オフトピック史上一番すごい日?
写真SNSアプリ「Dispo」が日本で瞬間的にバズったタイミングで、宮武さんはDispoの創業者たちとZoomで話す機会を得ました。相手は社長のダニエルさんと、共同創業者で人気YouTuberのデイビッド・ドブリックさんです。
いや、一番すごいと思いますよ。僕もいまだに、今日起きたので、それが今日収録してる今日なんで、いまだに放心状態です、半分。
デイビッド・ドブリックさんは、メインのYouTubeチャンネルに1880万人の登録者を持つ人物です。宮武さんによると、アメリカのZ世代で最も人気のあるオンラインセレブとして2〜3年連続で1位になっており、アメリカの若い世代なら全員が知っている名前だといいます。
草野さんは、Dispoを「フィルムカメラのアプリ版」と紹介しています。テストフライトのベータ版として招待制で配られていたため、Clubhouseのような限定感があり、「Clubhouseの次はDispoか」という盛り上がりも生まれていました。
Dispoの最大の特徴は、撮った写真がその場では見られず、翌朝にならないと「現像」されない点です。草野さんは、この仕組みこそがアプリの面白いポイントだと話しています。
取材を終えた宮武さんの第一印象は、二人とも「めちゃくちゃいい人」だったということです。Zoomはデイビッドさんの新しい家からつながっており、ファンとしてはその家を少し見られたのも嬉しかったといいます。
宮武さんは、デイビッドさんがさまざまなSNSを渡り歩いてきた人物であることにも触れています。その経歴が、Dispoのようなアプリを発想できた理由の一つではないかという見立てです。
デイビッドさんについては、番組の第42話でも広告との付き合い方という切り口で取り上げており、noteの記事も公開されています。
テストフライト1万人の上限が取材の入口に
宮武さんがDispoの創業者に連絡を取ったきっかけは、日本でのバズでした。テストフライトの参加者には1万人という上限があり、Dispoのテストフライトに入ると招待枠が20件もらえます。
宮武さんが何人かに招待を送ったところ、数名から「上限を超えて入れません」と返ってきました。そこで1万人の上限に達したことを知り、創業者側に連絡してみようと考えたといいます。
ちょっと連絡をして、いろんな形で連絡は取れたんですけど、そこでCEOのダニエルさんとたまたま繋がって、そこで「ちょっとインタビューさせてください」っていうのを言って。
取材が実現したのは、収録当日の2月15日月曜の朝でした。草野さんは「英語を勉強して、次は同席できるくらい頑張ろう」と冗談まじりに話しています。
Dispoでの二人の役割について、宮武さんは、ダニエルさんがCEOで、デイビッドさんは「CFO」だと説明しています。ただしこれはChief Financial Officerではなく、「Chief Fun Officer」という肩書きです。
大まかなビジョンとかアイデアはデイビッドさんから来てますね。
宮武さんによると、Dispoのアイデアの源はデイビッドさんで、ダニエルさんはそれを実行する役割です。もちろんUIの設計などにはダニエルさんの思考も反映されており、二人で作り上げたアプリだといいます。
パーティーの使い捨てカメラと『ハングオーバー!』から生まれたアイデア
Dispoはもともと「David's Disposable」という名前のアプリとして2019年末にローンチされ、のちに現在の「Dispo」へ名前を変えました。宮武さんが、なぜこのアプリを作ったのかをデイビッドさんに尋ねると、返ってきたのは「今を生きる」という考え方でした。
その瞬間瞬間を楽しむのが重要っていう話で。
デイビッドさんの問題意識は、インスタやフィルター付きのカメラを使うと、ライティングやアングルばかり気にしてしまうことでした。せっかくみんなが集まっているのだから、写真は一瞬で撮り、あとはその場をみんなで楽しもうという発想です。
もう一つのきっかけは、コロナ前のLAのパーティーで見た光景です。若い女性たちが会場に入ってきて参加者に使い捨てカメラを配り、あとでカメラを回収していく、という行動がありました。
その女性たちが戻ってきて、次の日の朝にカメラを回収して、そこで大体100枚から150枚ぐらいの写真が出来上がって、それをみんなに共有したりとか、渡し合ったりとかするっていうのが、もともとこのアイデアのきっかけにもなったらしくて。
草野さんも、大学生のころに友人と一人ずつカメラを持ち、最後に現像して楽しんだ経験があるといいます。日本でも写ルンです ── 富士フイルムが販売するレンズ付きフィルム(使い捨てカメラ)。近年、若い世代の間でフィルム写真の風合いが再び人気になりましたがトレンドになっていたことから、同じ流れがLAでも起きていたと二人は見ています。
宮武さんによると、この体験で重要だったのは、撮った瞬間にカメラを見ないことと、全員が同じタイミングで現像を見られることでした。デイビッドさんはこれを「Delayed gratification」と表現しています。
撮った瞬間の満足ではなく、少し遅れてやってくる楽しみのほうが、かえって楽しめるのではないか、というのがデイビッドさんの思いです。
さらに宮武さんは、映画『ハングオーバー!』シリーズの1作目のエンドロールも着想源だと紹介しています。エンドロールでは、本編で描かれなかった途中の出来事の写真が一斉に流れ、何が起きたのかがなんとなく見えてきます。
いろいろな人が一つのイベントをさまざまな角度から撮り、あとで一斉に見返す。これがデイビッドさんにとっての理想の形だったといいます。
問題意識
インスタやフィルターを使うと、ライティングやアングルを気にしてその場を楽しめない
LAのパーティー
配られた使い捨てカメラで撮り、翌朝100〜150枚の写真をみんなで共有する文化があった
『ハングオーバー!』
エンドロールで、本編にない途中の写真を一斉に見返すシーン
Dispo
その場では見ず、翌朝みんなで同時に写真を見るアプリへ
草野さんは、これはインスタではできない体験だと話します。宮武さんも、共有アルバムの機能はFacebook以外にほとんどなく、意外と存在しないと指摘しています。
Dispoのフィルターと「同じ時間に見る」体験は何が違う?
