友人にすすめるうちに自分がハマった
この回は、種市さんが最近ヴィンテージスピーカーを買ったという話から始まります。
きっかけは、仲のいい後輩がやっているアンティークメガネのお店でした。オーナーは音楽好きで、店内は和装の内装に北欧の家具を合わせた雰囲気のある空間だといいます。
ただ、そのお店には肝心のスピーカーがなく、音楽は簡易的なもので流していたそうです。
スピーカーとアンプ、そもそもあったらすごい雰囲気できるじゃんっていう。
種市さんは、その最後のワンピースとして「音」を勧めていました。ところが探しているうちに、勧めていた本人がすっかり欲しくなってしまいます。
「いや、言う通りです。僕なんでそれしなかったんだろう」って。「余計なもん買ってないで買えよ」って言いながら、その何軒も何軒も見てやってるうちに、本当に自分が欲しくなっちゃって。
JBLの名機「L88 NOVA」との出会い
転機は、サーフィンつながりの知人でした。その人は昔アメリカでヴィンテージスピーカーの輸出入をしていたそうです。
紹介してもらったのが、JBLの「L88 NOVA」という70年代のヴィンテージスピーカーでした。
種市さんはお店ではなく自宅用なので、大きさのバランスを重視して小ぶりのものを探していました。当初はアルテックの大型も検討したものの、劇場用・業務用で大きすぎたそうです。
ウォルナットのキャビネットでちょっと丸い、表面のところが出ていて、なんとも言えない可愛らしさと雰囲気があって。音が温かい感じというか、あまりクリアすぎないというか。
このスピーカーは実はレアなもので、種市さんは福島まで取りに行き、車の中では毛布にくるんで大事に運んだそうです。
「スピーカーはタイヤ、アンプはエンジン」
音源の話になると、アンプが登場します。種市さんは、縁で紹介された職人の工房を訪ねました。
その職人はいわば音響オタクで、家が「秘密の部屋」のようになっていたといいます。種市さんは当初、アンプの重要性をあまり理解しておらず、見た目でマッキントッシュの古いものを合わせようと考えていました。
(そのおじいちゃんが言うには)スピーカーは車でいうタイヤで、アンプっていうのはエンジンだから、めちゃくちゃ大事で。
実際、その職人が「大したことない」という古いスピーカーでも、アンプを通すと驚くほど良い音が出たそうです。
これスピーカー全然大したことないからね。アンプがこれで銅線と配線がうまくいけば、全然もうパーフェクトの音出るんですよ。
音源については、レコードプレーヤーが理想だとしつつ、現実的な選択をしています。
種市さんは、アンプとスピーカーをつないで、BluetoothでApple Musicを流す形にしました。飛ばした音源でも、オーダーで組んだアンプ側の調整で良い音が出るといいます。
まだ良くないかもしれないけど、考え方ハイブリッドなんで。
無駄なものに動かされるという「真理」
種市さんは、けしかけていた本人が先に買ってしまったと笑いつつ、目の前で聴くと違うのだと繰り返します。
所有欲の話は、音だけにとどまりません。種市さんは、アートや料理を例に挙げます。
デジタルアートだって、それを持ってて心が豊かになるからっていうところで多分所有するんだろうし。料理、食べ物だってそうだし。単に栄養だけ取るとか味だけって言ったら、そんな盛り付けいらないじゃんってなるかもしれないけど、やっぱり美しい盛り付けするととか。
家についても、床暖房や気密性といったハイテクな部分がある一方で、その揺り戻しとしてヴィンテージの家具に惹かれると話します。
無駄なものに動かされるってどういう真理なんだろうみたいな。すごいなって。もう自分でもなんかちょっと面白いなって思って。
リアルな店舗の価値がなぜ上がるのか
話はオーディオ談義から、店舗のあり方へと広がっていきます。
種市さんは、コロナ前にセレクトショップが飽和し、オンラインで売れることもあって店舗が頭打ちになっていた時期を振り返ります。
一方で、コロナ明けには接客や空気、匂いまで含めて「フィジカルで面白い店」がクローズアップされてきたといいます。地方でスケールを生かした店づくりも増えてきたそうです。
同じようなとこ作ったり、同じアイテム作っとけ、売っときゃいいじゃんっていうところは、もうこの時代になってくるとさすがに通用しなくなってきて。
種市さんは、他にないものをどう作るか、いかに「匂いをつけられるか」が勝ち残りの鍵だと話します。
ブロックチェーンにしろWeb3とか、そういう世界だって結局そういうところでしょ。その他にないもの、というか。お店もそういうことであって。
効率化の時代の二極化とエモーショナルな価値
会員権サービスを手がける小畑さんも、この感覚に共感します。レストランやホテル、服の店を訪ねる中で、リアル店舗の価値が逆に上がっていると感じているそうです。
オンラインが発達しまくってるので、だからこそ逆に店が大事だみたいなのはすごいあって。人ってないものねだりするんで、どっちかに振れると逆のものが大事になるみたいな。
種市さんは、これを「二極化」と表現します。かつては中間でうまくやれるビジネスがあったが、今はエモーショナルなものと効率的なデジタルに分かれてきたという見立てです。
オンラインで完結し、便利で効率的。同じものならウーバーで頼めばいい領域。
わざわざ足を運びたくなる体験。音、匂い、空気、所有欲といった引っかかり。
種市さんが例に挙げたのが、最近通っている足裏マッサージのお店です。レジの下に金魚が泳ぐ水槽があり、台湾のような空気が漂っていて、そこから発想が広がるといいます。
まとめ
一本のヴィンテージスピーカーの衝動買いから、所有欲やリアルな店舗の価値、効率化の先にあるエモーショナルな体験まで、話は緩やかに広がりました。便利さだけでは満たされない「引っかかり」をどう持つかが、これからの豊かさのヒントになりそうです。
- 友人に勧めていたはずが自分がハマる、ヴィンテージスピーカー沼の入り口
- 音の要は「スピーカーはタイヤ、アンプはエンジン」という職人の言葉
- 理想はレコードでも、現実はBluetoothとの「ハイブリッド」で楽しむ
- オンライン発達の裏返しで、匂いや空気を持つリアル店舗の価値が上がる
- 効率とエモーションが二極化する時代、「無駄なもの」に動かされる意味を問う
