200回目に選んだテーマはなぜビジネスコミュニケーション?
Off Topicは、アメリカを中心にテックニュースやスタートアップ、ビジネス情報を紹介する番組です。今回はちょうど200回目を迎えた回で、テーマは宮武さんのビジネスコミュニケーションです。
宮武さんによると、ここ2年ほどは年間50エピソードほどのペースで配信してきたものの、200回に届くまでには5年ちょっとかかったといいます。2年後のこの時期には300回目を迎えられたらいい、と話しています。
今回の内容は、前週に話した情報収集やポッドキャスト作りの続きにあたります。宮武さんはVC業や、アメリカの起業家・VC・事業者とのやり取りの中で学んだことを、「割と当たり前なことも多い」と断ったうえで振り返っていきます。
最初の一手は「DM」。やらない理由がない?
宮武さんが最初に挙げたのは、「DMって意外と効きます」という話です。宮武さんによれば、DMは意外とみんなやらないものの、やってみると思った以上に効果が出るといいます。
多くの人がDMを避ける理由として、宮武さんは相手が忙しい人であることや、紹介をもらう方法を狙いがちなことを挙げています。紹介がもらえればベストではあるものの、DMという選択肢も軽視できないという立場です。
草野さんはTwitterやインスタのほか、メールアドレスを公開している人やお問い合わせフォームに連絡したこともあるそうです。ブログでインタビュー記事を書いていた頃は、大企業の広報窓口に依頼して意外と返事をもらえた経験があると振り返ります。
一方の宮武さんは、主にTwitterと、USの人の多くが使っているLinkedIn ── ビジネス特化型のSNS。職歴や人脈を公開でき、アメリカでは採用や商談の窓口として広く使われていますでDMを送っています。メールやお問い合わせフォームは返ってこない率が高い印象で、SNSなら個人宛てに届く点が大きいといいます。
宮武さんがDMで重要だとするのは、返信が来ないことを前提に、ある程度の数を打つことです。送るコストはそこまで高くなく、返ってきたときのリターンが大きいので、コストとリターンを考えるとやらない理由があまりないという整理です。
結局(DMが)返ってきたらめちゃくちゃいいので。でも送るのにもちろん多少なり時間かかりますけど、送るコストってそこまで高くないので。
草野さんは新卒のVC時代、スタートアップの創業者をひたすらリサーチしてメールやDMを送る、いわばコールドメールの目標を与えられていたそうです。返事が来ないことが多くショックも受けたものの、それが普通だと受け止めていたと話しています。
『サードドア』と38回目のメールが教えてくれること
宮武さん自身は、以前はあまりDMをしていなかったといいます。前職を辞めた後に『サードドア』という本を読み、「送った方がいいんだ」と強く学んでから、積極的に連絡するようになりました。
宮武さんの説明では、この本は著者がDMやコールドメールで有名人へのインタビューを実現していく道のりを描いたものです。ビル・ゲイツのアシスタントに何度も連絡しに行くようなエピソードもあり、草野さんは「意外といけるんだっていう」話だと受け止めています。
宮武さんは、スタートアップの立ち上げでもこの姿勢が重要だと話します。初期のローンチ戦略は実はとても泥臭く、C向けでもB向けでも、周りにひたすら使ってくださいと頼み、コールドコールやメール、ユーザーへのDMを重ねているといいます。
(スタートアップは)バイラル化して成長したみたいなストーリーの方が多いと思うんですけど、実はその裏にはめちゃくちゃ泥臭いことをやってるので、特に最初の100人とか集めるためには。
宮武さん自身も、Off Topicのネットワークを作るためにかなりの数のDMを送ってきたそうです。ただし「Off Topicとしてつながりたいから」という体ではなく、毎回意味合いを持たせて送っていると補足しています。
