スーパーヒーローは世界を前に進めていない?
宮武さんが最近読んで面白かったのは、アメリカのスーパーヒーローと悪役の違いを論じた記事です。その記事によれば、スーパーマンのようなヒーローには、悪役を倒す計画はあっても、悪役がいないときの計画性やビジョンがないといいます。
計画性、いわゆるその悪役を倒す計画性はあるんですけど。悪役がいない時の計画性がないっていうか、ビジョンがない。
草野さんは、ヒーローになった直後に戸惑い、悪いやつが現れたから助けに行くスパイダーマンを思い浮かべます。一方で、悪役のほうは綿密に計画を立てていると応じました。
宮武さんによると、スーパーヒーロー作品の筋書きは毎回ほぼ同じです。悪役の計画にヒーローが気づき、戦いを経て世界を救い、元通りになった世界で次のエピソードも同じことが繰り返されます。
悪役が動く
世界の支配や復讐を目的に計画を始める
ヒーローが気づく
何が起きているかを探りに行く
戦いを経て救う
課題やバトルを乗り越え、最後に世界を救う
元通りに戻る
次のエピソードで同じことが繰り返される
この繰り返しから、宮武さんはヒーローを「リアクションベースのキャラクター」だと捉えます。スーパーマンほどの力があれば街づくりを手伝うこともできるはずなのに、日常では普通の行動しか取っていないという指摘です。
草野さんは、悪役が来ないよう最初から守っていたら物語が始まらないのでは、と起承転結の観点から疑問を投げかけます。それでも宮武さんは、なぜヒーローはビジョンを持ってはいけないのかという点に引っかかっていました。
草野さんが「厳しいこと言いますね」と返すと、宮武さんは記事がそういう内容だったと説明します。ビジョンを持って勝ちに行く物語が受け入れられているのはスポーツくらいで、テック業界が映画化されるときも、たいていは失敗の話になるといいます。
宮武さんは、マーク・アンドリーセン ── アメリカの著名な投資家で、ベンチャーキャピタル「アンドリーセン・ホロウィッツ」の共同創業者。Webブラウザ「Netscape」の開発者としても知られますさんも以前、グレートビジョンを持つ人が認められず、いい人は何かを止めることしかできないという考え方が今のカルチャーに浸透している、と話していたことを紹介しました。草野さんは、挑戦する人が称賛されるアメリカらしくないと意外そうです。
プリンセスもヒーローも「守る」物語なのか
宮武さんは、スーパーヒーロー作品の主なターゲットが子ども、特に男の子であることに着目します。仮説の一つとして、自分で考えて新しいことをやる発想を、学校で先生に従わないことにつながるものとして抑えようとしているのかもしれない、と話しました。
草野さんは、ディズニープリンセスのような物語も基本的に受け身で、リアクションベースだと指摘します。シンデレラのように、自分から攻めた行動を取る人が排除される構図もありそうだといいます。
宮武さんはこれを受けて、キリスト教的な価値観の浸透があるのかもしれないと話します。好きな人が1人だけで、その人と結婚まで行く物語が多いことも、その表れとして挙げました。
そうですね、守るっていう言葉の方が正しいかもしれないですね。なんかその、スーパーヒーローが何かを作るとか。なんかそっち系にはいかないですよね、どうしても。
草野さんが加えた「何かを守る」という言い換えに、宮武さんも同意します。宮武さんの見立てでは、作り出して称賛される物語はコンフリクトが少なく面白くないとされるのかもしれず、グレートビジョンを持つ人ほどハッピーエンドにならず、ヒーローになれないといいます。
その裏返しとして、主人公が悪役寄りのアンチヒーロー作品に親近感が生まれやすいのではないか、と宮武さんは考えます。草野さんが『ザ・ボーイズ』を挙げ、宮武さんは日本の例として『デスノート』を挙げました。計画性を前面に押し出していることが、かえって魅力になっているという見方です。
ジョーカーの矛盾と、悪役が緑色である理由
