なぜAppleは広告に目を向けるのか?
Appleの次の柱を探るシリーズは、前回までにAR・VRやProject Titan、App Storeを扱ってきました。宮武さんは、App Storeの売上はゲームアプリに支えられてきたため、短期的な伸びしろには限界があると見ています。
宮武さんによると、Facebook内の投稿ブーストをアプリ内課金として扱い手数料を取る案もありますが、どこまで適用するかという課題が残ります。そこでAppleが自社で直接持てるマネタイズ手段として浮かぶのが広告だといいます。
なんでまあAppleとして、そのAppStoreだけの短期売上っていうのが、えーちょっと苦しいかなと正直思うので。
宮武さんは、ネット上の多くのサービスが広告ネットワークへ変わってきたと指摘します。FacebookやGoogle、YouTube、Uber、Instacart、Amazonはいずれも、本業の上に広告を載せてきました。
本業
SNS、検索、動画、配車、食料品配達、ECなどでユーザーを集める
アテンション
人が集まり、利用時間が積み上がる
広告ネットワーク
集まった場所に広告を出し、利益率の高い売上を得る
例として宮武さんが挙げたのがAmazonです。Amazonは2021年に310億ドルの広告売上を出し、この数字は全世界の新聞業界とほぼ同じで、Netflixとも同等の規模だと話されています。
GoogleとMetaの2強が崩れ始めた広告市場
デジタル広告ではGoogleとMetaが2強とされてきました。宮武さんは、アメリカの政治家が言うような独占とまでは言えないとしたうえで、2014年以降初めて、両社の合計がアメリカのデジタル広告売上の半分を下回ったと紹介します。
宮武さんの説明では、昨年はGoogleが28.8%、Metaが19.6%で合計48.4%でした。ピークは2017年の約54%で、他社が伸びたことがシェア低下の理由だといいます。
3位のAmazonは300億ドル以上の規模で、LinkedInや5位のTikTokも伸びています。アメリカでは次の大きな広告プレーヤーは誰かという議論があり、宮武さんはトップ5に入っていないAppleを脅威になりうる存在として挙げます。
iAdの撤退からApp Store検索広告へ
Appleの広告事業は2010年ごろに始まっています。最初にローンチしたのはiAd ── Appleが2010年に始めたモバイル広告ネットワーク。アプリ内などにディスプレイ広告を配信する仕組みでしたというモバイル広告ネットワークで、iPhone 3や4のころの話だと宮武さんは振り返ります。
iAdはサイトやSafari内などに広告を出すものでしたが、6年ほど続けてもうまくいかず、2016年に終了しました。その後Appleは、より慎重に広告を試し始めます。
新たに始めたのがApp Storeの検索結果に1枠だけ広告を出す形式です。宮武さんは、枠を簡単に増やさず、まずアメリカで試してから国を広げた点に、Appleの慎重さが表れていると話します。
当時はUberやLyftなど、VCの資金を持つ企業が大量に広告を出していた時期でした。宮武さんは、売上が10億ドル規模に届いたことが、Apple社内で広告を本格的に考えるきっかけになったのかもしれないと見ています。現在の主な出稿企業はAmazon、Meta、TikTok、Uber、DoorDash、そして今年はおそらくTemuだといいます。
「プロダクトはユーザーだ」という批判とATTの衝撃
Appleの広告戦略を考えるうえで外せないのが、プライバシーのナラティブです。宮武さんによると、Appleが本格的にプライバシーへ寄り始めた証拠は2014年のティム・クックさんの公開書簡にあります。
その書簡では、主にMetaのような広告ドリブンな企業を念頭に、そうしたサービスでは商品はサービスではなくユーザーだと厳しく書かれていたといいます。宮武さんは、明確な敵を作るのはAppleが昔から得意とする広告のパターンだと話します。
(広告ドリブンなサービスでは)プロダクトはそのサービスではなくて、プロダクトはユーザーだと。ユーザーが利用されてますと。
