Googleの検索はここまでどう進化してきたのか
今回のOff Topicは、前回のAI検索エンジンの話の後編です。宮武さんは、Googleがこの領域に入るにあたってどんな取り組みをし、どんな課題を抱えているのかを話したいと切り出します。
宮武さんによれば、AI検索エンジンは「検索」というより「AI回答エンジン」と呼ぶほうが近いかもしれません。その上で、AI検索が今の市場を崩すのか崩さないのか、検索市場がどう変わるのかまで話すのが今回の狙いです。
多くの人は、人材も流通も持つGoogleがAI検索でも勝つと考えがちです。草野さんも「大手だし、できること多そうですもんね」と応じます。
そもそもGoogleは、1回の検索結果に10個のURLを並べるTenBlueLinkModel ── 検索結果ページに青字のリンクを10件並べる、従来型の検索エンジンの表示形式。「10本の青いリンク」と呼ばれ、Googleがこの形を主流にしましたを広めた会社です。そのうえで、検索体験自体も少しずつ進化させてきました。
宮武さんが例に挙げるのが、2012年に始まったナレッジグラフです。「今サンフランシスコは何時か」「Facebookのローンチ日はいつか」といった質問に、Googleがページ上で直接答えを返してくれる機能です。
さらにここ10年ほどは広告の表示が増え、10本の青いリンクはページの下のほうへ押しやられています。AI時代に入ってからは、複数のソースから回答をまとめて表示するSGE ── Search Generative Experienceの略。Google検索の結果ページに、生成AIがまとめた回答を表示する機能で、回答内にリンクや広告が入る場合もありますを出し始めています。
上の年表は、宮武さんが話した順にGoogleの検索体験の変化を並べたものです。「すぐ答えを出す」方向へ少しずつ進んできたことがわかります。
AIの回答が要る検索と要らない検索の違いは?
宮武さんは、すべての検索にAIの回答が必要なわけではないと指摘します。たとえば「Facebook」とだけ入れた人は、facebook.comに行きたいだけかもしれません。
「Facebook」って入れると、おそらくfacebook.comのサイトを出してほしいっていう。そこでわざわざ「Facebookとは何か」っていう回答って必要ないじゃないですか、多分ですけど。
一方で、「今週末東京で何をするべきか」という質問は、何人で行くのか、子どもがいるのかなどで答えが変わる複雑な問いです。Googleはこうした情報へのアクセスを持っていても、それをまとめて答える経験はこれまでなかったと宮武さんは話します。
宮武さんによると、Googleの従来の役割は、検索しやすくするために情報を整理することでした。AI時代には、情報そのものをどう整理して答えるかを考えなければなりません。
Googleはこの領域に積極的に投資していて、SGEも当初はGoogle Search Labsに登録しないと使えなかったものが、少しずつ通常の検索にも広がっています。それでも宮武さんは、個人的な意見と断ったうえで、Googleがディスラプトされる可能性が少しずつ高まっているのではないかと見ています。
AT&TやXeroxと同じ「イノベーターのジレンマ」に陥るのか
宮武さんは、今のGoogleを、かつてのAT&T、IBM、Xeroxの立ち位置になぞらえます。3社はいずれも優れた研究所で新技術を生みながら、会社の過去にとらわれて重りを抱えた企業でした。
Googleとしてはこのテンブルーリンクモデルっていうものが重りになってる可能性があるんじゃないかなっていうふうに思ってますね。
草野さんが「(10本のリンクは)メインプロダクトですもんね」と返すと、宮武さんは「これがなければもう会社潰れますよね」と応じます。一番の花形を自ら壊して代わりを作るのは難しい、という点で2人の見方は一致しています。
宮武さんは、上場企業であるGoogleが次の四半期決算を意識せざるを得ず、株主に「コアな体験を全部壊しました」とは言えない事情も挙げます。ただし、かつてディスラプトする側にいたテック企業なら、それをやってもおかしくないとも話します。
そのうえで宮武さんは、Googleには株主の問題以外に3つの大きな課題があると整理します。1つ目がカルチャー、2つ目と3つ目が10本のリンクのモデルに起因するコンテンツモデレーションとビジネスモデルの問題です。
Gemini炎上で何が起きたのか
課題の前提として宮武さんが紹介するのが、GoogleのAIモデルGemini ── Googleが開発した生成AIモデル。テキストだけでなく画像生成なども扱い、Googleの各種サービスに組み込まれていますの炎上です。アメリカでは大きな騒ぎになり、Googleが一時的に機能を引き戻す事態になりました。