すごい人たちでもDMを続けている例として、宮武さんはポッドキャスト業界の先輩である20VC ── ハリー・ステビングスが運営する、ベンチャー投資や起業家をテーマにしたインタビュー型ポッドキャスト。VCファンドとしての活動もしていますのハリー・ステビングスさんを挙げます。ハリーさんは毎週土日に、インタビューしたい相手へ大量にメールを送っているといいます。
宮武さんが以前ツイートで見たのは、ハリーさんがStripe ── オンライン決済の仕組みを提供するアメリカ発の企業。アイルランド出身のコリソン兄弟が創業しましたの共同創業者ジョン・コリソンさんに38回目のメールを送っている、という投稿です。1〜2回で諦めがちな宮武さんにとって、送り続ける姿勢はすごいと感じられたそうです。
草野さんは、断るほうが労力がかかる状況を作るやり方だと受け止めつつ、嫌われたりブロックされたりする可能性もあると指摘します。宮武さんも面倒がられる可能性は認めたうえで、可能性がゼロでないならある程度はやってもいい、という考えです。
何を書けば返ってくる?DMの「3つの要素」
宮武さんは、DMを送ること以上に重要なのは送り方だと強調します。スパムのようにジョン・コリソンさんへ38回送っても嫌われるだけで、何をどう伝えるかの工夫が必要だというわけです。
プラットフォームごとの制限もあります。LinkedInでつながりを申請するときにはメモを付けられ、相手にメッセージとして見えるため、宮武さんは新規でつながる場合は必ずメモを入れることをすすめています。
LinkedInのメモは300字しかないので、何が欲しいのかを超シンプルに伝える必要があります。宮武さんは、褒め言葉に文字数を使うのは避けたほうがいいとし、特に嘘の褒め言葉はミーティングでバレるのでやめるべきだと話します。
我々のOffTopicの場合ですと、めちゃくちゃOffTopic聞いてるんですよって言われて、1、2回しか聞いてなかったら割とすぐバレちゃうので。
そのうえで宮武さんが、会ったことのない相手へのメッセージで必ず入れているのが次の3つです。
CTAはCall to Action ── 相手に取ってほしい具体的な行動を示す呼びかけのこと。マーケティングで「申し込む」「問い合わせる」などのボタンや文言を指す言葉として使われますの略で、投資検討のミーティングをしたい、日本展開の支援をしたいのでミーティングしたい、といったお願いにあたります。
3つのうち宮武さんが特に重視するのは、最初の2つにどう自分のバリュー提供を組み込むかです。相手から求めるだけでなく、なぜわざわざ自分と話すべきなのかが冒頭で伝わらないと意味がない、といいます。
その相手から求めるだけではなくて、相手がなぜわざわざ自分のような人と話すべきなのかっていうのを、そこの最初で伝わらないと意味がないっていう。
宮武さんの場合、バリューは日本市場についての話だったり、VC時代なら投資検討ができることだったりします。今はポッドキャストをやっているので、インタビューや、日本でサービスについて話したいという切り口にすると乗ってもらえることもあるそうです。
宮武さんは、自分がバリュー提供できないと思ったら基本的にDMをしないといいます。受け取る側に立っても、自分にメリットがなければ知らない人からのDMを受ける意味がないからです。
ただし宮武さんには、明確なバリュー提供がなくても受ける例外があります。それは大学生と、場合によっては起業家です。事業の相談や、VCに行くべきか迷っているといったキャリアの相談なら、スケジュール次第で実際に受けたこともあるそうです。
ミーティング日程は「相手の時間帯」で出す
DMにOKが返ってきた後の話として、宮武さんはミーティング調整のコツを挙げます。相手は「来週とか再来週どうですか」と聞いてくることが多く、具体的な時間は出てこないため、候補日時は自分から出す必要があります。
相手がUSなど海外の場合、宮武さんは2つのことを意識しています。1つは相手の時間帯に合わせること、もう1つは日本時間ではなく相手の時間帯の表記で候補を出すことです。カリフォルニアならPST、東海岸ならESTのように、タイムゾーンも明記します。
