コンテンツは古いまま、フォーマットだけが変わる?
今回のOff Topicで宮武さんが最初に挙げたフレームワークは、メディアの世界では古いものが形を変えて繰り返し使われている、という見方です。SNS系の起業家と話すと面白いUIや雰囲気作りの話になりがちですが、宮武さんはもっと本質的な話をしたいと前置きしています。
宮武さんによると、カナダのある哲学者は「新しいメディアのコンテンツは、古いメディアのコンテンツだ」と述べています。変わっているのはフォーマットやチャネルだけで、コンテンツ自体は変わらないという考え方です。
新しいフォーマットだったり、新しいメディアのチャネルのコンテンツは、古いメディアのコンテンツだと。
宮武さんが挙げた例は物語の系譜です。映画のコンテンツのもとは演劇で、演劇のもとはテキストの物語、さらにその前は口で語るストーリーでした。
語るストーリー
口頭で物語を伝える
テキストの物語
物語を文字で書き残す
演劇
書かれた物語を舞台で演じる
映画
演劇のコンテンツを映像にする
宮武さんは、インターネットはテレビ、ラジオ、本、エッセイといった過去のコンテンツを全部取り入れているとも話しています。
人気YouTuberは「次世代版◯◯」なのか
宮武さんは、人気クリエイターが出てくると、Off Topicでも「次世代版◯◯」と呼んできたと振り返ります。人気YouTubeチャンネルの多くは、昔のテレビ番組の現代版に見えるといいます。
| クリエイター | 元になったフォーマット | 補足 |
|---|---|---|
| デイビッド・ドブリック | レイトナイトショー、シットコム | 一時期は次世代版『フレンズ』も志向 |
| ミスタービースト | ゲームショー | 次世代のゲームショーホスト |
| マーク・ローバー | MythBusters | ソーのハンマーを作れるかなどを検証 |
| ネルク、ダニー・ダンカンなど | Jackass | ふざけた危ないことをやる系 |
宮武さんの説明では、MythBusters ── アメリカの科学エンタメ番組。都市伝説や映画の場面などが本当に起こりうるかを、実験で検証するスタイルで人気を集めましたは「刀で銃弾を切れるか」のような話を実験で確かめる番組です。セレブの家を紹介するMTVの『Cribs』にも、似た形のYouTube企画があるといいます。
草野さんは、クリエイター自身がこうした元ネタを意図しているのかを尋ねました。宮武さんの答えは、完全に意図している、意図していない、影響だけ受けている、の3パターンがあるというものです。
(ドブリックさんは)レイトナイトショーに関してはすごい意図していたと。結局諦めちゃったんですけど、ミスタービーストに関しては多分そこにたどり着いたっていうパターンだったので、多分意図してない。
宮武さんは、ミスタービーストもそうした番組を昔から見ていて影響を受けていた可能性はある、と付け加えています。
ぎこちなさが本音を引き出すインタビュー
宮武さんは、インタビューというコンテンツにも新しいバージョンが次々と出てきていると話します。その例が、去年最も話題になったポッドキャストの1つ『The Really Good Podcast』です。
『The Really Good Podcast』は、2021年にバズったTikTokerのボビーさんが始めた番組で、セレブと1対1でインタビューします。4話目あたりではドレイクと2人でベッドに入って話していたといいます。
(ボビーさんの)ぎこちなさが、結構セレブにはたまらないっていう。そこのやりとりを見てて、それをみんな欲しがってるんだなっていう。
草野さんは、日本で近いものとして『徹子の部屋』を挙げました。お笑い芸人に「それ面白くないね」と言うような、ゲストのリズムを崩す質問がボビーさんのスタイルに似ているといいます。
気まずい空気を徹子さんは出してるつもりはないとは思うんですけど、それがすごい面白いというか、出てるゲストの人も本音が出てくるというか。
草野さんはさらに、『ザ・オフィス』のような、気まずいのにカメラとだけ目が合う笑いが英語圏には多く、こうした形式が受け入れられやすいのではないかと話しています。
宮武さんによれば、ボビーさんやチキンショップデートが参考にしていたのが『Between Two Ferns』です。あえて失礼な質問をして気まずさをわざわざ作りに行く番組です。
インタビューというコンテンツ自体は変わらず、本音をより出してほしいという需要が、新しいフォーマットを人気にしているのではないか、と宮武さんはまとめています。
映画予告を作るYouTuber「Sticks」は何が新しい?
