今日の牧場と、酪農業界を取り巻く厳しい状況
配信は三月十九日、晴れ時々雨のお天気からスタート。翌日には島根県の共進会、いわゆる牛の美人コンテストがあり、川上さんは前日から牛を洗って準備を進めていたそうです。
乾杯の前には、酪農業界のお金まわりの話も。運送業の運賃アップや、海外に頼っている餌のビタミン剤・ミネラル関係の値上がりが気になるところだと話されています。
野菜づくりで使う肥料も海外依存が大きく、今年の年末あたりは本当に厳しい値段になるんじゃないか、というニュースも出ているそうです。
食料を作っている人たちを本当に応援しないと、やばいことになっちゃいますよ。
リスナーからの「重めの質問」
今回のテーマは、YouTubeネーム・メイプルさんからの質問。北海道のある馬の牧場が、生後数週間の子馬に「しつけ」と称して暴行しているとされる動画がSNSで広がり、騒ぎになっているという話題です。
川上さんは、どれくらいまでしつけとして牛や馬を蹴ったり、大声を出したりしても大丈夫だと思いますか?
川上さんは、自分は馬の専門家ではないと前置きしたうえで、酪農家目線でこの問いに答えていきます。牛と馬は違うので一緒には考えられない、と断りつつも、動画には違和感を覚えたと話されています。
獣医さんや馬の関係者からも「これはちょっと違う」というコメントが出ている、とも紹介されました。
牛は痛み・恐怖・記憶を持っている
まず結論から。恐怖でコントロールする管理は、長期的にはマイナスだと川上さんは言い切ります。これは感情論ではなく、牛の行動学ではっきりしている事実だ、というのが出発点です。
その理由は、牛が「痛みを感じ、恐怖を感じ、記憶する」という三つをしっかり持っているから。一度怖いと感じると、その場所・その人・その状況を覚えてしまうそうです。
怖い経験
蹴られた・怒鳴られたことを牛が記憶する
行動への影響
搾乳を怖がる、人を避ける、動かない・逃げる
作業効率の低下
意図した動きをしてくれず、人も牛も事故リスクが上がる
乳量の低下
興奮でアドレナリンが出て、搾乳を助けるホルモンを阻害する
牛の搾乳では、リラックスや幸せのホルモンとも言われるオキシトシンをうまく活用します。ところが興奮でアドレナリンが出ると、それを阻害してしまい、実際に乳量が落ちるのだそうです。
「安心で動かす」という考え方
川上さんが牛の行動学を語るときにいつも引き合いに出すのが、テンプル・グランディンさんの考え方です。
牛は視界が広く、影や光に敏感で、急な動きに弱いのだそう。だからこそ、静かにゆっくり流れを作ることが基本だと話されています。
しつけと暴力は、どこで分かれるのか
ここからが核心。川上さんは、現場では危機回避のための制止が必要な場面もあると認めます。人に向かってくる、蹴ろうとしてくる。そんなときは距離を取り、止めて制御する。これはとても大切なことです。
一方で、感情で叩いたり蹴ったり怒鳴ったりするのは、それとは全く別のもの。判断のポイントは「人間の都合でストレスをぶつけていないか」だと言います。
ポイントは、人間の都合でストレスをぶつけていないかという点ですね。これが虐待かしつけかの違いだと思います。
SNSでは一部の切り取りで判断されがちだと川上さん。自身も子牛の出産をめぐって、切り取られた一部がガーッと拡散した経験があると振り返ります。
人に向かってくる牛から距離を取り、止めて制御する。安全のための行為
感情で叩く・蹴る・怒鳴る。人間の都合でストレスをぶつける行為
理想は「次に何が起こるかを予測させる」こと
では、どう扱うのが理想なのか。川上さんの答えはシンプルです。牛に「次に何が起こるか」を予測させること。同じ動き、同じルート、同じリズムを徹底するのだそうです。
すると牛は安心して動き、結果的に作業が早くなり、事故が減り、牛の状態も良くなる。恐怖で追い込むのとは正反対のアプローチです。
現場のリアルと、消費者にできること
動画についての個人的な感想として、川上さんは踏み込んだ話もしてくれました。動物業界で働く人なら、意図せず動物に恐怖を与えた経験がまったくない人はほぼいないのではないか、と。
たとえば注射を打つ、薬を飲ませるといった嫌がることをするときは、強制的に静止させることもある。そういう場面だけを切り取られて投稿されたら、どう説明するか、という問いかけです。
ただし、と川上さんは続けます。昔は動物を物のように扱い、言うことを聞かなければ鞭や電気鞭で叩くのが当たり前だった時代もありました。それが行動学や技術の発達で、そうしても生産性につながらないと分かってきたのだと。
だから今も暴力的な扱いをしている人は、勉強不足で時代遅れになってしまう、というのが川上さんの見立て。そういう牧場は時代の流れとともになくなっていくだろうと話されています。
そのうえで、畜産業界は決して性善説だけで動いているわけではないとも。餌代や売り上げ、借金の支払いに追い詰められ、三百六十五日休みがない中で精神的にギリギリになる現場もある、というリアルも語られました。
だからこそ消費者にできることとして、川上さんは「安定して国産を選び続けること」を挙げます。今日は飲んで明日は飲まない、ではなく、コップ一杯の牛乳を飲み続けること。応援したい牧場や農家の農産物を選ぶこと。その積み重ねが現場を支えると呼びかけます。
まとめ
SNSで話題になった馬の牧場の動画をきっかけに、家畜への「しつけ」と暴力の違いを、酪農家が牛の行動学と現場のリアルから語った回でした。恐怖ではなく安心で動かすという原則と、消費者にできる応援の形が示されています。
- 牛は痛み・恐怖・記憶を持ち、恐怖でのコントロールは長期的にマイナスになる
- 強く扱うほど乳量や作業効率が落ち、事故リスクも上がるという「損をする構造」がある
- 安全のための制止と、感情でストレスをぶつける暴力は別物として分けて考える必要がある
- 理想は同じ動き・ルート・リズムで「次に何が起こるか」を牛に予測させ、安心で動かすこと
- 国産を安定して選び、応援したい牧場を支えることが、現場の改善につながっていく
