ヘッジファンド行き寸前のエンジニアは、なぜシリコンバレーへ?
アディティア・アガルワル氏は、自身を「根っからのエンジニアであり、つくる人」だと紹介します。2004年の夏にシリコンバレーへ来て、インタビューの時点で21年になるといいます。
アガルワル氏が卒業したカーネギーメロン大学は、コンピュータサイエンスで知られる大学です。アガルワル氏は冗談めかして、同期のCS卒業生147人のうち143人がウォール街に行ったと話します。
アガルワル氏自身も、ヘッジファンドのBridgewater Associates ── レイ・ダリオが創業したアメリカの大手ヘッジファンド。世界最大級の運用規模を持つことで知られていますに入る寸前だったそうです。しかし最後の最後で「ソフトウェアをつくるのが好きだ」と思い直し、西へ向かう道を選びました。
就職先はOracleでした。アガルワル氏はOracleを、いつも注目を浴びる会社ではないものの、ソフトウェアの持続力は驚異的だと評価します。高い整合性が求められる用途では、今もOracleのデータベースが多くの体験を支えているといいます。
Oracle時代のメンターの一人が、のちにSnowflake ── クラウド上でデータを蓄積・分析するデータウェアハウスを提供するアメリカ企業。2020年に上場しましたを創業するBenoit Dagevilleでした。アガルワル氏は、世界クラスのエンジニアから仕事のいろはを教わったと振り返ります。
(Oracleに)最初に入ったとき、Oracleのことは知っていたんですか?どうやって見つけたんですか?
Oracleとの縁は、大学時代に書いた論文から始まりました。オペレーティングシステムの中に固定値で埋め込まれた変数を動的にし、システムが自分で自分を調整できるようにする、という内容です。アガルワル氏はこれを、勾配降下法や機械学習の初期形のようなものだったと説明します。
アガルワル氏いわく、論文自体は「21〜22歳の院生が書いたよくあるもの」でした。それでもOracleの誰かがこの論文を読み、「Oracleのデータベースは人間が管理・最適化するには複雑すぎる。将来は自己調整型になる」と声をかけてきたといいます。
もし誰もその論文を読んでいなければ、コネチカットでヘッジファンドに勤めていただろう、とアガルワル氏は語ります。人生の反実仮想は確かめられないとしつつ、論文を書き、読まれ、シリコンバレーに招かれ、マーク・ザッカーバーグに出会ったことを「運が良かった」と振り返ります。
そのうえでアガルワル氏は、運は必要だが、自分を運の大きな的にすることはできると話します。より多く行動し、多くの人に会い、その面談を受け、変わった人とも話す。外に身を置くことが大事だという考えです。
初対面15分で見えたザッカーバーグの2つの特徴
Oracleに入って1年足らずで、アガルワル氏は「Oracleは素晴らしい技術企業だが、遅い」と感じ始めます。データベースは堅牢でなければならず、失敗が許されません。宮武さんが「大企業でもありますし」と添えると、アガルワル氏も同意しました。
技術的な仕事は楽しい一方で、世に出すまでの遅さにいら立つ。そこでアガルワル氏が知人に相談すると、複数の人から「ベイエリアに越してきた若者が、TheFacebookというものをつくっている。会ってみたら」と勧められたそうです。
アガルワル氏は当初、乗り気ではありませんでした。当時のFacebookは大学生限定で、カーネギーメロンで公開されたときにはすでに卒業していたため、自分には使い道がなかったからです。
それでも会ってみた相手がマーク・ザッカーバーグでした。アガルワル氏は、21年前も今も変わらないザッカーバーグの特徴として、まず「とても頭がいい」ことを挙げます。業界のアイコンを語るとき、性格面ばかりが話題になり、知性そのものが語られにくいと指摘します。
2つ目の特徴は強烈さです。ザッカーバーグには周囲の世界を根本から形づくろうとする意志と欲求があり、それは会って15分でわかったといいます。アガルワル氏は15分話した時点で「この人と、あるいはこの人のもとで働きたい」と思い、木曜の夜にOracleを辞め、金曜の朝にFacebookで働き始めました。
Facebookで過ごした6年間について、アガルワル氏は「よく働き、多くを学んだ」に加えて、何より「喜び」が残っていると話します。面白い課題に取り組み、ユーザーから前向きな反応が返り、友人に囲まれていた。スタートアップでの喜びとして、これ以上ないほど純粋な形だったといいます。
(Facebookは)とても速いですよね、特に前にいたところと比べると。
アガルワル氏は、Facebookのフィードバックの速さを認め、Facebookは今も自分のDNAの大部分だと話します。SPCのチームに対しては、自分は強度と誠実さをもって働くと約束し、そのうえで「負けることはあっても、遅すぎたせいで負けることはない。出し切らなかったせいで負けることはない」と求めているそうです。
ゴミ箱を空にする創業者と、緑のジュースを出すVC
Facebookでは、その(働き方の)文化はマークから始まって組織に浸透していったんですか?