草野さんが日程調整ツールのCalendly ── 空いている時間を共有し、相手に予約してもらう形で日程調整ができるWebサービスについて尋ねると、宮武さんはアカウントは持っているもののほぼ使わないと答えました。
でも相手がUSの場合、特に東海岸の場合ですと、そのルール(入れない時間帯の設定)を破らないといけない時があったりするので。
宮武さんによれば、人によっては朝6時や7時からのミーティングでもかまわないと考えるため、「8時以降しかOKしていない」と機械的に設定すると良くない場合があるそうです。
代わりに宮武さんが年中使っているのがWorld Time Buddy ── 複数の都市のタイムゾーンを並べて表示し、時刻の対応を一目で確認できるWebサービスです。日本時間をデフォルトに、ニューヨークとサンフランシスコの時間を並べて表示し、日本の何時がUSの何時かを確認して候補を出しています。
草野さんはGoogleカレンダーのタイムゾーンを2つ表示していたそうで、宮武さんも同じことをするといいます。ただWorld Time Buddyは3〜4つのタイムゾーンを一度に出せるため、オーストラリアやヨーロッパも絡む調整では特に便利だと話しています。
日時の提示と一緒に、宮武さんは自分や会社の具体的な説明文を送ることもよくあるそうです。場合によってはNotionページにして、投資先や実績、何を提供できるのかをまとめて送ります。
何の人なのかちょっとわからないまま行くよりは、説明っていうか開示情報があった方が楽ですよね。向こうからしたら。
「How can I be helpful?」より「Let me show you」
宮武さんによると、アメリカのVC業界では投資先に対して「How can I be helpful?(何か手伝えることはないですか)」と全員が言うほど定番の言葉があるそうです。宮武さん自身もメールや口頭で何度も使ってきました。
聞く姿勢は大事だとしながらも、宮武さんは特に初めて会う相手には、尋ねるより先に自分から示すほうがいいと話します。
「How can I be helpful?」と、何を手伝えるかを相手に尋ねる
「Let me show you how I can be helpful」と、どう役立てるかを事前に準備して見せる
具体的には、スタートアップに対して相手が聞いたことのない競合や事例を出してあげることなどです。宮武さんは、こちらからミーティングを申し込むときは何らかの形で自分のバリューを見せないといけないと考えています。
宮武さんは、Off Topicのようなポッドキャストもマーケティングツールになると話します。アメリカではポッドキャストが人気なので、運営していると伝えるだけでも多少のバリューになるそうです。
同時に重要なのが期待値コントロールです。宮武さんが前職で学んだのは、「こういうこともできます」と言いすぎると、その場は良くても後々関係性がめちゃくちゃ悪くなるということでした。
宮武さんのやり方は、信頼されるミニマムの期待値を提示しながら、それを超えるのを頑張るというものです。すぐ紹介できる相手がいるならそこを押し、投資のように投資委員会を通す必要がある話では、落ちるかもしれないポイントを先に伝えておくと、後の交渉で効いてくるといいます。
Pay It Forwardとロン・コンウェイの流儀
準備して見せる話に近いものとして、宮武さんはシリコンバレー文化の「Pay It Forward」という考え方が好きだと話します。見返りを求めずに何かをしてあげることで、アドバイスかもしれないし、別のことかもしれません。
宮武さんはこの考え方を、ビジネスの観点からも、エコシステムを活性化するためにも重要だと見ています。以前Off Topicで取り上げたゲイリー・ヴェイナチャックさんの著書『Thank You Economy』も、まさにこうした話をしているそうです。
Pay It Forwardを象徴する人物として宮武さんが挙げるのが、シリコンバレーのレジェンドで超大物エンジェル投資家のロン・コンウェイさんです。SV Angel ── ロン・コンウェイが率いるシード段階中心の投資会社。初期のGoogleやFacebookなどに出資したことで知られていますを率いています。
