AmazonでさえGoogleに頼る理由とは?
草野さんと宮武さんは今回、前回に続いて「検索エンジンの王者Googleはリプレースできるのか」というテーマを掘り下げます。前回は「Googleには勝てなそう」という印象で終わっていました。
前回だと(Googleに)全然勝てなそうな感じがありましたけど、大丈夫ですか?
宮武さんは、前回の結論は意図的なものだったと答えます。今回は、Googleに部分的に勝てそうな領域と、Googleの検索ビジネスが抱える大きなリスクを話すと予告しました。
前回の振り返りとして宮武さんが挙げたのは、Googleが検索への入り口となるアクセスポイントを、無料どころかお金を払ってまで確保しているというビジネスモデルの強さです。
草野さんは、Google検索がほかの選択肢が目に入らないほど良いプロダクトである点も大きいと補います。宮武さんも、無料でもプロダクトが悪ければデフォルトにはできないとして、十分に良いプロダクトを持つことが前提だと同意しました。
Google検索がコマースにどれほど影響しているかの例として、宮武さんはAmazonの実験を紹介します。Amazonは数年前、メキシコだけでGoogle検索広告の予算をゼロにし、テレビや屋外広告などほかの全チャネルには広告を出すという検証をしたそうです。
Amazonの実験の結果、トラフィックはかなり落ちたといいます。何%落ちたかは公表されていないものの、宮武さんは「AmazonでさえGoogleに頼っている」と表現しました。
Google検索の体験は落ちているのか
それでも検索がGoogleから離れつつある理由の一部として、宮武さんはGoogle検索の体験そのものが落ちているのではないかという仮説を挙げます。まず指摘したのが広告の数です。
宮武さんによれば、アドブロッカーを入れていない人には、場合によってはページ全体が広告のように見えることもあります。特に2015〜2016年ごろ、Googleが以前は右側に出していた広告を、検索結果の一部としてトップに出すようになった判断が体験を大きく変えたと話しました。
広告は検索結果ページの右側に表示されていた
2015〜2016年ごろから、広告が検索結果の一部としてトップに表示されるようになった
宮武さん自身もGoogle検索を使いますが、今は使い方をどれだけ深く理解しているかが重要だといいます。特定のキーワードを必ず含める、語順を固定する、TechCrunchのように特定サイト内だけを検索するといったショートカットです。草野さんも、日本語のページだけに絞る方法を挙げました。
もう一つの課題は、Googleが苦戦しているカテゴリです。「日本の人口は?」のような基本的な事実はGoogleが得意な一方で、「日本人がNFTをどう思っているか」のような問いでは、議論や多様な意見がなかなか出てこないと宮武さんは指摘します。
(NFTについての検索結果は)多分一部ブログが出てきたりとか、いくつかニュースとか出てきたりとかするんですけど、場合によってはもうちょっとそのディスカッションを見たいとか。
宮武さんは、ヘルスケア、商品レビュー、レシピ、エンタメ、旅行、コマースといったカテゴリでは、Googleを経由せずに別のサイトへ行くほうがよいと考える人がいると話します。例として挙げたのが、レストランなどのレビューサイトYelp ── アメリカで広く使われている、飲食店などの地域のお店のレビューサイト。日本の食べログに近い位置づけで語られることが多いサービスですで直接検索する使い方でした。
キュレーションと検索はなぜ交互に大きくなるのか
宮武さんは、検索エンジンではなく、人の手でキュレーションされたコンテンツアグリゲーターも出てきていると話します。例として、Notionでデータベースを作り、その中で検索する人が増えていることを挙げました。
さらに宮武さんは、ある人の言葉として、キュレーションと検索が交互に必要になるサイクルを紹介します。
キュレーションが拡大
人の手で集めた情報がどんどん大きくなる
検索が必要になる
大きくなったキュレーションの中から探すために検索が求められる
検索が拡大
検索が成長して情報量が膨らむ
再びキュレーションへ
膨らんだ検索結果を絞り込むため、またキュレーションが必要になる
草野さんは、Googleアプリのニュースのレコメンドもキュレーションに近いのではないかと問いかけます。宮武さんはそれを認めつつ、特定の人や選ばれた人たちがキュレーションし、そのインデックスを作るような仕組みはGoogleにはあまりないと話しました。
宮武さんは、人がキュレーションしたもののインデックスを作っている会社を1社知っているものの、そうした事業はスケールしにくいとも付け加えています。
ランチ探しはなぜTikTokとInstagramへ流れるのか
Googleをリプレースする別の形として、宮武さんはTwitterやInstagramで検索する人が増えている点を挙げます。草野さんも、レシピはTikTokで検索していると話しました。