アガルワル氏は、ザッカーバーグの存在は大きかったと答えます。今もザッカーバーグは、これまで会った中で最もよく働く人の一人だといいます。
アガルワル氏自身が強く大事にしているのは、自分がやらないことを人に頼まない、という原則です。自分より長く働けとは言わないし、自分にできないと思う仕事を人に頼まないといいます。
その例として挙げたのが、SPC創業者のRuchi Sanghvi氏です。Ruchi氏はオフィスに来ると歩き回り、「ゴミ箱を空にしなきゃ?」「この部屋の照明を直さなきゃ?」と動くそうです。アガルワル氏は、そこに組織の誰にとっても大きすぎる仕事も小さすぎる仕事もないという考えがあると話します。
アガルワル氏は、知的に厳密な人なら「それはスケールするのか」と疑うかもしれないと認めます。それでも、専門ポジションはあっても、誠実さと強度の基本水準は全員に共通している平等な文化が好きだといいます。
日本では、例えば学校で子どもたちは全員掃除をしなければいけないんです。
一部の大手テック企業では、CEO自身が毎日自分の机を掃除しています。(どんな仕事も)自分より下だとは考えないんです。
アガルワル氏はこの話に共感し、自身が引っかかっていることを打ち明けます。ベンチャーキャピタルのオフィスに行くと「4種類の緑のジュースのどれにしますか」と聞かれることがあるといいます。
アガルワル氏の考えでは、投資家は会社づくりの初期段階がどういうものかを本当に感じているべきです。高揚と恐怖が入り混じり、高級なジュースはなく、炭酸水とコーヒー用のカップがあるだけの世界です。だからSPCの気風は、ともに働く創業者の気風と同じであるべきだと話します。
FacebookとDropboxの違いは何だったのか?