宮武さんは『ダークナイト』のジョーカーを例に出します。ジョーカーは自分は無差別に暴力を振るうだけだと語りながら、病院を爆発させるなど実際にはかなり計画的に動いていて、言っていることが矛盾しているといいます。
めちゃくちゃ計画性のあるジョーカーじゃんっていうのが、結局悪役ってそこの計画性がある人になりがちなんですよね。
草野さんが『マレフィセント』のような悪役を主役にした作品が増えていると話すと、宮武さんは、スーパーヒーローものをやりすぎた反動もあるのではないかと答えます。宮武さん自身は『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の主人公はサノスだと思っていて、マーベルでも悪役ロキのドラマ『ロキ』が作られたと話しました。
話は悪役あるあるへ移ります。草野さんが「悪役ってなんで緑色なんですか?」と聞くと、宮武さんは「あとイギリス人」と、もう一つのあるあるを返しました。
宮武さんが好きだという昔の自動車メーカー、ジャガーのCMは、この「悪役はイギリス人」というイメージを逆手に取ったものです。悪役のイギリス人たちが乗っている車がジャガーだという内容で、悪役のかっこよさを打ち出しています。宮武さんは、イギリス英語の話し方がより計画的に聞こえるのかもしれないと推測しました。
緑色の悪役については、ロキ、スパイダーマンのグリーンゴブリン、スーパーマンの弱点クリプトナイト、紫と緑のジョーカーと、二人で次々に例を挙げます。宮武さんがお金の色、つまりアメリカの紙幣の緑ではないかと言うと、草野さんも同じことを考えていたと応じました。草野さんは日本ではあまりそう感じないとし、宮武さんはヒーロー側は日本の戦隊ものも含めて赤が多いと話しています。
一番好きなスーパーヒーローは誰?
草野さんから一番好きなヒーローを聞かれた宮武さんは、スター・ウォーズや経済系の物語の主人公もヒーローに含めるのかと、まず定義を確かめます。スーパーヒーロー限定と決まると、宮武さんはアイアンマンを挙げました。
草野さんが考えている間の「時間稼ぎ」として、宮武さんはアイアンマンが最後に出演した、マーベル作品のフェーズ3最後の映画の思い出を話します。エンドクレジットでは、アベンジャーズのテーマ曲に合わせてメンバーの映像と役者のサインが順に映し出されました。
もう周りのお客さんがもうめちゃくちゃ叫び出してて。
フィナーレでアイアンマンが登場したのは、テーマ曲の誰もが知っているパートでした。宮武さんは、アイアンマンはマーベルを救ったと言ってもいいキャラクターで、アベンジャーズのシリーズも彼の映画から始まったと説明します。そうした全部のリファレンスと音楽、ストーリーが重なり、感動したといいます。
宮武さんはアメリカの映画館で観たことも大きかったと振り返ります。観客が叫んだり拍手したり、隣の人が号泣したりする反応は、日本とは違うと話しました。草野さんが選んだのはブラックパンサーで、穏やかな感じのヒーローと世界観が好きだと話しています。
『ドント・ルック・アップ』が描く分断と「地面が見えない」問題
話題は変わって、宮武さんは草野さんに勧められたNetflixの映画ドント・ルック・アップ ── 2021年公開のアメリカの風刺コメディー映画。地球に迫る彗星の危機を訴える科学者たちと、それを真剣に受け止めない社会を描いた作品ですを観たと報告します。宮武さんは、環境問題を別の形に置き換えた作品で、トランプ元大統領へのリファレンスもあると受け止めていました。
草野さんによるあらすじでは、レオナルド・ディカプリオさんとジェニファー・ローレンスさんが演じる主人公たちが、彗星の地球衝突という危機を知り、世界に伝えようとします。しかし世の中は、嘘だと思う人と危機感を持つ人の両極端に分かれていきます。
草野さんが風刺として挙げたのは、ニュースの生放送で必死に危機を訴えたジェニファー・ローレンスさん演じる人物が、すぐミーム化され「感情をコントロールできない女」と扱われる場面です。一方でディカプリオさん演じる研究者は「セクシーな研究者」として持ち上げられ、話の中身は受け止めてもらえません。
