VC時代の「情報は勝手に来る」は勘違いだった?
この回のテーマは、Off Topicの宮武徹郎さんが普段どのように情報を集め、どうやってポッドキャストを作っているかです。宮武さんは仕事を始めて今年で10年目になる節目に、自分の役に立ったスキルを話したいと切り出しました。
宮武さんは自身のキャリアを、VCなのかポッドキャストなのか、メディアなのかテックの人なのか曖昧だと表現します。そのうえで、曖昧だからこそいろいろな場所にフィットできるのではないかと考えています。
多分最も聞かれること、特に対面で人と話す時によく聞かれるのが、「実際どれくらいインプットの時間かけてるんですか?」っていうところなんですけど。
宮武さんによると、インプットの量は前職のVC時代より今のほうが圧倒的に増えています。そこには、VC時代に抱いていたある勘違いが関係しています。
何も動かなくても(情報は)勝手に来るもんなんだっていう勘違いをしてたんですよね。
VCにいると多くの投資先と会い、周りにはすごい人たちがいます。宮武さんは、その環境にいれば情報が自然に入ってくると思っていましたが、前職を辞めてから、自分からプロアクティブに探しに行かなければならないと学んだと話します。
宮武さんはここで、インテル元CEOのアンディー・グローブ ── インテルの経営者として知られる人物。著書『ハイアウトプットマネジメント』は、マネージャーの仕事を成果で測る考え方を示した経営書の古典ですの著書『ハイアウトプットマネジメント』に触れます。同書がよいマネージャーには情報収集が重要だと説くように、当時の自分には情報収集にかける時間が足りていなかったと振り返っています。
午前中だけで2〜3時間、インプットとアウトプットは10対1
宮武さんの情報収集の時間は日によって変わりますが、最低でも午前中だけで2〜3時間をかけています。会社を辞めてから、この時間を意識的に増やしてきました。
2、3時間あると、ようやく世の中のテック業界にある程度キャッチアップができるっていう。
宮武さんが追っているのは基本的にアメリカのテック業界だけです。それでもキャッチアップに2〜3時間かかり、さらに深い記事を読む時間が別に必要だといいます。
インプットとアウトプットの比率について、宮武さんは正確な数字ではないと断ったうえで、だいたい10対1くらいで考えてほしいと話しています。
宮武さんの情報収集のチャネルは5つあります。Twitter、ニュースサイト、ニュースレター、対面、ポッドキャストです。
このうちTwitterは、リアルタイムの情報や、いろいろな人が勧める記事を知るために見ています。宮武さんは発信量の多さからツイートする人という印象を持たれがちですが、実際にはTwitterを圧倒的にインプットのチャネルとして使い、USのテック業界が何を考えているかをつかんでいます。
草野さんが最近Twitterのアルゴリズムが良くなった気がすると話すと、宮武さんも3か月前よりは少し良くなっている気がすると応じました。ただし収録は12月時点の話で、公開されるころには変わっているかもしれないと二人は笑っています。
毎日巡回するニュースサイトは8つ
宮武さんがTwitterの次に見るのがニュースサイトです。VC時代は2〜3サイトをほぼ毎日見ていて、TechCrunchとThe Informationは欠かさずチェックしていました。
一方で前職を辞めてから2年半ほど前までは、ニュースサイトをほぼ見ない時期があったといいます。投資の仕事では、ニュースサイトに記事が出るタイミングでは遅すぎるからです。
(資金)調達しましたっていうニュースが出ても、本当に遅ければ半年前ですけど、一般的に言うと1ヶ月から3ヶ月前に実際調達が起きてたりするので。
しかしテックニュースを全部追い切ることはできません。宮武さんは仕事を始めた段階でテックニュースを再び追うようになり、大手企業の動きもわかるようになったと話します。
現在の宮武さんは、8つのニュースサイトに直接アクセスして、少なくとも1日1回はチェックしています。巡回する順番も決まっていますが、順番に特に意味はないそうです。
