リスナーからの質問「胃と腸、どっちが大きい?」
今回のお便りは、配信アプリSpoonのリスナー・もぐら聞き専さんから届いた質問です。
牛の胃袋って四つですよね。胃袋の方が腸より体積多めでしょうか?
川上さんも、この質問にはすぐに答えられなかったそうです。人間だと胃は1つで腸のほうが長い、というイメージがありますよね。
人間は胃袋1個しかなくて、腸の方が長いっていうイメージあるんで、腸の方が大きいのかなと思いますけど、牛は四つありますから。
そこで川上さんは、構造の話、大きさの話、なぜそうなっているか、という順番で整理して答えていきます。
そもそも牛の胃は本当に4つ?
まず前提の確認から。「牛の胃は4つ」という表現は、半分正解なんだそうです。
牛は4つの部屋を持つ胃を1つ持っています。第一胃はルーメン、第二胃はレチクルム、第三胃はオマスム、第四胃はアボマスムと呼ばれます。
このうち第一胃から第三胃は、発酵・分解・水分調整をする「前胃(ぜんい)」。第四胃は、人や豚と同じように胃酸を出して消化する「本当の胃」です。
微生物が草を発酵させる巨大なタンク
発酵・分解を助ける前胃のひとつ
主に水分を調整する前胃
胃酸を出して消化する、人や豚と同じ本当の胃
体積で勝つのは胃、長さで勝つのは腸
いよいよ質問の核心です。体積・容量だけでいうと、成牛では胃袋、とくに第一胃のほうが圧倒的に大きいんだそうです。
第一胃は約100リットルから150リットルもの大きさがあり、4つの胃を合計すると体積の大部分を占めます。
一方で腸は、長さは非常に長いものの、容量は胃ほど大きくありません。つまり役割分担がされているんですね。
胃は巨大な発酵タンクで、腸は長い吸収ラインという役割分担になっています。
容量で勝負。とくに第一胃は約100〜150リットルの巨大な発酵タンク
長さで勝負。とても長いが容量は胃ほど大きくない吸収ライン
なぜ牛の胃はそんなに大きいのか
理由はシンプルで、牛が草を主食にしているからです。
草は繊維が多く、人や豚では消化できません。牛は自分の消化酵素ではなく、胃の中の微生物に発酵させてもらって栄養にしています。
その発酵が行われる場所が、第一胃ルーメンです。
長時間、大量の草を、低効率でも確実に分解するために、とにかく大きな胃が必要だったんです。
では腸は役に立っていないのかというと、そんなことはありません。胃で発酵してできた成分や微生物由来のタンパク質を、最終的に吸収するのが腸です。
子牛のときは胃が小さい?
ここも面白いポイントです。子牛は生まれた直後、第一胃がほとんど発達しておらず、実質的に第四胃がメインなんだそうです。人間や豚と同じ、普通の消化ができる胃だとイメージするとわかりやすいですね。
ミルクを飲んでいる間は「食道溝反射」という反射が起こり、ミルクが第一胃を通らず直接第四胃へ流れる構造になっています。
そして草を食べ始めて、初めて第一胃が発達していきます。つまり、大きな胃は育ってきた結果というわけなんですね。
まだまだ未知な胃袋への探究心
質問に答え終わった川上さんは、こうした素朴な疑問こそありがたいと話します。酪農家でも、なぜそうなっているのかを深く探究する機会はなかなかないそうです。
こうやって皆さんの素朴な疑問で、また僕が学び直しというか、改めて勉強することができるんで、めちゃめちゃありがたかったですね。
さらに川上さんは、牛の胃袋にはまだわからない部分がたくさんあり、そこが牛好きの理由でもあると語ります。
たとえば口から入れたタンパク質を第一胃の微生物が使ってしまうため、コーティングして胃で消化されないようにし、腸で吸収させる「バイパス飼料」なども登場しているそうです。つい話が止まらなくなるほど、研究の世界は奥深いようです。
まとめ
牛の胃は「4つの部屋を持つ1つの胃」で、体積では腸より胃、とくに第一胃が大きいというのが答えでした。草を発酵して食べるために特化した、牛ならではの体のしくみが見えてくる回でしたね。
- 牛の胃は独立した4つではなく、4つの部屋に分かれた1つの胃
- 体積は胃(とくに第一胃)が大きく、腸は長さで勝負する
- 大きな胃は、草を微生物に発酵させて栄養にするための構造
- 子牛は第一胃が未発達で、草を食べ始めて発達していく
- 牛の胃袋には未解明の部分も多く、消化率を上げる研究が続いている