実際にDispoを使ってみた草野さんが一番よかったと挙げたのは、フィルターの出来でした。草野さん自身、以前フィルムカメラ風の加工ができるアプリを探していたことがあるといいます。
やっぱりインスタのフィルターって結構、ちょっと時代を感じてしまうというか、今っぽくないなっていうのを思ってて。
草野さんは、VSCO ── 写真の撮影・編集アプリ。フィルム風の落ち着いたフィルターに定評があり、アメリカのZ世代を中心に人気を集めましたがほぼ有料なのに伸び続けていることを例に挙げます。お金をかけないと良いフィルターが手に入らないほど、エモい写真が撮れる編集アプリは少ないという見方です。
宮武さんも、Dispoの写真は色合いのグラデーションが少し赤みがかり、全体として使い捨てカメラらしい古い風合いになると話しています。
一方で宮武さんは、今後の課題にも触れています。Dispoはリアルでオーセンティックな感覚を保つために、自社の1種類のフィルター以外を入れていません。スケールしていく中で、クリエイティブツールを追加するのかどうかは気になる判断だといいます。
宮武さんがもう一つ重要だと考えるのは、写真が翌朝9時に見られるようになる仕組みです。Dispoの「ロール」はアルバムのような機能で、プライベートかパブリックかを設定でき、友達を追加すれば一つのロールに一緒に写真を入れられます。
みんな自分の好きな時間に見ましょうみたいな感じだったのが、あえて同じ時間帯に載せるっていうのは、みんな同じタイミングで「この写真面白かったね」とか、「こんなことあったんだ」っていう共感がその場で得られるっていう。
宮武さんによると、実際に同じ場所にいなくても、同じタイミングで写真を見ることで強い感情が生まれるといいます。
従来のSNSでは、撮った写真をそれぞれが好きな時間に見る
Dispoでは、ロールの写真を翌朝9時に全員が同じタイミングで見て、共感し合う
草野さんは、共有アルバムをリアルな友達同士だけでなく、大きなコミュニティで作っている人も見かけると話します。宮武さんも、取材で聞いた使い方の幅を紹介しています。
デイビッドさんにとっての一番のユースケースは、カリフォルニアに集まった友人たちの小さなパーティーの瞬間を、自分も後から見られることです。一方でダニエルさんからは、このアプリ経由でインターンが採用された例や、学校のメモを共有し合う例も聞いたといいます。
まだ新しいアプリだからこそ、いろんな新しい使い方が生まれるので、こういうアプリっていうのはまだ言い切れないっていうのも言ってましたね。
草野さんは、創業者がアプリを定義せず、使い方をユーザーに任せている姿勢を評価しています。
ベビーアニマルと炎のマーク、Dispoに隠された遊び心
宮武さんによると、ダニエルさんもデイビッドさんも、Dispoには多くの「イースターエッグ」を仕込んでいると話していたそうです。例えば設定画面には、招待や通知の設定と並んで「ベビーアニマル」という項目があり、タップすると動物の写真が出てきます。
もちろん意味はないんですけど。でも意味がないからこそ意味があると思っていて。
宮武さんは、こうした仕掛けから、Dispoが構造化された「心のないサービス」ではなく、みんなで一緒にこの瞬間を楽しもうという姿勢を強調したアプリだと読み取っています。
草野さんも、写真の詳細ボタンを押すとニコちゃんマークのようなものが出るなど、遊び心のあるポイントが多いと感じたといいます。他のアプリでも、YelpやSwarmSWAMのようにリフレッシュのスクロールでキャラクターが出てくる仕掛けがあり、そうしたサービスは良いと話しています。
宮武さんは、ダニエルさんが取材で競合の話をあえて一切しなかったことにも触れています。そのうえで個人的な感想として、Dispoはインスタグラムとは逆張りのアプリだと感じたといいます。
すごいフリーで、なおかつオーセンティックな自分を出すっていう感覚って、すごい今Z世代向けのアプリなんだなっていうふうに思いましたね。
草野さんは、プロフィールにTwitterのIDを書くとそのまま表示される点や、絵文字でアイコンを表現する点にも注目しています。機能を説明しすぎず、使ってみて発見する楽しさがあることを、チュートリアルとして面白い設計だと評価しました。
宮武さんは取材で、気になっていた炎の絵文字についてダニエルさんに直接尋ねています。宮武さんは当初、これをストリーク ── 連続記録のこと。Snapchatでは友達と毎日メッセージをやり取りし続けた日数が炎の絵文字とともに表示され、途切れさせたくない心理を生みますと同じものだと考えていました。
ところが、使い始めて1日しか経っていない人の炎の横に「11」という数字が出ていたため、宮武さんは違う仕組みではないかと疑問を持ったといいます。
楽しみながら理解してくださいって言われて。
これ言っていいのかわかんないですけど、デイビッドさんがここで「僕もわかんないよ」って言ってて。
後から教えてもらったところでは、炎のマークは一応ストリークではあるものの、計算方法が独自で、その方法は明かせないとのことでした。草野さんは写真を撮った回数ではないかと推測しますが、宮武さんは撮影回数は別のフラッシュの絵文字で示されるはずだと答えています。
宮武さんは、教えないけれどみんなで楽しんでほしい、というこの姿勢そのものが、草野さんの言う遊び心につながっていると話しています。
日本のバズは創業者にどう届いていた?
