雑談回なのに「面白い話」をしなければと思ってしまう?
今回のOff Topicは雑談回です。宮武さんは冒頭で、収録は公開の約1か月前に行うため、少し前に雑談回が公開されたばかりなのに、また雑談をしている感覚になると打ち明けます。
単純に、「あ、また雑談をしないといけないんだ」っていう。
宮武さんが雑談を難しく感じる理由は、何を話せばいいのかがよくわからないことにあるようです。雑談でも、聞き手が爆笑したり「この情報はすごい」と思ったりする話をしなければいけない、と考えてしまうといいます。
なんか面白い話をしなければいけないっていう、なんか。って思っちゃうんですよね。
これに対して草野さんは、リスナーの期待はそこではないと返します。宮武さんの日常を知りたい人がいるはずだ、という考えです。
もっと宮武さんの日常を知りたい方がいると思うので。
宮武さんは「自分でハードルを上げているだけかもしれない」と認めつつ、話題をそらそうとします。それでも草野さんに最近の日常を尋ねられ、最初の話題は最近観た映画になりました。
オリジナル未見で観た『ビートルジュース』はどうだった?
宮武さんが最近観たのは、日本で公開中だった映画『ビートルジュース』の新作です。名前を3回言うと出てくるという設定は有名なので宮武さんも知っていましたが、オリジナル作品は宮武さんも草野さんも観たことがありませんでした。
新作『ビートルジュース』には元のキャストが多く出ていて、オリジナルへのリファレンス ── 過去の作品や出来事を参照して作中に織り込むこと。元ネタを知っている観客ほど楽しめる仕掛けになりますもたくさん組み込まれているはずだと宮武さんは話します。二人は、『バードマン』のマイケル・キートン、『ストレンジャー・シングス』で母親役を演じたウィノナ・ライダー、『ウェンズデー』のジェナ・オルテガといった出演者の名前を挙げます。
宮武さんの感想は、オリジナルを知らなくても単体の映画として十分楽しめた、というものです。草野さんは、広告キャンペーンの期待値を超えたから人気になったのでは、と見ています。
明らかにZ世代を結構ターゲティングしてた広告いっぱい出してたので。なんかそこにどこまでヒットしたのかはわかんないですね。
宮武さんの見立てでは、ミレニアル世代やX世代、ベビーブーマーならオリジナル作品を観ている人が多く、映画館に行く理由もわかります。一方で、アメリカのZ世代がどこまでオリジナルを知っているかはわからない、というのが宮武さんの留保です。
「ビートルジュース」という名前の意味も話題になりました。宮武さんは、ビートルはクワガタのような虫を指すので直訳すれば「クワガタジュース」のようなものだと言いつつ、劇中に出てくる紙に書かれたキャラクター名が由来かもしれないとも話します。ただ、宮武さん自身もちゃんと調べたわけではないと断っています。
一人だけ本物を信じている裁判ドラマ『Jury Duty』とは?