2021年にはATT ── App Tracking Transparencyの略。アプリが他社のアプリやサイトをまたいでユーザーを追跡する前に、ユーザーの許可を求めるiOSの仕組みですが導入されました。アプリを開くとトラッキングを許可するか尋ねる通知が出る仕組みで、宮武さんはデフォルトオフだと多くの人が拒否するのは当然だと指摘します。
宮武さんの紹介では、トラッキングをオプトインしたのは約22%のユーザーで、78%がオプトアウトしています。その結果、Facebook、Twitter、Snapchat、YouTubeの4社で、昨年1月から8月にかけて約178億ドル、売上の約12%が失われたのではないかといわれています。
各社がAppleデバイスから広くデータを収集し、広告ターゲティングに活用
約78%のユーザーがオプトアウトし、SNS各社の広告売上が大きく減少
宮武さんは、Appleにとってはプライバシーを掲げたPRになり、競合の広告売上が下がり、自社広告が伸び始めるという、いろいろな意味で好都合な出来事だったとまとめます。
天気アプリへの不満とAppleの本気度
Apple社内でもトラッキングをどこまで止めるかには議論があったといいます。ソフトウェアのトップはよりプライバシー寄りを望み、サービス担当のエディ・キューさんや当時CMOのフィル・シラーさんはバランスを求めていたと宮武さんは紹介します。
さらに、AppleがATTを導入したのはGAFAを抑えるためではなく、天気アプリへの不満だったという仮説もあります。天気アプリがユーザーの位置情報をデータブローカーに共有していたことが気に食わなかったという見方ですが、実際の経緯はわからないとされています。
トラッキングを可能にしたIDFA ── Identifier for Advertisersの略。iPhoneごとに割り振られる広告用の識別子で、アプリをまたいだ広告計測や追跡に使われてきましたをApple内で作った本人も、トラッキングを止めたいと話していたといいます。宮武さんは、社内全体として別の方向へ移りたいという流れがあったと見ています。
宮武さんは、Appleのプライバシー重視が本気だと感じる場面もあると話します。銃乱射事件の容疑者のiPhoneのロック解除を政府から求められても断り、捜査用のバックドア作りも拒否しました。昨年末には写真やメモ、iCloudバックアップを暗号化し、令状があってもApple自身がアクセスできない形にしています。
広告売上300億ドルをめざす組織の動き
一方で、プライバシーのナラティブには事業的な理由もあると宮武さんは見ています。Appleの広告売上は2021年に37億ドル、昨年は推定50億ドル規模に伸び、次の4年で300億ドルにしたい考えだといいます。
App Store内の広告には改善点もあります。BeRealを検索するとInstagramの広告が、Fortniteを検索するとPUBGの広告が出るなど、競合の広告が表示されやすく、Epic Gamesもクレームを入れていました。
まあでもユーザーからしたら検索してる属性と一緒、一緒だしみたいな。
そうですね。ただまああんまりよろしくないのかなみたいな。
宮武さんは、300億ドルはiPad事業以上の規模になり、しかも広告は利益率が高いと強調します。中小企業が店舗情報や営業時間を登録するとApple Maps、メッセージ、Apple Wallet、Siriに反映される無料ツール「Apple Business Connect」も、広告につながる布石だといいます。
組織面でも変化があります。広告チームを率いるトッド・テレシさんの部隊は、エディ・キューさんの下にいたピーター・スタンさんの配下から外れ、エディ・キューさんの直轄になりました。フィナンシャル・タイムズは広告チームを2倍にする計画を報じ、約250人の体制に約200人を追加採用しているといいます。
採用はアメリカが中心ですが、ヨーロッパに少なくとも27、中国とインドに各12、日本に4、シンガポールに2のポジションがあり、宮武さんは世界規模で広告を強化しようとしていると見ています。
広告はどこまで入れられるのか?