宮武さんによれば、GoogleがVCから最初に調達したとき、おそらくシリーズAでSequoia ── シリコンバレーを代表するベンチャーキャピタルの1つで、Apple、Google、Airbnbなどに初期投資してきましたとKleiner Perkinsが一緒に入りました。両社とも単独で出資したがっていた中、それを交渉したのがGoogleの社員でもなかったロン・コンウェイさんだったといいます。
さらに宮武さんは、シリコンバレーバンクの騒動の際、真っ先にナンシー・ペロシさんやオバマ元大統領と食事をし、解決策を計画していたのもロン・コンウェイさんだったと紹介します。シリコンバレーで誰かとつながりたければ、彼に聞けば必ずたどり着く、とよく言われるそうです。
宮武さんが印象に残っているのは、Yコンビネーター創業者のポール・グレアムさんが投稿したロン・コンウェイさんの写真です。ディナーパーティーに早く着きすぎたロンさんが、テーブルでパソコンを開いて完全に仕事モードになっていました。
ポール・グレアムさんはその写真について、知り合いのスタートアップや起業家がトラブルに陥っていて、その場で緊急対応しているのだろう、と推測していたそうです。宮武さんは、サム・アルトマンさんもリターンを考えずに人助けをする重要性をよく語っていると付け加えます。
草野さんが「リターンを考えてないんですかね、本当に」と尋ねると、宮武さんは、短期的・直接的なリターンを考えていないのだろうと答えました。貸しを作るという意味合いでは考えているかもしれないものの、それをいい言い方にするとPay It Forwardだ、という整理です。
でもそのオバマとかのやつは、もうすでに繋がってる環境の中なので、その日にオバマとディナーできたのってすごいことなので、それをしっかり裏方で動いてる人っていう。
投資家は株主アップデートに返信するか?
バリュー提供はとてもシンプルな場合もある、として宮武さんが紹介したのが、First Round Capitalの人から聞いた話です。VCには投資先のスタートアップから事業進捗のアップデートが届き、アメリカでは月次より四半期ごとに送られることが多いといいます。
その人によれば、投資家向けアップデートへの対応は、実は多くの投資家がきちんとできていません。投資家の反応は、次のように分けられるそうです。
| タイプ | 行動 | 内容 |
|---|---|---|
| 平均的な投資家 | 読むが返信しない | そのまま終わる |
| 悪い投資家 | 読んで返信する | 間違った情報や方向性のアドバイスをする |
| いい投資家 | 読んで返信する | 「頑張れ」「よくやったね」とシンプルに返す |
| 一番いい投資家 | 読んで返信する | 特定の人をつなぐなど、その場で具体的に支援する |
宮武さんが強調するのは、いい投資家と一番いい投資家を分けるより前に、まず返信するかどうかが重要だという点です。宮武さん自身も含め、特に昔はほとんどの投資家が返信すらしていなかったといいます。
提供できるアドバイスがなくても、「ここがすごく良かった」「これが気になった」「頑張ってください」で十分だと宮武さんは話します。返信しないことが平均なので、返信するだけで平均以上になれるわけです。
一方で宮武さんは、悪いアドバイスよりもさらに下があると考えています。それが、日本の事業会社がやりがちな、株主の側から起業家にアドバイスを求めに行く行為です。
たとえば日本の事業会社がUSの起業家の株主になっていて、アップデートを受け取った後に「これからアメリカ展開したいのでアドバイスをくれませんか」と頼むケースです。宮武さんは、よほどの関係性でない限りやめたほうがいいといいます。
宮武さん自身がやったわけではなく、アメリカの起業家の何人かから、特定の日本の事業会社についての愚痴を聞いているそうです。だからこそ、ビジネス上でどんなバリューを提供しているのかを明確にすべきだ、というのが宮武さんの結論です。
人を紹介するとき、リスクを背負うのは誰か?