Facebookで6年を過ごしたあと、アガルワル氏は自分の会社を立ち上げ、その会社はDropboxに買収されました。アガルワル氏はDropboxでもおよそ5年半から6年、エンジニアリング責任者を務めています。
アガルワル氏は、Dropboxでの日々を振り返ると、難しい綱渡りだったと話します。AppleのiCloud ── Appleが提供するクラウドサービス。写真や書類、バックアップなどをApple製品間で同期できます、GoogleのGoogleドライブとGoogleフォト、Microsoftのクラウドストレージなど、より大きな競合が製品を無料で提供しようとしていました。小さな競合にはBoxがいました。
一方でFacebookには、同じ意味での競争はなかったとアガルワル氏は振り返ります。Googleは18か月ごとにソーシャル製品に挑んできたものの、存亡に関わるとは感じなかったそうです。Facebookは、ほぼ自分たちの想像力だけが成長の上限になる幸運な位置にいました。
アガルワル氏が両社の違いを語った内容は、次のように整理できます。
存亡に関わる競争はほぼなく、より懸命に、賢く働けば速く成長できた。自分の運命を自分で握っている感覚
大小の競合と戦いながら、製品づくり、売上の成長、チーム拡大、独自インフラ構築を同時に進める必要があった
アガルワル氏は、Dropboxのほうがより典型的なスタートアップ体験だったと考えています。そのうえで、Dropboxのエンジニアリングチームは、規模あたりで見れば当時最強だったと誇ります。大手クラウド事業者以外で、自社データセンターに数ペタバイト規模のストレージを持った最初期の企業の一つだったといいます。
アガルワル氏は、創業者のDrew HoustonとArash Ferdowsiについても、チームワークと細部へのこだわりを重んじ、心を込めて会社を率いていたと評価しています。
自宅のリビングから始まった「学びのコミュニティ」
確か(SPCは)あなたの家での夕食の会話から始まったんですよね。
アガルワル氏によると、SPCの始まりはシリコンバレーの伝統どおり、極めて個人的な課題の解決でした。創業者は妻のRuchi Sanghvi氏です。Ruchi氏は次のプロジェクトにすぐ飛び込むのではなく、探索し、いじり、フロンティアで何が起きているかを学びたいと考えました。
そこで、何かと何かの「間」にいる初期段階の10人ほどを集め、アイデアを練る場をつくりました。名前は「学びのコミュニティ」で、家に集まる形でした。アガルワル氏は、初期に行っていた3つのことが今もSPCの哲学とDNAの中核だと話します。
1つ目の「つくる」へのこだわりは、Facebookの文化から来ています。仕様書やメモやスライドより、コードに語らせる。アガルワル氏は、ザッカーバーグが初期から「PMがスライドを持ってくる製品レビューには出ない。プロトタイプを見せてくれ、触らせてくれ」と言っていたと振り返ります。
3つ目の招待講演では、2017〜2018年ごろ、イリヤ・サツケバー ── OpenAIの共同創業者で元チーフサイエンティスト。深層学習研究の第一人者の一人ですがリビングで、立ち上げたばかりのOpenAIについて「スケーリングがすべてを解決すると信じている」と話したそうです。ヴィタリック・ブテリンも、許可不要で分散型の「世界規模のコンピュータ」の構想を語ったといいます。
やがて10人の集まりは20人に増え、リビングは騒がしくなりすぎました。第一子の誕生も控えていたため、自分たちでスペースを借り、学びの拠点にしました。それがサウスパーク112番地で、サウスパークにあるコモンズなのでSouth Park Commonsと名づけられました。
年3万人が関心を寄せ、加われるのは250〜300人
今SPCに加わる人は、どんな流れをたどるんですか?そもそもプロセスはあるんですか?
アガルワル氏は、SPCへの参加プロセスはかなり厳格だと答えます。入り口にはメンバーレジデンシーとファウンダーフェローシップがあり、どちらも複数のチームメンバーとの複数回の面接、パートナーや他のコミュニティメンバーとの面会が求められることがあります。
時間がかかる選考の大部分は、非常に高い人材密度のためだといいます。規模についてアガルワル氏が挙げた数字は以下のとおりです。
