なぜOffTopicは一人の人物を取り上げるのか
Off Topicは、アメリカを中心にテックニュースやスタートアップ、ビジネス情報を扱う番組です。特定の人物を1回まるごと取り上げることは珍しく、今回のピーター・ティール回は宮武さんいわく「レアケース」です。
宮武さんが取り上げた理由は、ピーター・ティールの考え方やフレームワークが、シリコンバレーで強い影響力を持っているからです。宮武さん自身も、ここ3、4年ほどで特に影響を受けたと話しています。
(ピーター・ティールさんの)フレームワークっていうのは、僕ももちろんそうですし、結構シリコンバレー内だとやっぱりすごい影響されてるのかなとは思うので。
草野さんは、206話「シリコンバレーでリベラルアーツと哲学が必要な理由」に「ピーター・ティールイズム」を感じたといいます。成長する外れ値のような人に投資するという考え方が、ピーター・ティールらしいと感じたそうです。
宮武さんはほかにも、「PayPalマフィアから学ぶスタートアップ」の人材発掘の回、119話と120話の「イノベーションが加速してるか減速してるか」、そしてルネ・ジラール ── フランス出身の思想家・文学研究者。スタンフォード大学で教え、人は他者の欲望を模倣して欲しがるという「模倣(ミメーシス)理論」で知られますのミメーシス理論の回などを挙げ、過去の多くのエピソードが直接影響を受けていると振り返ります。
宮武さんが考えるピーター・ティールのすごさは、「一般的」や「普通」という概念を捨て、世の中をそのままの形で見られることです。ソフトウェアやテクノロジーだけでなく、カルチャー、社会学、哲学、時には宗教学の観点からも物事を見て、それを簡潔に伝えられる点を挙げています。
ピーター・ティールはSNSをやっていないため、その考えに触れるには、著書を読むか、登壇やスピーチを見るしかありません。宮武さんは、登壇の動画を見るうちにどんどんはまっていったと話しています。
尖っているのに反論しにくい、ピーター・ティールの議論術
今回の準備で、宮武さんはピーター・ティールの動画インタビューやポッドキャストを数多く聞きました。宮武さんによると、ピーター・ティールには「鉄板ネタ」が多く、同じ話でもどこを同じ言い方で話し、どこを変えるのかを見るのが面白いそうです。
宮武さんが特に強調するのは、ピーター・ティールの話し方のうまさです。尖ったことを言っているのに、言い返しにくいといいます。
(ピーター・ティールさんは)めちゃくちゃ横軸で考えられる人なので、いろんな事例を挙げたりとか、類似なものを挙げたりとかできるので、反論しにくいと思うんですよ。
宮武さんの説明では、ソフトウェアの話の中に宗教論や歴史上の人物を持ち出されると、相手はその話を十分に理解していないことが多いといいます。たとえばリンカーン大統領のスピーチを例に出されても、そのスピーチを全部読んでいる人は少ないので、反論しにくくなるわけです。
Founders Fund ── ピーター・ティールらが設立したアメリカのベンチャーキャピタル。SpaceXなどへの投資で知られ、尖った投資哲学を持つことで有名ですの最年少パートナーであるデリアンさんも、議論には「絶対勝てる議論の構築方法」があり、ピーター・ティールはそれがとてもうまいと話していたそうです。宮武さんは加えて、覚えやすいセリフを言うことも、説得力の理由に挙げています。
一方で、ピーター・ティールは自分に反抗する人を好み、評価するといいます。そのためFounders Fundでは、ピーター・ティールの意見に反対意見を述べるインセンティブが、ほかのメンバーにあるそうです。
位のある人ってか、めちゃくちゃすごい人だけど、反論できるっていう環境、むしろそっちの方がウェルカムされるっていうのはすごい良さそう。
宮武さんは、「イエスマンは欲しくない」と言うCEOは多いものの、結果的にイエスマンが揃っている組織も多いと指摘します。そのうえで、反対意見が歓迎される文化を実際に根づかせている点がすごいと評価しています。
「あなたの質問の前提が間違っています」という答え方
