なぜ今、クリエイターへの利益還元が加速しているのか
この回のテーマは、クリエイターエコノミーの中で、クリエイターがどうやってお金を稼ぐかが変わってきているという話です。草野さんは、前回扱ったTwitterの動きも含めて、クリエイターに利益を還元しようとする流れが加速していると切り出します。
宮武さんはこの見方に同意し、Spotifyのダニエル・エクさんやTwitterのジャック・ドーシーさんも同様の発言をしていると紹介します。広告モデルは今後も残るものの、売上のすべてを広告に頼る形は良くないと、多くのプラットフォームが気づき始めたといいます。
ようやくここが分岐点というか、ビジネスモデルのイノベーションがここ2、3年起きてるタイミングかなと思ってます。
VOGUE、クリスティーズ、レーベル。大手が握っていた「認知」の入口
宮武さんによると、クリエイターが何かのプラットフォームに頼って認知とマネタイズを得る構図は、インターネット以前から続いてきました。モデルならVOGUEに載れるか、画家ならクリスティーズ ── イギリス発祥の世界的なオークションハウス。美術品や宝飾品などの高額取引で知られ、出品されること自体が作品の評価につながるとされますに出られるかが勝負だったといいます。
ミュージシャンならレーベル会社、ライターなら出版社、映画監督ならFOXやユニバーサルと組めるかどうか。宮武さんは、こうした大手メディアやプラットフォームが完全に権力を握っていた時代だったと振り返ります。
インターネットは、本来この構図を覆すはずのものでした。ニューヨークタイムズがニュースを選ぶのではなく誰でも記事を出せる、映画会社を通さずに誰でもYouTube動画を作れる、VOGUEに載る前からInstagramで発信できる。宮武さんは、こうした変化は実際に起きていると認めます。
誰でも発信できるはずが、プラットフォームが新しい「ミドルマン」に
ところが宮武さんは、各インターネットプラットフォームが結局はミドルマン、つまり仲介者になってしまったと指摘します。クリエイターがファンと直接つながっているように見えて、実際はプラットフォームを借りているにすぎないという見方です。
その例として挙がったのが、前年にアメリカでTikTokが禁止されるかもしれないと報じられた件です。TikTokでしかフォロワーを集められていなかったクリエイターたちは困り、「インスタでもフォローしてね」と呼びかけ始めたといいます。
BANされたらもうフォロワーゼロになっちゃうというか、もうそこで依存しちゃいますもんね、プラットフォームに。
宮武さんはさらに、ゲートキーパーとなったプラットフォームの収益構造を見ると、誰のための場所かがわかると続けます。FacebookやTwitterは売上のほぼ100%が広告で、クリエイターからお金を取っておらず、クリエイターに大きなお金も生んでいない。クリエイターではなく広告主のためのプラットフォームだという指摘です。
VOGUE、クリスティーズ、レーベル、出版社、映画会社などの大手メディアが認知とマネタイズの入口を握っていた
誰でも発信できるようになったが、SNSなどのプラットフォームが新しいゲートキーパーになり、収益の多くは広告に依存している
宮武さんは、インターネットは何億人もをつなげ、新しいビジネスチャンスを生んだ一方で、クリエイターエコノミーのインフラは100年前とほぼ同じだと話します。リーチが少し増え、認知されやすくなっただけで、エコノミクスは似たままだという見立てです。
草野さんも、インターネット初期はテキストサイトを作れば文章を読んでもらえたのに、今は自分でサイトを立ち上げても見られず、SNSで発信するしかないと応じます。宮武さんは、コンテンツが増えるほどキュレーションが必要になり、その役割を今はSNSが担っていると整理します。
プライバシーへの回帰とGoogle・Facebookへの広告集中
広告モデルが変わり始めた理由について、宮武さんは複数あると話します。最大の要素は、草野さんが指摘したクリエイターの力の高まりです。それ以外の要素として、インターネットのコンテンツを無料にしてきたのが広告だったという点を挙げます。