拠点はサンフランシスコ、ニューヨーク、バンガロールの3か所です。3万人以上が応募や紹介、イベント参加、コンテンツ視聴を通じて関心を示すなかで、サービスを提供できるのは250〜300人ほどで、アガルワル氏も「入るのは難しい」と認めています。
コロナ禍が広げたSPCの「入り口」
宮武さんは、以前のインタビューでアガルワル氏が、コロナ禍がSPC拡大の鍵だったと話していたことに触れます。アガルワル氏は、コロナ禍は当初は大きな想定外だったものの、結果的に視野を広げる機会になったと答えます。
SPCは対面の文化が強く、メンバーには週3〜4回はスペースに来てもらっています。物理的な場所が使えなくなったとき、SPCは何なのか、と戸惑ったといいます。
一方で、メンバーからは「SPCが今まで以上に大事だ」という声が強く届きました。コロナ初期は孤立しやすく、優秀な人に囲まれて背中を押してもらうというSPCの存在理由が、さらに重要になったからです。SPCはZoomやSlack、屋外で許される活動を組み合わせ、コミュニティを運営する方法を模索しました。
もう一つの変化がニューヨークです。アガルワル氏は、サンフランシスコのコロナ対応を「ばかげていた」と批判し、ニューヨークのほうがずっとまともだったと話します。多くのメンバーがニューヨークへ移り、「SPCの仲間25人でニューヨークで集まっている」と連絡が来るようになったそうです。
最初は「楽しんで」と見守っていたものの、やがて「ニューヨークにSPCのスペースを開けばいい」と考えるようになりました。最初の拠点はブロードウェイ650番地で、エレベーターがなく5階まで階段で上る、泥臭い場所だったといいます。現在はクーパー・スクエアに拠点があります。
アガルワル氏は、どの拠点のメンバーも「ニューヨークのメンバー」のようには区別せず、Slack上の一つのコミュニティだと話します。北極星は、極めて高い人材密度と、つくる意志のある創業者です。人々が意思疎通し協力していれば、場所は最重要ではないといいます。
なぜ「0から1」ではなく「-1から0」なのか?
多くの人は(スタートアップの)0から1の過程を語ります。アクセラレーターやインキュベーターも多くはそちら側です。なぜ-1から0をやることが大事だったんですか?
アガルワル氏はまず、自分はスタートアップを心から愛していると話します。FacebookやインドのFlipkartのように、人々の生活の形を変えた会社に関わった経験から、スタートアップは地球規模の進歩を実現する最良の手段だと考えています。大企業や政府にも影響力はあるものの、多くは持続的な技術で、本当に革新的な技術ではないといいます。
そのためアガルワル氏の目標は、スタートアップがもっと増えることです。アガルワル氏は「豊かさのマインドセット」を持ち、ゼロサムだとは考えていません。Y Combinator ── 2005年に始まったアメリカのスタートアップ・アクセラレーター。AirbnbやDropboxなどを輩出していますのような他のプログラムの大ファンでもあるといいます。
ただし、アガルワル氏には一つ条件があります。スタートアップを始めるだけでは不十分で、意味のある問題に取り組むべきだという考えです。
アガルワル氏が「議論を呼ぶかもしれない仮説」として示すのは、過去10年でシリコンバレーに流れ込んだベンチャー資金ほどには、世代を代表する偉大な会社が増えていない、というものです。その理由の一つとして、創業者が「アイデアがあるから資金を集めて、とにかく会社を始めたい」と急ぎすぎている点を挙げます。
アガルワル氏は、そのエネルギーやせっかちさは向ける先を間違えていると話します。10年の旅に出るなら、3〜6か月かけて地形を把握し、小さな山や局所的な頂点を登っていないか確かめるべきだといいます。人生をかけるなら大きなものにし、そのために時間をかけるべきだ、という主張です。
「何を急ぐのか」とアガルワル氏は問いかけます。SPCがうまく機能すれば、長期的で本気の大きなスタートアップが生まれ、創業者自身にとっても良い。アガルワル氏は、社会として、本気でゴールを狙う優れた創業者すべてに資金を回す方法を見つけるべきだと語ります。
起業しようとするほど起業は遠のくのか?