- The Verge
- TechCrunch
- The Information
- [[Tubefilter::YouTubeなどオンライン動画やクリエイター業界のニュースを扱うアメリカのメディアです]]
- Bloomberg、Business Insider
- Wall Street Journal、New York Times
こうしたサイトはGAFAなど大手のニュースが中心です。宮武さんは、Off Topicでは小さめのスタートアップだけでなくエコシステム全体を理解する必要があるため、とても役に立っていると話します。
草野さんはエンタメ系のニュースが好きで、TubefilterやThe Hollywood Reporter、Varietyなどを見ています。見たいニュースサイトが30個ほどあり、週に1〜2回まとめてタブを開いてヘッドラインを流し見し、ネタ探しに使っているそうです。
登録数は208、ニッチなニュースレターが面白い理由
3つ目のチャネルであるニュースレターについて、宮武さんは深い分析やインサイト、意見を得るために読んでいると話します。特定のトピックについて、読めば読むほど世の中にはすごい人がいると感じるそうです。
宮武さんは今回、自分のSubstackの登録数を実際に確認しました。結果は208件でした。
これはちょっと誤解生む数字なんで、多分実際アクティブなのは多分100ぐらいだと思うんですよ。
「アクティブ」とは、ニュースレターが今も更新されているという意味です。Substack以外のニュースレターも含めると、宮武さんは合計で220ほどに登録していて、中には課金しているものもあります。
分析系のニュースレターで宮武さんが一番面白いと感じるのは、とてもニッチなものです。草野さんも、商標や特許の動きを追う「Patent Drop」を購読していると話しました。
英語圏の凄さというか、ニッチを極めてここまで読者がいるんだっていうのって。
宮武さんは、Patent Dropが広告を出せるほど読者を集めている点に驚きます。特許系では、Appleの特許だけを追跡するサイトもあるそうです。
宮武さんが特に好きだったのは、ジュリア・アレクサンダーさんの「Musings on Mouse」です。タイトルのMouseはディズニーを指し、IPやエンタメではなくディズニーのビジネスや戦略を毎週深掘りしていました。更新はすでに止まっていますが、本人は今も別のメディアで時折ディズニーの話を書いていて、宮武さんはそれを読んでいるといいます。
受信箱のさばき方と「情報収集できているか」のベンチマーク
草野さんは、届いたニュースレターで受信ボックスがあふれないのかと尋ねます。宮武さんは、まず飛ばしてもよさそうなものを先にさばき、それでも基本的にはすべてに軽く目を通しているそうです。
「これはちょっともう一回読み返さないといけない」っていうやつは一回未読にして。基本的に未読のやつは必ず見ないといけない形にしていますね。
登録しているニュースレターは約100ありますが、毎日100通が届くわけではありません。配信頻度は週1回から週3〜4回まで幅があり、1日に届くのはだいたい20〜30通だといいます。
宮武さんの朝の情報収集には、Twitter、ニュースサイト、メールという決まった順番があります。そして最後のメールの段階で、自分がきちんと情報を集められているかを確かめていました。
確認に使うのが、Morning Brew ── ビジネスやテックのニュースを毎朝まとめて届けるアメリカのニュースレターですや、リテール系のまとめメディアのRetail Diveです。こうしたまとめ系は1日遅れることが多いため、そこに載ったニュースをすでにTwitterやニュースサイトで知っていたかどうかを見ていました。
ただ宮武さんは、1年半〜2年前まではうまくできていたものの、最近はニュースが多すぎて全部は追い切れていないとも認めています。深掘り記事は朝の時間帯には読み切れないことが多く、9時〜9時半ごろまでにTwitter、ニュースサイト、メールで得た情報をツイートするのが朝のルーティンです。