アメリカで広告ベースのモデルが流行り始めたのは2001年ごろで、ちょうど9.11の同時多発テロと重なります。宮武さんによると、テロ防止のために政府が電話を聞いてもいいという感覚が広がり、アメリカではプライバシーという概念がいったん薄れたといいます。
近年はそこから一転して、プライバシーに再び注目が集まっています。草野さんはTelegram ── メッセージを暗号化してやり取りできるメッセージアプリ。プライバシー重視の姿勢で知られ、利用者を増やしてきましたの人気を例に挙げ、宮武さんはAppleがデータを見ないと掲げてきたことや、広告データのオプトイン・オプトアウトをめぐるAppleとFacebookの対立もこの流れにあると説明します。
それでも宮武さんによれば、アメリカのデジタル広告費の約66%がGoogleかFacebookに流れています。お金とともにユーザーのデータもそこに集中しているため、プライバシー問題が広告モデルの見直しにつながっているという見方です。
もう1つの要素がクリエイターの権力の上昇です。宮武さんは、昔はアテンションだけが重視されコンテンツ単位で見られていたが、大量のコンテンツの中で何を信頼するかとなったとき、人を信頼するようになったと話します。
結局そのアテンションと信頼っていうところが、今、プラットフォームとか1つのコンテンツではなくて、クリエイターに寄り始めている。
広告ゼロのDiscordは、なぜ年130億円を稼げるのか
広告に頼らない次世代SNSの候補として、宮武さんはDiscordを挙げます。Discordは広告で一切マネタイズしておらず、ユーザー向けのサブスクで収益を上げているといいます。
そのサブスクがDiscord Nitroです。宮武さんの説明では、毎月10ドルを払うとカスタム機能が使えたり、音声や動画のつながりのクオリティが良くなったりします。前年の売上は130億円ほどで、単純計算でおよそ100万人が払っていたことになると宮武さんは見積もります。
まあまあな額じゃないですか。普通にそのNetflixとか16ドルぐらいでしたっけ?今アメリカだと。
宮武さんによると、Discordの売上は2019年から3倍ほどに伸びています。SNSとは少し違いますが、スニーカーのコミュニティ型サイトソールサヴィでも、利用者はコミュニティの情報を得たくて毎月30ドルを払っているといいます。
フォートナイトの「デフォルト」はなぜ悪口になるのか
次世代SNSの候補として、宮武さんはロブロックスやフォートナイトといったゲーム会社にも注目します。両社は基本無料で遊べ、ゲーム内のスキンなどに課金するマイクロトランザクションで稼いでいます。トラヴィス・スコットのコンサートも、体験自体は無料で、専用スキンが有料でした。
宮武さんが紹介したのは、フォートナイトで無料のスキンしか使っていないプレイヤーが「デフォルト」と呼ばれるという話です。
(デフォルトって)それっていわゆる悪口なんですよ。
あいつデフォルト設定だろって。
結局スキンってゲーム内のステータスなんですよ。
ゲーム市場全体で見ても、ゲーム内課金の比率は大きく変わってきたと宮武さんは話します。かつてはゲームを買う時点でお金が発生する形が主流でしたが、ゲーム内課金の割合は次のように伸びています。
草野さんは、ゲームをしない人から見れば「形のないものにお金をかけるのはやばい」と映っていたのに、今は逆に「デフォルトの服がやばい」になっていると、ステータスの逆転に驚きます。
宮武さんは、これをバスケ選手のユニフォームにたとえます。ユニフォームを買ってもその選手になれるわけでもプレーが上手くなるわけでもなく、自己表現のために買っている。デジタル上の自己表現も本質は似ていますが、その世界で過ごしていないとステータスの違いは理解しにくいかもしれないと話します。
映画のようなゲームグラフィックと、ゲーム内に生まれる新しい経済