端的に分かりたいっていう欲求が、多分TikTokとかインスタも多分そうだと思うんですけど、それがマッチしてるからか、すごいスッと入ってくるというか。
宮武さんは、ビジュアルで出てくる検索結果はわかりやすく、短い時間で情報をインプットできる点が体験として良いと話します。
草野さんはTwitter検索の使い方として、何かを買いたいと思ったときに、自分がフォローしている人の投稿だけを検索し、評判を確かめていると話しました。宮武さんも、投資検討のほか、ニュースがあったときに会社名で検索し、フォローしている人の意見を見るためにTwitter検索を使うといいます。
宮武さんがこの「意見を求める検索」を重要視する理由として紹介したのが、Googleの社内調査です。Googleのメンバーの発言によると、18〜24歳の若者層の4割は、ランチの場所を探すときにGoogleマップやGoogle検索ではなくTikTokやInstagramを使うそうです。
ただし宮武さんは、この数字はGoogle検索全体ではなく、ランチの場所探しという特定のユースケースの話であり、TikTokがGoogleをリプレースするという意味ではないと念を押しました。
草野さんは、日本で「ランチ 日本橋」と検索すると、まとめ記事や食べログ、Retty ── 実名のユーザーが飲食店の口コミを投稿する、日本のグルメサービスですなどが出てくると話し、アメリカでもSEOに強いまとめ記事が出るのかを尋ねます。宮武さんは、トリップアドバイザーやYelp、「この街のおすすめレストラン10選」のような記事も出てきて、作り手は個人のフードブロガーより会社が多い印象だと答えました。
宮武さんはさらに、Googleの人の話として、商品検索の55%はすでにAmazonから始まっていると紹介します。日本にはあまりない例として、掲示板型のサービスReddit ── テーマごとのコミュニティで投稿や議論が行われる、アメリカの大型掲示板サービスですを検索エンジンのように使う人が多いことも挙げました。Redditに直接行く人もいれば、GoogleでRedditのサイト内を検索する人もいるそうです。
やっぱり意見を求めているっていうところですね、特定のトピックとかに関しての。
そもそも「上から見る地図」は必要なのか
宮武さんは、Googleの人が語ったという、地図の概念そのものについての話を紹介します。宮武さんは草野さんに、紙の地図を使ったことがあるかを尋ねました。
(紙の地図は)ないですね。
宮武さんは親との旅行でギリギリ紙の地図を使った経験がある一方、特にZ世代にはその経験がまったくないと話します。そうした人たちに、デジタル上で真上から見る2Dの地図を出す必要がどこまであるのか、という問いです。
宮武さんは、より3D化した地図や、真上ではなく斜め上から見た地図のほうがよい場合もあると話します。草野さんは、位置共有アプリZenlyでは立体的に斜めから見るような地図があると応じました。
宮武さんは、Googleもこの流れを意識しているのではないかと見ています。Googleマップではビジュアル検索を強調したり、時間に応じて場所の見え方が変わるタイムスライダーを入れたりしているといいます。
タイムスライダーについて草野さんが尋ねると、宮武さんはストリートビューの見え方が時間帯で変わるようなものだと説明しました。夜景がきれいな場所だとわかったり、お昼に混む様子が見えたりするほか、雨の日の様子のように天気による違いも見られるそうです。
宮武さんによると、時間による表示はすでに実装されていて、天気による表示も一部の場所で適用されているといいます。草野さんは「ますますいいじゃないですか、Google」と感心していました。宮武さんは、Snapchatなどが3Dデータを取り入れていることも、新しいマップ体験では重要になると付け加えています。
インスタのマップはソーシャル検索の入り口になるか
草野さんは、Instagramで場所を保存できるようになったことに触れ、フォローしている人がその場所に行ったことがあるとわかればいいのに、とずっと思っていたと話します。宮武さんは、まさにそれがInstagramの狙いではないかと応じました。
宮武さんによると、Instagramは明らかにマップ機能を強化しています。アメリカでは、注文サービスChowNowと提携し、Instagramのマップでレストランを選ぶとそこから注文できるそうです。現時点では外部サイトに移動しますが、いずれアプリ内での注文やデリバリーも可能にするはずだと宮武さんは見ています。
草野さんがInstagramのショップ機能に近い展開だと話すと、宮武さんは、マップならよりソーシャルな要素を入れられると答えます。近くに友達がいれば一緒に食事を提案したり、友達が好きな場所をすすめたりできるという例です。
なんで検索もより友達が好きな場所を検索できるようにしたりとか。
草野さんは、友達の好きな場所を検索できる機能はInstagramにしかできないと話し、宮武さんも、それはInstagramにとって大きなアドバンテージになると同意しました。
写真に質問できるマルチサーチは何を変えるのか
