バズより「歌う本人が自分の曲だと思えること」
聞き手の小畑さんは、バンドとプロデュースの性質の違いに注目します。バンドは自分の作りたいものを作るのに対し、プロデュースは打ち合わせをして相手のオーダーに応える仕事です。
だからこそ、お客さんを飽きさせない工夫や売れるための計算をどこまで考えているのか、と問いかけます。
どれくらい世の中がこれを受けるだろうなっていう割合を言えるかってことよね。そこに関しては本当に人によるし特性があるけど、俺は考えない派。
玉屋さんが一番大事にしているのは、歌う本人が「自分の曲だ」と思える曲を作ることだといいます。
アイドルは自分で曲を選べず、来たものを歌うしかない場合も多いと話します。だからこそ、与えられたから歌うのと、自分が大好きな曲として歌うのとでは、届き方がまったく違うと考えています。
売れる曲って絶対に自分の体重が、アイドルが乗ってる曲じゃないと売れないと思うから、そこにしか考えてないというか。喜んで歌ってくれる姿をファンは結局見たい。そこを狙っておけば勝手に行くでしょみたいな感じ。
曲を渡したときのアイドルの初めての反応を撮って送ってもらうと、「作ってよかった」と思えると語ります。喜んでもらえると、結果としていい曲になるという実感があるようです。
言葉遣いまで掘り下げる「クライアントワーク」としての作曲
玉屋さんは、初めて曲を作るアイドルとは一度でも会って話すようにしていると話します。喋り方によって歌詞が変わってくるからです。
自分のことを「うち」と言うのか「私」と言うのかでも違うし、ポジティブな人ならポジティブな表現に、ネガティブな人ならネガティブな表現になる、と具体例を挙げます。
このこの子が歌ってて違和感ない曲みたいなのは、やっぱ打ち合わせ大事だなって思いますね。
これを聞いた小畑さんは、想像していたイメージと違うと驚きます。徹底したクライアントワークであり、科学的でもあると感じたようです。
ビジネス本とかたまに読むけど、やっぱ同じだなって思う。だからビジネスやってすごい方たちマジですげえって思うし、その半分ぐらい感覚でやってるのが音楽っていう。
種市さんは、玉屋さんの根っこに「幸せにしたい」というパッションがあり、お金より先にそちらが出ているから、うまく伝わるのではないかと受け止めます。小手先の技術というより、情熱が入っている印象だと話しています。
AIに仕事を取られる?「抗えない波」との向き合い方
話題は、種市さんの友達がAIで作ってくれたという曲に移ります。歌詞を入れるとバーッと曲ができるサービスが、すでに身近にあるという実感からの問いです。
(AI作曲サービス:歌詞やイメージを入力すると、自動で楽曲を生成するツール。近年は個人でも手軽に使え、既存アーティスト風の曲を作れるものも登場しています。)
こういうものが出てきたら、これからどうなっていくのか。AIと戦っていくことになるのでしょうか。
玉屋さんは、自分っぽい曲を作るAIや、自作曲の別バージョンがすでにYouTubeに数多く上がっていると答えます。そのクオリティは高く、単純に面白いと感じて見ているそうです。
AIに仕事取られちゃうとか、別に俺は取られたら取られたでしょうがねえかなぐらいに思ってるっていうか。人間魂がこもってないととかっていう話になりがちですけど、いやだってAIのがすごいじゃんって思う。
玉屋さんは、法整備が追いついていない今が転換期だと見ています。いずれ規制が進み、著作権が引っかかるようになるだろうとしつつ、今は絶妙な時期だと話します。
対抗策として、玉屋さん自身が「玉屋っぽい曲を作るAI」を公式で出してしまい、自分で管理する手もあるのでは、と考えを述べます。
技術革新は巻き戻らない、だから波の中でできることをやる
小畑さんは、技術革新の歴史から話を広げます。火、印刷、電話、そしてインターネット。パラダイムが変わる瞬間は繰り返されてきました。
そのたびに人は抗うけれど、便利すぎるがゆえに逆転はしない、と指摘します。YouTubeも登場当初は著作権違反だと言われましたが、今では当たり前に使われています。
だからこそ、権利がどうこうと今は言われても、これは戻らないという前提で、どう使ってアーティスト活動を高めていくかを考えるべきだと小畑さんは話します。
AIが当たり前になってくると、今度絶対それに飽きる人も出てきて、やっぱ結局生身の人間が作ったやつがいいよねっていうのが絶対一定数出てくる。抗ってもしょうがないし、その波の中でできることをやるべきだなとはすごく思う。
その象徴がライブです。ストリーミングで手軽に聴けるようになった分、人はもっと刺激を求め、ライブの動員は上がっているといいます。
手軽になった分もっと刺激を求めるから、やっぱライブっていうものに行くようになってる。結局そこに人間ってお金を使いたいってなってるんだなっていう、紛れもない事実だなって思う。
複雑なのに軽く聴こえる曲の裏にあるロジック
玉屋さんの曲は、一曲の中で何度も転調するのが特徴です。小畑さんは、まるで別の曲が何個も入っているようだと表現します。種市さんは「ボヘミアンラプソディみたい」と例え、それを凝縮した感じだと玉屋さんも同意します。
