なぜレンズは高いのか。カールツァイスを選ぶ理由
話題は前回のフレームから、レンズの世界へと移ります。種市さんが「なぜレンズは高いのか」と切り出すと、宮川さんはレンズも本当にピンキリだと答えます。
安いレンズと高いレンズの差は、コーティングの耐久性や、光学的な歪みの少なさに出ると宮川さんは説明します。
一方で、度が入らない人には必ずしも高いレンズを勧めるわけではないとも話されています。度なしなら反射が少なく傷がつきにくいものを基本に勧め、度付きになると厚みや歪みの問題が出てくるため、フレームに合ったよいレンズを勧めるといいます。
レンズの種類は各メーカーが何十種類も作っており、選択肢はほぼ無限だと宮川さんは言います。そのなかで緑青が使うのは、ドイツのカールツァイス一択だそうです。
眼鏡のレンズメーカーで言うならライカだったり、車で言ったらメルセデスみたいな、一番フラッグシップでいいものですよと言われているメーカーになりますね。
宮川さんは、カールツァイスは見え方だけでなく、ユーザーへの姿勢が優しい点も気に入っていると話します。
たとえば見え方の保証です。眼鏡は度数の設定や加工で見え方が大きく変わり、目の位置や高さがずれるだけで見づらさが生じることがあります。
そうしたとき、ハイクラスのレンズであれば、メーカーが保証して作り直しに応じてくれるといいます。ただし、これはある程度上のレンズに限られると補足されています。
職人が今も学校へ通う理由。検眼・加工・フィッティング
ここで種市さんが、原因をきちんとジャッジできるかは店とスタッフの能力次第で、素人には正直わからないと指摘します。宮川さんも「本当にそう」と同意します。
そのうえで種市さんは、実務経験も長く家族もいる宮川さんが、なぜ今わざわざ学校へ通い直しているのかと尋ねます。
眼鏡全般なんですよ。調整、検査、加工というのが業務でいうと大体なんですけど、もうキリがないんですよ、正直。学ぶことが多すぎて。目とレンズと、あとフィッティングの理解を深めなきゃいけないので。
宮川さんによれば、眼鏡の技術は検眼、加工、フィッティングの三部門に分かれ、それぞれに得意な職人がいるといいます。ただし、これらは接客のなかで全部リンクするものだとも話されています。
検眼
視力や度数を測る工程
加工
フレームに合わせてレンズを作る工程
フィッティング
顔に合わせてかけ心地を調整する工程
宮川さんが特に言われるのはフィッティングだそうです。ただし、お客さんの肌の当たり方の強さまでは分からないため、自分の場合は百点は出せないと率直に語ります。
九十五点とか九十八点ぐらいを出したいんですよ。もう劇的に変わりましたみたいな、かけててすごく楽ですっていう状況をちゃんとサービスとして提供できるように、技術をすごい高めたいというところで今通ってますね。
多くの人はレンズを気にしていない
小畑さんは、少なくとも自分はレンズをほぼ気にしていないと打ち明けます。まずフレームを見て、かけて、ここをもう少しと相談しながら選ぶのが楽しいのだと言います。
決まった後のレンズは、調光レンズかどうかや色は気にしても、見え方はほとんど気にしていないそうです。それでもかけた後にストレスを感じないのは、そこが技術なのだろうと小畑さんは話します。
種市さんは、その違いがわかるのは、昔からいろんな眼鏡をかけていろんな店に行ってきた人くらいではないかと補足します。当たり前にやってもらっていると、フィッティングのよさには気づきにくいのです。
今の話を聞いて、わからないけど突き詰めるプロのこだわりだみたいなふうに聞こえたんですよ。眼鏡って毎日かけるものだし、見えづらいとなると生活に必要だから、そこを突き詰めてる職人的な話をしてるのかなって。
種市さんは、かつてフランス出張でジェームスウェストンの靴を、自分の希望より小さいサイズをフィッティングされ、これじゃないとダメと言われて買った経験を引き合いに出します。