宮武さんが最近気になっているのが、オーストラリア人クリエイター2人による『Sticks』というYouTubeチャンネルです。収録時点で登録者は40万人近くと、まだ小さなチャンネルだといいます。
Sticksの2人の気づきは、ハリウッドではスティーブ・ジョブズやエルヴィス・プレスリー、マーク・ザッカーバーグなどの映画が毎年作られるのに、YouTuberの映画はまだないということでした。そこで、映画1本は大変なので、まずは予告編を作っています。
収録時点で予告を作ったのは、AIRRACKさん、ライアン・トラハンさん、マーク・ローバーさんの3人分です。各YouTuberについて、2種類の動画を出しています。
2〜3分。本人の映像を使わず役者で再現する。リサーチは細かいが、それほど人気ではない
約30分。制作過程と、本人が予告を見た反応を見せる。こちらのほうが人気
マーク・ローバーさんの回では、家族に取材し、いとこが子ども時代のマークさんを演じたといいます。撮影場所にも出向き、本人を呼ぶために近くの映画館を貸し切ることもあります。
面白いのは、Sticksの2人が事前に本人と話をつけていない点です。企画を決めてから、制作と並行して本人のスケジュールを取りに行き、オーストラリアからわざわざアメリカに渡っています。
確定してないのにアメリカに行ってるっていうところが、ちょっとアンダードッグ的な感覚があるので、やっぱりその二人を応援したいっていうのがあったり。
宮武さんは、人気YouTuberを使ったトレンドジャック、ポスター制作とShopifyのスポンサー、制作過程のショート動画など、予告というコンテンツを深掘りしてチャンネル化した点を評価しています。Patreonでは、本人のコメンタリー付きで予告を流しているそうです。
予告っていうものを軸に、自分たちのストーリーとリアクションと、しかもフィーチャーしてる人のバイラル性もあるし、コンテンツが爆発するポイントが何個もいっぱいあるし。
有名になったSticksは応援され続けるのか
宮武さんは、Sticksの弱点を制作に時間がかかることだと見ています。業界内で有名になり次の予告は作りやすくなった一方、人気が出ると「応援しなくても成功しちゃうのでは」と見られる可能性があると話します。
草野さんの予想は、Sticksがいずれ仕事として映画やドキュメンタリーを依頼される側になることです。3Dで作品を作っていたクリエイターがA24 ── アメリカの映画製作・配給会社。インディペンデント系の話題作を多く手がけ、若い映画ファンからの支持が厚いことで知られますの資金で映画を作れるようになった例を挙げています。
ミュージックビデオ特化のチャンネル制作のドキュメンタリー版みたいなイメージはつきそうって思いました。ここに作ってもらったら一流だねっていう。
宮武さんは、制作過程の面白さこそがSticksの現在の魅力であり、将来の課題でもあると答えます。AIRRACKさんとはそもそもつながれなかった話もあり、応援したくなるストーリーが主役になっているからです。
SNSも「パッケージを変えているだけ」なのか
宮武さんは、ここまでのメディアの話がコンシューマー向けSNSアプリにも当てはまると話を移します。友達とつながる、話す、人と出会うといった中身は変わらず、パッケージやフォーマットが変わっているだけだという見方です。
TwitterなどのSNSを広場(タウンスクエア)に、Discordを裏道の小さなたまり場や秘密基地にたとえるのも、フォーマットが違うだけだと表している、と宮武さんは考えています。
特にSNS向けをやる場合は、何でもかんでも新しいことっていうのにこだわらない方がいいと個人的に思っているんですよね。
Twitch配信者が求める「名誉・愛・お金」とは
2つ目のフレームワークは、Variant Fund ── 暗号資産やWeb3領域のスタートアップに投資するアメリカのベンチャーキャピタルのLi Jinさんがブログで出したものです。元はTwitchの共同創業者たちが持っていた考え方を、Li Jinさんが発展させました。
元になったのは、OpenAIのCEOを約55時間務めたエメット・シアさんのフレームワークです。TwitchのCEO時代に、配信者になぜ配信するのか、目標は何かを聞いたところ、答えは3つに分かれたといいます。
カテゴリで区切ると、たとえばお金の中でどの機能が一番効くかを比べやすくなり、優先順位がつけやすくなります。宮武さんは、一番扱いにくいのは愛だろうと話しています。
SNSは「愛」と「名誉」のどちらに寄るか
Li Jinさんは、ソーシャルアプリは愛と名誉のグラデーションの中に存在すると考えました。宮武さんはこの両端の違いを、関係の向きや目的から説明しています。
既存の関係を強める双方向のつながり。iMessage、WhatsApp、初期Facebook、Discord、Redditなど
フォロワーやリーチを増やす一方向の関係。新しいコンテンツやクリエイターの発見に特化。TikTok、Instagramのリールなど
宮武さんによると、どのサービスにも両方の要素はありますが、どちらに寄りたいか、スケール済みのプロダクトなら今どちらに力を入れたいかが重要です。Instagramはバランス型ながら今は名誉寄りで、Twitterも元は愛寄りだったのが名誉側に寄せようとしているといいます。
愛ベースのSNSはなぜ伸ばしにくいのか