(転調:曲の途中でキー(調)を変えること。曲に変化や展開を生み出す技法で、多用すると聴き手に強い印象や意外性を与えます。)
その理由は、玉屋さんが「天性の飽き性」だからだといいます。二回同じメロディが続くと飽きてしまうため、どんどん展開を変えていくのです。
世間的には支離滅裂にバーって展開していくように見えて、自分の中では全部説明できる。このメロディの伏線がここにあって、リズムがこうやって繋がっててみたいなのは全部自分の中ではある。理論的に組み立てていった結果っていう。
だから玉屋さんの曲を真似してAIに作らせると、そこが支離滅裂になってしまうことが多いといいます。表層だけをなぞっても、同じにはならないのです。
複雑を複雑に聞かせないことも大事。超軽い曲だな、なんでこんな曲が売れるんだ、ぐらいに思われといた方がいい。じゃないとついてくれないんで。
種市さんは、これをアートに重ねます。一見ごちゃごちゃしたものが評価され、整然としたものが評価されないのは、その裏にロジックがあり、それを見抜く人がいるからだと語ります。
ピカソがデッサンめちゃくちゃ上手いのと同じように、やっぱちゃんとできる人じゃないと。
一方で玉屋さんは、「っぽいことができる」ことも最近は重要だと考えています。真似したくなる、歌いたくなるという要素が流行につながるからです。展開は複雑でも、メロディはキャッチーでポップにしているといいます。
留年した理由と、実戦で磨かれた言語化力
ロジカルに語る玉屋さんに、種市さんは「なぜ留年したのか」と率直に尋ねます。玉屋さんは、地頭が悪く特に理数系が苦手だったと答えますが、種市さんは信じません。
自分の中でそのやってることを、なんでこれができてるんだろうみたいな本当の部分は説明できない。今言えてるのはすごく考えて考えて、経験の上で言語化できたことを喋ってるみたいな。
玉屋さんは飽き性だったことも留年の一因かもしれないと振り返ります。また、パンク少年だったため、リコーダーやタンギングを学ぶ学校の音楽の授業は大嫌いだったと笑います。
小畑さんと種市さんは、玉屋さんの言語化力が以前より上がっていると感じたと話します。いろんなクライアントや人と話す機会が、それを鍛えているのではないかと分析します。
実戦を常にしてるみたいなことなのかもしれないですね。
紅白・レコ大を経ても変わらない日常と「10年前なら人生7周分」
玉屋さんの作った曲は、レコード大賞を受賞し、紅白でも歌われました。CandyTuneやFRUITS ZIPPER、クレヨンしんちゃんの主題歌など、その活躍は多方面に広がっています。
小畑さんは、40億回ほど再生されている曲もあると驚きます。しかし玉屋さんは、CD時代とは事情が違うと語ります。
音楽業界の方に言われたんですけど、これ10年前だったらもう人生7周分ぐらい稼げてたねって。CD時代だったら。だから売上自体は落ちてる。
サブスク時代になり、音楽に払うお金の総量は減っています。小畑さんは、CDを月5枚買えば1万5千円だったのに対し、サブスクは月2千円ほどで、10倍近く違うと具体的に計算します。
玉屋さんによれば、音楽業界全体は縮小し、レコード会社の景気は非常に悪い一方、ライブだけは伸びているといいます。無料で聴ける体験を一度知ると後戻りできず、だからこそライブに価値が集まる、という構図です。
では、大きな賞や紅白を経て何が変わったのか。小畑さんの問いに、玉屋さんは「マジで変わんない」と答えます。急に出てきた一発屋ではなく、地道に積み上げてきたからだと三人は結論づけます。
俺も売れたねみたいなことを言われるけど、その実感があまりにもなさすぎるから、早く俺を調子に乗らせてくれって今思ってるっていうか。
日常の変化としては、住む場所も飲みに行く場所も中野のまま変わっていないと話します。ただ、街で自分の曲がお笑いのネタにパロディとして使われたとき、みんなが当たり前に知っている前提だと気づき、すごさを実感したそうです。
パロディってみんなが知ってる前提じゃないと成り立たないけど、それでパロディとして使われた時に、みんな当たり前に知ってるって認識でやってくれてる。それでウケてる。みんな知ってるってことなんだ。
まとめ
玉屋2060%さんの話からは、売れる曲づくりが緻密なクライアントワークであり、AI時代でも「抗えない波の中で何をするか」を冷静に選ぶ姿勢が見えてきました。複雑なのに軽く聴こえる曲の裏には理論があり、その積み重ねが日常を変えずに実力を育てているようです。
- 売れる曲の核心は、歌う本人が「自分の曲だ」と思えること。だから言葉遣いまで掘り下げる。
- AIに仕事を取られる論争より、抗えない波の中でできることをやる、という冷静な向き合い方。
- 技術革新は巻き戻らない。だからAIを前提に、ライブなど人間にしかできない価値を高める発想が重要。
- 一見支離滅裂な転調の裏には全て説明できるロジックがあり、表層を真似ても同じにはならない。
- サブスク時代で音楽の売上は縮小しライブが伸びる。紅白やレコ大を経ても日常は変わらない。