ポッドキャストは「聴く」より「見る」、探すときは人ベース
4つ目のチャネルの対面について、宮武さんは自分の性格上、人に「このトピックについてヒアリングさせてください」とは頼みにくいと話します。そのため、たまたま会ったときや特定の場面で、周りの情報を集めながら聞くことが多いそうです。
5つ目のポッドキャストは、ここ1〜2年で最も消費量が増えたチャネルです。それでも必ず聴いている番組は1つしかなく、それはAll-In Podcast ── シリコンバレーの投資家4人がテック、経済、政治などを語るアメリカの人気ポッドキャストですだといいます。
ポッドキャスト聞くのがちょっと苦手なので、見る派ですね、僕は。
宮武さんはAll-Inをリリースの翌日には必ずYouTubeで見ています。それ以外の番組を自分から探すときは、トピックではなく人の名前で検索することが多いそうです。
草野さんも人ベースで探す派で、本を読んだ著者や会う予定の人について、その人が出演したポッドキャストを聴いて調べるといいます。検索にはAppleのポッドキャストのほうが名前でヒットしやすいと草野さんが話すと、宮武さんは自分はYouTubeで検索していると答えました。
宮武さんは、特定の企業を調べるために関係者を検索するほか、同じ人を定期的に検索することもあります。今の環境についてその人が何を語っているのかを知りたいからです。
なぜ聴くより「読む」ほうが深く理解できるのか
いろいろなチャネルを使う宮武さんですが、YouTubeやポッドキャストよりも圧倒的に多いのは、テキストを読むことです。宮武さんはこの習慣を変えたくないと話しています。
読んだ方が早いっていうのを一つあるんですけど、なんか同時に読む方がなんか深く読める。
宮武さんは、同じ内容がポッドキャストになっていても、テキストを選ぶといいます。書き起こしがあれば、ポッドキャストを聴かずに書き起こしを読むこともあるそうです。
宮武さんがテキストを好む理由は、操作のしやすさです。わからなかった1文を読み返す、特定の単語をコピーしてすぐ検索する、面白かった部分に戻るといった動作は、15秒しか戻れないポッドキャストでは面倒になります。宮武さんはスマホではなくデスクトップで読むため、なおさら調べやすいといいます。
読み返しや単語の検索がすぐできる。URLから元のソースへたどれる
戻れるのは15秒ずつで、聞き直したい箇所を探しにくい
あとで記事に戻りたいときも、宮武さんは台本作りに使うURL以外はほとんど保存せず、Chromeの履歴やメールを検索して探しています。動画については、YouTubeでチャプターが分かれているかどうかがとても重要だと話します。
宮武さんがテキストで一番気に入っているのは、URLを貼れることです。根拠として示されたURLから元のソースへたどり、気づけば1つの記事からタブが10個ほど開いていることもあると話すと、草野さんも「あるある」と応じていました。
テック以外に足りていない領域は何か
草野さんは、もっと情報を集めたいのにできていない領域はあるかと宮武さんに尋ねます。宮武さんの答えは「いっぱいあります」でした。
宮武さんが深掘りしたいと話すのはディープテックです。ただし時間がかかるうえ、根本となる科学や数学の話から読み直す必要があるといいます。
もうちょっと社会学とか、あと歴史?の話はもっと読まないといけないなっていうのは思いますね。
宮武さんは、哲学なども含めたヒューマニティーズと、ハードサイエンスの両方が足りていないと話します。今はその間の領域をある程度見ている状態で、もう少し本を読むことを意識したいそうです。
草野さんは、経営や会社の話など、実務のスキルを上げるものをもっと読みたいと答えました。宮武さんも、Netflixの組織論を読んでさまざまな考え方を学んだ経験に触れ、導入するかどうかは別として、フレームワークを知ることは役に立つと話しています。
フェイクニュースかどうかを見極める方法は?
