高額療養費制度の改正は二段階で進む
今回のテーマは、高額療養費制度の改正があっても医療保険はいらないという意見が変わらない、という話です。
井上さんは改正そのものに賛成しているわけではありませんが、変わった制度の中でどう考えるかを重視するタイプだと話されています。
改正は二段階で進みます。令和8年8月から一つ、令和9年8月からもう一つ改正が入る流れです。
まず令和8年8月からは、いわゆる一般的な所得層の上限額が引き上げられます。従来「8万100円プラス1パーセント」で計算していたベースが「8万5800円」になり、自己負担が5000円ほど増える見込みです。
令和9年8月からは、標準的な所得層とされてきた区分がさらに細かく分かれます。従来370万から770万までがひとまとまりだったところが、三つに分割される形です。
その結果、770万円付近の人は上限が8万100円計算から一気に11万円ほどまで上がり、月3万円ほど負担が増えるケースが出てきます。
批判される「応能負担」の論点
この改正には批判もあります。井上さんが「確かにそうだ」と感じているのは、保険原則としてどうなのかという意見です。
保険料はもともと所得に応じて上がっていく、いわゆる応能負担の仕組みになっています。
保険料の側で所得に応じた負担をしているのに、給付の側でも所得に応じて調整するのはどうなのか、という論点です。井上さんもこの指摘には一定の理解を示しています。
ただ、これをやらなければ高所得者の保険料を上げるしかない、という現実もあると話されています。
諸外国でもスウェーデンなどが比較的近い仕組みで、医療コストの上昇で上限を引き上げざるを得ない事情は共通しているようです。額を固定し続けるのは難しいのが実情かもしれません。
鍵になるのは「年間上限」という考え方
では医療保険はいるのか。井上さんの答えは「いらない」です。
理由はシンプルで、上限額が上がっても負担が青天井にはならないからです。ポイントは、令和8年8月から追加される「年間上限」という概念です。
年間の健康保険対象の負担額が一定額に達すると、それ以上は負担がなくなる仕組みです。一般的な所得層に該当する人の年間上限は53万円とされています。
この53万円は令和8年8月から始まり、令和9年8月以降も維持されます。多数月該当が4万4400円という点も変わりません。
つまり、1年間に健康保険で払う自己負担は53万円で頭打ちになります。青天井で医療費がかかることはなく、上限が見えている状態です。
年間上限で53万という枠があるってことは、究極的に言えば、一年間に健康保険で払わないといけないお金も53万で頭打ちされるってことなんですよ。
医療保険に入らないなら100万から200万貯めておきましょう、というのはよく言われる話です。そのプールから53万や100万を払っても、なんとかなると考えられます。
医療保険は構造的に「弱い」保険
そもそも医療保険は、保険としての構造が弱いと井上さんは指摘します。
気持ちを助けるという意味では良いものですが、保険料が安くて頻繁にお金がもらえる代わりに、たくさんかかる場面では「60日型」など支払いに制約が設けられていることが多いです。
ほぼ起きないかもしれないけど、起きた時にめっちゃ負担が大きいものを保険がほぼカバーしてくれるっていうのが、保険としてはいい。でも医療保険はそういう類で作られてない。
医療保険は保険会社からすれば美味しい商品で、商品設計上どうしても「いらないよな」と思ってしまう、と話されています。
もちろん貯蓄がない人には必要です。ただ、ある程度貯蓄があって「医療保険はいらない」という考え方を採用している人は、今回の改正で結論を変える必要はないという立場です。
大変なのは所得が高い人
今回の改正で本当に大変なのは、所得が高い人です。負担が大きく上がるため、現役期間中は生活防衛資金を厚く持っておく必要があります。
医療保険を勧める際、「でも所得が下がるじゃないですか」と言われることがあります。しかし井上さんは、それは所得補償保険の役割だと切り分けます。
医療費が払えないリスクは高額療養費でカバーできるから貯金からでいい。収入が減る時に関してなら、それは所得補償保険。リスクを切り分けておかないといけない。
井上さん自身は自営業で傷病手当金がないため、その代わりになる保険と、より長く働けなくなった時用の民間保険の二つに入っています。働けなくなるリスクは大きいと考えているためです。
高額療養費制度でカバーでき、不足分は貯蓄から対応できる
所得補償保険や就労不能保険で備える領域
老後の備えとして医療保険を勧めるのも、セールストークに感じると井上さんは話します。70歳以上は所得が下がり、月の上限も6万9000円ほどに下がるうえ、年間上限53万も維持されるためです。
結論と、負担が増える人への注意点
まとめとして、年間上限がある限り青天井にはならず、貯蓄からカバーするという発想の枠内に収まる、というのが井上さんの結論です。
むしろ「53万がマックス」とわかりやすくなったとも言えます。高額療養費で2か月だけ当たるようなケースなら、年間の負担が53万より少なくなる可能性もあります。
医療保険がいるっていうのは思わないし、入らないととはもう全く思わない。ただ気持ち的に楽なんだったら入ってもいいですよ、という位置づけの商品性なので。
一方で、今回の改正で負担が増える高所得者は手元キャッシュをしっかり持つ必要があります。特に所得が高いのに貯蓄ができていない家計はしんどいと話されています。
どうしてもキャッシュを用意できないなら、貯蓄の代行として多めの医療保険を買うという選択もありえます。
いわゆる370万から700万の間の人は、過度に不安に思う必要はない、というのが井上さんの感覚です。それ以上の所得層はキャッシュを厚く持っておくことが対策になります。
まとめ
高額療養費制度の改正で上限は上がりますが、年間上限が追加されたことで負担は青天井にはなりません。井上さんは、ある程度の貯蓄がある人なら医療保険はいらないという結論は変わらないと話しています。
- 改正は二段階で進み、特に高所得層の月の上限が大きく上がる。
- 年間上限53万円により、1年間の自己負担には頭打ちがあり青天井にはならない。
- 医療費リスクは高額療養費と貯蓄で対応し、収入減リスクは所得補償保険で切り分ける。
- 負担が増える高所得者は手元キャッシュを厚く持つことが現実的な対策になる。
- 気持ちの安心のために医療保険へ入るのは選択肢だが、必要になったわけではない。