VC業ではよくある人の紹介にも、良いやり方と悪いやり方があると宮武さんは話します。ここはSLUG CAPITALのニブさんから学んだことや、宮武さん自身が受けたフィードバックがもとになっています。
たとえば投資先Aが事業会社Bや別の投資家とつながりたいとき、宮武さんがまず挙げるのは、両者に個別に了解を取ることです。いきなりグループを作って勝手に紹介されることも実際にあり、宮武さんも何度か経験しているそうです。
宮武さんによれば、勝手に紹介された形でいいミーティングになったことはなく、それ以上に紹介した人との関係性が悪くなるといいます。「なんでここ紹介したんですか?」となってしまうからです。
最後の手順について宮武さんは、どちらから会話を始めるべきか迷うことがあるので、インストラクションを出してあげると困惑がなくなる、と説明しています。
紹介をお願いする側にも注意が必要です。宮武さんは、USのVCを紹介してほしいというリクエストを起業家や日本のVCから受けることがあります。起業家から直接来た場合は、会ったことがなければまず一度話し、デックなどの資料を送ってもらうそうです。
そのとき宮武さんが考えるのは、自分がなぜやるべきなのか、そして何より自分が負うリスクです。紹介の会話で最もリスクを取るのは宮武さん自身だからです。
そのUSのVCが、「え、なんでこんなダメなところ紹介してくれたの?」っていうことを言われた瞬間終わりじゃないですか。
でもその日本のVCはそのリスクを背負ってないじゃないですか。
宮武さんは、VC業界は特にレピュテーションビジネスだと話します。そのため資料は一度受け取っても、「送るかはわからない」と伝え、実際にはUSのVCに送らないことも多いそうです。紹介を頼むときは、誰がリスクを背負うのかを考えるべきだ、というのが宮武さんのメッセージです。
ミーティングの事前準備は2種類ある
実際のミーティングに向けた事前準備について、宮武さんは以前質問を受けたことがあるそうです。相手が何に興味を持つかはわからず、面白いファクトを用意しても相手がすでに知っていたら意味がないのに、どう準備しているのか、という問いでした。
宮武さんの答えは、ミーティングを2種類に分けて準備を変える、というものです。
エビデンスやファクトをいつでも出せるようにしておく。例: アルファ世代やZ世代のトレンドの統計を用意し、過去のポッドキャストを振り返る
ファクトではなく質問を準備する。相手のブログなどを読み込み、「どういう意味で書いたのか」「ここと関連するのか」を聞く
質問を準備すると、相手に自分が準備してきたことを見せられます。宮武さんはそれを、自分がこのミーティングに投資していると示す方法でもあると話しています。
VC時代の宮武さんは、起業家と話すときに基本的にピッチを受けないようにしていたそうです。デックはすでに読み込んでいるはずなので、最初から事業についての質問に入るといいます。
草野さんは、プロダクトを持つ起業家や経営者の場合はどうすればいいのかと尋ねました。宮武さんは、VCも営業なので基本的な手順は変わらないとしつつ、プロダクトを売り込む場では自分が情報提供していると思わないことが重要だと答えます。
宮武さんによれば、相手から情報を引き出さないと、そもそもプロダクトを売り込めない可能性があります。「過去にこういうことをツイートしていましたが、こういう課題を感じているんですか」と相手の話を中心にし、その流れで自社プロダクトに触れる形です。
出張のお土産から学んだ、ギフティングの力
宮武さんが「すごい強い」と感じているのが、実際に物を贈るギフティングです。前職では月1回のUS出張のたびに、まあまあいいチョコレートを会社へのお土産として買っていて、草野さんも「みんな食べてた」と覚えています。
きっかけは、ほぼ初めて会社にお土産を買ったときのことでした。宮武さんがスーパーで売っているスニッカーズやハーシーズの詰め合わせを買ったところ、当時の上司に「これはないだろ」と言われたそうです。
(上司に言われたのは)多分半分冗談だと思うんですけど。
草野さんが「パワハラ?」と茶化すと、宮武さんは「パワハラではないです」と笑って否定します。それでも、もっと考えるべきだったと意識するようになり、以降はできるだけ毎月違うチョコレートを、徹底的に調べて買うようになりました。サンフランシスコにはいいチョコレート屋さんが少なく、ニューヨークが強かったそうです。
この実体験に加え、ゲイリー・ヴェイナチャックさんやSLUG CAPITALのニブさんの影響もあり、宮武さんはギフティングを関係性作りの強いやり方だと考えるようになりました。物で釣っている、せこい部分もあると自ら認めています。
草野さんは、物をもらうと恩を感じるうえに、シンプルに嬉しいという面もあると話します。宮武さんも、面倒なプレゼントでなければ、ギフトをもらって嬉しくない人はそこまでいないと同意しています。