最近何か観たかと聞かれた草野さんは、本を読み始めると時間がなくなってしまうと答えます。そのうえで少し前に観た作品として挙げたのが、Amazonプライムで配信されている『Jury Duty』です。
『Jury Duty』は、アメリカの裁判員制度を題材にしたユーモア系のモキュメンタリー ── 「モック(偽物)」と「ドキュメンタリー」を組み合わせた言葉。実際の記録映像のように見せかけて作られたフィクション作品を指しますシリーズです。50人ほどが出演していますが、本当の裁判のドキュメンタリーだと信じて参加しているのは一人だけで、ほかは全員役者だといいます。
本物の裁判のドキュメンタリーだと信じて出演している
全員が役者として、その一人の前で裁判を演じている
草野さんによると、その一人は元々俳優志望で、Craigslist ── アメリカの大手クラシファイド広告サイト。求人、売買、住まい探しなど、地域ごとの募集がまとめて掲載されていますなどで「裁判員ドキュメンタリーに出ませんか」という募集に応募した人でした。番組をきっかけに有名になり、今ではCMにも出ているそうです。
草野さんが感心したのは、約30分の本編ごとに、撮影の裏側を見せる映像も約30分ずつ用意されていた点です。どこにカメラを仕掛けていたのか、参加者が予想外の行動をしたときにどう対処したのかまで明かされていたといいます。
話は裁判員制度そのものに移ります。宮武さんは当初、日本にはこの制度がないと思っていましたが、草野さんに日本にもあると教えられます。アメリカではランダムに呼び出しの手紙が届き、みんな時間を取られると愚痴を言いながら避けようとしている、と宮武さんは話します。
宮武さんは、サマースクールの授業の一環として、ニューヨークで実際の殺人事件の裁判を傍聴したことがあります。10人ほどの学生で見に行ったため、自分たちが行ってはいけない場所なのではと申し訳なく感じたそうです。
去年とか一瞬行ってみようかなと思ったんですけどね、あのFTXの裁判中に。
宮武さんは、ニューヨークで開かれていたFTX ── かつて世界有数の規模を誇った暗号資産取引所。2022年に経営破綻し、創業者が詐欺などの罪で裁判にかけられましたの裁判も傍聴しようかと考えたといいます。ニューヨークの法廷は誰でも入れて、数十人入る部屋もあるそうですが、FTXの裁判は記者も多く人が多すぎるだろうと考え、ポッドキャストのネタにするのは見送ったそうです。
AlphaGoが打った「人間には考えられない一手」とは?
草野さんがドキュメンタリーの話をしたことを受けて、宮武さんは最近見直したドキュメンタリーを紹介します。YouTubeで公開されている、Google DeepMindが囲碁AI「AlphaGo ── Google DeepMindが開発した囲碁AI。2016年に韓国でトップ棋士のイ・セドルと対局し、勝ち越して大きな話題になりました」を開発し、韓国で当時の世界チャンピオンのイ・セドルさんと対戦するまでを追った作品です。
宮武さんはこのドキュメンタリーをたまに見直しているといいます。AlphaGoの考え方だけでなく、それを見た人間のリアクションや、人間がどう考えるのかも描かれていて面白いからです。
宮武さんが特に挙げたのは、ある一手をめぐる場面です。AlphaGoは人間には考えられない手や、攻めすぎに見える手をよく打っていました。その中のある一手は、イ・セドルさんがタバコを吸いに席を離れている間に打たれたものでした。
打って、その世界チャンピオンが戻った時に、見た時、なんかその手を見た時のリアクションが明らかに「え?」っていう顔してて。
解説者たちも、AlphaGoの一手は行き過ぎで、もっとコンサバ(保守的)に打つべきだったのではと話していました。ところがその一手は、対局が進むにつれて効いてくるようになります。
一手
イ・セドルさんの離席中に、AlphaGoが人間には考えにくい手を打つ
困惑
戻ったイ・セドルさんも解説者も、行き過ぎた手ではないかと受け止める
効果
対局が進むにつれて、その手が効いてくる
評価
イ・セドルさんが、AlphaGoには創造性があり、その手は美しかったと語る
イ・セドルさんは後に、その一手を見てAIに対する思いが大きく変わったと振り返ります。AlphaGoはクリエイティビティを持っていて、その手は美しかった、という発言です。
宮武さんは、AIの手を人間が「美しい」と思えることが非常に重要だと考えています。例えばコードでも、同じ動作をするのに美しい書き方があるように、美しさはさまざまな分野にあります。それをAIがやったときに人間が美しいと感じる、という点が面白いというのです。
草野さんは、イ・セドルさんがどの段階で美しいと感じたのかを尋ねます。宮武さんによると、イ・セドルさんは一手を見た瞬間だと話していました。世界チャンピオンだからこそ先がある程度見えていたはずで、ほかの人たちは後でその手がつながっていくのを見て、初めて美しさに気づいたのではないかと宮武さんは考えています。
まさかの敗北による恐怖は、どう新しい囲碁の可能性に変わった?
