日本のリゾートはどこへ向かうのか
この回のテーマは、日本のリゾートのこれからです。きっかけは、白馬の土地価格が大きく上がっているという話でした。
小畑翔悟さんは、日経新聞でも取り上げられていた白馬のスノーリゾートに触れ、街づくりやホテル事業を手がける関口正人さんに、日本のリゾートという角度で話を聞きたいと切り出します。
種市暁さんも、関口さんと一緒にスノーボードやサーフィンで各地を旅してきた経験から、これからのリゾート開発の行方に強い興味を示します。
これはあの、僕の私見ね。人によって言うこと多分違うと思うんだけど。俺はね、多分ね、とどまるところを知らないレベルになると思う。
関口さんが提示したのが「日本全国リゾート化」という見立てです。
バリ島やハワイに学ぶ「街になっていくリゾート」
関口さんはまず、海外の事例からリゾートが街へと育っていく流れを説明します。
20年ほど前に初めて訪れたインドネシアのバリ島のチャングーは、当時は畑しかなかったといいます。それが今では、リゾートホテルが立ち並ぶエリアに変わりました。
関口さんによれば、リゾートホテルが一つできると従業員が集まり、周辺の生活インフラも増えていきます。ホテルが先行し、やがて街になっていくという流れです。
その先の姿がハワイで、今や一大リゾートシティになっていると話されています。日本全国にも、同じ可能性が秘められているという見立てです。
日本の価値は神道から生まれている
なぜ日本にそのポテンシャルがあるのか。関口さんは、日本独自の自然や文化を挙げます。
島国であり、リアス式海岸に囲まれ、季節性や気候のバリエーションも豊かです。そこに地域ごとの文化性が重なります。
さらに関口さんが注目したのが、日本食がユネスコ無形文化遺産国際連合教育科学文化機関が定める、芸能や社会的慣習など形のない文化を保護する枠組み。日本では和食や日本酒造りが登録されているに登録された理由です。料理そのものではなく、そのプロセスや思想が評価されたと語ります。
日本人の礼儀正しさや、スポーツイベント後に客席を掃除するもてなしの精神。それらがどこに紐づいているのかを自分なりに考えた結果、たどり着いたのが神道でした。
神道ってね、日本唯一なの。森羅万象全てに神が宿るっていう考え方。その対象物は木とか山とか石とか川とか、その自然が神様の対象で、僕らは生かしてもらっている。
自然との関わり方が食になり、文化になり、地域ごとの特性になっている。そうした精神性から見ても、日本はかなり独自だと関口さんは話します。
自分たちの芝生は青い、と気づいていない
ここで関口さんは、日本人自身の意識に矛盾があると指摘します。
「他人の芝は青く見える」という言葉がありますが、日本の場合はそもそも似たものが他にないため、その独自性が際立っているといいます。出汁を引く、刺身にするといった食文化も、他国にはないものです。
ただし、その価値を一番わかっていないのは、当の日本人かもしれないと関口さんは続けます。
関口さんは、グローバル化や欧米文化そのものを否定しているわけではないと断ります。むしろアメリカのカルチャーが好きだといいます。
その上で、今を生きる人たちが日本を再解釈し、自分たちの世界観の中で「日本っていいよね」と再認識することが必要だと語ります。自分がいいと思えないものは、人にもいいと言えないからです。
リゾート大国化がもたらす環境と文化の課題
一方で関口さんは、リゾート開発の負の側面にも目を向けます。
リゾート開発は建築開発であり、どうしても自然を破壊してしまう面があります。そこで関口さんは、基本は民主主義でよいとしつつ、一部で社会主義的な感覚も必要な場面が来るのではないかと問いかけます。
その背景にあるのが、日本の不動産は世界中の誰でも買えるという特殊さです。中国やインドネシア、イギリスなどでは、外国籍への土地売却が制限されています。
関口さんが提案するのは、リゾートバリューでエリアを分ける発想です。
むしろ価値を高め、リゾートとして開発していく
建物を建てず、どんどん自然に返していく
人口も減っていくため、Bゾーンは自然との共生に振り切る。日本の価値の大部分は自然だからこそ、このまま無秩序にリゾート大国化すると、観光だけでなく環境や文化継承の問題も生じると警鐘を鳴らします。
関口さん自身、外資クライアントの仕事をしながら矛盾を感じているといいます。「お金はいくらでもある、一緒にやりませんか」という誘いに、経営者として背に腹は代えられない部分もあるからです。
大事にしないといけないボーダーラインって、あるよねみたいなさ。
抹茶とニセコに見る「価値の逆転現象」