ピーター・ティールは、登壇や対談で特定の質問をされたとき、よく使う「手口」があると宮武さんは話します。それは、質問に必ずしもまっすぐ答えないことです。
宮武さんによれば、質問をごまかす方法としては、別のトピックにすぐ話を振るなどのやり方がよくあります。しかしピーター・ティールは、もっとダイレクトに返すといいます。
草野さんは「勝てないですね、それ」と驚きつつ、前提をひっくり返すのはピーター・ティールらしいと受け止めます。ただ、全部の質問でそれをやると「嫌なやつになりますからね」と宮武さんが笑いながら返すやり取りもありました。
宮武さんは、この前提の否定の背景に、質問の持っていき方や、そこに含まれる相手のナラティブに乗りたくないという考えがあるのではないかと見ています。
草野さんは、宮武さんの話し方にも似たところがあると指摘します。前提を自分のほうへ戻していく答え方は、ピーター・ティールから学んでいるのではないかという問いに、宮武さんは「多分すごい影響されてると思います」と認めています。
結構ミヤタケさんの話し方、Wikipedia私作れると思います。こういう構文とかこういう答え方みたいな、QAの回答の仕方みたいなのは結構わかるつもりです。
本人の発言だけを追う、というリサーチ方針
宮武さんは、ピーター・ティールは尖ってはいるものの、何かしらの真実を突き止めているケースが多いと考えています。だからこそ今回のテーマに選んだといいます。
話す内容については、『ゼロ・トゥ・ワン ── ピーター・ティールが2014年に出版した起業論の本。スタンフォード大学での講義をもとにしたもので、既存のものを模倣せず新しいものを生み出す重要性を説いています』を読めばわかる話は避け、最近の発言や10年以上前から話していることのうち、本にあまり書かれていない内容を中心にする方針です。
もう1つの重要な方針が、メディアの発言を入れず、ピーター・ティール本人が話したことだけを基本に扱うことです。宮武さん個人の意見は入るかもしれないものの、第三者による評価は意図的に外しています。
理由は、記者がピーター・ティールを説明するときの内容と、本人が話す内容がかなり違うからです。宮武さんは、トランプ支持の件などもあり、リベラル寄りのメディアからは敵対的に見られやすく、ネガティブな話が多く書かれがちだと説明します。
(ピーター・ティールさんの)ロジックとその考えっていうのを話すのが大事だなと思って、今回そっちにフォーカスしました。
エリート街道から外れた、7か月と3日の弁護士時代
宮武さんはまず、ピーター・ティールの背景を紹介します。子どもの頃から周囲に明らかに優秀だと知られており、中学時代には親友から「4年後には絶対スタンフォードに入っている」と言われ、実際にその通りになったそうです。
スタンフォード大学を卒業したあとはスタンフォードのロースクールへ進み、ニューヨークのエリートな弁護士事務所に入ります。草野さんの言葉を借りれば、まさに「エリート街道」です。
しかしピーター・ティールは、その弁護士事務所に7か月と3日しかいませんでした。辞めてシリコンバレーへ向かうこのタイミングで、大きな気づきがあったと宮武さんは話します。
誰もが入りたいエリートな職場
激務、楽しくない、意味がないなどの理由で外に出たがっていた
宮武さんによると、ピーター・ティールはこの経験から、エリートの階級を上がっていっても結局アンハッピーになるだけだと気づき、別の道に進んだといいます。
草野さんは、テクノロジーへの関心ではなく自分の幸せが出発点だったことを意外だと感じます。宮武さんは両方あったと思うとしたうえで、スタンフォードでルネ・ジラールのもとでミメーシス理論を学んだあと、自分がまさにその理論の中にいると気づいたのではないかと推測しています。
自分がそれを本当に選んだのかって多分疑問があったと思うんですよ。
宮武さんは、ピーター・ティールがリバタリアン ── 個人の自由や自己決定を最大限に重んじ、政府による介入を最小限にすべきだと考える政治思想の立場として、人が自分の判断をコントロールする「エージェンシー」を重視するのは、こうした経験から生まれているのではないかと考えています。周りに言われるまま医者や弁護士を目指すのは良くない、という趣旨の発言は今もしているそうです。
