AI時代に「調べない」を貫く理由
最終回のテーマは、MC小畑翔悟さんのホームグラウンドであるテクノロジーです。ブランドを20数年続けてきた藤井さんに、技術の取り入れ方を尋ねるところから始まります。
藤井さんの答えは意外なものでした。洋服はそもそも進化させにくいカテゴリーだと話します。
洋服って結構一番進化しないカテゴリーかなって最近思ってて。スニーカーも結局バック・トゥ・ザ・フューチャーみたいなのは流行らないじゃないですか。洋服って進化させるとか考えちゃうと、ギャグになっちゃいますよ。
縫製やデニムのレーザー加工など、技術を見ていないわけではありません。ただ、それが最新かと言われると微妙だと感じているようです。
一方で、分析や情報収集にAIを使うことは大事だとも語ります。ただし藤井さん自身は、日常であまり使わないと言います。
むしろ、あえて使わないようにしている場面もあるそうです。この日の収録前も、小畑さんのインスタは昨日フォローしたばかりで、見ないようにしていたと明かしました。
僕、ポッドキャスト上の小畑さんしか知らない。何に興味があって、どういう声で。その方が今日面白いかなと思って。知らないでおく作業ですね。どうせ話せばわかるんで。
「モモちゃん」事件と、調べない面白さ
藤井さんが「調べない」を大事にする理由を象徴するエピソードが、韓国での出来事です。
ThisIsNeverThatというブランドの「モモちゃん」という有名な人に会いに行った藤井さん。名前から女性だと思い込んでいたそうです。
迎えに来たんですよ、モモちゃん。「モモです」って言って、すごい髭面。もうそれで大好きになっちゃって。事前に調べてたら、この面白さはなかったですよね。
小畑さんも「完全に女の人だと思っていた」と反応します。事前に調べていれば知り得た事実ですが、知らなかったからこそ強いインパクトが残ったという話です。
旅行でも事前情報を入れないのが藤井さん流です。気温は調べても、飲食店は現地に行ってから調べると言います。
AIを使い倒す世代と、退化する「考える力」
ここで話題は、AIとの距離感の違いへ移ります。小畑さんは、DeNAの南場さんの例を挙げました。人に会う前に情報を集めてNotebookLMでレポート化するのが、AI使いこなし勢の当然のムーブだと言います。
小畑さんの業界では、事前にAIで調べておくのが共通のコンセンサスに近いそうです。だからこそ藤井さんの発想が新鮮だったと振り返ります。
一方、種市さんはAIと日常的に「喧嘩」しながら使っていると笑いを交えて話します。回答の誤りが気になり、ChatGPTとGeminiを互いに引き合いに出して煽ることもあるそうです。
その流れで、小畑さんがタイで体験した話が出ます。自分がしている時計の偽物が、最新カラーで精巧に売られていたというのです。
本物持ってる本人がわかんないぐらいすごい。重さのバランスも。それはAIで調べましたね。ランクがあって、これはありかもって言ってくれて。買ってないですよ。ただ、本物って何なんだろうっていうのは。
精巧な偽物に触れて、藤井さんも「本物とは何か」を考えさせられたと言います。ここから、AIによって人の考える力がどう変わるかという議論へ深まっていきます。
小畑さんは、AIをうまく使えば自分の能力を何倍にもできる領域がある一方で、危うさも感じていると話します。
ある仕事をやる時はいいんですよ、聞けばいいから。でも、話すとか、リアルなコミュニケーションでその場でどう返すかみたいな思考力や瞬発力は、だんだん退化していくなって思ってて。
AIに取り込まれないもの、洋服とブランドの行方
種市さんは、AIがインスタもホームページも作れるようになったら、ブランドはどうなるのかと問いかけます。自分そっくりの発信をする人が現れて影響力を持ったら、という不安です。
藤井さんは、形があるものは強いと答えます。料理と同じで、洋服は取り込まれにくいという見立てです。
洋服は進化しようがないですね。未だに革ジャンも売れるわけじゃないですか。機能的にはいらないのに、着てて気持ちいい人がいる。かっこいいとか、誰々っぽいとか、そういうのがなくなっちゃうと寂しいなって。
