地味に見えて実は強い?Pinterestという会社
Pinterestは2019年3月下旬に、上場に必要な書類であるS-1を申請しました。草野さんと宮武さんは、上場のニュースをきっかけに、Pinterestがどんな会社なのか、創業者がどんな道のりで会社をつくったのかを振り返ります。
Pinterestは、ピンボード風に画像を集めて共有するサービスです。宮武さんは、一般的には画像中心のSNSと呼ばれているとしつつ、Pinterest自身が自分たちをSNSと位置づけているかには疑問があると話し、その論点はS-1の話で取り上げることになります。
そう考えると本当に上場するのってすごいですね。(創業から)10年。
宮武さんによると、SNSといえばFacebook、Snapchat、TikTok、Twitterが挙がり、Pinterestはその並びに入りにくい存在です。それでも数字は良く、社長も優れた人物だといいます。
その中でPinterestってあまりなんか浮かばないっていうか、なんかトップティアーになぜか出ないっていう会社なんですけど、数字もかなりいい数字を持ってますし、まああの社長もすごい社長なので。
なんかなんか意外とレーダーの下に飛んでたっていうか。
創業者のベン・シルバーマンさんは36歳です。二人は、マーク・ザッカーバーグさんより年上であることや、Twitterの創業者たちが40代であることに触れ、年齢の比較で盛り上がります。
最初の会社名は?ベン・シルバーマンと失敗したアプリ
草野さんの紹介によると、ベン・シルバーマンさんは医師の家系に生まれ、昔からテックに関わってきた家庭の出身ではありません。Googleでカスタマーサポートや広告まわりの仕事をしたあとに起業しています。
宮武さんは、Pinterestの会社が最初はPinterestという名前ではなかった点を挙げます。もとの会社名はコールドブルーラブス ── Pinterestの運営会社の当初の社名。英語表記はCold Brew Labsとされ、のちに社名を変更していますで、Toteというショッピング用のカタログアプリをつくり、うまくいかなかったといいます。
宮武さんによると、ベン・シルバーマンさんは当初は社長ではなく、別の共同創業者のポール・シャラポール・シアラさんが率いていました。草野さんは、その人物が退任後にアンドリーセン ── シリコンバレーの有力ベンチャーキャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツの通称。多くの著名スタートアップに投資していますのEIR(客員起業家)になったらしいと話します。
退任の理由については、体調不良ではないかという噂が出たものの、宮武さんは実際のところは知らないとしています。草野さんは、退任後もアドバイザーとして残っていたため、仲違いのイメージはないと話します。
ショッピング用カタログアプリは、iPhone発売から2〜3年後の2008〜2009年ごろにつくられたと二人は見ています。宮武さんは「ちょっと早すぎた」と評価しつつ、ショッピング向けになりつつある今のPinterestとコンセプトは似ていると話します。
なぜ人気が出るまで3年かかったのか?デザインと招待制
宮武さんが面白いポイントとして挙げるのは、Pinterestの創業が2008年なのに、人気が出たのは2011年ごろだという時間差です。すぐに人気になったFacebookとはペースがまったく違います。
ベン・シルバーマンさんの人柄も、アグレッシブな起業家像とは違うと二人は話します。宮武さんは、投資家の間で語られているというエピソードを紹介します。
なんか話を全部聞いて、で、とりあえずうんうんって言って、で、そのその話について触れなくて、次のミーティングでなんかその話をするみたいなことを投資家とか言ってるらしくて。
Pinterestの象徴である四角いピンボードのデザインも、ベン・シルバーマンさんの考案ではないといいます。宮武さんによると、2010年末〜2011年ごろにFacebookから引き抜いたエバン・シャープさんがピンボードのコンセプトをつくり、そこから伸びました。
エバン・シャープさんは現在は共同創業者として名前が挙がっています。宮武さんは、Pinterestには共同創業者が何人もいて、何人も辞めている点を珍しいパターンだと指摘し、初期の3人のうち2人が辞めてベン・シルバーマンさんだけが残ったと説明します。
初期のPinterestは招待制でした。草野さんによると、世界観を保つために最初はデザインブロガーなどだけを招き、知り合いを中心に集めていたといいます。宮武さんは、この戦略を取り入れたのがMediumではないかと見ています。
招待制の徹底ぶりを示すのが、投資家のエピソードです。宮武さんによると、アンドリーセンのジェフ・ジョーダンさんが投資を検討していたとき、サービスに入れてほしいと頼んだものの、一般のユーザーと同じように待たされたといいます。
(投資を)検討してる時に入れさせろって言ったんですけど、いや待てって。
ユーザー第一っていうのがすごくいい話ですね。それちゃんと待ったん、待ったんですか?