リリース直後は多くの人が「やばい回答」をしないか検証します。草野さんの言葉を借りれば「粗を探してしまう」状況で、実際にいくつか致命的なミスが見つかりました。
宮武さんが挙げる例の1つが画像生成です。歴史上の人物を出すよう頼むと、Geminiは必ず多様性を入れる設定になっていたようで、白人であるジョージ・ワシントンが黒人やアジア系として描かれたといいます。
あとはまあ一番多分やってはいけないやつです。ナチスの人たちの画像を出してくださいって言うと、なぜか黒人がいたりとか。
テキストでも、「イーロン・マスクとヒトラーのどちらが社会にネガティブな影響を与えたか」と聞くと、Geminiが答えずに「どっちもどっち」のような反応をした事例があったと宮武さんは紹介します。
宮武さんの推測では、AIモデルの上に、アメリカでDEIと呼ばれる考え方に基づくレイヤーが1枚乗っていたのではないかといいます。少しでも差別的な要素があれば回答を止める方向に設定されていた、という見立てです。
技術ではなくカルチャーが問題なのはなぜか
宮武さんは、Gemini炎上の原因はモデル自体ではなく、その上に乗っていたものにあると考えています。だからGoogleの問題は技術人材や才能ではなく、カルチャー面にあるのではないかという見方です。
Googleでは5〜10年ほど前から、新プロダクトを出すスピードが落ちていることが課題でした。GoogleはTransformer ── 2017年にGoogleの研究者らが発表したニューラルネットワークの構造。ChatGPTなど現在の生成AIの土台になっている技術ですの論文を出しながら、OpenAIに先を越されています。
宮武さんによると、Googleが当時から本気で投資していれば、GPT-4レベルのものを2019年に出せたという話もあります。トレーニングデータもすでに揃っていたからです。
一方で、今回のGeminiはスピード感を持って出されており、宮武さんはそこは評価すべきだと話します。Gemini 1.5は大きなコンテキストウィンドウを持ち、技術的なブレイクスルーもあるといいます。
それでも宮武さんは、今回の炎上で表に出たのはカルチャーの課題だと見ています。その転機として挙げるのが、2016年のアメリカ大統領選挙です。
選挙直後、Googleの社内全体会の動画がリークされました。セルゲイ・ブリンさん、CEOのスンダー・ピチャイさん、CFO、法務担当など経営陣が、選挙結果を振り返ってとても悲しいトーンで話していたといいます。
草野さんは、シリコンバレーのテック企業はリベラルでトランプ氏に反対しているイメージがあるので、仕方ないのではと疑問を投げます。宮武さんはそのイメージは正しいとしつつ、問題は個人の考えを会社に持ち込んでいるように見えた点だと説明します。
(共和党の人たちは)もうすでに、なんかバイアスがあるって感じてたのが、これを見て、なんか証明されたみたいな風に見えてしまったんですよね。
リーク後、Googleはわざわざプレスリリースを出し、個人の意見表明は自由だが会社としてはフラットに運営していると説明しました。宮武さんは、それほどの評判上のダメージだとGoogle自身が感じていたのだろうと話します。
宮武さんは政治的な論点はいったん脇に置き、会社が大きくなるにつれて、新プロダクトを出すときに反対意見を言いにくくなっているのではないかと指摘します。
オープンなQAセッションの文化はどう変わったのか
宮武さんによると、元々のGoogleのカルチャーはとてもオープンでした。創業者のラリー・ページさんとセルゲイ・ブリンさんが毎週、従業員とのQAセッションを開き、さまざまな質問に答えていたといいます。
宮武さんは、答えが毎回素晴らしかったわけではないとしつつ、情報共有を本気で優先していた会社だったと話します。その空気が、2016年の選挙を境に2017年ごろから変わり始めたという見方です。
2017年、あるGoogleのエンジニアが社内メモで、採用が多様性に偏りすぎているのではないかという懸念を示しました。宮武さんによれば、メモは強く批判するものではなく、「こういうことが起きている可能性はないか」と問いかける内容だったといいます。
以前のオープンなGoogleなら、実態はどうなのかを話し合えたはずだと宮武さんは考えます。ところが経営陣はそのエンジニアを解雇しました。社内メモが理由だったかどうかは定かではない、と宮武さんは補足しています。
週次のQAセッションは今も続いていますが、スンダー・ピチャイさんはその場での質問を受け付けず、事前に集めた質問から選ぶ形にしているそうです。草野さんはこれを「一回持ち帰り」と表現します。
宮武さんは、質問数が多いという理屈は理解できるとしながらも、場合によってはネガティブな方向に働くように見えてしまうと話します。
創業者2人が週次で従業員の質問にその場で答えるオープンな場
セッションは続くが、質問は事前に集めて選ぶ形に
「Externalization」というプロダクト文化とは?