宮武さんはこの話題について、以前Off Topicのメンバーシップ向けに話した際に寄せられた質問を紹介します。情報収集の中で、嘘の情報やフェイクニュースかどうかをどう見分けているのかという質問です。
宮武さんの答えは、基本的にはソースがどこにあるかを確かめることです。そのうえで、発言者や投稿者、組織がある程度信頼できるかは、経験と感覚が必要になる部分だと話しています。
宮武さんはここ1〜2年で、記事や意見に強いバイアスが乗っていることにも気づくようになったといいます。リベラル寄りかコンサバ寄りかを見分け、メディアもアジェンダを持っていると理解しながら読む必要があります。常に注意を払うのは疲れるものの、必要なことだと宮武さんは話します。
宮武さんがX(Twitter)でリンクを付けて投稿することが多いのも、自分の情報源を示すためです。どうしてもソースが見つからないのに投稿したいときは、そのことを前提として断ってから事実を書くようにしています。
ナラティブで人を分析することの危うさ
草野さんは、自分たちを含め、分析するコンテンツクリエイターが増えたと指摘します。自分のナラティブを話したい人が多いからこそ、それを分かったうえで受け入れることも大事だと話しました。
やっぱり全員ストーリーを何かしらの目的で話しているので。我々もそうですし。
草野さんは、お笑いコンビ・ラランドの西田さんがJINS PARKのインタビューで語った話を紹介します。西田さんは、漫才を分析されるのはいいものの、性格や育ちから表現を説明しようと、人となりまで分析されるのは苦手だと話していたそうです。
草野さんはこの感覚に共感し、スタートアップの成功を描くドラマや映画にも同じ問題があると話します。草野さんはGlossier ── ニューヨーク発のビューティーブランド。創業者のエミリー・ワイスさんの歩みは、たびたびメディアで物語化されてきましたの例に触れ、エンタメとしては見たいと思いつつ、ナラティブが勝手に作られていることは理解しておくべきだと話しました。
宮武さんは、アメリカの高校の国語の授業で『ロミオとジュリエット』を読み、ある言葉や動物が何の象徴なのかを議論する例を挙げます。シェイクスピアが本当にそこまで考えていたのかはわからない、という指摘です。
さらに宮武さんは、出典は覚えていないとしたうえで、中国の有名な作家のエピソードを紹介します。授業に招かれた作家が、学生から「このシーンで雨が降っていたのには意味があるのか」と聞かれ、「その日たまたま雨が降っていたから」と答えたという話です。
そのストーリーを、僕も若干やりがちな部分はたまにあるんですけど、やっぱりなんか組み込みすぎるのも良くないっていう。
草野さんは、時代によって求められるCEO像が違う点も挙げました。ハッスルが重視された時代の振る舞いが、10年後に作品として残ると「クレイジーだ」と見られてしまうことには違和感があるといいます。
宮武さんは、物語からインスピレーションを受ける人もいると認めつつ、WeWorkやUberなどが元の話と違う形で描かれ、変な目で見られるのは良くないと話します。公認の作品はほとんどなく、勝手に本が書かれて勝手に映画化されるのがアメリカだと二人は語り、映画『ソーシャル・ネットワーク』を見たマーク・ザッカーバーグさんが悲しんだらしいという話にも触れました。
宮武さんの結論は、ナラティブが増えている事実をまず受け入れ、それを理解しながら自分なりのストーリーを考えることです。ファクトはいいようにも悪いようにも見せられるため、そこに気をつける必要があると話しています。
要約ではなく一次情報を読む理由
ニュースについて宮武さんが心がけているのは、できるだけ原文を見に行くことです。今年上場したInstacartやCleverのS-1資料を読んだり、特定のテック企業については決算発表で行われる投資家向け電話会議の書き起こしを読んだりしています。
宮武さんによると、決算説明会の書き起こしを読むと、マーク・ザッカーバーグさんが実際に何を話しているかが見えてきます。ニュースで書かれる内容とは少し違うことがあり、どの数字を誇張しているのか、会社として何を推そうとしているのかがわかるといいます。
明らかに今なんかリール重視になり始めたとか。そういうのが見えてくるのは、やっぱりなんかその原文を読まないとわからないっていうところですね。
宮武さんは、AIで動画を要約するサービスについても、要約自体は問題ないとしています。ただ細かいニュアンスを知るには元の動画を見る必要があると話すと、草野さんが一言でまとめました。