初期にはオフラインイベントを開いたり、ユーザーに個別にメールを送ったりもしていました。草野さんは、オンラインのマーケティングが主流だった2010年前後には逆張りに見えたはずだと話し、宮武さんは初期のグロースハッキング的な取り組みだったのではないかと見ています。
初期グロースが止まったら?SEOで回した「コンテンツループ」
宮武さんは、どのサービスでも初期のグロースはどこかで止まると話します。初期の施策が効かなくなったり、コアユーザーを取り切ったりしたあとにどうするかが問われます。
Pinterestの場合は、ユーザーを取り切ったというより、戦略を変えざるを得なくなったといいます。当時はPinterestに投稿すると自動でFacebookのニュースフィードにも投稿されるAPIがありましたが、FacebookがそれをBANしたため、成長が鈍っていきました。
そこでPinterestがつくったのが、宮武さんいわく「コンテンツループ」と呼ばれる仕組みです。これはバイラルループ ── ユーザーの行動が新しいユーザーを呼び込み、その新しいユーザーがまた次のユーザーを呼ぶという、自己増殖的な成長の仕組みのPinterest版で、検索エンジンを起点にユーザーを循環させるものでした。
コンテンツループの流れは、次の図のように整理できます。
ユーザーがピンボードをつくる
自分や他人のピンを集めて、自分用のピンボードをつくる
ベストのピンボードをつくる
Pinterestが良いピンを集めた「ピンボードのピンボード」をつくる
検索で見つかるようにする
SEO対応し、多くのユーザーがキュレーションした内容なので検索上位に出る
新しいユーザーが自分でピンし始める
検索で見つけた人が「これいいな」と思い、ピンを始めてループが回る
で、そうするとユーザーが見つけるんですよ。で、ユーザーが見つけて、あ、これいいなと思ったら自分でピンし始めるんですよ。
宮武さんは、コンテンツループの根本には、ユーザーが見て投稿してくれるというサービス自体の良さがあったと補足します。ループを回せたのはサービスそのものが良かったからだという見方です。
他のVCが断ったPinterestに、なぜベッセマーは投資したのか?
草野さんによると、ベッセマー ── アメリカの老舗ベンチャーキャピタル、ベッセマー・ベンチャー・パートナーズ。LinkedInやYelpなどへの投資でも知られていますは、Pinterestというサービスができてから最初に投資したシリーズAの投資家です。ピンボードのサービスと聞いて、投資を断ったVCは多かったといいます。
ベッセマーのジェレミーさんはインタビューで、他のVCが断った理由を語っています。草野さんの紹介では、1つは創業者に技術系のバックグラウンドがなかったこと、もう1つは女性向けのサービスで、当時ほとんど男性だったVCにはわかりにくかったことです。
一方、ベッセマーは既存の投資先であるLinkedInやYelpから、ユーザーが生成するコンテンツのサービスが伸びることを知っていたといいます。食べ物や仕事ではなく「商品」を軸にしたユーザー生成コンテンツを探していたところで、Pinterestに出会いました。
宮武さんは、10ミリオンのラウンドをリードしたベッセマーの決断を「すごい」と評します。投資額はおそらく5億円ほどだろうと宮武さんは推測していますが、これはあくまで想像だと断っています。
それほどその社長を信じたっていうことなんですかね。
草野さんは、ベン・シルバーマンさんは謙虚で真面目、おとなしめないい人というイメージがあり、そこが刺さったのかもしれないと話します。
ティッカー「PINS」とS-1が映す数字
ここから話題は、新規株式公開のための書類であるS-1の中身に移ります。最初に草野さんが触れたのはティッカーで、Pinterestは「PINS」を選びました。宮武さんも「PINT」にしなかったのはいい、サービスに合っていると同意します。
宮武さんがS-1で面白いと感じたのは、Pinterestが自社をソーシャルメディアと呼んでいない点です。SNSとしてはそこまで有名ではなく、比較されると悪いイメージになりかねない、微妙な立ち位置にいると宮武さんは見ています。
あのVisualSearchCompanyって呼んでるんですよね。
ただし競合にはTwitterやFacebookなどのSNSを挙げており、宮武さんはどう考えているのか気になると話します。そのうえで、売上と利益の推移を紹介します。
| 年 | 売上(約) | 利益 |
|---|---|---|
| 2016年 | 300億円 | マイナス182ミリオン |
| 2017年 | 470億円 | マイナス130ミリオン |
| 2018年 | 756億円 | マイナス60ミリオン |
売上は1年で約1.5倍に伸びています。ただし宮武さんによると、上場前年の売上成長はTwitterが約3倍、Snapchatが約7倍でした。Facebookは約1.8倍でしたが、売上規模がまったく違います。
宮武さんは、1.5倍の成長だとSNSとして比べられたくなかったのではないかと推測します。一方で、売上が伸びながら赤字が減っているのは良い傾向で、赤字が膨らんでいたSnapchatなどと比べると健康的な会社だと評価します。
六百億以上キャッシュあるんですよ、この会社。逆に上場する意味あったっけ?っていうのが一番あるんですけど。
Pinterestの上場は、もともと2019年後半と予想されていました。前倒しになった理由として多くの人が推測しているのは、2018年の第4四半期の業績がとても良く、売上は約270ミリオンで利益も出たことだと宮武さんは話します。良い数字を出せるタイミングで上場し、初値を上げる狙いではないかという見方です。