草野さんが、日本でのバズを創業者の二人も知っているのかと尋ねると、宮武さんは「もちろん」と答えます。アメリカ時間の日曜の深夜1時、2時に、日本からの通知が大量に来て起こされたそうです。
本当に日本のせいでテストフライトが閉まったんで。
宮武さんによると、それだけユーザーが一気に押し寄せたことを、二人はとても喜んでいたといいます。
さらにDispoのチームは、デザイン面で日本からインスピレーションを受けることが多いそうです。アプリ冒頭のオープニングアニメーションにも、日本から着想を得た部分があり、日本のデザインへのこだわりを参考にしていると話していたといいます。
草野さんは、紙袋からカメラが出てくるオープニングアニメーションを、とてもリッチだったと振り返ります。最近は3D系のエンタメ性の強いデザインのアプリが増える一方で、Appleの純正アプリのようにシンプルなものも多く、二極化していると感じているそうです。
宮武さんは、Dispoをはじめ最近いくつもの新しいソーシャルアプリが出てきていると指摘します。以前も話したように3〜5年で新しい世代が入れ替わり、新しいアプリが人気になるため、まさにそのタイミングが来ているという印象だといいます。
「インスタ疲れ」の先にDispoはどう位置づけられるか
草野さんは、自分をミレニアル世代の最後の代と位置づけたうえで、日本とアメリカのZ世代は少し違うとしつつも、いわゆる「インスタ疲れ」はよくわかると話します。
あんまりインスタもフィルター使わなくなったし、(投稿を)上げるのなんか大変だなっていうのは感じたりするので。
宮武さんも、インスタのアカウントをプライベートにする人が多いと応じます。草野さんは、限られた友達と写真をシェアできるDispoの機能や、写ルンですのようなフィルムカメラのテイストが好きなので、使っていきたいと話しました。
宮武さんによると、Dispoを見て2012〜2013年ごろのインスタを思い出すという声も多いそうです。ミレニアル層には「古き良き時代」に映り、Z世代には「これこそ求めていたもの」としてドンピシャに当たっているという見立てです。
そのうえで宮武さんは、今後インスタグラムが共有アルバムのような機能をコピーするのではないかと予想します。これに対して草野さんは、トーンや根本の思想が違うため、インスタが寄せてもユーザーは好きにならないだろうと考えています。
多くの人が使い、ビジネスにもフィットする。理想的な世界を描く、構造化されたプラットフォーム
限られた友達と写真を共有し、フリーでオーセンティックな自分を出せる。「今を生きる」を強調
草野さんは、インスタはいい意味で多くの人に使われ、ビジネス向けにもフィットするように進化してきたと話します。その背景があるからこそ、Dispoのような新しいアプリが生まれるのだろうと感じているといいます。
やっぱりそのlive in the momentというか、それをすごい強調した面白いアプリだなと思いましたね。
まとめ
この回では、宮武さんがDispoの創業者に直接取材した内容をもとに、アプリの原点にある「今を生きる」という思想と、それを形にした設計が語られました。写真をその場で見ずに翌朝みんなで見る仕組みや、説明しすぎない遊び心は、インスタ疲れを感じる世代に向けた逆張りの提案として映っています。
- Dispoの発想はデイビッド・ドブリックさんによるもので、LAのパーティーの使い捨てカメラ文化と『ハングオーバー!』のエンドロールが着想源になった
- 撮った瞬間ではなく、翌朝9時に全員が同時に写真を見る「遅れた楽しみ」が体験の核にある
- ベビーアニマルや炎のマークなど、あえて説明しないイースターエッグが「みんなで楽しむ」姿勢を伝えている
- 創業者たちは日本でのバズを喜び、デザイン面でも日本から影響を受けていると話していた
- インスタグラムとはトーンも思想も異なり、Z世代向けのオーセンティックな写真SNSとして位置づけられている