宮武さんが挙げるもう1つのカルチャー面の課題は、Google独特のプロダクト開発文化です。Googleでは開発の場で「Externalization」、訳すと「外面化」という言葉がよく使われるといいます。
これは、プロダクトファーストや顧客ファーストではなく、まず社内でブレイクスルーとなる技術を作り、それをどう外に出すかを考えるやり方です。草野さんは「(技術を)ユーザーにどう届けるか、どうアウトプットするか」と言い換えています。
ユーザーや顧客の課題から出発してプロダクトを考える
社内で先に技術を作り、それをどう外部に出すかを考える
宮武さんは、Googleの初期プロダクトが研究論文から始まっていることを考えると、この文化は自然なものかもしれないと話します。ただ、このやり方が今回のGeminiの問題にもつながっている可能性があるとも見ています。
退任メールの半分が書き換えられた話
社内でものを言いにくくなっているという話は、Googleの元従業員からいくつも出ていると宮武さんは言います。その1つが、Bump Technologies ── スマートフォン同士を軽くぶつけるだけで連絡先などのデータを交換できるアプリ「Bump」を開発した会社。初期のiPhoneで話題になりましたの創業者、デイビッド・リーブさんの話です。
Bumpは2013年にGoogleに買収され、デイビッドさんはGoogle内でGoogle Photosをほぼ立ち上げた人物です。2022年、彼はY Combinator ── アメリカの著名なスタートアップ支援組織。短期集中のプログラムと出資で、AirbnbやDropboxなど多くの企業を輩出していますに移るためチームを離れることになりました。
デイビッドさんがチームへの退任メールを送る前に、Googleのチームが「変なことを書いていないか」をレビューする必要がありました。宮武さんは、自分は原文も最終版も見ていないと断ったうえで、デイビッドさんの言葉では半分ほどが書き換えられたと紹介します。
(退任メールの)一番最後に、チームに「どんどんイノベーションして、どんな新しいものを作って出してくださいね」っていうので終わらせたんですけど、その部分が全部なくなってたって言ってました。
草野さんは「そんなに悪いことは言ってない気がしますけどね」と驚きます。宮武さんも、Google側に何か事情があったのか、単なる過剰反応だったのかはわからないとしつつ、そういう文化になっていること自体が大きな課題だと話します。
平時のCEOでは戦えないのか?次のCEO候補を考える
宮武さんは、カルチャーはボトムアップでは直せず、トップダウンでしか変えられないと考えています。だからこそ、過去のオフトピックデイリーメモでも触れたように、CEO交代を検討すべきではないかと話します。
スンダー・ピチャイさんがCEOになったのは2015年8月です。宮武さんは彼を平和な時期の理想的なCEOだと評価しつつ、今のGoogleは戦争の局面にあると見ています。
今は戦争のタイミングなんですよ、Googleは。もうアグレッシブに戦いに、もう叩きに行かないといけないので、相手を。
そこで宮武さんは、あくまで架空の話として次のCEO候補を挙げていきます。草野さんが先回りしてブレット・テイラーさんの名前を出し、宮武さんが「さすがです」と返す場面もありました。
| 候補者 | 強み | 懸念点 |
|---|---|---|
| デミス・ハサビス | DeepMind創業者でAIの知見が豊富 | 大企業のCEO経験がなく、AI以外の事業を率いられるか不明 |
| ブレット・テイラー | 元Google、OpenAI会長、SalesforceのCo-CEO経験 | どこまで戦時型の人物かわからない |
| ナット・フリードマン | GitHub創業者、AIファンドを運営 | 大企業のCEO経験がない |
| ニケシュ・アローラ | Palo Alto NetworksのCEO、元GoogleのCBOでアグレッシブ | 特に挙げられていない |
| フランク・スルートマン | 元SnowflakeのCEOで非常にアグレッシブ | 特に挙げられていない |
上の表は、宮武さんが候補ごとに語った強みと懸念を並べたものです。草野さんは、ブレット・テイラーさんがSalesforceで戦時型と見られるマーク・ベニオフさんの下で働いていた点にも触れ、そのイズムを受け継いでいるのではと話しています。
宮武さんが「戦時に合う」と考えるのは、ニケシュ・アローラさんとフランク・スルートマンさんの2人です。草野さんもGoogleの社内政治を知る人のほうが良さそうだと応じ、宮武さんも大企業では社内政治を知らないと厳しいと同意します。
検索部門のトップ交代と、創業者2人の動き
CEO交代は議論の段階ですが、Googleは検索領域ではすでに組織を変えています。宮武さんによると、過去2〜3年AI検索やマルチサーチを率いていたリズ・リードさんが、検索部門全体の責任者になりました。
