リスナーから届いた「矛盾」への疑問
今回のテーマは、リスナーさんから届いた質問がきっかけです。SNSで話題になったニュースを、酪農家としてどう読み解くかという相談でした。
昨日のSNSでプリンの容器が作れなくなっているというのを見ました。でも、プリンの容器だけではないはずなのに。ただ、材料の牛乳、卵がだぶつくというのを少々気にしております。
背景には、中東情勢の影響で原油やナフサが日本に入りづらくなっているという事情があります。
川上さんは、この一つの容器が止まると何が起きるのかを構造的に知ってもらい、平和の大切さも感じてほしいと話します。
物不足と食材余りは同時に起こる
川上さんはまず、結論から切り出します。物不足と食材余りは、同時に起こるものだそうです。
直感的には矛盾して聞こえます。材料があるなら作ればいい、と思ってしまうからです。
でも実際の食品工場は、その商品に作る材料が全部揃わないと、最終的な商品にできないんですよね。
たとえばプリンなら、牛乳、卵、砂糖、香料だけでなく、容器、蓋、スプーン、包装する段ボール、運ぶトラック、保存する冷蔵設備まで必要です。
このうち一つでも欠けると、工場が止まってしまいます。牛乳と卵が山ほどあっても、容器がないので作れないということが普通に起こるのです。
川上さんは、いまの食品業界がかなりギリギリで回っていることも指摘します。
昔のように倉庫に大量在庫を置かず、必要な分だけ仕入れる仕組みのため、一つの工場が止まると連鎖して影響が出てしまいます。
容器は簡単には代替できない
さらにプリンの容器は、専用のプラスチックで、耐熱仕様だったり、工場ごとの機械のラインに合う形状だったりします。
そのため、別の容器で代替しますということが意外とできません。代替すればコストも上がりますが、それをすぐ価格に反映することも難しいと言います。
原油価格、物流の問題、人手不足、円安、海外工場の停止。こうした要因が全部つながっていると川上さんは説明します。
この包装のカップですね、こういうものが止まると食品製造そのものが止まるっていうのが、これが今の時代だということを皆さんに知ってもらえたら嬉しいです。
牛は「今日は休みます」ができない
ここからが酪農の話です。牛乳は、酪農家が牛を飼い、牛から搾って生まれます。
今日搾るのを休みますっていうのはまずできません。牛は毎日乳を出すので、しかも生き物なので急に生産停止というものはできません。
プリン工場もヨーグルト工場もチーズ工場も止まっても、牛乳は毎日出続けます。だから加工先が止まると、一気に余ることが起こります。
これは卵も同じで、鶏も急には止まれません。日本の畜産は、工場の都合では止められない生産なのです。
一方、消費者側の景色はまったく違います。コンビニでプリンが売り切れると、プリン不足だと感じてパニック買いのようなことも起こります。
でも現場では、牛乳も卵もあります。足りないのは容器やフィルムといった包材のほうなのです。
牛乳は「奇跡的にできている商品」
川上さんは、酪農家や畜産農家は単に牛乳を作っているのではないと語ります。
物流、包材、工場、小売、消費、電気、燃料。これら全部で支えている産業だと言います。
牛乳が余っているなら安くできるのでは、と思うかもしれません。しかし実際は包材も物流も燃料代もかかるため、製品を作れないのにコストは増えていきます。
この構造を整理すると、なぜ食材が余っても商品にならないのかが見えてきます。
材料は揃っている
牛乳・卵は毎日生産され、むしろ余りがちになる
包材が不足する
容器やフィルムは専用仕様で簡単に代替できない
工場が止まる
材料が揃っても一つ欠けると商品にできない
消費者に「不足」
店頭からプリンが消え、現場との認識がずれる
川上さんは最後に、酪農家として思うことを話します。スーパーに並ぶ牛乳は、当たり前にある白い飲み物に見えるかもしれません。
けれどその裏には、牛の命、工場、容器、物流、人の仕事が全部つながっています。プリンもまた、かなり奇跡的にできている商品だと言います。
値上げと世界平和が、実はつながっている
話は値上げのことにも及びます。値上げすると買われなくなる、という声を川上さんは気にしています。
消費者の皆さんが買っていただかないと生産することができませんので、生産できなくなると酪農家件数が減ってしまう。そうすると他にもいっぱい影響が出てくるんです。
海外からはトウモロコシや牧草が、船でものすごい量運ばれています。牛の餌が動くから荷物が運べているという側面もあると言います。
牛がいることで牧草地の景観が保たれたり、耕作放棄地が減ったり、堆肥が回ったりと、すべてがつながっているとも話します。
配信中には、リスナーから今日のまとめのようなコメントも届きました。
「ものはあるのに商品として出す資材が不足で出荷できないなんてびっくりです」という、めっちゃ今日のまとめのようなコメントが来て嬉しいですね。
遠いニュースに見える戦争や紛争も、グローバルなサプライチェーンで意外とつながっています。
まとめ
プリンの容器不足と牛乳余りという一見矛盾する現象を、酪農家の川上さんがサプライチェーンの視点から解説した回でした。当たり前にある牛乳の裏側には、牛の命から容器、物流、世界情勢までが複雑につながっています。
- 食品は材料が余っていても、容器などの資材が一つ欠けると商品にできず、物不足と食材余りは同時に起こる。
- 牛や鶏は生き物なので生産を止められず、加工先が止まると牛乳や卵は一気に余ってしまう。
- プリンの容器は専用仕様で代替が難しく、包材や物流のコストが上がると製品を作れないのにコストだけ増える。
- 牛乳は物流・包材・工場・燃料など全体で支えられた、奇跡的にできている商品である。
- 日本の食は資材や原材料を海外に頼るため、世界平和とサプライチェーンの安定の上に成り立っている。