草野さんは、2000年代初期に日本で流行したハンゲームなどのアバターチャットと比べ、今のグラフィックの進化は桁違いだと話します。Epic Gamesが公開した、アンリアルエンジンを使ったリアルな人間の顔の技術は、本物との差がわからないほどだといいます。
宮武さんは、パソコンでバスケゲームの「NBA 2K」を遊んでいたときのエピソードを紹介します。後ろを通った母親から「どこが試合してるの?」と聞かれ、本物の試合中継だと思われたそうです。重力やボールの跳ね方、ライティングなど、シミュレーションの精度も大きく上がったと話します。
草野さんも、ウイニングイレブンや最近のスパイダーマンのゲームを挙げ、映画を見ているようだったと振り返ります。宮武さんは、こうしたグラフィックの中でゲーム内課金やバーチャル通貨といった新しい経済が生まれていると話を戻し、出会い系アプリのBumbleにもアプリ内コインがあると紹介します。
テンセントに学ぶ、広告に頼りすぎない売上構造
宮武さんは、Facebookの売上の99%が広告であるのに対し、中国のテンセントは売上が分散していると比較します。
| 項目 | テンセント | |
|---|---|---|
| オンライン広告 | 約99% | 約18% |
| SNS | - | 約23% |
| オンラインゲーム(ゲーム内課金) | - | 約35% |
| クラウド | - | 2〜3%ほど |
草野さんは、どこかが倒れても成り立つ健康的な売上構造だと受け止めます。宮武さんは、売上の99%が広告だと広告主の立場に立たざるを得なくなる点が重要だと話し、最近のSNSには広告で稼ごうとするプレイヤーが少ないと指摘します。
その例がClubhouseで、チケット、投げ銭、サブスクを試したいと表明しています。宮武さんは、ビジネスモデルのイノベーションはこれから本格的に始まり、広告主ではなくクリエイターとコミュニティ寄りのプラットフォームが作られていくと見ています。
投げ銭は日本流?アメリカのクリエイターが選ぶ課金型コミュニティ
草野さんは、日本やアジアではファンクラブの構造が先行していて、好きなアーティストに年間いくら払うことにも抵抗が少ないのではと話します。YouTubeのスーパーチャットも、日本のVTuberなどアメリカより日本のほうが多いとして、アメリカでの投げ銭の受け止め方を宮武さんに尋ねます。
宮武さんは、アメリカでも投げ銭は十分可能だと答えます。Twitchではまだ少ないものの、YouTubeも始めていて徐々に来ているといいます。結局は熱狂的なファンがいるかどうかで、アメリカのクリエイターはファンのインセンティブ作りを考えるため、投げ銭よりも課金型コミュニティやサブスクに寄せる気がすると話します。
その例が、YouTuberのローガン・ポールさんが作った「Maverick」というクラブです。料金は毎月20ドルほどでNetflixより高いものの、限定コンテンツや撮影の舞台裏が見られ、グッズの割引も受けられるといいます。宮武さんによると、入っているのは熱狂的なファンで、男性向けのコンテンツのため男性が多いはずだそうです。
クリエイターを喜ばせる時代へ。各社が始めたクリエイターファンド
宮武さんは、かつてのプラットフォームは視聴者を満足させてビュー数を稼ぐことが重要で、アルゴリズムやフィードもそのために作られていたと振り返ります。それが今は、クリエイターが1つのプラットフォームに依存しない時代に変わってきたといいます。
複数のプラットフォームでオーディエンスを作るクリエイターは「マルチSKUクリエイター」と呼ばれます。オーディエンスの信頼を得ているので、別のプラットフォームに移ってもファンがついてくる。だからこそプラットフォーム側は、クリエイターを満足させ、お金を稼がせる必要が出てきたと宮武さんは説明します。
その流れで生まれたのがクリエイターファンドです。宮武さんは、TikTok、Snapchatのスポットライト、Facebook、Instagramの動きに加え、Clubhouseのアクセラレータープログラムを挙げます。機材の提供や、毎月50万円の最低支払いを行う内容だといいます。
