リスナーからの質問「牧場の土地は購入したの?」
今回のお便りは、配信アプリ「スプーン」のリスナー、パックンチョさんから。牧場を経営するときに土地を購入したり、用途変更をしたりしたのか、という質問です。
牧場を経営する際に土地を購入することや用途変更とかあったんですか?というコメントが来ております。
川上牧場はおじいさんの代から続く牧場で、川上さんは3代目。じつは土地を新しく買ったことはないそうです。
川上牧場はおじいさんの代からやって、僕が3代目となりますんで、土地を購入したりとか、そんなことはしてないですね。
とはいえ「土地を買いませんか?」という話は来るとのこと。ただ、川上牧場は都市近郊酪農なので土地がとても高く、規模拡大したくても手が出しにくいのが現実だと話します。
ただ、牛舎を新しく建てたり、子牛用の牛舎や育成舎を建てたりしたときに、土地の手続きは実際に経験してきたそう。その経験をもとに、土地の探し方や手続きを順を追って解説してくれます。
酪農向きの土地は不動産市場に出てこない
まず川上さんが結論として挙げたのは、酪農向きの土地は一般の不動産市場にはほぼ出てこない、ということです。
大規模な畜舎を建てられて、糞尿処理ができて、周りに住宅が少なく、水源と排水経路も確保できる。そんな土地の売買情報は、表には出てこないのが普通なんですね。
だからこそ土地探しは、不動産屋ではなく別のルートから始めることになります。
土地探しは「不動産屋ではなく自治体から」
最初に行くべきは不動産屋ではなく、市町村の農政課だと川上さんは言います。
最初に行くのは不動産屋ではなく市町村の農政課です。
自治体は、過去に酪農家がいた地域や、担い手がいなくなった農地、畜産クラスターの構想がある地域などの情報を持っています。「この地域は畜産OK」「ここは住民同意が難しい」といった空気感まで教えてくれることがあるそうです。
ポイントは、自治体が前向きなら、その後の許認可もスムーズに進むということ。まずは行政の姿勢を確かめることが大事なんですね。
次に相談するのが農業委員会です。酪農用地の多くは農地なので、使うには農地法の手続きが必要になります。
そして、廃業予定の牧場や空き牛舎、牧草地の余剰、長期で貸し出せる農地といった情報は、JAや普及員から出てくることがとても多いとのこと。ここで効いてくるのが、信用と地域コミュニティとの相性です。
水・排水・住民合意という大きな壁
土地選びで最重要だと川上さんが強調するのが、水と排水の確保です。
酪農では牛の飲み水、洗浄水、ミルキング設備の洗浄、防除作業などで大量の水を使います。だから水源が井戸なのか上水道なのか、排水先が農業集落排水なのか河川なのか、そして造成のしやすさが非常に重要になります。
そしてもうひとつ、最大の壁になるのが住民合意です。酪農は臭いやハエなどの虫、車両の出入りなど、地域に負担もかかるため、建築前には必ず説明会が必要になります。
住民説明会で反対が出ればほぼ建設はできません。ここが最大のハードルで、土地選び以上に重要な要素になります。
さらに酪農は、牛舎・堆肥舎・サイロ・哺乳舎など構造物が多いため、ほぼ確実に農地転用が必要になります。手続きは、行政書士による書類作成から地目変更、排水計画、周辺環境への影響説明、住民説明会、農業委員会の審査、県の許可という流れです。
この流れが、最も現実的で成功率が高いと川上さんは話します。土地の問題は最初の巨大な壁だけれど、逆にここを突破できれば、その後の経営はぐっと現実的になるそうです。
新規就農のリアル「まず新しく建てるのは無理」
ここからは、川上さんの個人的で現実的な意見です。まず新しく牛舎を建てるのは、ほぼ無理だと思ったほうがいいと言い切ります。
新しく建てるというのはまず無理だと思ってもらった方がいいです。0だと思ってください。
今やっている牛舎を買うなら現実的にあり得るものの、インフレや飼料高が進むなかでは、牛舎を建てて大きくすることは採算が合わないのが正直なところ。未経験から始める人はお金を借りる必要がありますが、銀行がなかなか貸してくれないだろう、と話します。
だからできない、というわけではありません。カギになるのは、やり抜く力と人の力。農業委員会や行政が前向きかどうかが大きいと言います。
ただ、地元の島根県出雲市は行政がやりたがらない、と川上さんは率直に打ち明けます。担当者を説得して動いてもらうには、相当の熱量が必要だそうです。
一方で、人の縁がタイミングよく重なれば、1年ほどで新規就農までたどり着く人もいるとのこと。ただし新規就農はスタート地点で、そこから営農を続けるのはまた大変。それくらいの覚悟がいる、と念を押します。
最後に川上さんは、鈴木農林水産大臣に代わり、担い手不足の深刻さがデータでも出ていて、離農の増加予測などから喫緊の課題になっていると触れます。国の支援も手厚くなると見込みつつ、手厚いからといって安易に飛び込まないよう、冷静さも呼びかけました。
まとめ
牧場を始めるうえで最初の巨大な壁になるのが土地。酪農向きの土地は市場に出てこないため、不動産屋ではなく自治体や農業委員会、JAといった地域のルートから動くのが現実的です。水・排水の確保と住民合意という難関を越えられるかが、成否を大きく左右します。
- 酪農向きの土地は一般の不動産市場にはほぼ出てこない
- 最初に相談するのは不動産屋ではなく市町村の農政課
- 水源・排水の確保は土地選びで最重要ポイント
- 住民説明会で反対が出れば建設はほぼできない、最大の壁
- 新規就農はやり抜く力と人の縁、そして相当の熱量がカギ