宮武さんは、レックス・フリードマン ── AIやテクノロジーの研究者・起業家などに長時間インタビューするアメリカの人気ポッドキャスターですさんとサム・アルトマンさんの2〜3時間のインタビューを全部見たうえで、その要約も読んだことがあるそうです。要約とは深みがまったく違い、誰がどのタイミングでどう答えたかによって受け取り方が変わると感じたといいます。
宮武さんは、Off Topicのエピソードが長い理由も同じだと話します。しっかり説明しないとニュアンスが伝わらないからです。
毎日続けるにはプロセスを好きになること、そして1万日
草野さんが「情報収集は本当にスキルですね」と言うと、宮武さんはスキルであると同時に努力でもあると答えます。宮武さんは自分のやり方が特別だとは思っておらず、時間をかけてインプットすることを自分で選んでいるトレードオフだと話しています。
宮武さんは、情報収集を勉強ではなく常に学びと捉え、インプットが楽しいと思えない限り、アウトプットにも反映されないと考えています。自分は運良くそれが好きだったと話します。
宮武さんは、これはポッドキャストでも同じで、やり続けられるかの勝負だと話します。うろ覚えとしつつ、20VCのハリー・ステビングスさんが、ポッドキャスト業界で一番の成功要因は生き残るかどうかであり、44%のポッドキャストは3エピソードで終わると話していたと紹介しました。
宮武さんは、ミーティング、登壇、取材でも準備を徹底しています。Q&A形式のイベントで事前に質問をもらえる場合は、ざっと目を通すだけでなく、すべての質問に箇条書きで回答を作っておくそうです。
努力の量について、宮武さんはマルコム・グラッドウェルさんが広めた「1万時間の法則」よりも、MrBeastさんの考え方が好きだと話します。
何かを1万時間続ければエキスパートになるという考え方。1日8時間なら約3年
1万日、つまり30年ほど続けることが重要だという考え方
宮武さんは、自分はまだまだ1万日にはたどり着いていないとしたうえで、続けることを意識していると話しています。
ファクトより仮説とコンセプト、目指すは水平思考
宮武さんが情報を読むうえでもう1つ意識しているのは、ファクトよりもコンセプトや仮説を重視することです。多くの人はその逆で、学校でも基本的にファクトを覚えることが重視されてきたのではないかと話します。
宮武さんにとってファクトは、特定のコンテキストでしか役に立たないものです。まずコンセプトや仮説を理解し、ファクトをそのエビデンスとして使うという考え方を、宮武さんは高校時代に教わったといいます。
コンセプトや仮説は、ほかの領域にも当てはめられます。宮武さんは、Off Topicで何かを定義するときにあえて広い定義を使うのも、いろいろな話につなげやすくするためだと話しています。
宮武さんの個人的な目標は、もっと水平思考を持つ人になることです。草野さんの確認によれば、水平思考とは固定観念にとらわれず新しい発想を生む考え方で、宮武さんはさらに、異なる分野をうまくつなげてくる力だと説明しました。
水平思考を身につける方法として、宮武さんはマーク・アンドリーセン ── ブラウザ「Netscape」の共同開発者で、VCのアンドリーセン・ホロウィッツを共同創業した投資家ですさんの言葉を紹介します。アンドリーセンさん自身も水平思考を自然には持っておらず、そうした人たちとずっと話すことで徐々に身についていくと語っていたそうです。
宮武さんが水平思考の持ち主として挙げるのは、元CoinbaseのCTOのバラジさんやピーター・ティールさんです。テックの現象を、社会のシステムや政治、宗教的な考え方の流れの中に位置づけて語るような、広い視野に憧れていると話しています。
リサーチより大変なのは「なぜ今か」を主張すること
宮武さんはここまでの話を、Off Topicの作り方としてまとめます。テキストを中心に情報を集め、仮説やコンセプトを考え、ファクトをエビデンスとして示し、その並び順を組み替えてストーリーにする流れです。
情報収集
テキスト中心に幅広く読む
仮説・コンセプト
読んだ情報から、主張の軸になる考えを立てる
ファクト
仮説を支えるエビデンスとして配置する
並び順
順番を組み替えてストーリーを作る
1エピソードにどれくらい時間がかかるのかとよく聞かれる宮武さんですが、リサーチ自体はそれほど大変ではないといいます。一番大変なのは、仮説を作ることと、それを強く主張できるかどうかです。
宮武さんは、実はこのエピソードは当初出す予定ではなかったと明かします。本来はコメンタリーカルチャーについて話す予定で、おおまかなストーリーも作っていました。