宮武さんが個人的に面白いと話すのが、Googleのマルチサーチという機能です。Googleレンズなどで写真を撮り、その写真で検索するだけでなく、追加で質問もできます。
マルチサーチの例として宮武さんが挙げたのは、赤いドレスの写真を撮り「これの青バージョンはありますか?」と聞いて検索するという使い方です。Googleではカメラ経由の検索が月80億回あり、前年から3倍に伸びているそうです。
宮武さんは、マルチサーチはGoogleが「人が人に聞くような質問」を再現しようとしているものだと見ています。友達に写真を送って「これどう思う?」「この場所知ってる?」と聞くような行為を、Googleが置き換えようとしているという解釈です。
草野さんは、英語圏の人は文章で検索するため、マルチサーチのような検索と相性がいいと話します。日本語では「このドレス 赤 青バージョン」のように単語を並べがちですが、英語の文章での検索はコンシェルジュに聞くような感覚があるといいます。
宮武さんは日本語と英語での検索の違いを面白いとしたうえで、ARメガネのような環境では人は音声で話しかけるため、日本語でも単語ではなく文章になるだろうと話します。
草野さんは、AIスピーカーへの質問も英語のほうがしやすそうだと感じていると話します。日本語は言い方が長くなったり、語順を入れ替えられたりして、すっと出てこないのではないかという見立てです。
草野さんはさらに、日本語や中国語などアジア圏では音声入力で文章を打つ人をよく見かける一方、音声で質問する人はあまり見かけず、英語圏では逆なのではないかと話しました。宮武さんは、ARメガネの時代にGoogleがこうした違いにどう対応するかが見どころだと語っています。
TikTok検索の強みと危うさはどこにあるのか
宮武さんは、ビジュアル検索や音声検索など、Googleが得意としてきたテキスト以外の検索が重要になると話します。TikTokの検索は、旅行、食事、エンタメ、チュートリアル、レコメンデーションといったコンテンツと特に相性がいいといいます。
TikTokで検索してスクロールすると「他の人はこちらも検索しました」が出てきて、意外と役に立つと宮武さんは話します。一方で草野さんは、その表示が思わぬバイアスを生むと指摘しました。
自分が信じてたもの。みんなそう思ってるんだみたいな。でもそれってみんなじゃないと思うんですよね。
それで検索して見ちゃうじゃないですか。だから結局クリックはめっちゃされるけど、本当にみんなが思ってるかはわかんないみたいな。
宮武さんも、TikTokがどういう基準で検索結果を出しているのかはよくわからないと同意します。一方で、検索結果が自動再生されるため、URLをクリックして中身を開かなくても内容がなんとなくわかる点は、うまく置き換えていると評価しました。
TikTokでは動画のコメント部分も検索できるようになっていて、誰かがコメントで名前を挙げると、そこから検索に飛べるそうです。宮武さんは、TikTokが検索への新しい流入をつくろうとしていると見ています。
TikTokは、おすすめフィードから特定のハッシュタグや単語を含む動画を除外できるようにしました。宮武さんは、この設定は検索をパーソナライズするためのデータにもなると話します。TikTokにとって検索は新しい広告収入源でもあり、まだ検索広告は出していないものの、いずれ出してくるだろうという見方です。
TikTokやInstagramでの検索が当たり前になると、動画の冒頭がサムネイルのように、検索結果で一瞬で内容がわかる形になってもおかしくない、と宮武さんは予想します。
宮武さんは、こうしたSNSが検索で選ばれる理由として、会社が書くおすすめより個人の解説のほうがオーセンティックで信頼できそうに感じられる点も挙げます。検索とは少し離れますが、イギリスでTikTokをニュースソースにする大人は2020年の1%から7%に増え、2年で7倍になったそうです。
ただし宮武さんは、オーセンティックに見える結果も結局はアルゴリズムが出しているもので、本当に良いのかはわからないと指摘します。アルゴリズムによってカルチャーが大きく影響されているという課題は、別の回で話したいとしていました。
Google最大のリスクはなぜAppleなのか
TikTok、Instagram、Reddit、Amazonのように検索の代わりになるサービスが出てきていても、宮武さんはそれらがGoogleにとって一番のリスクだとは考えていません。TikTokに対しては、GoogleもYouTube Shortsで一部は対抗できると見ています。
草野さんは前回の話を受けて、GoogleがAppleにお金を払ってGoogle検索をデフォルトにしてもらっている関係を「ズブズブの関係性」と表現しました。宮武さんによると、その支払額は前年が120〜150億ドル程度と予測され、今年は200億ドルになるのではないかといわれています。
宮武さんが驚いたと話すのは、世界ではAndroidのほうがiPhoneより台数が多いにもかかわらず、Googleのトラフィックの約半分がAppleデバイスから来ているという事実です。アメリカ政府が大手テック企業の独占禁止法の調査を進めるなかで判明したといいます。