ピーター・ティールは、2008年のリーマンショック ── 2008年、米大手投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻をきっかけに広がった世界的な金融危機がミレニアル世代のカルチャーにとって重要だったとも話しています。ウォール街へ行くというエリートの道のりがそこで途切れ、テックへ人が寄るきっかけになったのではないか、という見方です。
シリコンバレーでここまで影響力がある理由
ピーター・ティールは、シリコンバレーで最も重要な人物だと言う人もいるほどの存在です。PayPalの共同創業者であり、Facebookの最初の投資家であり、Palantir ── ピーター・ティールらが共同創業したデータ分析ソフトウェア企業。政府機関や大企業向けのデータ解析プラットフォームで知られますの創業やFounders Fundの設立にも関わっています。
影響力の理由として、宮武さんはまず『ゼロ・トゥ・ワン』の存在を挙げます。もう1つがPayPalマフィア ── PayPalの創業メンバーや初期社員で、その後に有力企業を創業・投資した人々の通称。イーロン・マスクらも含まれますで、ほかのメンバーがピーター・ティールの考えをいろいろな場所へ広めていったといいます。
草野さんが言語化能力の高さを挙げると、宮武さんも「めちゃくちゃ高い」と同意します。加えて、当時あまり語られていなかったことを言っていた尖り方も大きかったといいます。
それが後々正しくなった時に、やっぱり彼は預言者風に見えちゃうので、どうしても。
宮武さんによると、コントラリアン ── 多数派の意見や常識にあえて逆らう立場をとる人。投資では、市場の大勢と反対の判断をする投資家を指しますであること、自信を持って話すこと、よりファウンダーファーストなガバナンス、コピーではなく完全に新しいものを作ることなどは、今のシリコンバレーでは当たり前です。しかし、その切り口を開いたのはピーター・ティールだったといいます。
ルールを破る反抗心もピーター・ティールイズムの一部です。ピーター・ティールはよく、PayPalの創業者6人中4人は高校生のときに爆弾を作ったことがある、と話していたそうです。誰がそうだったかは明かしていません。
AIはインターネットバブルと似ているのか
ここから話題は、ピーター・ティールが近年語っているテーマへ移ります。最初は、どのカンファレンスでも聞かれるというAIの話です。
ピーター・ティールの答えはおおむね同じで、AIを1999年のインターネットバブルと比較します。AIやLLMにはインターネット級の重要性があり、業界を変え、新しい市場を生むことは基本的に間違いないと考えています。ただし、投資という面では非常にトリッキーだというのです。
ピーター・ティールの見方では、インターネットバブルの時期は、人々がインターネットのポテンシャルを最も理解していたタイミングでもありました。新しい経済圏が古い経済圏をリプレイスすると誰もが言っていて、それ自体は正解だったといいます。
宮武さんが紹介する例がAmazonです。1999年当時、インターネットに投資するなら最も正しく安全だったのはおそらくAmazonで、これは今から振り返った評価ではなく当時の目線でもそうだったと説明します。
今の株価ベースに直すと、4.7ドルから0.35ドルへの下落です。宮武さんは、最も明確な投資先でも、まず投資額の95%を失うことになると強調します。そこから底値で見れば500倍になったものの、2009年はあくまで株価が元に戻っただけでした。
ちゃんとリターンを出すまで、20年以上かかってるんですよ。25年間かけてようやく40倍になってるんですよ。
宮武さんは、ピーター・ティールがこの例で示したいのは、ピーク時に投資することの難しさだと解説します。今のAIもまさに同じで、みんながAIは世界を変えると言っていて、それはある意味正しいかもしれないものの、投資面では難しいという見立てです。