(コメンタリーカルチャーの)ストーリーを見てる中で、「なんでこれを今やんないといけないんだろう?」っていうのをすごい考えて。
宮武さんは、「コメンタリーカルチャーって面白いですよね」だけではOff Topicとして成立しないと考えています。今話すべき理由と、伝えたいメッセージが見えなかったため、テーマを差し替えたといいます。
同じ理由で、宮武さんはクリエイターエコノミーとは何か、メタバースとは何かといった漠然としたテーマはあまり扱わないそうです。勉強会や登壇でもモデレーターを入れてもらい、テーマを絞ってもらうようにしているのは、何かを主張したいからだと話しています。
台本は英語、ストーリー作りの3つの手本
宮武さんは、Off Topicでは台本を書いていると明かします。台本がなければ、あれだけの企業名や数字は言えないからです。
いや、覚えてないですと。書いてるだけですと。
宮武さんの台本は英語で書かれていて、収録中にリアルタイムで日本語に訳しながら話しています。もともとは英語で書くほうが早いという理由でしたが、結果的に台本を読んでいるようには聞こえなくなったといいます。今話していることもすべて台本にあると宮武さんが言うと、草野さんは「想定通りの展開」と笑いました。
宮武さんは、ストーリー作りで影響を受けたものを3つ挙げます。1つ目は、アメリカの高校で学んだエッセイの書き方です。宮武さんは、とても独特な書き方で、今も役に立っていると話します。
2つ目は、法廷ドラマ『ボストン・リーガル』です。主人公がクロージングスピーチを異常に長く行うキャラクターで、理屈だけでなく、どのポイントで感情移入させるかという組み立て方に影響を受けたといいます。
3つ目は、『デスノート』の2人の作者が描いた、漫画家についての漫画『バクマン。』です。宮武さんは、ストーリーのどのタイミングで何をリファレンスするかといった作中の話がヒントになり、Off Topicでも実際に使っていると話しています。
小説を通してアメリカの社会を知るという方法
宮武さんが草野さんに意識していることを尋ねると、草野さんはリアクションについては特にないと笑いながら、役に立ったのは小説だと答えます。草野さんにはアメリカに住んだ経験がないため、ニューヨーク・タイムズのベストセラーリストを見て、邦訳が出たらチェックしているそうです。
(小説の)登場人物がこの音楽聴いててとか、この本リファレンスしてるってなったら、それって実際にあったりするので、それ調べて、あ、そうなんだって見たりとか。
草野さんは、ある程度支持されて邦訳まで出ている作品なら、実際にそうしたカルチャーの人がいるのだろうと感じるといいます。アメリカに限らず、イギリスやスコットランドの小説からも、社会や街、時代の雰囲気を知ることが多いそうです。
草野さんは、小説に出てくる町の名前やスーパーの名前も検索します。映画の字幕では省略されがちな固有名詞が、本では実名で出てくるからです。作中で実在の本を読んでいれば、教養のある人物として描かれていることも見えてくるといいます。
最近の例として、草野さんはバンド「Japanese Breakfast」のメンバーで、韓国系アメリカ人の著者による『Hマートで泣きながら』を挙げます。行ったことのないHマートを検索し、韓国系の親との関係や街の位置づけを知ることで、自分の環境にはない新しい発見があったと話しています。
宮武さんも、日本人が訪れるのはサンフランシスコ、ニューヨーク、シアトルなどリベラル寄りの都市が多く、それ以外のアメリカもたくさんあると応じます。映画やドラマで黒人文化などに触れることは非常に重要だと話し、次回はビジネスコミュニケーションで意識していることを話すと予告して回を締めました。
まとめ
宮武さんの情報収集は、毎朝2〜3時間をかけ、Twitter、ニュースサイト、ニュースレターを決まった順番で読むことから始まります。その土台にあるのは、テキストと一次情報を重んじ、ナラティブやバイアスを理解したうえで、ファクトよりも「なぜ今か」を語れる仮説を組み立てる姿勢です。
- 情報は待っていても来ないため、自分から取りに行く必要がある。宮武さんは毎朝最低2〜3時間をかけている
- Twitter、ニュースサイト、ニュースレターの順で読み、まとめ系メディアで取りこぼしを確かめていた
- 読み返しや検索がしやすく、元のソースへたどれるため、聴くより読むほうが深く理解できる
- ナラティブやメディアのアジェンダを意識し、要約ではなく原文や書き起こしなどの一次情報を確かめる
- ポッドキャストではファクトより仮説とコンセプトを軸にし、続けるためにプロセスそのものを楽しむ