宮武さんは今も、自宅にいつでも渡せるプレゼントを常備しているそうです。明日出張と言われてもすぐ持っていけるようにし、しかも相手に合わせて数パターンを用意しています。
パーソナライズされたギフトを渡した瞬間、やっぱりコミュニケーションってめちゃくちゃ変わるんですよね。
宮武さんは、これがここ2〜3年での大きな気づきだと話しています。もちろんお金はかかっている、と付け加えるあたりに率直さがにじみます。
英語は壊れていても話すべき?カタカナ英語の落とし穴
最後のテーマは、USとのコミュニケーションで避けて通れない言語と文化の問題です。宮武さんがまず挙げたのは、英語は話さないより話したほうがいい、ということでした。黙り込むよりは、壊れた英語でも話すほうがいいという考えです。
その理由として宮武さんは、アメリカは移民の国で英語がネイティブでない人がとても多く、アメリカ人ですら文法に弱い人が多いことを挙げます。
ただし日本人には不利な点もあります。宮武さんによると、日本語のアクセントはアメリカ人にとって他のアクセントよりわかりにくく、特にカタカナ英語で話すとかなり理解されないそうです。
草野さんが「英語のアクセントができるようになりたい」とこぼすと、宮武さんは、草野さんの英語はそこまで日本語英語に聞こえず、相手が理解できないアクセントでは全くないと答えました。
いざコミュニケーションの場になったりとか、突然その場に行くと、日本語の発声のまま喋ろうとすると、うまく喋れないみたいなことがあって、やっぱ難しいなって思います。
草野さんは、日本語は口の奥で平坦に話せるのに対し、英語は抑揚があって力強く、口をちゃんと動かさないと発声できない言語だと感じているそうです。声が小さいので、腹から声を出さないと聞こえないとも話しています。
どのくらいのカタカナ英語なら通じないのか、という草野さんの問いに、宮武さんは「Nice to meet you」程度ならアメリカ人全員が理解できると答えます。一方で、ハンバーガーやマクドナルドのような特定の単語は言い方が違い、「マック」や「マクド」では全く通じないそうです。RとLの区別も日本人には難しいものの、一部は仕方ないとしています。
どこまでネイティブを目指すべき?文化を理解する意味
もう1つ重要なのは、どこまでネイティブが必要かという点です。宮武さんは、ベースはネイティブでなくても大丈夫だが、特定のタイミングや会話でははっきり違いが出ると考えています。
宮武さんが例に挙げたのは、だいぶ前に英語をしっかり話せる日本人とアメリカで、スタートアップの創業者やVCと話していたときのことです。会話が少しずつずれ始め、途中からUS側の人たちが困惑し出したといいます。
多分日本語でもそうだと思うんですけど、よりハイレベルな会話になると、小さい言葉がすごい重要になってくるじゃないですか。
宮武さんによると、ネイティブでない人は英語を最大8〜9割聞き取れても、残りの10%で引っかかるといいます。US側が伝えたいポイントとは違う話を始めてしまい、宮武さんが会話を戻すこともあったそうです。本人は頭のいい人で、気づいていたら自分で直していたはずだと宮武さんは付け加えています。
さらに宮武さんは、英語をめちゃくちゃ話せることがネイティブだとは考えていません。宮武さんの考えるネイティブとは、向こうのカルチャーまで理解していることです。
アメリカ人はビジネスの会話の合間に、スポーツ、映画、テレビ番組、ポッドキャスト、時には政治まで、ポップカルチャーの話をよくします。宮武さんは、そこについていけるか、自分の意見を持てるかが重要で、日本でも同じことだと話しています。
またUSでは、いい商品を売るだけで成功するのは難しいと宮武さんは見ています。ディストリビューションやマーケティングを成功させるには、文化を理解していないとそもそもできないという考えです。
草野さんは、住んだことがない人には難しい話だと感じつつ、自分もアメリカに行かずともテイラー・スウィフトの曲は全部知っていて、ここ数十年のポップミュージックのランキングもほぼ知っていると話しました。
宮武さんは、アメリカのエンタメを見ることは、US展開や交渉をしたい人にとって仕事の一部とも言えると話します。現地に行っていなくても文化を理解する手法はいろいろあるとし、去年ならEras Tour ── テイラー・スウィフトが2023年から行った大規模ワールドツアー。キャリア全体の「時代(Era)」をたどる構成で社会現象になりましたのコンサートの話題を自分から出せる、と例を挙げています。文化の理解は、何を贈れば喜ばれるかがわかるという意味でギフティングにもつながるそうです。
コミュニケーションの先にある「意味合い」とは?