眼鏡にもそうした職人の判断がありますが、靴ほど極端ではないため、当たり前にやってもらっていると違いがわからないと2人は話します。
眼鏡は最後に人の手で完成する
では、いい眼鏡店はどう見つければいいのか。種市さんが問うと、宮川さんは紹介ではないかと答えます。長く付き合ってわかるものだといいます。
宮川さんは、有名店で買っても対応する人によってクオリティが違い、たらい回しにされたり結局かけていないという人もよく聞くと語ります。
結局その眼鏡って、最後人の手が関わって完成するものなんですよ。もう吊るしでそのままかけられるものじゃないんですよ、本来は。
価格差の話にも触れられます。宮川さんは、価格は生地や製造工程によるとしつつ、ブランド料が乗っている部分もあると認めます。
ただし洋服のように「これでこの値段なの」というものは少なく、ラグジュアリーブランドを別にすれば、眼鏡ブランドの価格は比較的適正だと考えられると話されています。
トレンドはセルからメタルへ。緑青のブランドセレクト
小畑さんは、緑青で扱うブランドを来店するまで一つも知らなかったと言います。ユウイチ トヤマ、テオ、アーレムなど、一つ一つを見て格好いいと思って買ってきたそうです。
宮川さんは、緑青は自分の好きなブランドしか集めていないと語ります。音楽やファッションが好きという文脈で、自分のフィルターを通せるものだけを選んでいるそうです。
トレンドについて聞かれると、宮川さんは今はセルよりメタルがトレンドだと答えます。クラシックブームでヴィンテージらしい形が数年続いた後、少しアバンギャルドな形やメタルへ移りつつあるといいます。
こうした流行は洋服と同じく周期があり、三十年や十五年のサイクルで返り咲くと宮川さんは話します。若い人がかけるスポーティーなメガネも、昔のトレンドの復活だといいます。
その後は3人で実際にフレームを試す場面へ。宮川さんが仕入れた七十年代イギリス製のデッドストックは、光沢の強さが最近のものにはない魅力だと語られます。
これイギリス人のディーラーから買ってます。デッドストックです。七十年代のイギリス製ですね。あんまりそういうのって最近のやつないんで、これ良さそうと思って。
小畑さんが試したアーレムについても話題に。ロサンゼルス発のブランドですが、デザイナーも生産拠点もフランスだと宮川さんは説明します。
わざわざ足を運ぶ価値のある店
試着を楽しんだ後、種市さんは眼鏡が今いいという流れをまとめます。大人になると行きつけの飲み屋や洋服屋ができるように、洒落たメガネ屋を知っているのは粋だと語ります。
大人のたしなみの中の一つとして、ちょっと洒落たメガネ屋さん知ってるよっていうのは粋だよね。それが羽根木にあってっていうと、ちょっとしたモテ要素の一つになるんじゃないかな。
羽根木は用事がないと来ない場所です。だからこそ、そのために足を運ぶデスティネーションショップとしての価値があると2人は話します。
買い物がECに移るなかで、眼鏡は実際に見て合わせてもらわないとできない部分が多いものです。だからこそ、店と人の関係を持っておくことに意味があると考えられます。
まとめ
後編では、レンズの品質やフィッティングの技術という、ふだん見えにくい部分に光が当たりました。眼鏡は最後に人の手で完成するものであり、見え方とかけ心地への投資は、日々の快適さへの投資でもあると考えられます。
- 高いレンズはコーティングの耐久性や歪みの少なさ、保証の手厚さに差が出る。
- 眼鏡は検眼・加工・フィッティングが連動し、最後は職人の手で完成する。
- フィッティングのよさは気づきにくく、いい店は紹介や長い付き合いで見つかることが多い。
- トレンドはクラシックなセルから、アバンギャルドな形やメタルへ移りつつある。
- ECが主流の時代でも、わざわざ足を運ぶ価値のある店と人の関係に意味がある。