宮武さんは、Googleが検索のトップをよりAIに焦点を当てた人物に替えている表れだと見ています。
草野さんが「社長が変わりそうなのか」と尋ねると、宮武さんは、議決権を持つラリー・ページさんとセルゲイ・ブリンさんが動かない限り変わらないと答えます。セルゲイさんは何か感じている部分はあるだろうが、今のところ全く見えない、という見立てです。
創業者が戻ってくるという声もありますが、宮武さんはその可能性は低いと考えています。ラリーさんはほぼGoogleにおらず、最近キャンパスによくいるセルゲイさんにも、巨大企業を運営するエネルギーと意思があるかは疑問だからです。
10本のリンクはなぜGoogleを中立にしてきたのか
ここから宮武さんは、残り2つの課題に入ります。どちらも根本的にはプロダクトの問題で、10本のリンクのモデルがAI検索にいかに合わないかという話です。
1つ目はコンテンツモデレーションの問題です。従来のGoogle検索では、アルゴリズムが裏方として検索クエリに合わせてページを並べるだけなので、FacebookやTwitterと比べて中立的な立場を取りやすいと宮武さんは説明します。
ユーザーは自分の好きなトピックを、たとえ真実でないことでも検索できますし、誰かが記事を書いていればそれが表示されます。違法サイトなどを除けば、Googleは基本的に結果を選別しないため、バイアスがかかりにくいという見方です。
草野さんは、Geminiのように「これ」と1つ答えて間違っていたら「コラ」と言われる、と応じます。宮武さんは、10本のリンクなら「こういう考えも、こういう考えもある」と示せるのに、1つの回答ではそれができなくなると話します。
宮武さんは、インターネットと元々のGoogle検索を印刷機にたとえます。誰でも自分の考えを世界中に広められるようになり、情報の供給側が無限に増え、そこへのアクセスも増えました。
供給側が無限に増え、ユーザーもその多様さにアクセスできる
供給側は無限にあるのに、回答が1つなので多様さが見えない
このたとえで宮武さんが強調するのは、AI検索ではサプライ側が無限にあっても、エンドユーザーには回答が1つしかないように見えるという点です。
草野さんは、従来の検索では「リンクを踏んだのはあなたの責任」と言えたと整理します。宮武さんは、Geminiの回答はGoogleの意見のように見えるため、誰も満足させられない構造になると話します。
草野さんは、Googleがツールに徹し、ユーザーの情報をもとにカスタマイズするだけだと示せばよいのではと提案します。宮武さんは、そのパーソナライズは後半で話す重要なポイントだとしつつ、今は1つの回答しか出せないため、人に合わせた答えが難しいと説明します。
AI回答は従来の検索の10倍のコストがかかる
2つ目の課題はビジネスモデルです。宮武さんによると、Googleは今、1日におよそ100億クエリを処理し、その数は年4%ほど伸びています。
ChatGPTのようなAIサービスにどれだけ置き換えられるかによっては、このクエリ数が伸びなくなる時期が来るかもしれません。投資ファンドのアルティメーター ── Altimeter Capital。アメリカのテック分野に強い投資ファンドで、上場企業やスタートアップへの投資で知られていますは、Googleのクエリ数が下がると予想しているといいます。
宮武さんは、クエリ数が下がらなくてもエコノミクスは変わると話します。10本のリンクを表示するコストが1クエリあたり約3分の1セントであるのに対し、AIの回答は大きく上回るからです。
上の数字は宮武さんが挙げた現時点の目安で、宮武さん自身もコストは今後下がっていくだろうと話しています。
さらに、1つの回答が出るとユーザーはリンクを踏まなくなります。広告を表示してもクリックされなければ、売り上げは落ちるという流れです。
回答コストの増加
AI回答は従来の約10倍のコスト
リンクを踏まなくなる
1つの回答で満足し、ユーザーがクリックしない
広告が効かない
広告を表示してもクリックされない
マージンの低下
マーケットシェアに関わらず利益率が落ちる
草野さんは「(AI回答は)やらない方がいいですね」と言いますが、宮武さんは「でもやらないといけない」と返します。長期的には避けられない変化だという点で2人は一致します。
短期的な救いは、減りそうなクエリがWikipediaで調べるような情報系の検索に偏る可能性があることです。こうした検索にはもともと広告があまり出ないため、すぐには売り上げに響かないと宮武さんは見ています。
ただ今後は、アフィリエイトのような取引型モデルに移る必要が出るかもしれません。宮武さんによると、今のGoogleは広告主同士がオークションで競う場を提供するモデルです。
