「注意しない」経営者の考え方
今回の配信は研修生が聞き手役になり、川上さんに経営者目線での質問をぶつける回になりました。
気になっていたのは、川上牧場ではタイミーの人や研修生など、経験も慣れもさまざまな人が働いているのに、川上さんがほとんど細かい注意をしない点です。
私がもしやったら言っちゃうタイプなんで。そういうのを経営者目線的に、従業員をどう使うかみたいなのが気になります。
言っても直んねえと思ってるんで、最初から。自分で気づくとか、やろうって思わないと人って変わらないという前提がまずあります。
川上さんは、人が悪いのではなく「システムが悪い」と考えているそうです。だから注意することより、仕組みを変えることに力を入れているといいます。
求人のハードルを上げるという工夫
川上さんによると、スキマバイトで来る人の中には、作業の流れをまとめた資料や動画を全く見ずに、時給と空き時間だけを見て来る人もいるそうです。
働いてくれないってどういう。
時給だけ見て、自分の空いた時間だけを見てくる人が多いんです。
そこで川上さんがやっているのが、あえて求人のハードルを上げること。募集要項に「牛に蹴られる可能性があります」「怪我する可能性があります」といった注意書きを入れるのだそうです。
そうするとお金に対して作業が割に合わなくなり、軽い気持ちの応募が減っていく、という考え方です。
さらにタイミーでは、応募があったときに自動で質問を送れる設定があるそうで、作業動画を見たかどうかを自動で確認するなど、少しずつ精度を上げているといいます。
注意しないのは「カバーできる」経験があるから
話は「なぜ細かく言わずに任せられるのか」へと進みます。ポイントは、川上さん自身の経験値でした。
20代とか若い時は「こうやってしてほしい、なんでやってくれないんだ」って思うんだけど。
年取って経験を積むと、何か失敗した時に自分で直せる、カバーできるスキルが整ってくるんだよね。
たとえば搾り残しがあっても、この牛なら大丈夫、この牛は乳房炎になりやすいからダメ、といった許容範囲が経験でわかるようになったといいます。
だから未経験者が失敗しても落ち着いて対応できる。その「カバーできる力」があるからこそ、細かく言わずに任せられるという流れです。
経験が、自分の器の大きさというか、受け入れ度みたいな。
自分がどんどん器を大きくしていけば、それだけ受け止められる許容も増えるなっていうイメージかな。
感情を仕事に持ち込まない切り替え方
川上さんは、酪農はこれまで「やれる人しか残ってこなかった業界」だと話します。だからこそ誰でもできるシステムに変えたいという思いが強いそうです。
一人で牧場をやっていることも、感情を仕事に持ち込まずに済む理由のひとつだと言います。
あんまり感情の起伏ないですか?
感情の起伏はあるよ。めちゃめちゃある。でもコントロールして、仕事には出さないようにしてる。
仕事にも家にも感情を持ち帰らないよう、切り替える時間をちゃんと作っているそうです。
さらに、毎日60%くらいの力でやることを意識していると話します。体力が減ったときは少し頑張り、余裕があるときは手を抜く。それを365日、十数年続けてできるようになったといいます。
一度フルでやったから今がある
一見ゆるく見える働き方の裏には、就農1年目にあえて限界まで働いた経験があると明かします。
一回フルでやらないとわからない。自分が倒れるマックスがどこなのかっていうのをやらないといけない。
当時は朝2時に起きて夕方8時に帰る生活を1年間続け、頭の中が牛のことでいっぱいになり、体は疲れているのに眠れない状態になったそうです。26歳のときのことでした。
おすすめはしないけど、でも長く続けるならやった方がいいとは思う。
当時研修生と同じ年齢だった川上さん。その限界の経験があるからこそ、今の「60%」のバランスを保てているという流れです。
未経験者を受け入れるための仕組み
他の牧場でもタイミーの活用が増える中、研修生から「アドバイスはありますか?」と質問が出ました。
他の牧場がタイミーなどで未経験者を雇うとき、何かアドバイスはありますか?
すべてをマニュアル化し、見えるところは全部見えるようにしてあげること。川上牧場では夕方の作業が毎回ほぼ同じになるよう、昼間のうちに餌の準備や牛の移動、種付け、治療などを済ませているそうです。
夕方に来てもらう人が、最低限の搾乳・餌やり・おがくずまきだけで同じように作業できる。そのために見えないところで昼間に動いている、というわけです。
うちは夕方に毎回同じ作業になるように昼間動いてるんです。
これは家族経営中心の酪農では珍しい発想だと川上さんは言います。人に来てもらう前提だからこそ、トラブルが起きないよう先回りして準備しているのです。
従業員を雇わない理由とこれからの制度
研修生から「従業員を雇おうとは思わないのか」という質問も出ました。
従業員を雇ってしまうと、その人の生活を守ってあげないといけない責任が出てくる。
家庭やマイホームを支えられる所得を出すには、今の規模だと計算が合わず、自分の家庭も豊かでなくなってしまう。だから研修生制度やダブルワークで受けやすい形にしているそうです。
お互いwin-winだと思うしね、そっちの方が。
川上さんは以前から、働きたい人や農業に興味がある人が参加しやすい仕組みを、JAや県、出雲市に主導してほしいと働きかけてきたといいます。
その願いがかたちになり、市やJA認定でスキマ時間に農業体験ができる制度が、島根県・出雲市から今年8月にスタートするそうです。
十何年、本当にずっと言い続けてできるようになったんで。
川上さんが理想としてきたのは、海外にある地域支援型農業の考え方。日本の法律ではそのままは難しいものの、現行の仕組みを使いながら近い形を作れたといいます。
まとめ
今回は、研修生が聞き手となって川上さんの経営観をじっくり聞く回になりました。細かく注意しないのは放任ではなく、経験とシステムで人を活かすための選択だということが見えてきましたね。
- 川上さんは「人が悪いのではなくシステムが悪い」と考え、注意より仕組みづくりに注力している
- 求人のハードルをあえて上げたり、動画確認を自動化するなど、未経験者が働きやすい工夫を重ねている
- 失敗をカバーできる経験があるからこそ、細かく言わずに任せられる
- 就農1年目に限界まで働いた経験が、今の「60%で365日続ける」スタイルの土台になっている
- スキマ時間で農業体験できる制度が、島根県・出雲市から2025年8月にスタートする