Substackも前年に似た取り組みを始め、Product Huntも「Maker Grants」という助成金を用意しています。宮武さんによると、応募したプロダクトのオーナーに毎月5000ドルを出すもので、基本的には個人プロダクトの支援だといいます。
スタートアップの歴史は繰り返す。クリエイター版YCは生まれるか
各プラットフォームが一斉に動いていることについて、宮武さんはスタートアップ業界でも同じことが起きたと話します。スタートアップのエコシステムでは、VC、シードファンド、アクセラレーター、エンジェル投資家、クラウドファンディング、起業家同士をつなぐサイトなどが生まれてきました。
宮武さんは、同じ構造がクリエイター業界にもできるのではないかと考えています。前年にはあるVCがクリエイター向けアクセラレーターの話を出し、MrBeastさんもそうした取り組みをやりたいと話していたといいます。草野さんは、日本でもUUUMのクリエイター発掘プログラムがあると応じます。
特にその有名クリエイターたちがそこを仕切ってやるみたいな。まさにYCですよね。YCみたいな形のクリエイター版っていうのが出来上がるんじゃないかと。
宮武さんは、Y Combinator ── 2005年に始まったアメリカのスタートアップ向けアクセラレーター。少額出資と短期集中の支援プログラムで知られ、多くの有名企業を輩出していますが始まって16年ほどだと話し、草野さんは時の流れに驚きます。草野さんは、YCがいち早く始めたからこそ良い企業を生み出せたとして、クリエイターでも同じ動きが起きるだろうと受け止めます。
MrBeastの60人チームと「砂を買ってこい」という仕事
草野さんは、ローガン・ポールさんがクリエイター向けの学校を始めた際、料金の高さや「ローガン・ポールがやるの?」という反応で炎上していたと振り返ります。宮武さんは、高かったことに加えてインフラ作りが足りなかったのではと話し、今のクリエイターにはECのエキスパートなど多様なニーズがあると指摘します。
その例として挙がったのがMrBeastさんのチームです。宮武さんによると現在60人規模で、編集は5、6人ほど、半分以上は動画を実現するためのスケジューリングや買い出しなどのロジ周りを担っているといいます。
象徴的なのが、前年の無人島を買った動画の舞台裏です。宮武さんによると、島に行ったら見た目があまり良くなかったため、チームは大量の砂を買ったそうです。
とりあえず君、砂買ってこいみたいな。もうなんか100キロ分の砂買ってここを埋めろみたいな仕事とかをやってる人たちがいっぱいいるっていうところですね。
この島映えないからちょっと砂買ってきて。追加でって。
NFTとソーシャルトークン。なぜクリエイターに投資できないのか
今後のマネタイズとして、宮武さんはまずNFTを挙げます。NFTは過去回で扱ったため簡単な説明にとどめ、コンテンツをNFT化すると世界にそれしか存在しない証明になると話します。千円札はほかの千円札と置き換えられる「ファンジブル」なもので、NFTは見た目が同じでも価値が変わりうる点が違うといいます。
もう1つの方法がソーシャルトークン ── 個人やコミュニティが発行する暗号資産の一種。保有者に特典や参加権を与える仕組みとして、2021年ごろから注目を集めましたです。宮武さんは「なぜアーティストやクリエイターに投資できないのか」という問いから説明を始め、Off Topic自身を例に挙げます。
(初期ファンは)その初期ファンっていうバッジがないですし、
そうなった時に、その初期ファンたちってメリットってしないじゃないですか。
仮にOff Topicが100億円の会社になっても、初期から聴いてきたファンにはアップサイドがありません。宮武さんは、それは果たして正しいのかと問いかけ、ビリー・アイリッシュさんを例にした仮想の仕組みを説明します。
「Ocean Eyes」を歌う前から彼女を知っていて投資したいと思っても、今はその方法がありません。ソーシャルトークンはNFTと違ってファンジブルで、コインAとコインBは同じ価値を持ちます。宮武さんが示した例は、次のような流れです。