App Store以外の広告候補として、宮武さんはまずApple Newsを挙げます。テキストと音声は扱うのに動画がないのは不思議だとしつつ、MAUは1.25億人いるものの、熱心に使う人はあまり見かけないと話します。
わかりやすい候補はApple Mapsです。モルガン・スタンレーはGoogle Mapsの広告売上を今年約100億ドルと予測しており、Appleのユーザー数がその10分の1から5分の1程度だとすると、年10億〜20億ドル規模になると宮武さんは試算します。
ほかにもApple TV+では、メジャーリーグサッカーの配信に合わせた広告枠があります。ポッドキャストについても、Spotifyの事例があるため、サブスクリプションに加えて広告で収益化する可能性があるといいます。
| 領域 | 現状 | 宮武さんの見立て |
|---|---|---|
| Apple News | テキストと音声、MAU1.25億人 | 動画がないのは不思議 |
| Apple Maps | 地図アプリ | 年10億〜20億ドルの可能性 |
| Apple TV+ | MLS配信に広告枠 | さらに広げられる |
| ポッドキャスト | サブスク中心 | Spotifyのような広告も可能 |
ただし、Apple社内では広告をどこまで入れるかの判断が非常に難しいといいます。理由はユーザー体験を損なう可能性があるからです。
Appleがやりたければ絶対やらないですけど、iPhoneのロックスクリーンに広告って入れられるんですよ。
実際に2018年には、iPhone内検索のSpotlightに広告を出す案があったものの、経営陣が止めたと紹介されています。
「トラッキングしません」の本当の意味
Appleの広告とプライバシーの資料には「Appleの広告プラットフォームはあなたをトラッキングしません」と明記されています。宮武さんは、ここで重要なのはトラッキングという言葉の定義だと指摘します。
ATTでオプトアウトすると、アプリは自社で集めたデータと第三者のデータを組み合わせて広告ターゲティングができなくなります。Appleはデータ収集そのものを禁じたのではなく、ファーストパーティーデータ ── サービス提供者が自社のサービス内で直接集めたユーザーデータ。他社から入手するサードパーティーデータと区別されますと第三者データを分けるよう求めているのです。
宮武さんは、自社データを最も大量に持っているのはAppleだと言います。そこで問題になるのが、Appleが何をファーストパーティーデータとして定義しているかです。
| 種類 | 内容 | 宮武さんの評価 |
|---|---|---|
| アカウント情報 | Apple IDや住所などの属性 | 自社データとして理解できる |
| App Storeのデータ | 検索やダウンロード履歴 | 自社のストアなので理解できる |
| デバイスと自社アプリ | Apple製デバイスやApple Newsなど | 自社アプリなので理解できる |
| アプリ内取引データ | 他社アプリ内での課金 | 不思議な扱い |
4つ目のアプリ内課金データは、Appleが作っていないアプリでの購入も含みます。たとえばSpotifyのアプリ内で購入したものが、Appleの自社データになる扱いだと宮武さんは説明します。
App Storeは家電量販店なのか?
宮武さんは、このデータの考え方がEpic Gamesとの裁判でのティム・クックさんの発言に表れていると話します。争点の1つは、アプリ内でApp Store以外の課金手段を案内できないことでした。
ティム・クックさんは、それを許すのは、家電量販店のAppleコーナーを訪れた人に「ここで買わずにAppleの店でiPhoneを買ってください」と言うのと同じだと発言したといいます。宮武さんは、Appleが自らを家電量販店のように捉え、各コーナーの売上やデータを自分のものと考えているのではないかと解釈します。
その売り場貸してあげてるから。手数料いただきますっていう理論と同じですよね。
宮武さんは草野さんの見方に同意しつつ、問題は別のアプリストアがないことだと続けます。iPhoneでアプリを出すにはApp Storeを通す必要があるため、Appleが全アプリ内課金データを持つことになり、しかもユーザーから使用許可を得ているわけでもないといいます。
Appleは自社の広告をトラッキングではなく「パーソナライズ」と呼びます。宮武さんは、トラッキングは第三者データを含むものと定義されているため、Appleの広告は定義上当てはまらないのだと説明します。
ビジネス戦略で考えるとすごくすごい上手くて。フェアかアンフェアで言うと、若干アンフェアに寄ってるんじゃないかっていうふうに個人的には思ってしまうんですけど。
Facebook銀行を白昼に襲った?