広告主がGoogleを使うのは主にマーケティングのリード獲得のためで、リード獲得なら高い金額を払えます。一方、取引の成立に応じた手数料では、50%は取れず、5〜10%程度しか取れなくなるだろうと宮武さんは話します。
そもそも今の99パーセントのマーケットシェアを持っていて、これだけの利益額を持っているのをキープできるって思う方が、若干おかしいのかなって思っていて。
草野さんが「詰めますね」と笑うと、宮武さんは、Googleがリードを保って勝ち抜く可能性もあると補います。そのうえで、上位を潰しに行くのがスタートアップの仕事だとも話しています。
ポータルから検索への移行と何が違うのか
宮武さんは、1つの回答を出すことの課題は、Googleに限らず多くのアグリゲーター ── 多数の提供者の情報や商品を1か所に集め、ユーザーに届ける事業者のこと。検索エンジンやマーケットプレイスなどが代表例ですが感じることになると見ています。いろいろな意見のユーザーが増えるほど、1つの回答は合わなくなるからです。
しかも、回答のためのコンピューティングコストに加え、前回話したようにデータを獲得するコストも上がっていくと宮武さんは指摘します。
宮武さんは、ポータルサイトの時代から検索の時代へ移ったときにも同じ議論があったと振り返ります。当時も「YahooはGoogleをコピーすればいい」と言われましたが、ビジネスモデルが違ったため同じことはできなかったという見方です。
ただし当時と今では違いが2つあります。1つ目は、Googleがページランクで明らかに優れた体験を出していたのに対し、PerplexityやChatGPTにはそこまでの差がまだ見えないことです。
草野さんが「(今なら)勝てるかもしれない」と言うと、宮武さんは、ビジネスモデルで考えると勝てない気がする一方、プロダクトの差がない点は以前と違うので読みにくいと答えます。
ネット全体のトラフィックが落ちると誰が困るのか
ポータルから検索への移行との2つ目の違いは、インターネット全体のトラフィックへの影響です。検索はウェブにアクセスしやすくする方法だったので、トラフィックはむしろ増えたと宮武さんは考えています。
一方で、1つの回答を出すエンジンではユーザーがサイトをクリックしなくなり、全体のトラフィックが落ちるかもしれません。宮武さんは、それが良いか悪いかはわからないとしつつ、各所の広告売上が下がる可能性を指摘します。
草野さんも、Googleの検索結果に出る要約を見るとありがたく感じ、サイトを見なくなりそうだと話します。宮武さんは、これは特定の会社というより、メディアサイト全体の課題になると見ています。
広告売上が落ちれば、どのビジネスモデルが正しいのかが問われます。宮武さんは、消費者は基本的に検索にお金を払いたくないと考えており、払うとしてもChatGPTやPerplexityのようなサブスク型になるだろうと話します。
そうなると、メディアやコンテンツクリエイターがどう稼ぐのかという問題も出てきます。宮武さんは、紙の新聞業界がデジタルメディアの台頭を見たときと同じような感覚になり、SEOや広告売上が失われていく可能性があると述べます。
草野さんは、ユーザーとしては広告がなくなるのはいい体験だが、企業が運営できなくなると返します。宮武さんも広告は好きではないとしつつ、無料で使えることはユーザーにとって大きな利点だと話します。
宮武さんは、今まで無料だったGoogleに月15ドル払いたいのか、Netflixを解約してまで使いたいのか、という問いを投げかけます。草野さんは、写真ストレージが有料化してきたように、代わりも有料なら仕方ないと感じるかもしれないと話します。
宮武さんは、検索のビジネスモデルが崩れるとGoogle全体が崩れると指摘します。ChromeやGmailを無料で出せたのは、検索という高いマージンの事業があったからです。
スタートアップはVCから資金を調達できるので、Googleが月15ドルで出しても、月5ドルや1ドルで対抗できる可能性があります。草野さんはGoogleの立場を「持ってるものが大きすぎる。守るものが多すぎる」と表現しています。
宮武さんは、歴史を振り返ると、マージンの高いビジネスは競争が激しくなるにつれて価格や売り上げが下がり、最終的にマージンが落ちていくと話します。Googleは前回話したTAC ── Traffic Acquisition Costの略。検索流入を得るためにAppleなどのパートナーに支払う費用で、Googleはこれで検索の入口を押さえてきましたでそれを防いできたものの、ようやく下がり始めたという見方です。
Perplexityはなぜ「回答エンジン」を名乗るのか
宮武さんは、AI検索エンジンの中でよく名前が挙がるPerplexity ── AIが複数のソースをもとに質問へ回答し、参照元のリンクも示すアメリカのサービス。自らを検索エンジンではなく回答エンジンと位置づけていますのプロダクト思想に注目します。Perplexityの核にあるのは、自分たちは検索エンジンではなく回答エンジンだという考え方です。