宮武さんがAlphaGoのドキュメンタリーを何度も見るのは、AIの発展が進む今、AIがどう判断しているのか、そして人間がそれにどう反応するのかを知りたいからです。囲碁より将棋をするという宮武さんですが、AlphaGoが世界チャンピオンを倒した記録だからこそ、さまざまな感情が見えるといいます。
宮武さんの説明では、将棋やチェスに比べて囲碁は盤面が広く、AIが人間に勝つことは難しいと考えられていました。そもそもありえないという出発点から、AlphaGoは最初の2試合に勝ち、2試合目は大差での勝利だったといいます。
その時に、その部屋の中では、なんか凍りついてるんですよ。
対局の会場には、AIに超えられた、人間には何もできないという恐怖が生まれていたのではないか、と宮武さんは見ています。終盤は人間側がアンダードッグ(劣勢の挑戦者)として、せめて1試合でも勝とうと挑む展開になりました。
それでも、イ・セドルさんやプロ棋士たちの発言からは、悔しさと同時に今後の囲碁の可能性も感じられた、と宮武さんは話します。
今までだと全く考えられなかった手をAIが出すことによって、なんか新しい、その囲碁に対する視点を持てたっていうのは、なんかそれはそれですごい面白いなっていうのを思いましたね。
ドキュメンタリーの時期について、宮武さんは2017年か18年ぐらいだと思うと答えています。草野さんは、多くの人がAIのすごさを実感している今だからこそ、AlphaGoが登場したときの衝撃を見返すのは面白いかもしれないと応じました。
宮武さんは、AIの考え方は年末に予定しているテーマにも関わると話します。人間が何を勝利の条件とみなしていたのか、先を見通せるAIによって別の戦い方が見えてくるのが面白いというのです。
イ・セドルさんは5試合中1試合しか勝っていませんが、勝った試合では流れを変えた一手がありました。AlphaGoもその手を「1万人に1人しか打たない手」と認識していたそうで、宮武さんはこれを囲碁や将棋でいう「神の一手」のようなものだと表現しています。
草野さんは、AlphaGoのようなドキュメンタリーを作るなら何をテーマにするかを尋ねます。宮武さんは囲碁に限らず、ボードゲーム、スポーツ、ビジネスなど複数の分野を取り上げたいと答えます。AIによって、これまで見えなかった戦い方が見え始めているのでは、という問題意識からです。
AIの一手に感じる美しさに「意図」は必要か
宮武さんは改めて、AIの一手に対する「美しさ」という表現が面白かったと話します。草野さんはStripeの「Craft and Beauty」という考え方に触れ、ものそのものの美しさだけでなく、姿勢やゲームの戦い方にも美しさがあると話を広げます。
宮武さんは草野さんに、人間はAIやロボットだと知っていても、その行動を美しいと思うようになるかと問いかけます。草野さんの答えは「なると思う」でした。
考えた上でこれ出してくるかみたいなのってびっくりするポイントじゃないですか。AIでも。
草野さんは、技術革新として「これができるようになったのか」という美しさを感じるのと同時に、それを実行するAI自体にも美しさを感じそうだと話します。宮武さんが「考えたうえで出していることが重要なのか」と確かめると、草野さんは意図があり、そこで挑戦してくることにも美しさを感じると答えました。
宮武さんは、人間のスポーツを例に、意図がなくても美しさは生まれると指摘します。選手は瞬間的に反応して動いていて、体は慣れているものの脳は追いついていない。それでも、その動きを美しいと感じることがあるからです。
考えたうえで、そこで挑戦してくるのかと驚かされる(草野さんの見方)
スポーツのように、脳が追いつく前の動きにも美しさを感じる(宮武さんの見方)
宮武さんは、AIの場合は最初は意図が重要で、後々それが反射的なものに移っていくのかもしれない、と答えを留保します。草野さんは、ChatGPTが「試しにこれを入れてみました」という回答を返してきて、それがうまくハマったときに面白いと感じることがあると話します。
それが人間性のある部分って多分思われてた時期ってあったはずなのに。
宮武さんの問いは、AIがやることも美しいとなると、美しさは人間性に由来するものなのか、誰にでもできることなのか、というものです。草野さんは、AIが作ったアニメや実写風映画の演技に感動しても、脳は人間として認識し、ストーリーに引き込まれて泣いてしまうのは仕方がないと話します。
そこから二人は、美しさと恐ろしさは同時に存在するという話にたどり着きます。草野さんは、AIを若さにたとえました。
若さってすごく美しいし、だけどそれを超えられてしまうっていう恐ろしさもあるし、その可能性に満ちてるじゃないですか、若さって。
草野さんは、味方にするか敵にするかは自分次第という点で、自分自身の若さや他人のフレッシュさに向き合うことと、AIへの向き合い方には似たところがあるのかもしれない、とまとめました。
『古畑任三郎』の「赤い洗面器の男」はなぜオチがないのか?