宮武さんは、この数字から次のような計算をしてみせます。Alphabetの前年の売上は2570億ドルで、その8割がGoogleの広告事業、検索だけでも1490億ドルと全体の約6割(正確には58%程度)を占めます。トラフィックの半分がAppleなら、広告売上の約半分がAppleから来ていることになります。
Alphabetの売上
前年は2570億ドル。うち8割がGoogleの広告事業
検索事業
1490億ドルで、全体の約6割を占める
Appleからのトラフィック
Googleのトラフィックの約半分がAppleデバイスから来ている
試算の結果
検索事業の約半分、約750億ドル。売上全体の約3割がAppleに依存している計算
宮武さんは、YouTubeは別の事業なので場合によってはそれ以上かもしれないと補足しつつ、検索事業の半分だけでも約750億ドルになると話します。円換算で「約10億円」と述べていますが、750億ドルの換算としては桁が合わない可能性があります円換算額。いずれにしても、Appleがそれを自社の売上にできる可能性があるという指摘です。
(Appleが検索エンジンを)自分で作ればいいかもみたいな。
宮武さんは、Googleの直近の四半期決算にも触れます。YouTubeの広告売上の伸びは5%程度に落ちた一方、Google検索の広告売上は13%伸び、Alphabet全体の売上成長の6割をGoogle検索が占めました。決算では、検索が伸びた理由はモバイルデバイスの利用率の高まりだと説明されており、宮武さんはそれがおそらくiPhoneだと見ています。
アクティブなAppleデバイスは世界で18億台あります。アメリカのスマホ市場でAppleのシェアは半分ちょっとですが、Z世代ではほぼ9割に達し、次に買うスマホもiPhoneと答える人が約9割だそうです。宮武さんは、アメリカでの検索はどんどんAppleから来るようになると話しました。
Appleは自社の検索エンジンを準備しているのか
Appleが自社の検索エンジンを出すという噂は、宮武さんによれば2008年からあるそうです。2020年には、アメリカの独占禁止法の調査で、GoogleがAppleにお金を払う関係が市場にとって良くないのではないかと問題視されました。
草野さんが確認したとおり、問題とされたのは、Googleが大金を払うことでほかの検索エンジンが入り込めなくなる点です。ところが宮武さんは、その結果としてAppleが「自社で作ったほうがいいのでは」という方向に動いてしまうと指摘します。
わかりましたよ。じゃあ自社で作りますよつって。
宮武さんは、アメリカ政府にとってもそれが望んでいた結果なのかという問題があると話し、草野さんも「より独占になりますもんね」と応じました。
Appleの検索エンジンの進捗を示すものとして宮武さんが挙げたのが、2018年の重要な採用です。Appleは、元Googleの検索のトップだったジョン・ジアナンドレア ── Googleで検索やAI部門を率いたのち、2018年にAppleへ移籍した人物。AppleではAIや機械学習の戦略を担っていますさんを採用しました。名目上はSiriのAI技術を開発するためとされています。
それを信じるかどうかは皆さん次第ですと。
さらにAppleは、存在しないプロダクトである「Apple Search」の役職で人を募集したことがあるそうです。Appleのウェブクローラー「AppleBot」がiOS 14前後から活発に動き始め、検索エンジンのデータベースをつくるためにインターネットをクローリングしているのではないかという話もあります。
宮武さんによると、Googleとの契約では、支払いを受ける代わりにAppleが競合の検索エンジンを作らないことが条件に入っています。それでもiOS 14のアップデートで、Spotlight ── iPhoneやMacに搭載されている検索機能。端末内のアプリやファイルに加え、ウェブの情報も表示しますでの検索はGoogleではなくApple自社のものになっているといいます。
Spotlightのウェブの検索結果をクリックすると、Googleを経由せず直接そのサイトに飛ぶ点を、宮武さんは重要なポイントとして挙げます。草野さんも、Yahooと検索するとYahoo! JAPANに直接行けることを確かめていました。
宮武さんは、Appleが10億人以上のデバイスユーザーのキーボード入力から、どんなキーワードが打たれているかを把握している点も、検索エンジンのデータセットになると話します。
宮武さんは、Appleの検索エンジンはおそらくSpotlightになると見ています。品質はまだGoogleなどに及ばないものの、マルチデバイス、iCloud上のファイル、iPhoneの属性データ、GPSデータ、アプリ内課金の取引データに検索データが加われば非常に強く、自社のアプリやサービスも出しやすくなるという見立てです。
Appleが検索を手がける理由と迷う理由は?