Perplexityは、1つの答えしか出せないという制限をよく理解しており、それを補う考え方をプロダクトに入れていると宮武さんは話します。その1つが、検索クエリそのものの問題への対処です。
人間って基本的に質問するのが下手ですと。
宮武さんは、インタビュアーや良いポッドキャスターが少ない理由もそこにあるとし、自分がインタビューをしない理由も質問が下手だからだと冗談まじりに話します。草野さんは「でもそれは得意だと思いますよ」と返しています。
画像生成で「ウサギ」とだけ入れればランダムなウサギが出ますが、状況や画風まで指定すればその通りに出てきます。宮武さんは、多くの人はその頼み方がわからないので、求める答えの引き出し方そのものをAIが支援できると考えています。
ユーザーはリンクを何%クリックすべきか
宮武さんがもう1つ面白いと話すのが、Perplexityがソース元のリンクを表示し、エンドユーザーの10%ほどがクリックしているという点です。宮武さんは、ここに検索業界のグラデーションが見えると言います。
| サービス | クリック率 | 特徴 |
|---|---|---|
| ChatGPT | ほぼ0% | 最近はURLも出すが、基本は回答で満足させる |
| Perplexity | 約10% | ソース元のリンクを表示する |
| Google検索 | 約8〜9割 | リンクを踏んでもらうことが目的 |
この表のように、サービスごとにクリック率は大きく異なります。宮武さんは、これから「50%であるべきか、20%か、60%か」という議論が起き、それに応じてUIの設計が変わると見ています。
10本のリンクのモデルが間違っていて、もっとミックス型のものが出てくるかもしれないと宮武さんは話します。回答ごとにリンクを多く見せるか見せないかを変える設計もありうるという考えです。
草野さんは「(AIとの)対話の中でリンクをどれぐらい出すか」の話だと整理します。宮武さんは、リンクには責任を逃れられる面と、広告がついて売り上げにつながる面があり、その両方のバランスが問われると話します。
新参のPerplexityが持つ「期待値」の強み
宮武さんは、Perplexityには初めてのAI検索エンジンのような存在だからこその強みがあると見ています。それは期待値をコントロールできることです。
でもGoogleって期待値コントロールができないんですよ。もうGoogleっていう期待値があるので。
Googleには「絶対正しいだろう」という期待があるため、間違えると批判されます。ChatGPTが以前炎上していたこともあり、Geminiには「あれをもう一回やるのか」という目が向けられ、2回目の失敗への批判がより大きくなると宮武さんは説明します。
宮武さんは、既存サービスを持たないスタートアップにとっては、失敗するかもしれないとあえて明言することが大きなアドバンテージになるかもしれないと話します。草野さんはそれを「一緒に育てていく」と表現しました。
「絶対正しいはず」と見られ、粗を探す人が増え、失敗への批判が大きい
失敗の可能性を伝えられ、ミスを見つけて一緒に育てる人を集めやすい
草野さんの言葉でいえば、粗を探す人を増やさず、ミスを見つけてくれる人に変えていくという発想です。宮武さんも「そっちに変えるっていう感じ」と同意しています。
一方でPerplexityにも課題があります。宮武さんによると、PerplexityはGoogleやBingのランキング、つまり何位に表示されているかを見て信頼度を把握していることを、CEO自身が話しているといいます。
そのため、Redditでは「Perplexityの結果がGoogleの検索結果と全く同じに見えることがある」と指摘されているそうです。宮武さんは、Googleのシェアが下がれば、Perplexityはその基盤データをどう補うのかという課題が出てくると話します。
パーソナライズに一番近いのはなぜMetaとGoogleなのか
宮武さんは、多くの会社がAI検索に入る中で、草野さんが前半で触れたパーソナライズが大きな課題になると話します。今それを最も実現しやすいのは、MetaとGoogleだという見方です。
理由は規模ではなくビジネスモデルにあります。MetaもGoogleも、ユーザーを深く理解し、それに合わせた広告を出すモデルなので、パーソナライズに必要なデータを一番持っています。
草野さんが「(Googleは)みんなが何を欲しているか検索しているから、全てを知っていますね」と言うと、宮武さんも、Googleではより意図的な検索がされると同意します。
その布石として宮武さんが挙げるのが、Chromeに導入されるPrivacy Sandbox ── Chromeがサードパーティ Cookieを廃止するのに代わり、ユーザーの興味関心をブラウザ内で大まかに扱う広告の仕組み。個人を追跡せずに広告配信をすることを目指していますです。ブラウザが、どんなトピックやサイトに興味があるかを、ふんわりと保存する仕組みだといいます。