初値について宮武さんは、前回ラウンドの評価額である約12ビリオン(約1.2兆円)からあまり変わらないと見ています。売上が約700億円の会社に12ビリオンはかなりの倍率になるため、そこには疑問もあるといいます。
大株主の比率は非公開?デュアルクラス株式の珍しさ
宮武さんが気になったS-1の2点目は、大株主の持ち株比率です。Lyftなど多くの会社はパーセンテージを明記しますが、Pinterestは公表していません。
Pinterestが示したのは、ベッセマー、アンドリーセン、ファーストマーク、ベン・シルバーマンさんらが5%以上を持っているという情報だけです。宮武さんは、ベッセマーがシリーズAで5億円ほど投資していたなら、今は800億〜900億円になっているかもしれないと推測し、かなりのリターンになると見ています。
草野さんが質問したのは、S-1で採用されたデュアルクラス ── 議決権の数が異なる複数の種類の株式を発行する仕組み。創業者などに多くの議決権を持たせ、経営の主導権を保つために使われます方式です。宮武さんによると、FacebookやSnapchatが取り入れた、創業者により多くの議決権を与える仕組みです。
たとえばFacebookのマーク・ザッカーバーグさんは、ほぼ1人でFacebookの方向性を決められるほどのコントロールを持っています。ただし、Pinterestのデュアルクラス株式には他社との違いがあります。
創業者にもっとコントロールを与えるための仕組みとして使われる
全既存株主に付与され、アンドリーセンやベッセマーにも与えられる
宮武さんは、今の株主がコントロールを持つことになるPinterestの方式を、なかなか見ないレアなケースだと話しています。
黒字化は近い?米国外ユーザーと「言い訳」の広告単価
草野さんは、以前の回で取り上げたUberとLyftの上場の話を受け、米国の上場では黒字が重視されるという観点から、Pinterestの黒字化の見通しを宮武さんに尋ねます。宮武さんは、下手したら来年か再来年には黒字になるという話もあると答えます。
宮武さんが注目するのは、地域ごとのユーザーと売上の違いです。米国はユーザー数があまり伸びていない一方で売上が大きく伸びており、米国外はユーザー数が大きく伸びているのに1人当たりの単価がとても低いといいます。
ユーザー数はあまり伸びていないが、1人当たり単価が大きく上がり売上が伸びている
ユーザー数は大きく伸びているが、1人当たり単価がとても低い
Pinterestは広告で稼ぐ会社なので、今後は米国外の単価を上げると説明しています。単価が低い理由として挙げているのは、米国外の広告業界がまだ未熟だという点です。
Facebook、Twitterだけ見ますと、大体毎年四十パーから六十パーの売上があのアメリカ外なんですよ、広告で。なんでPinterest、それはちょっと言い訳じゃないかなっていうふうに思うんですけどね。
草野さんは、ようやく最近黒字になったTwitterと比べると、Pinterestの黒字化は意外と近いのではないかと見ます。一方で宮武さんは、大きな赤字を抱えるLyftがオーバーサブスクライブされたことを挙げ、米国の投資家が黒字化をどこまで評価しているのかには疑問があると話します。
草野さんが「むしろ成長性に重心を置いているのでは」と応じると、宮武さんはかつてのAmazonを例に挙げます。赤字を見ないという点は、若干バブル的な要素だとも付け加えています。
Eコマースの競争でPinterestはどう進化するのか?
宮武さんは最後に、Pinterestの今後の課題を挙げます。ビジュアルサーチやSNSと言いながら、Pinterestの方向性はおそらく、そこを経由してショッピングができるEコマースだという見方です。
競合として挙がったのは、ベータ版でショッピング機能を出しているInstagramと、AmazonとSnapchatの組み合わせです。宮武さんは、写真にフォーカスしたSnapchatにAmazonが裏につくことで、Eコマースまわりで強い競合になる可能性があると話します。
今後多分そういう系のサービスって出てきますし、そのコマースっていう周りがどんどん変わっていく中で、Pinterestがどう反応するか、どう進化するかっていうのは、まあ今後の見どころなんじゃないかなと。
上場はおそらく4月中とされ、宮武さんは株価や今後の成長、外部の株主への向き合い方に注目しています。二人は、Pinterestにはこれまで大きなスキャンダルが見当たらないと話しつつ、公開企業になるとさまざまな情報が出てくる可能性があり、それにどう対応するかも見どころだとしています。
まとめ
Pinterestは、創業から人気が出るまで時間がかかり、招待制やSEOを使ったコンテンツループで着実に育ってきた会社です。S-1からは、成長率の見え方を気にしつつ赤字を減らしてきた健康的な財務と、米国外の単価やEコマースでの競争という課題が見えてきます。
- ベン・シルバーマンさんは失敗したショッピングアプリを経てPinterestをつくり、ピンボードのデザインはエバン・シャープさんが考えた
- 初期は招待制で世界観を守り、FacebookのAPIが使えなくなった後はSEOを起点にしたコンテンツループで成長した
- S-1では自社をVisual Search Companyと呼び、売上は約1.5倍に伸び、赤字は縮小している
- デュアルクラス株式が全既存株主に付与される点は、宮武さんによると珍しいケース
- 米国外の単価向上と、InstagramやAmazon・Snapchatとのコマース競争が今後の焦点