宮武さんは、AppleがGoogleのプロダクトを自社のものに置き換えたわかりやすい前例としてマップを挙げます。現在はApple Mapsがデフォルトになっています。
もう一つの理由は広告事業です。宮武さんによると、iPhoneの売上には限界が見えつつあり、Appleはサービス事業を伸ばす必要があります。直近の四半期でも、一番成長しているのはサービスの売上でした。
宮武さんは、AppleがFacebookの広告事業をかなり苦しめている一方で、Apple自身の広告売上は大きく伸びていると話します。現在は主にApp Store内の広告です。
Appleの広告事業のトップであるトッド・テレシーさんが昇進し、サービス部門トップのエディ・キューさんの直属になったことも、Appleが広告事業を重視し始めている表れだと宮武さんは見ています。
一方で、検索事業の立ち上げにはコストがかかります。直近の四半期でGoogleがAppleに払った額は48億ドル程度と予測され、年間では180億ドルほど、Appleのサービス事業の売上の24%にあたります。
宮武さんは、すでに大きな利益をもらえている状況で、データセンターに巨額の投資をし、独占禁止法に該当するリスクまで取るのかはわからないと話します。だからこそGoogleにとっては、慎重に扱わなければならない関係だといいます。
草野さんは、Apple Mapsは個人的にうまくいっているように思えないため、Appleが検索を出しても不発に終わる可能性はあると話します。それでもGoogleがそれに賭けるのは怖い、という見方でした。
宮武さんは、Apple Mapsがデフォルトになったことで、Googleマップの利用者はおそらく減ったと話します。乗り換える人も多かったはずですが、わざわざ選ばなければならないからです。Apple Mapsが良くなってきたという草野さんの話に、宮武さんは、体験が向上するほどGoogleが入りにくくなると応じました。
ロシアのYandexはどうやってGoogleと並んだのか
Google売上の3割がAppleというリスクに加えて、宮武さんが挙げるもう一つのリスクが独占禁止法です。AppleデバイスでGoogleをデフォルトにすることを止める動きが出るのではないかという話もあり、似た事例がすでにロシアで起きていると宮武さんは紹介します。
ロシアにはYandex ── ロシア発の検索エンジン。宮武さんによると、世界の検索シェアでは1.5%ほどで3番手とされていますという地元の検索エンジンがあります。草野さんは知らなかったと驚いていました。
宮武さんによると、Googleがロシアで強かったのはロシアがAndroid中心の市場だったからです。Googleは携帯キャリアなどに、お金を払う代わりにYandexをプリインストールしないよう求めていたといいます。
2017年、ロシア政府はそれをフェアではないとしました。ただ、Yandexを露骨に支持するのも見た目が良くないため、最初の検索時にYandexとGoogleのどちらを使うかを選ぶ画面を1ステップ加えるよう求めたそうです。その結果、Yandexのシェアは上がりました。
似たようなことがAppleで起きてもおかしくはないと思うんですよね。
宮武さんは、必ずしも半々になるとは限らないとしつつ、Appleが自社で検索エンジンを作った場合にも同じように選択肢を与えるよう求められるかもしれないと話します。来年あたりにAppleが検索エンジンを出すという噂もありますが、何年も続いている噂なので本当かどうかはわからないとしていました。
大手テック5社で過大評価されているのはどこか
話題を変えて、宮武さんは大手テック5社を事業的な勢いでランキングするなら、Microsoft、Google、Apple、Amazon、Metaの順だろうと話します。市場全体の見方としてもこの順番だろうという前提です。
宮武さんから、5社のうち最も過小評価されている会社と最も過大評価されている会社を問われ、草野さんは過小評価はAppleと答えます。過大評価についてはGoogleかMeta、さらにAmazonやMicrosoftの名前も挙げて迷っていました。
宮武さん個人の見方では、最も過小評価されているのはMetaです。短期的な事業リスクは大きいものの、5社の中で唯一ファウンダーが経営に関わっている強さがあるといいます。
そして宮武さんが最も過大評価されていると考えるのがGoogleです。Googleがとても良い会社で短期的にも伸びることは前提で、20〜30年後という長期の話だと断ったうえでの意見でした。
