ラルフローレンの「時を遅めた」は何を意味するのか
宮武さんがこの回のテーマに選んだのは、ブランドオーナーのラルフローレン ── アメリカのファッションデザイナー。自身の名を冠したブランドを1960年代に立ち上げ、世界的なライフスタイルブランドに育てた人物ですさんの言葉です。ラルフローレンさんは過去に「なぜ成功したのか」と聞かれ、「時を遅められた」と答えていたといいます。
宮武さんはこの言葉を最初に読んだ2020年か2021年ごろから引っかかり続け、3年ほど意味を考えてきたと話します。
「時を遅められた」っていう言葉を言っていて。で、個人的にそれ(その意味)が理解できてなくて、どういう意味なんだっていう。
ラルフローレンさん本人はこの言葉を深掘りしていません。言葉を紹介したブログの書き手は、ブランド作りには時間がかかり、D2Cブランドの流れとは違うアプローチを取ったことが正解だったのではないかと解釈していましたが、宮武さんはその説明にしっくり来ていなかったといいます。
宮武さんは以前、第189話で「時間をコントロールしたブランド作り」というエピソードを出し、さまざまな時間の操作方法を紹介しました。ただ、時を遅らせることを実践しているブランドが見つからなかったため、その回では「時を遅める」には触れなかったそうです。
じゃあ本当に宮崎さん、その概念だけ、言葉だけぶっ刺さって、だけど何を指してるのかわかんないってこと。
草野さんは、ラルフローレンさんが単にスピード化への対抗として言っただけの可能性も指摘し、宮武さんも「かっこいい言葉を言おうとしてただけかもしれない」と認めます。そのうえで今回は、本人を代弁するのではなく、宮武さん個人の解釈として答えを出してみる回になります。
なお、収録中に草野さんが、宮武さんの着ているOffTopicTシャツに触れる場面もありました。昨年のポッドキャストウィークエンドで出したコラボTシャツで、ビデオポッドキャストで見られることが紹介されています。
スピードを求める社会で、ユーザーは本当に「速さ」を欲しいのか
宮武さんは、時間を遅らせるというのは時間の捉え方や見え方の問題ではないかと考えています。その背景にあるのが、社会全体がどんどんスピードアップしているという状況です。
例として挙がったのが、スマホやSNSでトレンドが加速し不安が増えているという議論です。宮武さんは『The Anxious Generation ── 社会心理学者ジョナサン・ハイトによる著書。スマホやSNSが若い世代のメンタルヘルスに与える影響を論じ、2024年に話題になりました』という本に触れつつ、自身は未読だと断ったうえで、本当にスマホだけが原因なのかを考えたいと話します。
宮武さんが原因の1つとして挙げるのは、特にアメリカの資本主義社会にある、生産性を上げたい、スピードや効率性を高めたいという強い気持ちです。
具体例として、AIでプレゼンを生成できるサービスの話が出ます。サービス名は伏せられましたが、宮武さんが見た当時、そのサイトには「秒単位で無限にプレゼンを作れる」というスローガンが掲げられていたといいます。
ユーザーはもっと早くプレゼンが欲しいのか、早くもっと大量のプレゼンを作りたいって思ってるのか、もしくは一つめちゃくちゃいいプレゼンを作りたいのかっていう。
数千通りの数万通りのものが出て、一瞬で出てきても、それ(プレゼン)を活用するのは一つですもんね。
宮武さんは、作るスピードが上がること自体は大事かもしれないとしつつ、無限のプレゼンに魅力を感じる人は限られているのではないかと話します。速さの訴求とユーザーの本当の欲求がずれている、という問題提起です。
アテンション速度とカウンタームーブメント
宮武さんは、OffTopicが2020年ごろの年末テーマとして掲げた「Attention and Trust Economy」、つまり注目と信頼でインターネット市場が成り立っているという考えを、少し修正する必要があると感じています。
宮武さんによれば、アテンションはより複雑になり、「アテンション速度」という要因を入れる必要が出てきています。ハイプサイクル ── 新しい技術やトレンドが注目を集め、過剰な期待のピークを経て落ち着いていく流れを表す考え方ですも加速し、二次流通化によってあらゆるものが市場化されているといいます。
宮武さんは市場化そのものを悪いとは見ていません。ただ、スピードが流行っているからこそ、スピード重視ではないものがより評価されるカウンタームーブメントが出てくると考えています。