サービス全体が名誉側に偏る理由として、宮武さんは愛ベースのプロダクトにはネットワーク効果の天井があることを挙げます。友達が100人なら100人で終わり、毎年100人増える人はなかなかいません。
愛ベースはマネタイズもしづらく、広告が向かないためサブスク型になりがちだと宮武さんは話します。DiscordのNitro、初期WhatsAppの年1ドル、出会い系アプリが例です。
例外は、BtoB領域で広告ビジネスを作れたWhatsAppです。だからこそ宮武さんは、愛ベースのDiscordやRedditがどう進化するかが気になると話しています。
BeRealはなぜステータスを作れなかったのか
宮武さんは、このフレームワークでBeRealのヒットと失速も説明できると考えています。BeRealは、2分間で友達に本当の姿を見せるという、メッセージ性のある愛ベースのプロダクトとして始まりました。
ところがBeRealは名誉ベースへ向かう方向性になり、それができなかったと宮武さんは見ています。SNSには「楽しいフェーズ」と「ステータスのフェーズ」があり、後者のほうが難しいといいます。
楽しいフェーズ。友達と遊ぶソーシャルネットワーク
ステータスのフェーズ。ソーシャルメディアに変わる瞬間
BeRealの転機として宮武さんが挙げたのは、『サタデー・ナイト・ライブ』のパロディです。銀行強盗の最中に人質全員へBeRealの通知が来て、「今撮らないと」となるコントでした。
これをやるのが楽しいからではなくて、これをやらなければいけない。っていうのが多分一つのステータスになり始めたシンボルだったんですけど。
しかし、BeRealはFOMO ── Fear of Missing Out の略。自分だけが取り残される、見逃してしまうことへの不安を指す言葉ですで止まり、本当のステータスにはなれなかったと宮武さんは言います。理由は、機能自体には希少性がないことでした。
全員が(BeRealの)2分間にアクセスできるじゃないですか。だから特別じゃないんですよ。
草野さんは、1年分の投稿をまとめた動画のように、投稿の多さが見える形ならステータスになりそうだと提案しました。宮武さんはそれもやり方の1つとしつつ、核心を次のように語ります。
フォロワー比率やストリークはステータスになるか
BeRealの話の前段で、宮武さんはステータスっぽい機能を入れるのは簡単でも、それがステータスになるとは限らないと話していました。フォロワーという概念も、特に初期は100人でも100万人でも価値がないと思われることがあります。
ステータスの小さな部品として、宮武さんはSnapchatやDuolingoのストリーク ── 連続で利用した日数を表示する仕組み。途切れさせたくない気持ちを生み、継続利用を促す機能として多くのアプリで使われていますや、フォローする数とされる数の比率を挙げます。Instagramでは、自分のフォローが少なくフォロワーが多い人ほどすごい人に見えるといいます。
宮武さんによると、TikTokでは1〜2年前は皆気にせずフォローしていたのに、最近は比率を気にしてフォローしなくなる人が増えています。草野さんは、見る専だった人が投稿し始めた動きかもしれないと話しました。
しかもリアルタイムで、僕も草野さんもその(ステータスが)変わってる瞬間が見えてるじゃないですか。
宮武さんは、サービスごとの主なステータスも挙げています。
| サービス | 主なステータス | 補足 |
|---|---|---|
| 昔のFacebook | 友達の数 | 一時期の象徴 |
| YouTube | 登録者数 | わかりやすい指標 |
| フォロワー数、比率 | 出来事にどれだけ早く反応したかも | |
| フォロワー、比率 | キュレーション能力やグリッド | |
| Snapchat | ストリーク | 連続日数 |
| Discord | モデレーターかどうか | 一部のステータス |
| フォートナイト | 持っているスキン | SNSに限らない |
宮武さんは、5〜10年前はYouTubeの登録者が何人でも「小さいインターネットのセレブ」と見られていたが、今は価値がある、とステータスの見え方の変化にも触れています。
ポジティブなバイブスだけでSNSはスケールするか
草野さんは、つながりやありのままを掲げるSNSでも、結局は競争やステータスに踊らされてしまう難しさを口にしました。宮武さんは、愛の領域はそこを気にしなくていい一方、スケールやマネタイズのために不公平さを入れることになると答えます。
宮武さんは、以前に話したルネ・ジラール ── フランス出身の思想家。人は他人の欲望をまねて欲しがるという「模倣の欲望」の理論で知られますを引き合いに、比較やロールモデルは人間にとって重要な観点だと話します。SNSは全員が同じ地点からスタートするため、比較がとてもしやすいともいいます。
宮武さんはニューヨーク出張でソーシャル系サービスのLandingを訪ね、ポジティブなバイブスだけのSNSは成り立つかを議論しました。結論は、スケールしたものでは難しい、というものでした。
ソーシャルネットワーク、いわゆるDiscordですと小さいコミュニティがいっぱいあるじゃないですか。だから(ポジティブだけでも)可能っていうところで。
草野さんは、ポジティブもネガティブもある状態になって一人前、よく言えば広場になれるということかもしれないと話し、LinkedInのような若者向け以外のサービスなら別のやり方があるかもしれないとも考えています。
格差があるから人は上を目指す?