発行と販売
ビリー・アイリッシュさんが100トークンを発行し、売り出す。当時は1トークン1000ドル(約10万円)ほど
特権の付与
毎月10分のFaceTime、プライベートなSlackへの参加、バックステージ招待、ストリーミング売上の10%など
価値の上昇
グラミー賞受賞などで人気が高まり、トークンの価値が上がっていく
二次流通
保有者が売却でき、その取引の10%などがビリーさんにも入る
宮武さんは、初期ファンはビリーさんに賭けて投資でき、ビリーさんは初期資金でコンテンツを作れ、人気が出れば二次流通からも収入を得られると整理します。そのうえで、ソーシャルトークンは簡単に言えばコミュニティだとまとめます。
Patreon+Robinhood+OnlyFans。広告モデルの先にあるもの
宮武さんは、ソーシャルトークンには今あるいくつかのプラットフォームの考え方が詰まっていると話します。
宮武さんは、これを広告モデルからの進化として位置づけます。Spotifyのような広告ベースの仕組みでは、スーパーファンが聴いても知らない人が聴いても、アーティストに入る金額は同じで、マスの認知を得ない限り儲かりにくいといいます。
Substackのようなツールはスーパーファン向けのマネタイズを可能にしましたが、毎月1000円は払いたくないという一般層を取り込めません。宮武さんは、ビットコインを0.1単位で買えるように、トークンなら少額でも参加できる点に注目します。
さらに、お金だけでなく、グッズ購入やTwitterでのシェアといった努力でトークンをもらえる仕組みも考えられるといいます。BTSのファンのように頑張って応援する人に報いる形で、クリエイターとファンが一緒に育つイメージです。
宮武さんは、お金目当てで宣伝しているのか本当に好きなのかという議論は出るだろうとしつつ、ナイキやスタバ、Appleのような大手ブランドの次の30〜50年には、デビッド・ドブリックさんやMrBeastさん、チャーリー・ダミリオさんが会社化やソーシャルトークン化でトップブランドになるかもしれないと話します。
投資目的のファンと「10%は取りすぎ」問題
草野さんは、投資の文脈が入ることへの懸念を示します。ビリー・アイリッシュさんも、自室から生まれたDIYのヒットと見られる一方、芸能一家で兄も曲を作れるから売れるとわかっていたと分析する人もいます。売れるかどうかで見る、熱量の低い投資家型の「スーパーファン」が出てくる可能性があるという指摘です。
もう1つの懸念は、次世代のビヨンセのような大成功をした場合、古参ファンであっても売上の10%は取りすぎではないかという問題です。宮武さんはこの指摘を正しいと認め、ローガン・ポールさんやジェイク・ポールさんの関わったクリエイターハウスでも10%をめぐって揉めたと話します。
宮武さんは、スタートアップ業界の株の希薄化 ── 新株発行などで株式の総数が増え、既存株主の持ち分比率が下がること。上場までに初期投資家の比率が下がるのはよくあることですのような調整の考え方が今後出てくる可能性があるとしつつ、業界の課題だと認めます。投資目的の人が入ってくることも、NFTやソーシャルトークンが話題の今は特に避けられないといいます。
それでも宮武さんは、最終的には落ち着くと見ています。アート業界でも売れると見込んで投資する人は多いものの、ほとんどは失敗している。スーパーファンと投資家がともに支援する形になり、初期はスーパーファン寄りが多いだろうと話します。
コービーの引退試合の空気が100万円。感情で値段が決まる時代
宮武さんは、クリエイター社会が進むと、オーディエンスがクリエイターの価値を決める時代になると話します。従来はSpotifyやYouTubeのように固定の比率で支払いを受けていたのが、ファンとの関係性や感情によって変わっていくといいます。
いわゆるそのファン層がイコールじゃなくなるっていうところが結構重要なポイントだと思っていて。