草野さんはその例として、撮った写真が翌日にならないと見られないカメラアプリ「Dispo」を挙げます。インスタントカメラが流行った理由にも、すぐ見られないから面白いという文脈があったのではないかと話し、宮武さんも同意します。
乗り換え案内はなぜ「一番早いルート」を出すのか
宮武さんは、電車や飛行機などの予約サービスに注目します。AからBに行きたいと入力すると、たいていのサービスは一番早く着けるオプションを出してくれます。
多くの人が移動時間を短くしたいのは確かです。ただ宮武さんは、人によってはそうではない時もあると指摘します。
乗り換え案内は基本楽ってやつを私選んじゃいます。乗り換えが少なくて長くてもいいんですけど、楽なやつ選んじゃいますね。
草野さんは、好きな駅を経由したい、座れた方がいいといった基準もあると話します。宮武さんも、座れること、究極的には景色の良さ、そして価格も選ぶ理由になると加えます。
一番早く目的地に着けるルート。多くの予約サービスが最初に提示する
乗り換えの少なさ、座れること、好きな駅の経由、景色、価格など
宮武さんは、あえて時間がかかるからいい、ゆっくりしたいという人もいるのに、そこへのサービス供給はまだ少ないのではないかと考えています。
草野さんは、ラグジュアリーなものにはスローなものが多いと応じます。一から作るものやオーダーメイド、相手の意見を聞いて形にするものでは、待つ時間そのものがリッチな体験になるといいます。
効率化の反対っていうか、豊かですよね。
クリエイティブディレクターの頻繁な交代はブランドを速めすぎるのか?
宮武さんは草野さんに、ここ10年ほどでクリエイティブディレクターを頻繁に変えるラグジュアリーブランドが増えていることについて意見を求めます。宮武さんの見方では、これはブランドとしてペースアップしていることになります。
草野さんは、半年や1年ごとに変わるのは微妙だとしつつ、「この人は10年、この人は2年だった」という移り変わりも含めてブランドの変化として面白いと答えます。
宮武さんは、ディレクターの交代は次のコレクションへの期待を生むため、競争が激しい中でアテンションを取るには適切だと見ています。
一方で宮武さんは、交代で失われるものもあると話します。ブランドの基盤となる思いが伝わっているか、過去のデザインを振り返る文化が残るかという点です。
スピードアップするほどそれ(過去の振り返り)が失われてくると思うので。そうすると結果的にこのブランドって何をやってたブランドなんだっけっていう。
ファンではない消費者が「投資家目線」でブランドを見る理由
草野さんは、クリエイティブディレクターの交代などに注目する人がすごく増えたと感じています。消費者がファンとしてではなく、ブランドがどれだけ価値あるものになるのかを投資家のような目線で見ているというのです。
草野さんは、トレンドを追うために根本を見たくなるのではないかと考えます。NetflixやDisneyの決算から次に盛り上がる作品を読む人がいたり、Bloombergがデザイントレンドを取り上げたりと、アナリスト的な視点がカルチャーの領域に入っているといいます。
宮武さんは、これが冒頭で話した「何もかも二次流通化する」流れにつながっていると見ます。ラグジュアリー商品が二次流通サイトで売買されることで市場ができ、株価のような値動きの概念が消費者にまで届いているという見方です。
カルチャーがビジネス化しだしたっていうところですよね。
草野さんが、時間を遅めることは金融商品として見る人をやりにくくすることなのかと尋ねると、宮武さんは金融化自体は起きると答えます。問題は、プロダクトを作る企業がそこに合わせて速めるかどうかだといいます。
速める
二次流通や市場の流れに乗る
短期
少なくとも短期的にはお金になる
長期
長期的にお金になるかはわからない
なんでそこの遅さをキープできるかっていうのが一つの価値だと思うんですよね。
草野さんが「ブランドはVC調達しない方がいいのか」と冗談めかして聞くと、宮武さんは時には成長も必要で、対象となるブランドとならないブランドがあると答えています。
Disneyが乗り換えサイトを作ったら?速さか体験か
宮武さんは電車の話に戻り、スピードではない体験作りを強調するブランドは確実にあると話します。たとえば同じ電車の予約サイトをDisneyに作ってもらえば、まったく違う商品になるだろうといいます。
なんかそこでキャラクターが出てくるから、なんかそれを楽しめるような、なんかちょっとライド的なものになるみたいな。例えばですけど。
宮武さんによれば、ここで分かれるのはサービスをユーティリティとして見るのか、体験そのものをプロダクトとして見るのかという点です。
