適応課題とは何か、技術的問題との違い
第2回のテーマは「適応課題ってどう解くの?」です。塙さんは、MIMIGURIのコンテンツを追っている人には馴染みのあるキーワードかもしれないと前置きしつつ、あらためて説明しようとすると意外に難しい言葉だと話します。
渡邉さんは、そもそもMIMIGURIがファシリテーションをどう捉えているかという話から入ります。
適応課題に起因するズレを解消することで、共同的な探求を支援する方法論の総称。ちょっと長いですけどね。
この定義の一番はじめに「適応課題」という言葉が出てきます。では、その適応課題とは何なのか。
渡邉さんは、適応課題と対比される考え方として「技術的問題」があると説明します。
適応課題とは、問題の当事者が認識や関係性を変えなければ解決しない問題です。自分や自分たちのものの見方、関係性を変えないと解けないものだと渡邉さんは言います。
一方、技術的問題は解決策がすでにあり、それを知れば解決できてしまうものです。
塙さんは、算数の公式がわかればずっと解けるようなものが技術的問題で、友達とのいさこざや自分をどうアップデートするかといったものが適応課題ではないかと整理します。
友達と仲良くなるっていうことが、一定の方程式でできるわけじゃない。人と人との関係性によってアプローチも変わるし、自分なりにどう関わるかも人それぞれ違う。
認知や関係性を変えないと解けない。問題や原因が不明瞭で、当事者が模索して解消するしかない。
解決策がすでにあり、知れば解ける。問題が明確で、専門家など第三者が代わりに解ける。
渡邉さんは、適応課題は問題や原因が不明瞭なことが多く、当事者が何が起きているのか感知しづらいと指摘します。技術的問題は問題自体が明確で、今の時代ならChatGPTに聞くなどして解決できるものも多いと話します。
さらに大きな特徴として、適応課題は当事者でしか解けないのに対し、技術的問題は第三者が代わりに解ける点を挙げます。方程式は知っている人に頼めますが、友達と仲良くなることは代わってもらえません。
経営現場で「ごっちゃになる」課題
塙さんは、MIMIGURIが経営層とロードマップづくりなどのプロジェクトに入る中で、技術的問題と適応課題がごっちゃになって出てくるケースが多いと話します。
たとえば「長期ロードマップを作りたい」という相談は、作り方やプロセスを知らないという技術的問題のように語られることがあります。
ところが実際に蓋を開けてみると、経営層は百戦錬磨でそうしたやり方は知っている。むしろ干渉範囲やステークホルダーの見え方の違いから認識がずれ、関係性がこじれて課題化していることが多いといいます。
自分たちで紐解きにくい関係性の課題だったり、認識の課題だったりに、第三者的にファシリテーションで入らせていただいているケースが多いなと思いましたね。
渡邉さんは、ここが一つ目のポイントだと言います。相談を受けるとき「自分たちの認知をアップデートする必要がある」「関係性を編み直すところから始めないと進まない」という形で持ち込まれることは、あまりないからです。
多くは、進め方の手順や枠組みの整理で行き詰まっているという相談として来ます。しかし場に入ると、手順自体はブレておらず、どんな未来を作りたいか、誰に向けて語りたいかという観点でずれが見えてくるといいます。
塙さんは、上場企業を例に具体的なずれを語ります。CFOは株主へのアカウンタビリティから短期の収益性を語りたい。COOは現場が本当に動くかを気にする。CHROはエンゲージメントややりがいの視点で見る、といった具合です。
前提がしっかり開かれない状態で話していると、微妙に目線のずれが「あいつわかってくれないんだよな」みたいな関係性のこじれやねじれにつながっていく。
コンフリクトは起こした方がいい、ただし種類がある
渡邉さんは、二つ目のポイントとして「適応課題は当事者でしか解けない」ことを起点に、解き方を語ります。結論を一言で言うと、コンフリクトは起こした方がいいというものです。
関係がそのまま話さない状況で固定化されるよりは、しっかり向き合う場、コンフリクトに向き合える場を作っていくということですね。
ただし、コンフリクトには種類があり、それを間違えるともっと大変なことになると渡邉さんは注意を促します。
重要なのは「タスクコンフリクト」をしっかり作り、「感情コンフリクト」は抑えることだといいます。
タスクコンフリクトは基本的に「出来事」を扱うものです。CFOなら投資家に方針を伝えたい、CHROなら社員がモチベートされる状態を作りたい、といったように、それぞれがどんな出来事を作りたいかという話になります。
自分はこれをやればいいという話だけじゃなくて、チームとして未来に向けてどういう出来事を作り上げていくのかを話さないと、出てきた違いを認めて自分の認識をアップデートすることにつながっていかない。
だから出来事ベースで違いを出し合い、ぶつけ合わせ、共に作る未来を描くために、こうしたコンフリクトはしっかり起こした方がよいと渡邉さんは言います。