たとえば特定のショッピングサイトに行くと、「この人はライフスタイル系の商品が好き」という情報がブラウザに保存されます。広告主は個人を追跡できなくなりますが、Chromeが情報を抱え、Googleはユーザー単位でそれを持てるため、パーソナライズされたAI検索結果を出せるのではないかと宮武さんは考えます。
課題はフィルターバブルが起きやすくなることです。宮武さんは、Googleがフィルターバブルを選ぶより、ユーザーが自らの判断で選んだほうがいいと話します。
個人的にはGoogleがそのフィルターバブルを選ぶよりも、ユーザーが自らの判断でフィルターバブルを選んだ方がいいと思うんですよね。
草野さんは「言い方」と笑いつつ同意します。宮武さんは、それがより中立なポジションを取るという意味だと説明し、どう答えるべきかの議論から、良いツールを作ることに集中できるのではないかと話します。
ユーザーのコンテキストをどこまで持つべきかについては、PerplexityのCEOは「入れすぎるのは良くない」と発言しているといいます。一方の宮武さんは、ありすぎても問題なく、何を優先するかが大事だと考えています。
宮武さんによれば、検索の意図や優先順位を探るには、より多くのコンテキストを理解する必要があります。そのデータをAIが集め、自らアップデートし続けることは、今はまだ難しいと話しています。
鍵を握るのはOSとデバイスを持つ企業か
宮武さんは前回と同じ結論の一部として、AI検索の最大の課題はOSレイヤーとハードウェアレイヤーにあり、データ収集が足りていないと話します。
Appleは社内でAIモデルを開発しつつ、iOS 18ではGoogleのGemini、OpenAIのGPT、AnthropicのClaudeなど他社のAIを使う方向で話しているという記事が出ていると宮武さんは紹介します。Appleデバイスは約10億台あり、一気にリーチできる点は大きいといいます。
草野さんが「一番強いのはAppleか」と尋ねると、宮武さんは、Appleは今のところ自社でAIを作れていないと答えます。データの量は圧倒的に多いものの、プライバシーをどこまで押すかという問題もあるといいます。
その意味で、すでにAppleにお金を払い、Androidも持つGoogleは強いポジションにいると宮武さんは見ています。AndroidとAppleの両方でAI検索エンジンになれれば非常に大きいという見方です。
宮武さんは、AI検索は最終的にパーソナルアシスタントに近づくと考えています。知人が妻へのプレゼント選びをアシスタントに頼んだところ、妻の好みを理解したうえで提案してくれた、という例を挙げます。
何も知らないAI検索エンジンに聞けば、一般的な答えしか返ってきません。宮武さんは、パーソナライズが進むことで、こうした体験が変わっていくことを期待しています。
もう1つの期待は、10本のリンクとは違うインターフェースです。前回も話したブラウザのArc ── The Browser Companyが開発するウェブブラウザ。AIを使って検索結果ページを飛ばし、直接サイトや情報を示す機能を試していますでは、検索ページを飛ばしてサイトへ直接案内するUIを試しているといいます。
たとえば「Vision Proのレビューのフォルダを作って」と頼むと、フォルダが作られ、5つのレビュー記事が並びます。宮武さんは、こうした形で検索モデル自体をスキップするUIもありうると話します。
消費者向けAIサービスはなぜすぐ使われなくなるのか
まとめに入る中で宮武さんは、Google検索は1人あたり1日平均3〜4回使われる巨大な市場であり、次世代の検索を狙うことは大きなビジネスチャンスだと話します。
その一方で、AI検索を含む消費者向けAIサービスは、ChatGPT以外ほとんどうまくいっていないと宮武さんは指摘します。リテンション率を見ると、半年後にはほとんどのユーザーが離脱しているそうです。
宮武さんの見立てでは、最初は新しく面白いので登録されるものの、どのサービスも同じようなものを出すため飽きられてしまいます。
草野さんは、従来の検索には「自分で選んだ」という満足感があると話します。実際にはそれもレコメンドだと認めつつ、出されたものに納得するより、自分で選んで「ふんふん」と思うほうが満足度は高そうだという考えです。
宮武さんはこれに同意し、さらに2つの課題を挙げます。1つ目は、AIが回答を出すのに時間がかかりすぎるという技術的な問題です。
ミリ秒単位でページが読み込まれることに慣れた人にとって、数秒から数分の生成待ちはストレスになります。宮武さんによると、UberのCEOは今後24か月、生成AIはバックエンドにしか使わず、消費者向けには遅すぎると話しているそうです。
