今日の一杯と牧場の朝
配信は、島根県出雲市の小さな牧場からお届けする毎朝の放送です。牛乳を片手に聴いてもらうのが、川上牧場スタイルなんですよね。
この日は11月19日の火曜日。雨のち曇りで気温もグッと下がって、もう冬の空気だと話します。
もう終わるぞ。まず確定申告しないといけない。本当にやばい。
この日の仕事は、堆肥を2台運ぶことと繁殖検診。受精卵移植もだだっと済ませて、着床すればいいなと話しています。
リスナーの質問「80頭ってどれくらい?」
今回のお便りは、スプーンネームみずみずしいさんから。配信でよく出てくる「80頭」という数字への素朴な疑問です。
川上さんは牛さんを80頭飼育しているとのことでしたが、酪農家全体でいうとどれくらいの規模ですか?
川上さんはこの質問を、酪農家がついやりがちな「業界では普通ですよ」で済ませてしまう悪いクセだと振り返ります。
お花とかお野菜とかやってて、どれくらいやってんですか?と聞かれて、これですよって言われても、へーってしかならないですもんね。
だからこそ今回は、80頭がどれくらいの規模なのかをちゃんとリサーチして、丁寧に答えていきます。
全国平均と比べた川上牧場の位置
まず結論から。80頭という規模は、全国平均より少し下の中規模クラスだそうです。
農林水産省の2025年統計では、全国の酪農家の平均飼養頭数は114.4頭。80頭は全国平均の7〜8割くらいにあたります。
ただ、数年前まで全国平均は100頭以下だったので、80頭は以前ならむしろ平均以上。大規模化が進んだ結果、相対的に平均が上がって、今は少し下に見えるという構図です。
小規模・中規模・大規模の分布
酪農家は規模ごとに、小規模・中規模・大規模に分かれます。データを見ると、はっきりした特徴が見えてきます。
小規模の50頭未満は昔ながらの家族経営。ただし高齢化と後継者不足で急減しているそうです。
50〜99頭の中規模は、まさに川上牧場のような層で、地域の酪農を支える主力層。100頭以上の大規模は搾乳ロボットを導入し始める規模で、全国的に増えています。
つまり酪農は全体として二極化していて、小さな農家が減り、大きな農家が頭数を増やしています。その真ん中に位置するのが80頭前後の川上牧場です。
北海道と本州、大きすぎる地域差
酪農の規模は地域によっても大きく変わります。特に北海道と本州の差はとても大きいんですよね。
北海道の平均飼養頭数は約156頭。土地が広く大規模化が進み、ロボット搾乳やTMRセンター、キャトルセンターなども普及しています。北海道では80頭は小規模から中規模くらいの印象だそうです。
一方、本州より南では平均は70〜80頭程度で、家族経営が多く土地も限られています。そのため本州の80頭は、地域の中ではしっかりした中堅規模になります。
ちなみに日本全国の乳牛の63%は北海道にいて、日本の牛乳のおよそ6割は北海道で生産される構造です。本州の酪農家は数としては少数派ですが、地域の牛乳需要を支える大事な存在で、川上牧場もまさにこのカテゴリです。
なぜ大規模化が進むのか
近年、酪農の大規模化は急速に進んでいます。その背景を川上さんは4つ挙げます。
労働力不足
一人で50頭、80頭以上を見る時代になってきている
機械化の進展
ロボット搾乳や自動給餌機の導入が進む
コスト削減
頭数が増えるほど乳量あたりのコストが下がる(規模の利益)
廃業の増加
小規模農家が減ると、大きい農家に生産が集まる
実際、酪農家の戸数は1963年の41万戸から、2023年には1万2600戸まで減っています。60年でわずか3%にまで縮んだ計算です。
1963年は41万戸。小規模な家族経営が多かった
2023年は1万2600戸。戸数は減ったが1戸あたりの頭数は増え、規模は大きくなった
一人で80頭を見る川上牧場の生産性
統計どおりとはいえ、川上さんは自身の牧場を「生産効率は高いほう」だと分析します。ポイントは、一人当たりで何頭見られるかという生産性です。
目安は一人30〜50頭と言われてきましたが、海外では一人200〜300頭という牧場も出てきているそうです。
ほぼ僕一人、一人5人分ぐらいですかね。で、80頭を見ているので、生産効率は他の牧場と比べると若干高いのかなと思います。
100頭・200頭規模でも従業員を10人ほど抱えていれば、一人あたりは20〜30頭。そう比べると、頑張っているほうだと話します。
ただ日本はまだ規模が小さく、人件費が安いぶん「機械より人を入れよう」となりがち。それもいつか限界が来るので、そのときにもっと生産性が上がっていくのではと展望します。
家族経営でぶっ倒れそうなくらい忙しい人には、牧場のメンバーシップでAIと川上さんが作業動線や労力を分析することもできると案内しています。
まとめ
リスナーの「80頭ってどれくらい?」という質問から、日本の酪農全体の構造まで一気に見てきました。数字を通すと、川上牧場の立ち位置も、日本の酪農が抱える課題も見えてきますね。
- 全国の酪農家の平均飼養頭数は114.4頭で、80頭はやや下の中規模クラス
- 酪農は二極化が進み、小規模は減り、大規模が頭数を増やしている
- 北海道は平均約156頭で、日本の牛乳の約6割を生産。本州は家族経営中心
- 酪農家の戸数は60年で41万戸から1万2600戸へ激減した
- 川上さんはほぼ一人で80頭を見ており、生産効率は高めと自己分析している