一方で、顧客管理や分析ではAIの恩恵を実感しているそうです。外国人比率などのグラフが簡単に出てくることに驚いたと話します。
種市さんは、藤井さんが全体の中で自分の立ち位置をわかっているからこそ、無理にAIに寄せず、エモーショナルでフィジカルな部分を担っているのだと解釈します。
情報の分析、顧客管理、グラフ作成など、正確な数字で答えが出せる作業
形があり、着心地やかっこよさといった感覚で選ばれる洋服や料理
Tシャツ5000円時代、若者に本物をどう届けるか
ここからは、藤井さんのリアルな悩みに踏み込みます。原材料費の高騰で、洋服の値段は上がり続けているのです。
SNSでアテンションを奪い合う時代に疲れが見え、クローズドで狭く深い場が求められている、と小畑さんは言います。ポッドキャストの流行もその文脈だという見立てです。
洋服も、ECで完結する時代から、店舗で体験する方向へ揺り戻しているのではないか、という話になります。
藤井さんも、まず店で見たい人が増えている実感を語ります。外国人はECだとタックスが戻らないため、店舗で買うと1割ほど安くなるという事情もあるそうです。
ただ、値段が上がっても仕組みは変わっていないことに、藤井さんは心配を感じています。生地、糸、裏地、ボタンと石油由来の素材が多く、縫う人も減っているためです。
昔アメリカ製がなくなった時のような感じが出てるんですよね。下がることはないと思います。今めちゃくちゃ悩んでます、会社で。どうあるべきか。若者が買ってないんで。
ズボンが2万円、Tシャツが5000円という価格帯では、若者に「高いんでしょ」で終わられてしまう。それでも媚びるのではなく、本物の価値をどう届けるかを日々考えていると言います。
nonnativeは今年で25周年、BEAMSと同い年です。安定して見える藤井さんが、いまも不安だらけだと語る姿に、種市さんは「歴史は作れない」と応じました。
推し活とユニフォーム、アパレル×食が交差する未来
最後は、小畑さんが手がけるデジタル会員権サービスSLAPSの話から、価値の届け方が語られます。
レストランでうまくいっている店は、来店の2時間だけでなく、来る前や食べた後の接点を増やしている、と小畑さんは分析します。いわば「推し活」に近い形です。
ポイントとかじゃなくて、もっと好きになってもらうために何をやるか。その観点があると財布の紐が緩む。推し活にどう移行するかが、服でも食でも大事な時代なんじゃないかなって。
種市さんは、nonnativeが飲食店のユニフォームも手がけていることに触れ、洋服と食がリンクする可能性を面白がります。店で使うエプロンが欲しくなる、という具体的な想像も広がりました。
小畑さんは、洋服はユニフォームだという持論を語ります。黒服やサッカーのベンチコートにも、ゴアテックスのような本物の機能を取り入れてほしいと考えているそうです。
洋服ってユニフォームだと思ってるんです、メンズは特に。制服を着てる人も、もっとこういうのを取り入れてくれれば面白いのになって。ベンチコートも、なんで中綿なのかなって。
アパレル、食、スポーツ、ライフスタイルが交差する先に、価値の届け方のヒントがある。そんな余韻を残して、藤井さんゲスト回は幕を閉じました。
まとめ
AI時代でも、藤井さんは「調べない」ことや形あるものの強さを大切にしていました。洋服が進化しにくいからこそ、一般的な素材で本物をどう作り、どう届けるかという問いに、25年の答え合わせが表れています。
- 藤井さんは洋服を一番進化しないカテゴリーと捉え、あえて事前に調べない流儀を貫いている
- 精巧な偽物時計の体験から「本物とは何か」が問い直され、AIによる考える力の退化も話題になった
- 形があり感覚で選ばれる洋服や料理は、AIに取り込まれにくいと藤井さんは見ている
- 原材料費高騰で価格が上がる中、若者に媚びず本物の価値をどう届けるかが藤井さんのリアルな悩み
- 推し活型の顧客との関係づくりや、アパレル×食×ライフスタイルの交差に、価値提供のヒントがある