草野さんが「このAIバブルは弾けるんですか」と尋ねると、宮武さんは、ピーター・ティールとしては弾けるのではないかと考えていると答えます。今のバリュエーション ── 企業価値の評価額。将来の収益見込みなどをもとに算出され、投資判断の基準になりますが明らかに高すぎるという理由から、Founders Fundはほかのファンドと比べてAIへの投資が少ないそうです。
AI業界で稼いでいるのはNVIDIAだけ
ピーター・ティールのもう1つの見方は、AI業界でちゃんとお金を儲けているのは今は1社しかなく、それがNVIDIAだというものです。売上ベースで8割ほど、利益ベースでは100%以上がNVIDIAだといいます。ほかのAI企業はほぼ全社赤字だからです。
しかもNVIDIAはハードウェアのレイヤーです。ピーター・ティールによれば、半導体の領域にはシリコンバレーにもエキスパートがほとんどいません。ピーター・ティール自身も含め、みんなソフトウェアに寄ってしまったからです。
シリコンバレーでは、ハードウェアはいずれコモディティ化 ── 製品の差別化が失われ、価格以外で競争できなくなる状態。どこの製品でも大差がなくなり、利益率が下がりますするとよく言われます。インターネット普及期にCiscoなどのインフラの価値が上がり、その後コモディティ化して、最終的にミドルウェアやアプリケーションのソフトウェアに価値が移ったからです。
ピーター・ティールにとっての「次の100兆円の質問」は、AIでも同じことが起きるかどうかです。ただ、半導体を理解して語れる人がシリコンバレーにほとんどいないという点を、宮武さんは興味深いと話します。
もともとのシリコンの意味合いがもうなくなってますよね。
なぜこうなったのかについて、ピーター・ティールは、1990年代中盤から後半にかけて、ハードウェア系のエンジニアリングをやることが「イケてなく」なったと考えています。
1993年にハードウェアや半導体の事業を作るのは、ソフトウェアの時代には時代遅れだと馬鹿にされたはずだと宮武さんは話します。けれど逆に言えば、そこは競合がいない領域になりました。
草野さんは、NVIDIAがこれまでテックカンファレンスでそれほど話題にならなかったと振り返ります。今では、決算発表のタイミングにシリコンバレーのバーでウォッチパーティーが開かれるほどだと宮武さんは紹介し、バブル期には競争が増えるため、競争のない時期に始めたことが重要だったとまとめています。
TikTokへの助言と「否定されなかった前提」
次の話題は、ピーター・ティールが最近の登壇でよく話しているエピソードです。去年、ピーター・ティールはTikTokのCEOと会いました。宮武さんは当初バイトダンスのCEOと言いかけ、TikTokのCEOだと思うと訂正しています。TikTokはシンガポール、バイトダンスは中国の企業だという説明もありました。
TikTokのCEOからの質問は、「アメリカはTikTokを禁止にするか」というものでした。ピーター・ティールの答えは、禁止にはしない、なぜなら政府が無能だから、というものだったそうです。
そのうえでピーター・ティールは、それでも中国との関係を切り離し、中国にある事業やパソコン、従業員をすべて別の場所へ移すべきだと助言しました。
前提
中国が台湾に侵攻する確率が、たとえば50%あるとする
侵攻した場合
その24時間後に、アメリカでTikTokが禁止になる
結果
50%の確率で、アメリカでのTikTokの価値が100%ゼロになる
助言
そのリスクを取るのはおかしいので、中国から切り離すべき
TikTokのCEOの回答は、社内でさまざまなシミュレーションをしており、第一次世界大戦と第二次世界大戦のときにも両側にサービスを供給した会社はあった、というものだったそうです。
ピーター・ティールが面白がったのは、TikTokのCEOが、中国の台湾侵攻の可能性がフィフティーフィフティーだという前提を否定しなかったことでした。宮武さんは、本当に受け入れたのか、その前提の上で話しただけなのかはわからないとしています。