その極端な例が、コービー・ブライアントさんの引退試合の「空気」です。宮武さんによると、誰かが試合会場の空気をジップロックに入れてeBayに出品し、100万円以上の値が普通についたといいます。偽物も出回り、最終的にeBayが空気の出品を禁止しました。
一方で、コービーさんに思い入れのない人にとってはほとんど価値がありません。宮武さんは自分が知らないクリエイターには1円も払わないこともあると話し、自身がデビッド・ドブリックさんのグッズを買った経験と、少し動画を見る程度の人なら買わないだろうという対比を示します。
結局このクリエイター社会になると、感情での購入体験がすごい増えるんですよね。
宮武さんは、これは究極的には市場が値段を決めることであり、資本主義の国アメリカでは正しい形だと話します。すごく良いと思う人は高く払い、微妙だと思う人は払わず、少し出したい人は少し出す。また、昔はコンサートの半券を取っておく程度しかスーパーファンを証明する方法がなく、アメリカには日本のファンクラブ会員番号のような仕組みもあまりないといいます。
ダイヤモンドはなぜ高いのか。価値を生む信頼とストーリーテリング
宮武さんは、会員クラブでも同じことはできるとしたうえで、ソーシャルトークンならではの点は再販できることだけだと話します。そして感情的な価値に値段をつけるうえで鍵になるのは、信頼とストーリーテリングだといいます。
宮武さんは、多くの人から承認されるソーシャルプルーフ ── 多くの人が支持していること自体が、その物や人の価値の裏付けとして働く心理的な効果。口コミやレビューの影響力などが代表例ですが必要だと説明します。1人の大ファンがいる本より、世界中の人が好きと言う本のほうが価値がつく。音楽でもアートでも同じだという見方です。
デジタル以外の例として挙がったのがダイヤモンドです。宮武さんは、ダイヤモンドに価値があるのはコマーシャルなどで特別な意味合いが伝えられてきたからで、「綺麗」という感覚さえ社会的に作られたものだと話します。草野さんは「ただの綺麗な石」と応じ、哲学的だと感心します。
宮武さんは、こうした見た目の価値や感情的な価値は信頼とストーリーテリングから生まれるため、ブランドよりクリエイターに向いていると見ています。例として、Kings of Leonが最新アルバムをNFT化し、VIP版の購入者は生涯コンサートの最前列の席を確保できるようにしたことを紹介します。
確かにその最前列のところとか、投資家の人からしたらそんなに関係ないですもんね。だけどファンが喜ぶっていう。
宮武さんは、お金が絡むと投資目的かファンかの区別がつかなくなるため、ファンが本当に喜ぶ特典を付けることがクリエイター側には大事だと話します。それを先に買って転売する人も出るとしつつ、コンサートチケットやスニーカーの転売と同じで、アップサイドがあるものに投資家が集まるのは仕方ないと受け止めます。
BTSの上場とクリエイターIPO。初期ファンにどう報いるか
草野さんは、ファンの力という意味では、BTSのファンダムの作り方やストーリーテリングが非常にうまいと話します。ジャスティン・ビーバーさんの初期やテイラー・スウィフトさん、ビヨンセさんのように、歌の上手さだけでなく熱狂的なファンを抱えられるアーティストはすごいといいます。
宮武さんは、BTSはファンの支えが大きいからこそ、ファンも一緒に恩恵を受けられるのは良いことだと話し、Off Topicとしても初期ファンに何かしら返したいと語ります。草野さんが、BTSの所属会社の上場も近い話だと指摘すると、宮武さんはそこを「クリエイターIPO」と表現します。
BTSほどの規模感に行くとIPOっていう道はあるんですけど、例えばオフトピックがIPO今できないじゃないですか。
宮武さんは、小さなクリエイターでもコミュニティを作り、ファンと一緒にレベルアップする仕組みは作れると話します。ただし、全クリエイターがやるべきだとは考えておらず、選択肢の1つという位置づけです。
1000人のコミュニティにブランドは広告を出さない