宮武さんによると、Spotifyは自社アプリの課金データを使えても、iPhoneのApple IDや位置情報は使えません。一方でAppleは、自社のデータに加えて各アプリの課金データも組み合わせられるため、圧倒的な優位に立ちます。
Appleはプライバシーが強化されたと主張するでしょうが、別の見方をすれば何も変わっていないと宮武さんは言います。大手テック企業がデータを監視して広告で稼ぐ構図は同じで、その主体がMetaやYouTubeからAppleに移っただけ、という見方です。
宮武さんは、Facebookはアメリカ政府から嫌われているためクレームも出しにくいと付け加えます。そのうえで、プライバシーという抽象的なコンセプトを自社の事業戦略に重ねた点が、Appleの広告事業のすごさだとまとめます。
デジタルにフィジカルを根付かせる強さ
広告もApp Storeも、Appleのサービス戦略はARPU、つまり1ユーザーあたりの平均売上を上げることにつながっています。宮武さんは、大手テック企業はデジタルにフィジカルなものを根付かせることが重要だと理解していると話します。
| 企業 | デジタル事業 | 根付いているもの |
|---|---|---|
| Amazon | EC、AWS | 配送センター、物流、データセンター |
| Microsoft | Officeなど | 大企業との関係、大規模な営業部隊 |
| 各種サービス | Android | |
| Apple | サービス事業 | iPhone |
宮武さんは、iPhoneという基盤の上にサービスを載せるのが、Appleのサービス事業では鉄板だと話します。そして広告以外に大きな事業が2つ残っているとし、1つは次回に回して、今回はバンキングを取り上げます。
Apple Payは普及にどう苦戦したのか?
Appleはすでに多くの金融サービスを持っています。Apple Wallet、Apple Pay、Apple Card、Apple Cash、Apple Pay Later、月次払いのApple Pay Monthly Installments、非接触決済のTap to Payなどです。
草野さんは、アメリカではApple Payが非常に人気だと話します。日本ではPayPayやLINE Payが人気だという声に加え、日本にはガラケー時代からおサイフケータイがあったため、2014年にApple Payが登場しても驚きは小さかったのではないかと宮武さんは見ています。
アメリカはめちゃくちゃ大ごとになっていて、「もうこれは世界を変えるぞ」みたいな、感覚に当時はなってたんですけど。
ところが初期の普及は鈍く、2017年時点で約6.8億人のiPhoneユーザーのうち、一度でも使ったのは13〜20%ほどでした。アメリカの小売店の約3分の1しか対応しておらず、ウォルマートも非対応だったといいます。
それでもAppleが粘り強く続けられたのは、一度使ったユーザーの満足度が非常に高いという社内データがあったからです。営業部隊が対応店舗を増やし、今ではアメリカの小売の約9割が対応していると宮武さんは話します。
Apple Payの稼ぎ方と若者への浸透
Apple Payはカードに紐づき、そのカードの発行銀行から手数料を受け取る仕組みです。売上は予測でしかないものの、ティム・クックさんは2019年第4四半期に30億件の取引があり、年々2倍、PayPalの4倍以上の速さで伸びていると話したといいます。
ある予測ではApple Payは2020年のカード取引全体の約5%を占め、2019年の売上は約9.88億ドルでした。今年は約40億ドルに達するとされ、Apple全体の売上の約1%とまだ小さいものの、伸びているといいます。
さらにアメリカの10代では、Apple Payが最も使われている決済アプリで、2位がVenmo、3位がCash Appです。宮武さんは、iPhoneを使っている以上Apple Payが強いのはわかりやすく、若者が使い続けることで普及率がさらに上がると見ています。
Apple CardとApple Payの先にある財布の置き換え
宮武さんは、Apple Payはバンキング領域のスタートにすぎないと話します。2019年にはゴールドマン・サックスと組んでApple Cardを作りましたが、背景には2018年にゴールドマン・サックスが買収したスタートアップがあり、そこは宮武さんの前職の投資先でもあったといいます。
Appleもイギリスのオープンバンキング系スタートアップ「Credit Kudos」を買収し、後払いサービスへの参入が噂され、実際に参入しました。ただし後払いサービスは昨年6月に発表されたもののまだローンチしておらず、技術的課題があるとされつつ、一部の従業員が検証を始めているといいます。
Apple Cardの保有者数は2020年に倍増し、2021年はペースが落ちたものの、2022年初めには約670万人と予想されています。宮武さんは、Appleがこの領域でめざすのは財布の完全な置き換えだと見ています。
そうですね、免許証も含めて、そのID含めて、えー、現金、えー、カード、でカードもロイヤルティカードとかそういうのも全部、えー、ポイントカードとかも全部リプレースしたいですと、あのiPhone内で。
宮武さんは、Appleはこの事業に頼っていないので、うまくいかなくても事業として成り立つと話します。だからこそ少しずつ普及率を上げる方向に進んでいるといいます。
Apple Bankは何を変えるのか?