宮武さんが挙げた理由の一つは、ここ10年でGoogleが出した新しいプロダクトが見当たらないことです。Google DocsもGmailも5年前とあまり変わらず、検索やハードウェアでの改善はあっても大きなイノベーションは少ないといいます。
草野さんは、ほかの会社も新しいプロダクトはそれほど出していないのではと切り返します。宮武さんもそれを認めたうえで、Microsoftは買収、AppleはAirPodsやARメガネ、車、AmazonはAWS、GoogleにもDeepMindがあると話しました。
もう一つの理由は、創業者が関わっていないことです。宮武さんは、ラリー・ペイジさんはイーロン・マスクさんと並ぶかそれ以上の人物だと評価しています。
さらに宮武さんは、Googleの検索事業がオープンなインターネットに依存している点を挙げます。Googleはオープンなウェブをクローリングしてインデックスしますが、SNSはオープンウェブ上にないためインデックスしにくいといいます。
そのためGoogleは2009年にTwitterと提携してツイートをインデックスし、2011年にいったん終了したあと2015年に再び提携しています。最近はByteDanceやMetaとも提携してTikTokやInstagramをインデックスしようとしており、宮武さんは、こうしたプレイヤーへの支払いがGoogleにとって追加コストになっていると指摘しました。
宮武さんは、ブロックチェーンやWeb3の領域でSNSなどのデータがオンチェーン ── データをブロックチェーン上に記録すること。記録は公開され、誰でも参照できるのが特徴ですになる将来にも触れます。そうなれば理論上は誰でも検索・インデックスできるようになります。
データ量やハードウェアの規模からすれば、オンチェーンのデータもGoogleが一番うまくインデックスできるかもしれません。それでも宮武さんは、お金を払えば解決する課題ではなくなり、誰でも参入できる領域になって競争が激しくなると見ています。
Appleはなぜここまで手強いのか
宮武さんは今回の話を振り返り、キュレーションや人の意見が求められる特定の領域では、TikTok、Instagram、Reddit、Twitterのほうが検索体験として良くなっていると整理します。そのうえで最大の障壁はAppleであり、GoogleはトラフィックのI半分を占めるiOSデバイスに頼らざるを得ないと話しました。
宮武さんは、リサーチを始めた時点ではAppleの話をこれほどするとは思っていなかったと明かします。草野さんは、iPhoneのプロダクトとしての良さとエコシステムの優秀さを挙げ、Appleを手強い相手だと表現しました。
宮武さんは、Appleがハードウェアと OSを組み合わせて持っていることを強調します。ハードウェアのレイヤーを持つことの重要性が大きいからこそ、各社がARメガネで戦おうとしているのだろうという見方です。
だって世界中の人がみんなAppleのデバイスで、もうなんなら多分人と喋るよりiPhone持ってる時間の方が長くて。
草野さんは、Appleから車のような新しいプロダクトが早く出てほしいと話します。宮武さんは、iPhoneに対抗するにはARメガネのようにまったく違うフォーマットでなければならないかもしれないとしつつ、そこでもAppleが一番のものを作ってしまうかもしれないと締めくくりました。
まとめ
今回の回では、意見を求める検索やビジュアル検索でSNSがGoogleを部分的に置き換えつつあることが語られました。そのうえで宮武さんは、Googleにとっての最大のリスクはSNSではなく、トラフィックの約半分を握るAppleだと指摘しています。
- 商品レビューやランチ探しなど、人の意見を求める検索ではTikTok、Instagram、Redditなどが選ばれつつある
- Googleもマップのタイムスライダーやマルチサーチで、テキスト以外の検索体験を強化している
- Googleのトラフィックの約半分はAppleデバイスから来ており、宮武さんの試算では売上の約3割がAppleに依存している
- AppleはSpotlightやAppleBot、元Google幹部の採用などから、自社検索に向けて動いている可能性があると語られた
- ロシアのYandexの例のように、独占禁止法による選択画面の導入で検索シェアが大きく変わることもある