塙さんは、CFOも社員と一緒にビジョンを分かち合い、みんなでやるぞという状態を作りたいはずだと補足します。意思ベースで話せれば、互いの立場を否定せず「そう考えていたのね」と理解し合えるといいます。
感情コンフリクトが起きたとき、どう扱うか
一方、感情コンフリクトは矢印が完全に人に向かうものだと渡邉さんは説明します。あなたの言っていることではなく、あなた自身が不快だ、という形になります。
主語が人になるんですよね。「あなたが言っているプランにリスクがあります」ではなくて、「お前はいつもこうだから」という感じ。
塙さんは、同じことが何度も起こると「あの人はいつもこうだ」という諦めが蓄積し、次に何かあったとき爆発するほど溜まっていくと応じます。
渡邉さんは、冒頭で塙さんが挙げた事例を振り返ります。オフサイトの合宿で、ある取締役が開始10分ほどで席を立ち、「話したくない」と帰ってしまったケースです。
これはその場でタスクコンフリクトから逃げたのではなく、チーム内で居場所を見いだせないほど感情コンフリクトが積み重なっていた結果だと解釈します。
もう議論しても喧嘩になっちゃうような状態で、「あいつが言っているんだから多分間違っているだろう」という推測が立ちやすい状態になっていた。
渡邉さんは、健全にタスクコンフリクトを起こせるのは、適応課題が発生した直後だといいます。長期化すると認知が固まり、感情コンフリクトが生まれやすくなるからです。
その場で目線のずれを突き合わせればことに向かえたはずが、放置し、別の場所で「あいつはわかってない」と言い続けると、感情コンフリクトへ発展し、根深い適応課題になっていきます。
直接その場で話せればいいんですけどね。ちょっとモヤモヤを抱えた状態で、第三者の方が言いやすいから「あいつわかってないんだよ」と吐き出してなんとか保つ、というところもあると思う。
長期化した適応課題をどう解くか
では、感情コンフリクトが起きてしまった場合はどうするのか。渡邉さんは、まず落ち着かせることが大事だと言います。ただし、これは長期化しやすいといいます。
一つのアプローチは、コンテクストがわかり客観的に関われる人が個別に話をして、メタ認知を促すことです。
「あの時こう言っていましたが、どういう背景があるのか」「どういう願いがあるのか」「コラボレーションできるとしたらどんな可能性があるか」と問いかけ、人ではなく事の方に目線を移していきます。
もう一つは、構造的に落ち着かせる方法です。渡邉さんは、配置転換して人と人を離してしまうやり方を挙げます。会うとボルテージが上がるので、下がるまで会わなくていいようにするという発想です。
ただし渡邉さんは、これは価値観の話だと断りつつ、それで「解けた」ことにするケースもあると指摘します。
当事者で事ベースで、これからどういう未来を作るのかという話をしないと、同じような出来事が違う人とも起きる可能性が出てくる。
適応課題の特性として、解かないと何度も繰り返す点があると渡邉さんは言います。よく「やり残した宿題」と表現されるものです。
だからこそ、落ち着いてから時間が経っても、もう一度「あの時どうだった?」と昔話のように話す。そこまでやると、長期化した適応課題も解ける可能性が出てくるといいます。
当事者は気づけない、だからファシリテーションし合う
最後に渡邉さんは、適応課題の中にいると当事者は自分自身を認知しづらいと強調します。ファシリテーターとして関わる自分自身が、適応課題の中にいるケースもあるといいます。
だからこそ、日々ファシリテーションし合う関係性を作っておくことが大事だと語ります。
価値観やものの見方の違いが起きているぞとなったとき、その違いをみんなのメタ認知に上げて、事ベースで突き合わせていく。これを特定の人ではなく、みんなが意識してロールを回していく。
渡邉さんは、今回の話がすべての出来事に適用できるわけではなく、ケースによってアプローチは変わると断りつつ、適応課題への向き合い方をファシリテーションの考え方から語ってみるとこうなる、とまとめました。
塙さんは、技術的問題と適応課題を切り分けて今どちらに向き合っているかを整理すること、適応課題が生まれたらコンフリクトに向き合うこと、感情コンフリクトが起きたら距離を置いたり構造を理解できる状態に持っていくこと、と要点を振り返り、骨太な回になったと締めくくりました。
まとめ
適応課題は、認知や関係性を変えなければ解けず、当事者自身が気づきにくい厄介な課題です。技術的問題と切り分け、適切な種類のコンフリクトを扱い、日々ファシリテーションし合う関係性を作ることが、こじれた関係を解く手がかりになります。
- 適応課題は認知や関係性に依存し、当事者でしか解けない。技術的問題は解決策があり第三者が代われる。
- 経営現場では両者が混ざって現れるため、今どちらに向き合っているかを切り分けることが第一歩。
- 出来事に向かうタスクコンフリクトは健全に起こし、人に向かう感情コンフリクトは抑える。
- 放置すると認知が固まり、感情コンフリクトへ発展して根深い適応課題になる。落ち着いてから再び事ベースで話すことが必要。
- 適応課題は解かないと繰り返す。特定の人任せにせず、みんながメタ認知し合う関係性を作る。