日本人が価値に気づかないうちに、外から評価が先行する。関口さんはその実例として、抹茶とニセコを挙げます。
これまで日本人にとって「ないもの」は西洋文化でした。ジーパンに憧れ、高いお金を払ってメゾンブランドのバッグを買ってきたわけです。
ところが今、その逆転現象が起き始めていると関口さんは言います。欧米の人たちは日本をかっこいいと感じ、エスプレッソではなく抹茶でラテを飲むようになっています。
関口さんによれば、アメリカのコーヒー市場は4兆円規模で、仮にその半分が抹茶に切り替われば2兆円産業になります。対して日本国内の抹茶産業は小さく、気づかないうちにニーズが顕在化しているといいます。
ニセコも同じ構図です。今でこそ日本の資本が開発したがっていますが、ニセコが価値を持ったのはずっと昔のことでした。
抹茶をめぐる関口さんの実体験も印象的です。奥さんに頼まれて抹茶を買いに行ったところ、どこにも売っていなかったといいます。
抹茶はいつでもどこでも買えるなと思ってたんで、しかも買う人少ないと思ってたの。もう売ってないんだよ。エアジョーダンの限定発売しますみたいなレギュレーションかかってるのもあっちゃう。次の入荷はいつかわかりませんみたいな。
さらに関口さんは、抹茶の実際の畑は鹿児島にあり、その茶農場をスターバックスが買収しているのに誰も気づいていないと語ります。
このままだと、抹茶のメインストリームが「抹茶ラテ」として西洋化し、そちらが正になってしまう。そうした「もったいない系」の日本文化は他にもたくさんある、というのが関口さんの危機感です。
早いうちに日本の良さっていうのは自分たちでもう一回気づき直して、日本のリゾートこういう形であった方がいいよねって。でも残すものは残す。
関口さんは、環境と開発の共生を掲げてリゾートで文化GDPを上げるような、リーダーシップのある政治家がいたら最高だと冗談交じりに語ります。ただし自分がやるのは嫌だ、と笑いも起きました。
ブロックチェーンで土地と利用をどう扱うか
最後に、種市さんと小畑さんが、それぞれの立場から着地点を探ります。
サーファーである種市さんは、世界中の海を旅してきた経験から、アイデンティティも大切だが地球はみんなのものだと話します。地球環境が良くなる形でシェアできるならいい、という立場です。
なんかみんなの地球じゃない?地球環境が良くなる形で、その中でいい形でシェアできるんであればいいけど、抹茶ラテイエーみたいなノリになっちゃったら残念。
その上で種市さんは、関口さんのような街づくりと、小畑さんのブロックチェーンの力を組み合わせれば、価値がいい人たちに正しく届くのではないかと提案します。お金だけ払って好きにさせろ、という形は避けたいという思いです。
小畑さんは、不動産の底地と借地の関係を引き合いに出します。誰でも土地を買える状況は異常であり、インバウンドでこの瞬間は経済的に良く見えても、中長期でどうなのかという議論はあるべきだと語ります。
そこで小畑さんが挙げるのが、土地は持ったまま、上の利用する部分だけを流動させるという仕組みです。これは底地と借地に近く、ブロックチェーンなどの技術で実現できると面白いといいます。
さらに小畑さんは、AゾーンとBゾーンのようなエリアのコントロールや、何年で必ず土地が返ってくるといった条件も、ブロックチェーンを使えば技術的に担保しやすくなると説明します。
本質的にはそういうコントロールとか制限みたいなのをうまくできたりするので、そういうのがやっていけると、日本のリゾートのこれからもなんか良い感じになっていくのかなって。
日本全国リゾート化というポテンシャルを、どう活かし、何を残すのか。3人はその問いを共有したまま、関口さんおすすめの新橋のもつ焼き屋へと向かい、この最終章を締めくくりました。
まとめ
日本には自然、食、文化という豊かなリゾートのポテンシャルがある一方で、その価値に気づいていないのは日本人自身かもしれません。抹茶やニセコのように外から評価が先行する「逆転現象」を前に、残すものは残し、開発と環境を共生させる仕組みが問われています。
- 関口さんは日本全国リゾート化の可能性を、自然・食・神道に根ざした文化から説明した
- 日本の価値に最初に気づくのは外国人で、抹茶やニセコに「価値の逆転現象」が起きている
- リゾート開発では、価値を高めるAゾーンと自然に返すBゾーンを分ける発想が語られた
- 日本の不動産は誰でも買える特殊さがあり、中長期での議論が必要だと指摘された
- 土地の所有と利用を分け、ブロックチェーンで制御する仕組みが着地点として提案された