締めくくりに宮武さんは、今回話したことは当たり前のことばかりだが、ものによっては10年かけてようやく理解したと振り返ります。そしてビジネスに限らず、それ以外の場面にも通じる話だと話しました。
宮武さんが最近いいと思ったのは、おそらく2014年ごろのインタビューでピーター・ティールさんが語っていた言葉です。ピーター・ティールさんは生きる中での「幸せ」ではなく「意味合い(ミーニング)」という言葉を使い、それを見つける方法の1つとして、他の人ができなかった重要なことをやることを挙げていたそうです。
宮武さんは、これは仕事だけでなく、家族を養うことのように人との関係性にも言えると考えています。そしてアメリカで特に重要になるコミュニケーションのスキルセットにも、意味合いを見つけることが大切だと話します。
この話の背景には、宮武さんがボストンに住んでいた時期に一度だけ会ったことがあるクレイトン・クリステンセン ── ハーバード・ビジネス・スクールの教授を務めた経営学者。著書『イノベーションのジレンマ』で破壊的イノベーションの理論を広めましたさんの存在があります。授業を受けたわけではなく、別の機会に会ったそうです。
宮武さんによると、クリステンセンさんはハーバードの授業の最終回で必ず2つの問いを投げかけていました。キャリアの中でどうすれば幸せになれるか、そして人との関係性を通してどう幸せを作るか、という問いです。
宮武さんは、コミュニケーションは最終的にこうしたところに落ち着くのではないかと考えています。他の人がやっているから自分もやるのではなく、お互いに意味合いがあるからDMやギフティング、紹介、バリュー提供をする、という考え方です。
今のコミュニケーションのやり方で、意味合いを見つけられるのか、っていうのを考えるのって重要かなと思って。
最後に草野さんが「これから宮武さんに連絡する方は、いい意味でハードルが上がったのでは」と冗談を言い、「ギフティングすれば」と続けると、宮武さんは「ギフティングは別に僕は求めてないです」と即答しました。それでも、ギフティングは関係性の縮め方の1つではある、と話を結んでいます。
まとめ
200回目のOff Topicで宮武さんが語ったのは、相手の立場に立って自分のバリューを示すという一貫した姿勢でした。DMも紹介もギフトも英語も、その先にお互いにとっての意味合いがあるかを問い直すことが、USとのビジネスコミュニケーションの土台になっています。
- DMは返信が来ない前提で数を打つ。送るコストは低く、返ってきたときのリターンは大きい
- DMには「自分が誰か」「何を求めているか」「CTA」を入れ、なぜ自分と話すべきかを冒頭で示す
- 「How can I be helpful?」と聞くより、どう役立てるかを準備して見せ、期待値は控えめに出して超える
- 紹介は両者に個別に確認してから行い、頼む側は紹介者が背負うリスクを考える
- 英語は壊れていても話し、エンタメなどを通して文化まで理解することがネイティブへの道になる




