家畜伝染病予防法って日本だけ?という質問
この日の配信に届いたのは、スプーンという配信アプリの匿名リスナーからの質問でした。
家畜伝染病予防法って日本だけですか?
そもそも家畜伝染病予防法は、周りの友達や知り合いに聞いてもほとんど知られていない言葉だと川上さんは話します。毎日この配信を聞いているからこそ出てくる質問だと驚いていました。
家畜の病気には、動物から人へ、人から動物へうつるものや、人や野生動物が伝染病を運んでしまうリスクがあります。家畜を飼う者はこの法律を守りながら畜産を続けている、というのが前提です。
日本には家畜保健所各都道府県に置かれ、家畜の病気の予防や監視、防疫指導を担う公的機関。家畜保健衛生所とも呼ばれますがあり、野生動物が入っていないかなどのチェックや、病気が出たときの連絡体制の確認を定期的に行っています。
ただ、海外がどうなっているのかは川上さん自身もあまり知らなかったそう。そこで調べてまとめたものを読み上げていきます。
世界共通の前提となる国際機関WOAH
結論から言うと、家畜伝染病予防法のような制度は日本だけではありません。ただし国ごとに考え方や運用、強制力がかなり違います。
大前提として、世界にはWOAHWorld Organisation for Animal Health(世界動物保健機関)。旧称OIE。動物の病気に関する国際基準を定める機関ですという国際機関があります。
ここが、どの病気が国際的に重要か、清浄国の定義、発生時の基本対応方針などを定めています。つまり各国は完全に自由ではなく、国際ルールの上で法律を作っているんですね。
日本の家畜伝染病予防法も、この国際基準と整合する形で作られています。
封じ込め最優先の日本の制度
日本の家畜伝染病予防法は1951年に制定されました。特徴を整理すると、まず国が主導していて、農水省の管轄になります。
各都道府県知事に強い権限が与えられ、指定伝染病では移動制限や殺処分を含む強い措置がとれます。防疫措置に対する補償制度も法律上はっきりしています。
これは制度の良し悪しの評価ではなく、あくまで構造の話だと川上さんは念を押しています。
ヨーロッパ・アメリカの制度の違い
続いてヨーロッパです。EUにはEU動物衛生法Animal Health Law。EU域内で共通して適用される動物の健康に関する法制度ですという共通ルールがあります。
ただし実際の運用は各国が担当し、科学的なリスク評価を重視。状況次第でワクチンの使用を選ぶという特徴があります。
EUも殺処分を行わない国ではありません。ただ日本より対応の選択肢が多く、国境をまたぐ前提で調整が必要という構造的な違いがあります。
一方アメリカでは、USDAUnited States Department of Agriculture(アメリカ合衆国農務省)。連邦レベルで農業や食料政策を担当します(連邦)と州政府が役割を分担しています。
州ごとに対応計画が異なり、農場のバイオセキュリティ責任が重く、防疫計画を事前に作ることが求められます。殺処分や移動制限はありますが、運用のばらつきが大きいのが実情です。
これは緩いのではなく、国の成り立ちが違うという話だと整理されています。
日本と似た立場のオーストラリア・ニュージーランド
オーストラリアとニュージーランドの2国は、日本とかなり近い立場です。
島国で畜産物の輸出が国家戦略になっていて、清浄国ステータスを極めて重視する国です。そのため初動が非常に厳格で、移動制限が強く、早期の封じ込めを最優先します。
日本の防疫思想と構造的に似ている国、というわけですね。
「日本は厳しすぎる」の正体
日本の防疫が極端に厳しく見える理由は、農場の密度が高い、国土が狭い、広がった場合の影響が大きい、という条件によるものです。
まとめると、家畜伝染病予防法は日本だけのものではなく、世界中に同様の制度があり、すべてWOAH基準の影響下にあります。日本はその中で封じ込め最優先型で運用されているということです。
国が主導し、都道府県知事に強い権限。移動制限や殺処分を含む強い措置がとれ、封じ込めを最優先します
連邦と州で役割分担。州ごとに対応計画が異なり、農場のバイオセキュリティ責任が重く、運用のばらつきが大きめです
口蹄疫やランピースキン病から考えるリスク
話の締めくくりに、川上さんは実際の病気の事例にふれます。記憶に残っているのは、宮崎県で起きた口蹄疫です。
口蹄疫牛や豚などがかかる伝染性の強い家畜の病気。日本では2010年に宮崎県で大規模な発生があり、多くの家畜が殺処分されましたでは、和牛で有名な宮崎県で多くの家畜が殺処分されました。
当時は、貴重な種雄牛を殺処分するか、他県へ動かすかで議論になったといいます。県知事が権限を持つため動かすという話が出ましたが、病気がうつるとして揉めた過去もあったそう。詳しくは過去のニュースを調べてほしいと川上さんは話します。
そこから宮崎県は立ち直り、今も日本一の黒毛和牛を産出しています。ただ一度病気が出ると、それだけ大きな影響が出るということです。
近年もランピースキン病牛がかかるウイルス性の病気で、皮膚にこぶ状の病変ができます。サシバエなどの吸血昆虫が媒介しますが九州から流行し、だんだん北上して島根県にも入ってくるのではとビクビクしていたそう。すぐに対処され、日本では広がらずにすみました。
地球温暖化や気候変動で、こうした病気のリスクは上がってきています。これから酪農を続けるうえで意識しないといけない点だと川上さんは語ります。
川上牧場は一般の方を受け入れる酪農教育ファーム消費者が牧場での体験を通じて食や命について学べるよう、酪農家が受け入れを行う取り組みでもあるため、体験する人にはメンバーシップから住所や名前、海外渡航歴などのチェックリストを記入してもらってから受け入れているそうです。
まとめ
リスナーの素朴な疑問から始まった今回の配信。家畜伝染病予防法は日本だけの制度ではなく、世界共通の国際基準の上で、各国が地理や経済に合わせて仕組みを作っていることが見えてきました。
- 家畜伝染病予防法は日本だけでなく、世界中に同様の制度があり、すべてWOAH基準の影響下にある
- 日本は農場密度や国土の狭さから、封じ込め最優先型で運用されている
- オーストラリアやニュージーランドは、島国・輸出国という点で日本と近い防疫思想を持つ
- 防疫は倫理や効率ではなく、リスク設計であり食料安全保障の設計として理解できる
- 温暖化などで病気のリスクは上がっており、川上牧場では体験者にチェックリスト記入を求めている