イノベーションは本当に減速しているのか
ピーター・ティールが10年以上、場合によっては20年ほど前から話しているテーマが、イノベーションの減速です。1950年代や60年代と比べて、テクノロジーの発展は遅くなっているというのが主張です。
進展しない理由には、燃料の高騰といったエネルギーの問題や、スピードを上げすぎない安全面の問題もあります。宮武さんは、この安全面が実は重要なポイントで、翌週以降に詳しく話すと予告しています。
医療やバイオテクノロジーも、ピーター・ティールいわく思ったほど進んでいません。1970年にアメリカ政府は6年以内にがんをなくすと宣言しましたが、50年後の今も解決していません。寿命の伸びも鈍っており、本当は120歳や130歳まで生きていてもおかしくないのではないか、というのがピーター・ティールの考えです。
唯一伸びているのは、コンピューターやインターネットなどの情報テクノロジーの領域です。ピーター・ティールは、1960年代と今とでは「テクノロジー」の定義が違うと指摘しています。
1960年代: コンピューターに加え、新薬や医療、宇宙船、超音速飛行機、農業の革命など
今: テクノロジー=コンピューター=ITのように扱われる
ピーター・ティールは、テクノロジーの意味がITに集約されていることを、減速の原因の一部と見ています。草野さんが英語でも同じかと尋ねると、宮武さんは英語でもなんとなくそういう意味合いになっていると答えています。
その背景として、宮武さんは、第一次・第二次世界大戦のあと、原子爆弾のように技術的には革命的でも悪い影響を与えるものがあり、すべてのテクノロジーが良いものではないと考えられるようになったことを挙げます。リスクを考えること自体は悪くないものの、その結果、リアルな世界にまつわるイノベーションが減速したのではないかという見方です。
(Founders Fundの有名なスローガンが)「空飛ぶ車が欲しかったのに、140文字のサービスしか出てこなかった」みたいな。
宮武さんは、これはTwitterの悪口ではなく、その領域でしかイノベーションが起きなかったという意味だと補足します。不動産のような領域でも、思ったほど革命的なものは出ていないというのがピーター・ティールの考えです。
「developed」は過去形、という言葉へのこだわり
ピーター・ティールは言葉をとても気にする人で、言葉は当時の考え方やカルチャーを示すと考えています。その例が、世界の発展の呼び方の変化です。
かつて英語では、世界をfirst world、second world、third worldと分けていました。宮武さんは軽い定義だと断ったうえで、第一世界はアメリカのように技術的に最も発展した国、第三世界は状況が厳しい国を指していたと説明します。ピーター・ティールにとって、これは誰もが第一世界を目指すという、テクノロジーを好むストーリーでした。
一方、今の英語では、日本語の先進国にあたる言葉が「developed countries」、発展途上国が「developing countries」です。
現在進行形で、今まさに発展している途中
過去形で「発展した」。これ以上発展しない、という意味合いになる
もう発展しましたと。もうトップにいます。これ以上イノベーションすることはないっていうことを彼が捉えていて。
ピーター・ティールは、この言葉の枠組みはグローバリゼーションのストーリーではあっても、テックフレンドリーではないと考えています。草野さんの「成長の伸びしろを感じさせないニュアンス」という言い換えに、宮武さんは「もう発展しなくていいっていう感覚」になるのではないかと応じています。
宮武さんは、日本語の「先進国」とは意味合いが少し違うため、英語圏やアメリカに特化した考え方かもしれないと断っています。そのうえで、先進国がどうすればもう一度発展できるかを探ることが重要だ、というのがピーター・ティールの問題意識だといいます。
アメリカはすでに不況なのではないか