草野さんはストリーミングに話を広げます。Netflixは全話を一気に出すことが多い一方、Apple TV+やAmazon Primeは1話ずつ出すことがあり、草野さんは後者のほうが好きだといいます。
一発でのインパクトでいうと、まだ一回で全部出た方がいい気がするんですけど、徐々に一話ずつとか、最初三話出して、それから一話ずつとかの方がコンテンツとしてはなんか盛り上がるんじゃないかなっていうふうに思いますね。
宮武さんは、Netflixは『ストレンジャー・シングス』の初期シーズンを一気に配信していたと振り返ります。オリジナル番組が今ほど好調でなかった時期に、一気にアテンションを集める狙いがあったのだろうと理解を示します。
それでも宮武さんは、待つことで生まれる共通の話題やファンセオリーに価値があると話し、『セヴェランス』を例に挙げます。ただし、待つ間に他の番組に埋もれて話題性を失うリスクもあり、一気配信はそれへの施策だと整理しています。
一発のインパクトが大きく、アテンションを集めやすい。ビンジウォッチしたい人に向く
考察やファンセオリーが生まれ、共通の話題になる。他の番組に埋もれるリスクもある
草野さんは、MrBeastのリアリティショー「Beast Games」が週1回更新だったことにも触れ、習慣化の意味でもありだと話します。宮武さんは、HBOの『ゲーム・オブ・スローンズ』のピーク時に、毎週日曜にみんなが一斉に見ていたことを挙げ、部分的に出して遅らせることも体験作りだといいます。
草野さんは音楽にも同じ傾向を見ています。Apple Musicで、アルバムの中の1曲だけが先に出てリリースに合わせて少しずつ増えていく形が増えたといいます。宮武さんは、TikTokで音楽のディスカバリーが加速しているのと同時に、両極端に動いているのが面白いと応じます。
Appleの論文が示した「遅いロボット」のほうが満足度が高い理由
宮武さんが遅める体験の面白い事例として紹介したのが、Appleが最近出したAI関連の論文です。人型ではないロボットに人間らしい表現を持たせるべきかを扱ったもので、話題になっていたといいます。
研究ではデスクランプ型のロボットが使われていました。宮武さんは、見た目からすぐにピクサーのルクソー・ジュニア ── ピクサーの短編アニメに登場するデスクランプのキャラクター。ピクサー作品の冒頭ロゴにも登場しますだとわかったと笑います。
実験では、たとえば「こちらに向いて電気をつけて」という指示に対し、ただその方向を向いて点灯する効率的な動きと、一度ユーザーを見て頷いてからそちらを向く動きを比べました。後者は時間がかかりますが、結果は同じです。
Appleの論文によると、満足度は表情豊かな、人間っぽい動きをするロボットのほうが高かったといいます。
天気を尋ねる例では、通常のロボットはAIで天気情報を呼び出して話すだけです。表情豊かなロボットは一度窓のほうへ回って外を見てから戻り、話し始めます。
AIで天気情報を呼び出し、そのまま話す
一度窓を見に行って戻ってから話す。1〜2秒遅れるが満足度は高い
なんで明らかに何か一、二秒ぐらい遅れるんですよ。でも結果は同じっていうところがなんかその話すごい面白いなって思う
宮武さんは、これはラグジュアリーのレベルではないものの、よりパーソナルなロボットを作るには細かい動きが必要で、その分の遅れが体験を良くすると話します。スピードを遅くすることはラグジュアリーブランドだけでなくプロダクト作りでも大事だという気づきです。
遅さは人間らしさなのか?「ロボット」という言葉のイメージ
Appleの論文の話を受けて、草野さんは「スロー=人間らしさなのか」と問いかけます。何かを作ってもらう嬉しさや、人間っぽい動きをするロボットへの愛着は、どちらも人間的だから生まれるのではないかという見方です。
宮武さんは、職場でテキパキ仕事をこなす人を「ロボットみたい」と表現することがあると例に出します。スピードアップするほど人間の領域を超え、人間っぽくなくなるという意味合いなのかもしれないと話します。
難しいですね。そのなんか考えるのが遅いのが人間なんだっていう。
草野さんは、「ロボットみたい」と言われても嬉しいとは限らず、「人間だね」と言われると生きにくい人のようにも聞こえると、どちらにも引っかかりを感じています。
宮武さんは、AIが入ってくることで、より速く合理的な判断ができることがロボット的だというイメージは当たっていると答えます。草野さんは、ロボットはスローにも超高速にも、人間的な動きにもできるので、言葉のイメージと実際の技術には乖離があるかもしれないと話しています。
