えるだろうと話します。草野さんも、特にLootはパッと見では理解が難しいと率直に返しました。
宮武さんはLootについて、成功するかも正直わからないと認めています。そのうえで、SNSやFacebookなど大きな新技術は、どれも最初はおもちゃのように見えたと続けます。
宮武さんは、インターネットも同じだったと振り返ります。最初は企業が半分ふざけてマーケティングやPRのために「.com」のドメインを買っていましたが、やがてインターネットの上にアプリケーションのレイヤーが生まれ、SNS、Airbnb、Uber、Stripe、Amazon、Epicといったユースケースが価値を生み始めました。
おもちゃに見える時期
企業がPR感覚で.comドメインを買う。NFTもいまはおもちゃに見られがち
基盤の上にアプリが生まれる
インターネットの上にSNSやAirbnb、Uberなどが登場した
ユースケースが価値を生む
NFTやWeb3はいま、ようやくユースケースが作られ始めた段階
宮武さんは、かつて企業がビジネスをどうデジタル化するかを考えたように、いまは事業をどうブロックチェーン化し、NFTやトークンをどう組み込むかを考え始めるべき時期だと話します。いま立ち上がっている会社が、来年や再来年にはユニコーンになっている可能性もあるといいます。
宮武さんが考えるWeb3やNFTの根本は、参加している全員が何かしら報われるプラットフォームであることです。運営会社だけが儲かるのではなく、ネットワークやサービスに参加する人が報われる仕組みが次のインターネットの姿になり、メタバースもその一環だと見ています。草野さんは、Axie Infinityもまさにそうだと応じました。
この場面で草野さんは、リスナーからTwitterで「宮武さんは『まさに』をよく言う」と指摘されていたことを明かし、気づいてもらおうとわざと「まさに」を強調していたと笑います。
話はサービスの作り方の変化に戻ります。宮武さんによると、分散化されたUberや、以前番組で紹介したBraintrustのような分散化されたUpworkはすでに作られており、分散化されたAirbnbのようなものも今後必ず出てくるといいます。
UberのオーナーってUberじゃないですか。Uberの株主じゃないですか。それをドライバーがオーナーだったらどうなるの?っていう話で。
ドライバーがオーナーになれば、より稼げたり、会社の方向性を決められたり、株を通じて成長の恩恵を受けられたりします。宮武さんは、成功するかはもちろんわからないとしつつ、供給側を利用するだけだったギグエコノミーやマーケットプレイスで、参加者が優位な立場に変わりうると話しました。
草野さんは、既存のUberやAirbnbが分散化に踏み切るにはビジネスモデルを根本から作り替える必要があると指摘し、宮武さんもなかなか難しいと認めます。NFTアバターから始まった話は、サービスの所有者は誰かという問いに着地して、この回は締めくくられました。
まとめ
今回のOff Topicは、NFTアバターを「ただの絵」ではなく、コミュニティへの鍵であり、複数のストーリーを束ねるナラティブの器であり、参加者がIPを育てる土台として捉え直す回でした。Bored Apesのトップダウンとボトムアップの組み合わせ、Lootの徹底したボトムアップは、まだ成功するかわからないとされながらも、次のインターネットのあり方を考える手がかりとして紹介されています。
- NFTは、Discordへの入場券やリアルな靴との交換券のように、持っている人だけが場や特典にアクセスできる「アクセスキー」として使われている
- NFTアバターは1万体前後の上限とランダムな特徴でレアリティを作り、ローンチ前のコミュニティ作りが人気を左右すると宮武さんは話す
- Bored Apesはデザインに加え、ペット、ミュータント型、商業利用の権利の開放などで世界観を重ね、5ヶ月で推定2.4ビリオン規模になった
- テキストだけのLootは「家ではなくレンガを渡す」ボトムアップ型で、Loot・mLoot・合成Lootの3つのゲートで参加範囲を選べる
- ほとんどのNFTプロジェクトは失敗するため、投資するなら良いコミュニティで学ぶことを宮武さんは勧めている