経済についてピーター・ティールは、今のアメリカは不況に近い環境ではないかと話しています。政府の支出があるため不況と呼ばれていないだけで、少なくとも数年前から不況に入っていたのではないかという見方です。
宮武さんが例に挙げるのは、2023年5月にアメリカ政府が出した翌年度の財政見通しです。いわばアメリカ政府のPLで、2023年10月から2024年9月までの1年間を対象にしています。
宮武さんは、そもそも200兆円の赤字が出るのが大変な話なのに、実態はそれ以上に厳しかったと話します。GDPは伸びているものの、ピーター・ティールの考えでは、その4000億ドル分を政府が支出しなければ、その程度の成長はできなかったのではないかというのです。
つまりアメリカには、借り入れが多すぎるという問題と、成長がほとんどできていないという問題があります。ピーター・ティールは、成長の道筋を見つけないとアメリカは救われず、そのためにイノベーションが必要だと考えています。
税金を上げる方法もありますが、宮武さんは現実的ではないと説明します。大幅な増税を掲げると大統領選で選ばれず、ほかの政治家も再選のためには国民に選ばれる必要があるからです。多少上げても今の負債額には焼け石に水で、50%や70%まで上げる税金を人々が望むわけでもありません。
レーガンとクリントンの「一度きりのブースト」
では、なぜ人々は過去50年、このイノベーションの問題に気づかなかったのか。ピーター・ティールの考えでは、アメリカ経済に一時的なブーストがかかったため、問題が見えにくくなっていたのです。
| 時期 | 政策 | 効果 |
|---|---|---|
| 1980年代 | レーガン大統領が規制を緩め、M&Aを容易にし、減税した | 約10年、アメリカが大きく成長した |
| 1990年代 | クリントン大統領がグローバル化を推し進めた | 海外の低価格な労働力を活用し、再び成長した |
宮武さんによれば、どちらも一度しか使えない動きです。税金をずっと下げ続けることはできず、グローバル化も一度進めれば、それ以上はなかなか進められません。
税金ってもうゼロにすることって、ずっと落とすことできないじゃないですか。
こうした手段が使えず、増税もできないとなれば、次の成長の道筋を見つけるしかないというのがピーター・ティールの結論です。その答えがテクノロジーのイノベーションだと宮武さんはまとめています。
収録が1時間ほどになったため、今回は予定の半分ほどで区切られました。翌週は、GoogleなどのビッグテックやサイエンスへのTwitter見方、リバタリアン的な考え方、イノベーションの原則について話す予定だといいます。
全部繋がった瞬間、僕の中で繋がった瞬間がこの間あったので、(そこに関しても)再来週ぐらいに話せたらなと思うので。
宮武さんは、ピーター・ティールの発言は一見バラバラなトピックに飛んでいるように聞こえても、根底にはしっかりした考えや理論があると見ています。なぜこうした尖った意見を言うのかという結論を、再来週ごろに話したいと予告して前編は締めくくられました。
まとめ
今回のエピソードでは、ピーター・ティール本人の発言をもとに、議論のうまさや経歴から、AIバブル観、NVIDIAの強さ、TikTokへの助言、イノベーション減速論、アメリカ経済の見立てまでが語られました。どの話題にも、常識を疑い、前提を問い直す姿勢が通っています。
- ピーター・ティールは豊富な事例と、質問の前提そのものを否定する答え方で、尖った主張を反論しにくいものにしている
- AIはインターネット級に重要でも、1999年のAmazonのようにピーク時の投資は難しく、Founders FundはAI投資を控えめにしている
- AIで稼いでいるのはNVIDIAだけで、ハードウェアが不人気になった1993年に創業したことが競合不在の強みになった
- テクノロジーがITと同義になり、「developed」という言葉も発展の終わりを示すようになったことが、イノベーション減速の表れだと見ている
- 減税やグローバル化という一度きりのブーストを使い切ったアメリカには、イノベーションによる成長しか道がないというのがピーター・ティールの考え