エルメスはなぜバーキンを増産しないのか
宮武さんは、ラグジュアリーブランドがこの遅さを強く意識している例として、アメリカの調査系インタビュー番組『60 Minutes』がエルメスを取材した回を紹介します。番組ではエルメスのアーティスティックディレクターにインタビューしていました。
取材の途中、エルメス側の人物が記者に対して怒る場面があったといいます。記者は、バーキンなどのバッグがなかなか手に入らないことを挙げ、人が欲しがっているのに作らないのはどうなのかと問いかけました。
さらに記者は、ベンツのディーラーで「商品は5年後にしか受け取れません」と言われたら、ベンツは倒産するだろうと例えたそうです。
これに対しエルメス側は、それは工業的な生産の話をクラフトマンシップに当てはめようとしているのだと反論し、自分たちは機械ではなく、クオリティを犠牲にするつもりは一切ないと答えたといいます。
宮武さんが特に面白いと感じたのは、その後の発言です。宮武さんの紹介によれば、エルメス側は「スピードは20世紀の構造的価値である」と述べ、馬車からインターネットへと進む中で、スピードや即時的な満足への中毒性が増していると語りました。
エルメス側はさらに、忍耐や辛抱強く待つといった、違う世界との関係性を作れないのかと問い、時間を圧縮すればどこかでクオリティを犠牲にしなければならないが、自分たちはその地点を通らない、という趣旨の話をしていたそうです。
歴史のないブランドでも遅さは作れるのか?Superhumanのオンボーディング
草野さんは、エルメスのような遅さはブランドの歴史がない会社でもできるのかと尋ねます。宮武さんは「できると思います」と答え、よりラグジュアリーな体験に寄っていくだろうとしつつ、リテールブランドに限らないと話します。
宮武さんが挙げたのは、メールサービスのSuperhuman ── 高速な操作性を売りにした有料のメールアプリ。招待制や独自のオンボーディングで知られるアメリカのスタートアップですです。初期には全員に1対1のオンボーディング面談をあえて入れ、30分ほど担当者と話さないとアプリを使えなかったといいます。現在は違うだろうと宮武さんは断っています。
あえてそこのタイミングを、その時間を遅らせることによって、その間の時間をめちゃくちゃ密度を高めた。
宮武さんは、その密度の高い時間がいい体験を作り、ライフタイムカスタマーになってもらうことにつながったと見ています。
草野さんは少し意地悪な見方として、時間をかけたからいい体験だとユーザーが思い込む面もあると指摘します。ケアしてもらったからお金を払わなきゃと思ったり、投資した時間をチャラにできないと感じたりする心理です。
宮武さんは、こうした心理は特に日本人に強く、アメリカでは日本ほどではないと感じていると話します。手書きのメッセージを添えるブランドやサービスのように、「より思ってくれたんだ」と感じさせる事例も挙げました。
すごい有益な情報を必ずしも渡すっていうのが大事ではなくて、その時間の使い方の問題だと思うんですよ。
宮武さんは、ユーザーに「これだけ時間をかけてくれた」と思わせるのも一つの手だとまとめています。草野さんも、人はたくさん会ったほうが愛着がわくと応じます。
Uberが変えたのは待ち時間ではなく「見え方」
宮武さんは、時間の見え方はもっと操作できると考えていて、その好例としてUberを挙げます。宮武さんの見方では、Uberとタクシーの待ち時間には、街によるものの大きな差はないといいます。
ニューヨークのようにタクシーが多い街でも、あえてUberを頼む人は多いと宮武さんは話します。決済体験の良さもありますが、もう1つ重要なのは待ち時間が見えるかどうかだといいます。
「タクシー待つのが嫌い」っていう人って、それってタクシーを待つ時間が長いからっていう話ではなくて、いつ来るかがわかんないから。
宮武さんによれば、Uberが何分後に来るかを明示することが大事で、15分後でも1分後でもあまり変わらないといいます。15分あるとわかればトイレに行く、コーヒーを買うといった使い方ができるからです。
草野さんは、時間をコントロールできているような気持ちになり、予約できる安心感があると受け止めています。
ヒューストン空港は待ち時間を減らさずにクレームを消した
宮武さんは、2000年代の話として、ヒューストンの空港で手荷物受け取りの待ち時間が長すぎるというクレームが多発した事例を紹介します。