2つ目は、データとコンテキストが足りないという問題です。宮武さんは、ブラウザの1タブやスマホの1アプリとして存在するだけでは、ブラウザ全体やスマホ全体で何が起きているかを把握できず、解決されないと考えています。
宮武さんは、OSレベルのものを基盤にサービスを作るArcの考え方を、その点で正しいと評価しています。草野さんは「より難しそうです」と応じました。
草野さんは、どれほどの人が高精度のAI検索を本当に求めているのか、今はまだ早いのではないかと問いかけます。宮武さんは、Googleが最初に出てきたときほど画期的な「これはすごい」という体験が、今のAI検索市場にはまだないと同意します。
パーソナライズとシークレットモードはどう共存するか
草野さんが「パーソナライズは好きか」と尋ねると、宮武さんは、自分は仕事柄いろいろな情報を見る必要があるのでそこまで好きではないが、一般的には好まれると思うと答えます。
宮武さんは、パーソナライズにもTwitterのフィード、TikTok、Google検索といったレベルの違いがあり、どのレベルが正しいのか、それで体験がどう変わるのかが問われると話します。
草野さんが注目するのは、さまざまなサービスにあるシークレットモードです。カスタマイズを高めるモードと、全くしないモードの2つを用意するのは賢いと話し、Googleマップにもシークレットモードがあると紹介します。
真っさらな状態で(情報を)求めに行くみたいなのが、一番最初の選択肢としてあるっていうのは、これからスタンダードになるのかなっていう気はちょっとします。
宮武さんはこれを受け、仕事用、プライベート用、自分ならバスケ用など、複数のペルソナを作れる検索があってもいいのではと提案します。今は1つに統合されているものを分けるという発想です。
草野さんは、Appleのベッドタイムモードでホーム画面を変えていて、情報が遮断された感じが心地よいと話します。宮武さんが「それをAIが勝手にやってくれる世界になるのか」と応じると、草野さんは便利かもしれないと答えます。
草野さんはさらに、何を遮断するかをAIが決めるという見方を示します。仕事中に好きなお笑いコンテンツを出さず、18時以降に表示してほしいといった使い方です。
宮武さんは、売り上げを考えればそれを見せたほうがいい場合もあるので、AIがユーザーと企業のどちらの味方になるのかが問題になると指摘します。草野さんが「健康のためのスクリーンタイム」で分けようと言うと、宮武さんは、そうなると健康データにもアクセスが必要になると返し、2人で「AIに支配されましょう」と笑い合います。
イノベーションを拒否できない悲しさ
最後に草野さんが話すのは、イノベーションを拒否することは結局できないのではないか、という寂しさです。SNSも、やりたくないと思っていても、やっていないと存在を忘れられ、連絡も取れなくなってしまいます。
もし自分が中学生、高校生だったら、もうインスタとかLINEとかやらないっていう選択肢は絶対ないなっていう。
宮武さんは、それがテクノロジーの問題ではなく、単に周りの全員がやっているからだという点を不思議だと話します。スパークのエピソードでは、Twitterをやめた人が亡くなった人のような扱いを受けていたといいます。
草野さんは、むしろ薄く繋がりすぎているのかもしれないと考えます。Facebookで繋がっているからいつでも会える、という安心感があるのではないかという見方です。
宮武さんは、薄い繋がりが増えたからこそ強い繋がりが減り、その需要が高まっていると話します。去年の宗教のトピックにも触れつつ、繋がりが薄まっているのは明らかだと語り、回は締めくくられました。
まとめ
今回のOff Topicでは、10本のリンクを並べるモデルがGoogleを中立にし、巨大な利益を生んできた一方で、AI検索の時代には重りになりうることが語られました。Gemini炎上に見えたカルチャーの課題、AI回答のコストと広告の揺らぎ、Perplexityの工夫やパーソナライズの可能性を通して、検索の主役が当たり前ではなくなる局面が浮かび上がります。
- 宮武さんは、Gemini炎上の原因を技術ではなくカルチャーに見ており、トップダウンでの変革やCEO交代も議論すべきだと話しています
- 10本のリンクは複数の考えを示すことでGoogleの責任を逃し、中立性を保ってきましたが、1つの回答を出すAI検索ではそれが難しくなります
- AI回答は従来の検索の約10倍のコストがかかり、リンクも踏まれにくくなるため、Googleのマージンはほぼ確実に落ちると宮武さんは見ています
- Perplexityは質問の書き換えやリンク表示、期待値のコントロールで1つの回答の弱点を補おうとしています
- 本当に役立つAI検索にはOSやデバイス全体のデータが必要で、次のAI検索を作るのは次のOSを作る人たちかもしれないと語られました