宮武さんの予想では、この流れの行き着く先はApple Bankです。現時点では自社で銀行業をしている明確な話はなく、キャッシングのような機能も他社を通して提供しているといいます。
将来は、Apple IDを作った瞬間に裏で銀行口座が紐づく可能性もあると宮武さんは話します。草野さんがApple独自の信用スコアの可能性に触れると、宮武さんは「絶対やりそう」と応じ、アプリ内課金やiPhoneのデータを活かしたPFM ── Personal Financial Managementの略。収支や資産を一元的に把握し、家計管理を助ける機能やサービスのことですや請求書払いも考えられると話します。
その、なんか一ユーザー、AppleユーザーとしてはすごくApple的なUIで銀行を開けたらめちゃくちゃ使いやすそうだなとか、便利だなとか。
ポジティブな気持ちもありつつ、その全てがAppleに支配される怖さみたいなのもあるみたいな。
Appleは決済のマイルストーンシステムという特許も申請しているといいます。過去の決済履歴をもとに、きちんと支払う人は年4回払い、そうでない人は年12回払いのように、顧客ごとに支払いプランを決める仕組みです。宮武さんは、これをApple CardやApple Payと紐づけ、信用スコアにもつながりうると見ています。
リテンションから収益化へ、フェーズの変化
草野さんが「一番儲かりそう」と言うと、宮武さんはこれまでのAppleの金融サービスは儲けよりリテンションが目的だったと答えます。ところが最近は、収益化へ傾き始めていると感じるといいます。
根拠は、Appleがこれまで他社と組んで金融サービスを展開してきたことです。Apple Cardはゴールドマン・サックス、Apple PayとカードはVISAやMastercard、Apple CashはGreen Dotと組んでいました。
他社のインフラを使い、ユーザーの満足とリテンションを重視
後払いサービスで自らライセンスを取得し、専用会社も買収して収益化をめざす
昨年夏の後払いサービス発表時、ゴールドマン・サックスと組むと見られていましたが、Appleは自らライセンスを取り、専用会社まで買収すると決めました。宮武さんは、これをリテンションだけでなく、ここで稼げると判断したサインだと見ています。
銀行を買うか、テックスタックを買うか
宮武さんは、今年かどうかはわからないものの、Appleが大型買収をする可能性があると話します。選択肢は、銀行そのものを買収するか、銀行と連携できるテックスタックを買収するかの2つです。
ライセンスを持つ小さめの銀行を買う。ただし政府から指摘される可能性がある
Unitのような[[バンキング・アズ・ア・サービス]]企業を数百億円〜10億ドル規模で買う。政府からはそこまで指摘されにくい
アメリカで新しく銀行を作るのは非常に難しいため、ライセンスを得るには買収が現実的だといいます。草野さんが学校のライセンス取得で買収が使われる例に触れると、宮武さんは、Appleの買収戦略はユーザーではなく技術の獲得だと説明します。
ライセンスを得れば、App Storeで個人開発者がアプリを出した瞬間や、Apple Musicでミュージシャンが曲を出した瞬間に口座を作り、そこへ収益を入れることもできます。宮武さんは、Apple IDを持つ世界中の個人が一気に事業者になれる、クリエイターエコノミー ── 個人のクリエイターが作品や発信を通じて収益を得る経済圏のこと。動画、音楽、文章など幅広い分野を含みますのツールになりうると話します。
その場合SquareやPayPalと競合しますが、AppleにはiPhoneという圧倒的なディストリビューションの強みがあると宮武さんは指摘します。Stripeの買収は大きすぎるため現実的ではないという見方です。