この過程を、混沌としていて、くねくねしていると表現されたのがすごくいいなと思いました。
多くの人は最初のアイデアは偶然に生まれると思っていますが、実はそうではないことが多い。議論や、いろいろなものをつくることを通じて生まれるんですよね。
宮武さんはその例として、Netflixの創業物語を挙げます。リード・ヘイスティングスが『アポロ13』の延滞料をBlockbusterで取られたことがきっかけだと語られがちですが、実際はマーク・ランドルフとヘイスティングスの車中での議論から生まれたと、ランドルフの本に書かれていると話します。
アガルワル氏は少し脱線だと断りつつ、好きな本としてミラン・クンデラの『存在の耐えられない軽さ ── チェコ出身の作家ミラン・クンデラが1984年に発表した小説。「プラハの春」前後を舞台に、人生の重さと軽さを描いています』を挙げます。とても大事で真剣なのに捉えにくい、という本質を描いているところが好きだといいます。
アガルワル氏は、会社を始めようと頑張るほど、それは難しくなると考えています。求めているのは、ひらめき、偶然、課題との個人的なつながり、決意の組み合わせで、無理に生み出せるものではないからです。
そのため、創業者になろうと力みすぎている人へのアガルワル氏のアドバイスは「2週間世界を旅して、頭のスイッチを切れ」です。毎朝「会社を始めなければ」と起きるほど、最適でない会社を始めてしまいがちだといいます。
アガルワル氏は、起業は世界で最も大事なことであると同時に、軽く抱える感情でなければならないと話します。力ずくで創業者にはなれないので、半年かけても良いアイデアがないなら、それでもかまわない。シリコンバレーでは起業が「ステータスの高いこと」であるために、多くの人が押し出されているとも指摘します。
(反論があるとすれば)うまくいったピボットがたくさんあるということかもしれません。Twitter、Slack、Instagram、YouTube、Musical.ly、Venmoとか。
アガルワル氏は、SPCでも大小のピボットは頻繁にあると認めます。そのうえで、会社が何世代もつくり直されることと、出発点で創業者が「よく考え抜いた、確信のある大きなアイデアだ」と思っていることは両立すると話します。正しいことをすべてやっても望む結果にならないことはあるが、だからといって正しいことをやらなくていいわけではない、とも語ります。
SPCはなぜ「現代のゼロックス・パロアルト研究所」なのか?
ウェブサイトで、South Park Commonsを現代のゼロックス・パロアルト研究所になぞらえていますよね。
(ゼロックス・パロアルト研究所からは)すごいイノベーションが生まれましたが、商業的にはそれほど成功しなかったとも言えます。
アガルワル氏は、ゼロックス・パロアルト研究所 ── ゼロックスが1970年にカリフォルニア州パロアルトに設立した研究所。GUIやイーサネット、レーザープリンターなどを生み出しましたで今のSPCに響くのは、非常に高い人材密度が探索の環境に置かれていた点だと答えます。
一方でアガルワル氏は、イーサネットやGUI、マウスを収益化できなかったのはゼロックス・パロアルト研究所の失敗だと認めます。アイデアを持って座っているだけでなく、ものや会社をつくってほしいという考えは、ここでも一貫しています。
それでも、アラン・ケイやボブ・メトカーフのような伝説的な人物がいた場所として、素晴らしいところだったとアガルワル氏は話します。宮武さんが「その後、優れた創業者がそれを使った」と続けると、アガルワル氏は、ゼロックス・パロアルト研究所がMacOSが存在する理由だとも言えると応じました。
不正確なビジネス映画は起業家にとってプラスか?
今は創業者の映画がたくさんあります。『AIR/エア』は素晴らしい映画でしたが、不正確なところもあります。こういう映画は、スタートアップのエコシステムにとって全体として良いことだと思いますか?
アガルワル氏の答えは「おそらく差し引きでプラス」です。その理由として、Facebook時代に報道について学んだことを挙げます。Facebookは盛んに報じられる会社でしたが、記事はせいぜい30%ほどしか正確でなく、しかもどの30%が正確かは媒体ごとに違ったといいます。
アガルワル氏は当初、無能さと悪意の組み合わせだと考えていました。しかし次第に、外部の観察者が速く動くテック企業の内情を本当に理解するのはそもそも不可能だと気づいたそうです。記者が最善を尽くしていても、報道には大きな限界があるという考えです。
そこでアガルワル氏は、世界に刺激を与えたいものについては、正確さより刺激を重視すると話します。8歳の息子がアガルワル氏のポッドキャストを聴き、ロボットや会社について考えるようになったそうです。息子からの感想は「悪い言葉を使いすぎ」だったといいます。
アガルワル氏は、報道を不完全な物語として捉えればよいと考えています。『イーリアス』や『オデュッセイア』が正確かはわからなくても、刺激を受ける物語として愛している、とたとえました。
トップ起業家に30歳未満が少ないのは本当か?