宮武さんは、こうした流れの中でブランドがクリエイターに入り込みにくくなると見ています。ブランドはクリエイターを冷たく見ればCPMやROIで評価し、商品がいくら売れるかで判断しています。デビッド・ドブリックさんに車を提供する企業も、本人が好きだからではなく売上が上がるからだといいます。
CPMやROIなど数字ベースで見る。リーチを求めるため、小さなコミュニティには広告を出しにくい
感情ベースで見る。思い入れのあるクリエイターには多くのお金を払う
宮武さんは、ローガン・ポールさんのMaverickに仮に1000人が毎月20ドルを払えば、年間240万〜250万円ほどがローガンさんに入ると試算します。ただブランドからすると、たった1000人に向けて広告は打ちたくありません。
そうするとブランドがクリエイターにアクセスするのがどんどん大変になるのかなと思ってまして。
小さなコミュニティがたくさん立ち上がるほどこの傾向は強まり、広告モデルからクリエイター側へのシフトが進むというのが宮武さんの見立てです。
ファンは平等か、ステータスで分けるか。日米コミュニティの違い
草野さんは、ニコニコ動画の有料会員やDaiGoさんの取り組みなど、日本にもファンクラブ的な仕組みは近い形であると話します。そのうえで、ファンと一緒にレベルアップするというアメリカ的、資本主義的な発想はアップデートされていると感じたといいます。
宮武さんは、それを可能にするのがブロックチェーンだと応じます。クリエイターの価値が上がればトークンの価値も上がりますが、それ以上に、初期ファンであることを一瞬で証明でき、ソーシャルなステータスが上がる点が大きいといいます。
草野さんは、将来「ローガン・ポールのコミュニティのシリアルナンバー002」を持つ人が、若手クリエイターの初期を見つける投資家のような存在になるかもしれないと想像します。宮武さんは、ソーシャルトークン発行を手伝うアクセラレーターも出てきそうだと話します。
宮武さんは、最初の1年は100個だけ出して特権を付け、次のレベルには別の権利を与えるといったティア設計も簡単になると説明します。特権はお金でなくてもよく、バックステージパスや10分間のFaceTimeでもかまわないといいます。
草野さんは、日本のファンクラブではファンは平等で、スパチャを多く送る人にも特別な権利はあまりないと比べます。アメリカではモデレーター権限や最前列など、ステータスで分けるカルト型コミュニティが面白いと話します。
宮武さんは、平等を好む日本で流行るかはわからないとしつつ、クリエイターにとって初期ファンは特別だと話します。草野さんは、企業にとっての初期投資家と同じだと応じ、宮武さんも、初期投資家の多くはお金目当てよりビジョンに賭けたい思いで動いていると重ねます。
最後に草野さんは、マネタイズできなかった面白いクリエイターが活躍できる時代になると期待を語ります。宮武さんは、各プラットフォームがクリエイター寄りに動く流れは確実に来ており、それが広告ベースのビジネスモデルをどう変えるかが気になると締めくくりました。
まとめ
この回では、大手メディアからインターネットプラットフォームへとゲートキーパーが移っただけだった歴史を出発点に、サブスク、ゲーム内課金、クリエイターファンドを経て、NFTやソーシャルトークンでファンと一緒に成長する経済までが語られました。投資目的の参加者や取り分の配分といった課題も残るものの、感情で価値が決まるクリエイター社会への移行が進んでいると考えられます。
- インターネットはクリエイターを解放するはずだったが、広告主のためのプラットフォームが新しいミドルマンになった
- Discordのサブスクやフォートナイトのスキンなど、広告に頼らないマネタイズが次世代SNSで広がっている
- 各プラットフォームのクリエイターファンドは、スタートアップのエコシステムと同じ構造がクリエイター業界にも生まれる兆しといえる
- ソーシャルトークンは、初期ファンが投資・特権・ステータスを得られ、クリエイターと一緒にレベルアップする仕組みとして語られた
- 価値を支えるのは信頼とストーリーテリングで、投資家ではなくファンが喜ぶ特典を設計することが重要とされた