iPhone同士の送金手数料ゼロという可能性
宮武さんが特に可能性を感じているのが、ネットワーク内の決済と送金です。現在はVISAやMastercardに頼る必要がありますが、Appleが自社でライセンスを持てば、iPhoneユーザー同士の送金手数料をゼロにできるといいます。
絶対Apple使うじゃないですか、そうすると。
送金で稼がない代わりに利用率を上げ、そのデータをもとに手数料の取れるローンを提供する、という流れを宮武さんは想定しています。TransferWiseのような企業もユーザーがいる分高すぎるため、同じライセンスを持つ小さめの会社を買う形になるだろうといいます。
ライセンス取得
VISAやMastercardに頼らず決済できる
送金手数料ゼロ
iPhoneユーザー同士の送金を無料にする
利用率とデータ
利用が増え、取引データが集まる
ローン
データをもとに手数料の取れるローンを提供する
法人カードも簡単に出せるようになり、アメックスやRamp、Brexの最大級の競合になりうると宮武さんは話します。広告の300億ドルとは桁が1つ違うレベルの可能性があり、SquareのCash Appが業界トップクラスとされる1ユーザー20ドルの獲得コストも、iPhoneがある時点でAppleには必要ないという見方です。
割り勘はiPhoneをかざすだけでいいのでは?
草野さんは、そもそもなぜ送金がもっと簡単にできないのかと疑問を投げかけます。VenmoやPayPayで割り勘するたびにIDを教え合うのは手間がかかるという実感からです。
手間すぎるからなんか普通にiPhoneかざして、ちょっとここでピコンみたいなことができたら一番シームレスなのに。
宮武さんは、Appleなら可能だと応じます。非接触決済のTap to Payを使えば、Apple Payで金額を入れてかざすだけで送金できたり、誰かが支払った瞬間に割り勘のオプションが出て、全員がiPhoneをタップして分けられたりする姿が考えられるといいます。
広告は高利益、銀行は桁違い。次回は最大の領域へ
最後に宮武さんは全体を整理します。広告事業は短期的に大きな可能性があり、すでに伸びていますが、ユーザー満足とのバランスが必要なため、規模としてはiPad程度にとどまる上限があると見ています。
それでも、同じ300億ドルでもiPadより広告のほうが利益率がはるかに高く、利益ベースでは重要な事業になるといいます。そして中長期で大きくなる候補の1つが、今回最後に話したバンキング、つまりApple Bankです。
シリーズは次回で最終回となり、Appleがすでに投資を進めている、さらに大きな領域を扱う予定です。草野さんは、多くの人がその領域を予想していそうだとしつつ、最後に持ってくるほどの大きさに期待を寄せています。
まとめ
今回のOff Topicでは、Appleが次に伸ばしうる事業として、プライバシーを掲げて競合を抑えつつ伸びる広告と、Apple Payから銀行業へ広がりうる金融が語られました。どちらも、iPhoneという圧倒的な基盤とデータの扱い方が強さの源になっています。
- App Store検索広告は1枠から慎重に拡大し、Appleは広告売上を300億ドルに伸ばす計画だと紹介された
- ATTはプライバシー強化と同時に、競合の広告売上を下げ、Appleが自社データで広告を伸ばす構図を生んだ
- Appleはアプリ内課金データも自社データと定義し、自社広告を「トラッキング」ではなく「パーソナライズ」と呼んでいる
- Apple Payは粘り強い店舗開拓で普及し、後払いの自社展開は収益化へのフェーズ変化を示すと見られている
- 銀行やテックスタックの買収でライセンスを得れば、iPhone同士の無料送金やローンなど桁違いの事業になりうる