空港はまず荷物を出すスタッフを増やし、平均待ち時間を8分まで短縮しました。ところが、クレームは続いたといいます。
経営メンバーが分析すると、飛行機を降りてから手荷物受け取り場所まで歩くのは1分ほどで、荷物が出るまでの8分のうち7分はただ立って待っているだけだとわかりました。
そこで空港は、待ち時間を減らすのではなく、降機場所から受け取り場所までの距離を6倍ほどに延ばしました。荷物が出るタイミングは同じなので、歩く時間が6分、待つ時間が2分になり、クレームはほぼゼロになったといいます。
歩く1分+待つ7分。スタッフを増やして8分に短縮してもクレームが続いた
歩く距離を約6倍にし、歩く6分+待つ2分。クレームはほぼゼロに
同じ時間なのに、その間に何かさせてるとか、無理に待たないといけないって思わせるのが、なんかクレームにつながってたっていう話ですね。
草野さんは、歩いていれば事が進んでいるような気がすると話し、宮武さんも、遠いと感じても「みんな同じだから」と思えると加えます。
宮武さんは、大事なのはユーザーがどう時間を捉えるかであり、同じスピードでも感じ方次第で価値が変わるとまとめます。草野さんは、かつてSlackがロード中にランダムなメッセージを表示していたことを思い出し、スピードが上がって見なくなったのが少し惜しいと振り返っています。
ニューヨークの早口と南部のゆっくりは、どちらも時間へのリスペクト
宮武さんは、時間の使い方の価値は人によって違うと話し、アメリカの話し方の速さを例に挙げます。ニューヨークの人は平均的に早口で、アメリカ南部に行くとゆっくり話すといいます。
それはお互い時間に対するリスペクトとしてやってるんですよ。
宮武さんの説明では、ニューヨークは相手の時間を無駄に取らないための速さで、南部はどれだけ自分の時間を相手に費やしているかを示すための遅さです。時間の概念は同じでも、捉え方や価値観がまったく違うのが面白いといいます。
早口で話し、相手の時間を無駄に取らないようにする
ゆっくり話し、自分の時間を相手に捧げていることを示す
どちらがいいかと聞かれた宮武さんは、ニューヨーク寄りを選びがちだと答えます。草野さんに「さすがニューヨーカー」と言われると、市内に住んでいたわけではなく、ボストンのほうが長いと否定しました。
草野さんは、自分は話すのがゆっくりなので待ってもらえるほうが話しやすいと話しつつ、どちらの気持ちもわかると答えています。
すべてを速くするのではなく、遅くする体験を選ぶ
宮武さんは、社会はどうしても速まる方向に向きがちで、それは冒頭の生産性の話にもつながると話します。そのうえで、だからこそ逆も重要になると考えています。
例として挙がったのがホテルのチェックインです。完全に自動化され誰とも話さず部屋まで行ける体験も、人と話して荷物を部屋まで運んでもらう体験も、人によっては最高のチェックインになります。
草野さんは、一蘭をハイブリッドな例として挙げます。行列はかなり長い一方で、提供スピードは効率化重視だという見方です。宮武さんは、最近一蘭が整理券を配っているのを見かけたと話しています。
宮武さんは、基本的には速さを求める人のほうが多いとしたうえで、部分的にスローなところを入れることが大事だと考えています。ソーシャル系やソフトウェア全般で、どの体験を重視するかを選び、そこをあえて遅くするという発想です。
早くて嫌だったことってそんなにないからこそ、そのどこで遅めてそこをよりプラスにするかみたいなことですよね。
宮武さんもこの整理に同意し、ラルフローレンさんの言葉から始まった議論は、速さを前提にしながらどこで遅さを設計するかという問いに着地しました。
まとめ
この回では、ラルフローレンさんの「時を遅めた」という言葉を出発点に、スピード社会であえて遅さを選ぶ価値が語られました。エルメスやSuperhuman、Appleのロボット論文、Uberや空港の事例からは、遅さそのものより、時間の使い方や見え方の設計が体験を左右することが見えてきます。
- スピードや効率を求める社会だからこそ、スピード重視ではないもののカウンタームーブメントが生まれると宮武さんは考えている
- エルメスは需要があっても増産せず、スピードの流れに「あえて乗らない」判断でクオリティを守っている
- Appleの論文では、1〜2秒遅れても人間らしい動きをするロボットのほうが満足度が高かった
- Uberやヒューストン空港の例では、時間そのものではなく待ち時間の見え方を変えることで不満が減った
- 基本は速さを前提にしつつ、重視する体験を選んで部分的に遅くすることが大事だと二人は整理している