宮武さんは、格差を作ることは今のアメリカの文化ではあまり受け入れられないが、実はとても重要だと話します。以前話した「宗教OS」と同じく、目的を与え、上を目指せるようにする働きがあるといいます。
宮武さんによると、ほとんどのソーシャルメディアでは9割のユーザーがコンテンツを作りません。だからこそ、残る1割に上を目指してもらうための格差が、ステータス作りで重要になります。
愛から始まる
多くのSNSはつながり重視でスタートする
ステータス志向の登場
スケールにつれてステータスを求めるユーザーが出てくる
ステータスゲーム化
ステータスのための投稿が増え、競争が激しくなる
新天地へ
新しいステータスを作れる場所を探し、新しいSNSが生まれる
宮武さんは、ジャズが生まれた理由の一部にもステータスがあったのではないかと、音楽の話にもつなげています。
Yelpエリートは「ステータスの場所」をどう作ったか
宮武さんは、全部の機能にステータスを組み込む必要はなく、VIPユーザーが集まってステータスを見せ合う場所を確保すべきだと話します。例に挙げたのが、食べログのようなレビューサービスYelpの「Yelpエリート」です。
Yelpエリートは一時期みんなが欲しがった称号で、ニューヨーク・タイムズが2008年に記事にし、『サウスパーク』もネタにしたといいます。レストランを通じて自分のアイデンティティを表現したい人たちが、お金をもらえないのに何時間もレビューを書いていました。
(Yelpエリートは)一切お金もらえないんですけど。でもそのレビューを書く労働に対して何時間もかけるんですよね。それってまさにステータスの話で。
宮武さんは、Discordなら面白いコミュニティの部屋、多くのサービスならコメント欄やピン留めされるコメントがその場所になりうると話しています。
BeRealのステータスはバッジで作れるか
草野さんは、BeRealならFoursquareやSwarmのように、いろいろな場所に行ったことや海によく行くことを示すバッジやメイヤー制度がいいのではと提案します。宮武さんは、それもステータスの作り方の1つだと答えています。
宮武さんによると、Foursquare系のピッチで一番気になるのは、ユーザーが本当にそれを欲しがるかです。Foursquareはユーティリティから始まったからこそチェックインが集まり、毎日続けることがシンボルになりました。
宮武さんは、成功しているサービスはフォロワー数だけではないところが多いのに、この設計まで考えられている人は少ないと話しています。
メディアの変化が社会のコミュニケーションを変える
宮武さんがメディアやSNSに関心を持つ理由は、メディアの構成が社会のコミュニケーション方法に強く影響するからです。印刷文化からテレビ文化への移行期には、アメリカでニュースなど様々なものがエンタメ化したといいます。
ニュースの多分本来の目的って、その情報を伝えて、場合によってはその情報をベースに行動を変える。
宮武さんの整理では、エンタメは感情を促すだけで行動を変えません。テレビからインターネットへの移行で重要になったのはアルゴリズムでした。
宮武さんは、アルゴリズムはGoogleマップやGmailなど様々な場所にあると指摘し、AIファーストのアルゴリズムに対してどうサービスを設計するかが重要になると締めくくっています。
まとめ
今回のOff Topicでは、コンテンツは変わらずフォーマットが変わるという視点と、愛と名誉のフレームワークから、SNSの作り方が語られました。BeRealやYelpの例を通じて、スケールするソーシャルメディアにはステータス、つまりある種の不公平さの設計が欠かせないことが浮かび上がります。
- 人気YouTuberやポッドキャストの多くは、昔のテレビ番組やインタビューの新しいフォーマットとして見ることができる
- SNSは、つながり重視の「愛」と、リーチ重視の「名誉」のグラデーションの中に位置づけられる
- 愛ベースは長持ちする一方、ネットワーク効果の天井とマネタイズの難しさがある
- BeRealは誰でも使える機能にステータスを載せたため、FOMOで止まり本当のステータスになれなかった
- ステータスは全機能ではなく、VIPユーザーが集まり見せ合える「場所」を設計して作るべき