パトリック・コリソンやサム・アルトマンたちが、今は30歳未満のトップ起業家がそれほど多くないと話しています。
昔はビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズ、マーク・アンドリーセン、マーク・ザッカーバーグがいました。今ならCursorのMichaelやCognitionのScottもいますが、この見方に同意しますか?
アガルワル氏は「わからない」と前置きし、30歳未満の優れた起業家はたくさん見ていると答えます。SPC出身の優れた会社や急成長企業では、創業者の大多数が20代前半から半ばだといいます。
一方でアガルワル氏は、19歳が伝説的な会社を始めるのは珍しいからこそ、人はザッカーバーグのような例を覚えているという認知バイアスを疑います。データを見ると、公開市場での価値なども含め、価値の80%ほどは30歳以上の創業者が始めた会社から生まれているとアガルワル氏は話します。
その例として、AnthropicをSpaceXやTeslaと並べ、30代で創業したダリオ・アモデイや、多くの会社を立ち上げたイーロン・マスクの名前を挙げました。宮武さんは、マスク氏の会社にxAIも加わったと添えています。
ただし、アガルワル氏が本当に言いたいのは年齢ではありません。シリコンバレーは「若すぎないか」「年を取りすぎていないか」という両方向で年齢を気にしすぎているといいます。
若いか、年を取りすぎていないかという年齢で創業者を見る
50歳の慎重さを持つ20歳も、20歳の熱意と好奇心を持つ40歳もいるため、マインドセットで見る
アガルワル氏は、年上の人にも十分な好奇心を、若い人にも「早すぎる成熟」を見てきたため、年齢では考えないと話します。自分は20歳だと冗談を言うアガルワル氏に、宮武さんが確認しました。
じゃあ、(大事なのは)むしろマインドセットなんですね。
アガルワル氏は「まさにマインドセットだ」と答えています。
最後に宮武さんは、SPCに関心を持つ日本の創業者へのメッセージを尋ねます。アガルワル氏は、エンジニアリングやプロダクトに携わる人なら、シリコンバレーに来て時間を過ごしてみてほしいと話します。シリコンバレーはとても歓迎的な場所で、「コーヒーでも飲もう、今取り組んでいることを話すよ」が基本だといいます。
SPCには日本人の卒業メンバーもいるそうです。アガルワル氏は「若者よ、西へ向かえ。若い女性も。一緒にものをつくろう」と呼びかけ、日本には3回行ったことがあり、また行きたいと話しました。宮武さんの「いつかSPC Japanも」という言葉には、「わからないよ、そうなったら素敵だね」と応じています。
まとめ
アディティア・アガルワル氏は、論文をきっかけにOracleへ入り、ザッカーバーグとの出会いからFacebookへ、そしてDropboxを経てSouth Park Commonsに関わってきました。その歩みから見えるのは、つくることへのこだわりと、起業を急がず大きな問題を探す時間を大切にする姿勢です。
- SPCは自宅のリビングで始まった学びのコミュニティで、毎週のデモ、相互学習、異端の講演者という3つの活動が今も中核にある
- 「-1から0」とは、会社を急いで始めるのではなく、3〜6か月かけて取り組むべき大きな問題を見極める段階のこと
- アガルワル氏は、起業しようと力むほど最適でない会社が生まれやすいと考え、良いアイデアがない時期も肯定する
- 誰にとっても大きすぎる仕事も小さすぎる仕事もないという平等な文化を、Facebookから受け継いでいる
- 創業者を見るときに大事なのは年齢ではなく、好奇心や熱意といったマインドセットだとアガルワル氏は話す