話題を変えて、宮武さんは日本のドラマに出てきたというある話を草野さんに読み聞かせます。赤い洗面器に水をたっぷり入れて頭に乗せ、一滴もこぼさないようゆっくり歩く男に「なぜそんなことをしているのか」と尋ねると、男が「それは」と答える。話はそこで終わります。
怖い話かと身構える草野さんに、宮武さんは、これは古畑任三郎 ── 三谷幸喜さん脚本の刑事ドラマ。田村正和さん演じる刑事・古畑任三郎が、冒頭で犯行が明かされる事件の犯人を追い詰めていく倒叙形式で知られますの中で何度も言及される話だと説明します。3シーズンにわたって5回ほど出てくるそうです。
宮武さんによると、最初はラジオDJの犯人が番組冒頭でこの話をして、エンディングでオチを話すと予告します。ところが古畑任三郎が現れて緊張し、オチを言えません。自供後に古畑任三郎がオチを尋ねても「教えない」と返されるといいます。
初登場
ラジオDJの犯人が番組冒頭で話し、エンディングでオチを話すと予告する
未完
古畑任三郎が現れて緊張し、オチを言えない
拒否
自供後に古畑任三郎が尋ねても「教えない」と返される
繰り返し
その後も話は出てくるが、誰も覚えておらず、オチ不明のままシリーズが終わる
オチが、オチがないまま終わるって、なんかすごいレアだなと思いました。
宮武さんは、アメリカのドラマなどでも作品をまたいだインサイドジョーク ── 特定の作品の視聴者や仲間内だけが元ネタを理解して楽しめる冗談のことはよく見かけるものの、最後まで答えを足さないパターンは珍しいと話します。しかも監督の三谷幸喜さんは、ほかのドラマでもこの話を出しながらオチを明かしていないといいます。
草野さんは、奇妙で不気味だからこそ気になると話し、映画でもあえて伏線を回収しなかったり、結末を観客の想像に委ねたりする作品があると応じます。宮武さんは、人気がなくて続編が作れず、回収されないまま終わるパターンもあると付け加えました。
宮武さんがこの話を思い出したのは、最近TikTokのフィードに『古畑任三郎』が出てくるからだそうです。草野さんは、喋り方や服装、立ち方まで物まねされるのは、世界観がはっきりしているからだと話します。宮武さんは、犯人が最初からわかっているという、普通の刑事ドラマとは違う形式も挙げ、草野さんは「刑事コロンボ ── アメリカの刑事ドラマ。冒頭で犯行と犯人を見せ、刑事が真相を暴く過程を描く倒叙形式の代表作として知られますシステム」だと応じました。
まとめ
今回のOff Topicの雑談回は、映画や裁判ドラマの話から、AlphaGoが人間に示した「美しい一手」、そしてオチのない「赤い洗面器の男」まで広がりました。中心にあったのは、AIの行動を人間が美しいと感じるとき、その美しさは何に由来するのかという問いです。
- 宮武さんは、イ・セドルさんがAlphaGoの一手を「美しかった」と語ったことに、AIと人間の関係を考えるうえでの重要さを見ています
- AlphaGoとの対局は、人間に恐怖を与えると同時に、囲碁の新しい視点も生み出したと語られています
- 美しさに意図が必要かについて、草野さんは「挑戦」に、宮武さんは反射的な動きにも美しさがあると考えています
- 草野さんは、美しさと恐ろしさをあわせ持つAIを若さにたとえ、味方にするか敵にするかは自分次第だと話しています
- 『古畑任三郎』の「赤い洗面器の男」は、最後までオチを足さない珍しいインサイドジョークとして紹介されました