宮武さんは、この映画が環境問題だけでなく、メディア、今のカルチャー、政治家への批判でもあると話します。そのうえで、映画では描かれていない逆の立場から、主人公たちの行動も批判できるのではないかという視点を示しました。
(上を見ろという主張の)難しいところって、上をただ見上げると地面が見えないっていう部分もあるので。
宮武さんは例として、ヨーロッパのエネルギー問題の背景に、環境対応への移行を急ぎすぎたことがあるという考え方を挙げます。上を見上げることは必要でも、上だけを見続けても、下だけを見続けてもよくないというのが、宮武さんにとって一番の学びでした。
環境問題のような迫る危機をきちんと直視する。映画の主人公たちの主張
足元の現実や他への影響も見る。上だけを見ると見落としが生まれる
宮武さんが指していたのは、両者が完全に分かれてしまう文化です。草野さんも、作中の社会がひどく分断していたと応じました。
草野さんが、監督は『マネー・ショート』のアダム・マッケイ ── アメリカの映画監督・脚本家。コメディー出身で、金融危機を描いた『マネー・ショート 華麗なる大逆転』や政治劇『バイス』など、社会風刺の効いた作品で知られますさんだと紹介すると、宮武さんは「やっぱりぽかった」と答えます。冒頭に名言を置く、ポップなフォントを使う、急に音楽を変えるといった演出が、ディック・チェイニー副大統領を描いた『バイス』などとも共通する、独特の説明の仕方だといいます。
『NOPE』とコメディーという言語
宮武さんが次のおすすめを求めると、草野さんは、怖くて自分ではまだ観られず、宮武さんに観てレビューしてほしい映画があると切り出します。『ゲット・アウト』や『アス』のジョーダン・ピール監督の新作『NOPE』です。
草野さんの説明では、お金に困った兄妹がUFOのようなものの存在に気づき、その衝撃映像を撮ってメディアに売ろうとしたところ、やばいことが起きるという話です。宮武さんは「全然ネタバレしてない」と笑いながら聞いていました。
草野さんは、コメディー出身というジョーダン・ピール監督に触れながら、笑いやユーモアは課題やもやもやをうまく伝える言語だと話します。日本ならコントが近いかもしれないといいます。
宮武さんは、そうした文化は日本にはそこまでないかもしれないと応じます。日本では『バトル・ロワイアル』のように、ホラーやスリラーの形で社会へのメッセージを伝えることが多いという見方です。
ニュースさえコメディー化される。デイリーショーやサウスパークのように笑いで文化のヤバさを伝える
コメディーの文化はそこまでなく、『バトル・ロワイアル』のようなホラーやスリラーで社会性を語る
宮武さんがサウスパークを好きな理由は、今の文化のヤバさを、さらにヤバく誇張して伝えるところにあります。異常なまでに膨らませるとどうなるかを見せることで、現実のヤバさが理解できるといいます。
草野さんは、ワジ・アウローさんの本で読んだ、アイロニーはナードにならずに知識を伝える唯一の方法だという話を紹介し、意味が伝わりやすい言語だと共感しました。宮武さんも、草野さんが挙げたミームにも少なからず同じ意味合いがあるとまとめています。
まとめ
ヒーローは悪を止めて世界を元に戻すだけで、ビジョンを持って世界を前に進めるのはむしろ悪役ではないか。そんな問いから始まった雑談は、物語の価値観、悪役のあるある、そして風刺コメディーが社会の課題を伝える力へと広がっていきました。
- アメリカのスーパーヒーローはリアクションベースで、計画性やビジョンは悪役の側に描かれがちだという見方が紹介された
- 子ども向けの物語やプリンセスものにも「作る」より「守る」構図があり、その反動としてアンチヒーロー作品が支持されるという仮説が語られた
- 悪役には緑色やイギリス人が多いというあるあるが挙がり、緑は紙幣の色ではないかという推測も出た
- 『ドント・ルック・アップ』について、宮武さんは上だけでも下だけでもなく両方を見る大切さと、分断する文化の危うさを読み取った
- 笑いや皮肉は、課題を誇張して伝え、理解させる「言語」になると二人は話している




