リスナーからの質問と今日のテーマ
今日のお便りは、ポポポという配信アプリのミクリさんから届きました。初めての方だそうです。
牛乳の乳脂肪分は高ければ高いほどいいのでしょうか?
スーパーやコンビニで牛乳を選ぶとき、多くの人がまず見るのが乳脂肪の数字だと川上さんは話します。3.5パーセント、3.8パーセントの牛乳の隣に、少し高めの4パーセントの牛乳が並んでいることもあります。
飲んでみると濃い感じもするけれど、あっさりもしている。だとしたら、高ければ高いほどいいのか。そんな疑問への回答が今回のテーマです。
なお、今日話すのは成分無調整牛乳のことです。搾りたての牛乳を殺菌してパック詰めした、パックの上に窪みがあるタイプの牛乳を指しています。
まず結論から
川上さんはまず結論を提示します。乳脂肪は高ければ高いほどいい、ではないということです。
大切なのは数字そのものではなく、その脂肪がどう作られたか。少しマニアックな乳脂肪の世界を一緒に見ていきます。
牛の脂肪は「食べた脂肪」ではない
牛が食べた脂肪がそのまま牛乳になる。そう思う人は多いのですが、実は違うと川上さんは説明します。
牛は反芻動物で、胃の中に微生物の工場のようなものを持っています。食べた草や餌を微生物が発酵させ、揮発性脂肪酸というエネルギー源を作ります。
そこで重要になるのが、酢酸、酪酸、プロピオン酸の三つです。特に乳脂肪づくりでは、酢酸と酪酸が主役になっていると話されています。
乳脂肪の二つの種類
乳脂肪には大きく二種類あると川上さんは整理します。
一つ目はデノボ脂肪酸です。これは牛の乳房の中で新しく作られる脂肪で、主に炭素数が4から14ほどの短い脂肪酸です。酪酸やカプロン酸などがこれにあたります。
この材料になるのが、先に出た酢酸や酪酸です。繊維の良い草をしっかり食べ、ルーメンの健康が良い状態になると、このデノボ脂肪が増えます。
もう一つがプレフォーム脂肪酸です。これは体脂肪や餌の脂肪に由来し、炭素数18以上の長い脂肪酸だと説明されています。
暑さによるストレスやエネルギー不足、分娩後などに牛が体脂肪を削り始めると、このプレフォーム由来の乳脂肪が増えます。
つまり、同じ乳脂肪4.0でも意味が変わってきます。健康に草を食べて作った4.0なのか、牛が体を削って頑張って出した4.0なのか。ここが本当に大事だと川上さんは強調します。
乳房で新しく作られる短い脂肪酸。良い草を食べ、ルーメンが健康なときに増える。
体脂肪や餌の脂肪由来の長い脂肪酸。暑熱ストレスやエネルギー不足、分娩後に牛が体を削ると増える。
脂肪の中身を見る時代へ
最近は脂肪酸組成を見られる牧場も増えていて、島根県では全国的にも見られる環境が整っていると話されています。
たとえばデノボ脂肪酸の割合が落ちると、ルーメンアシドーシス気味かもしれない、餌のバランスが濃厚飼料に偏っていないか、といったヒントになります。
逆にプレフォームが高すぎると、牛が痩せすぎていないか、体を削って牛乳を絞っていないか、という視点で見る材料になります。
つまり、乳脂肪率だけを見る時代から、脂肪の中身を見る時代になってきたということです。
川上さんはこれを人間にたとえます。体重だけでなく、それが筋肉なのか脂肪なのか、中身を見る時代になってきたのと似ているというわけです。
体重60キロでも、体脂肪率が30パーセントの人もいれば5パーセントの人もいる。乳脂肪も同じで、数字だけでは中身は分からないのです。
奨励金と、無理をしない酪農
島根県では乳脂肪が4.0以上だと奨励金のような仕組みがあると紹介されています。ただし、そこまで高く引き取ってもらえるわけではなく、本当に微々たるものだそうです。
それでも、もらえた方がいい。365日、1年、2年、10年と積み重ねていくと、小さな差が大きな変化になっていくので大事だと川上さんは話します。
一方で、4パーセント以上を絞ろうと無理をして牛に負担をかけたり、牛が病気になったり、草を食べられなくなってしまっては本末転倒だとも語られています。
だからこそ、デノボ脂肪酸やプレフォームの数字を見て、そして牛そのものを見る。それを大事にしないといけないというのが川上さんの考えです。
数字の向こう側にあるもの
川上牧場の直近の乳脂肪は4.36でした。そしてデノボ脂肪酸は1.1という数字だそうです。
これも遺伝改良のおかげだと川上さんは付け加えます。この話をもっと知りたい人向けに、Kindle本の第二弾「酪農未経験者のために 遺伝改良と飼料設計編」が予約できると案内されています。
牛乳パックで見る3.5、3.8、4.0といった乳脂肪の数字。その向こう側には、牛の胃袋の状態があり、微生物の状態があり、そこに入る草や餌があり、酪農家の管理があります。
その裏側を知ると、牛乳の美味しさがまた変わってくるのではないか。そんな言葉で今回の回答は締めくくられました。
まとめ
乳脂肪は高ければ高いほどいいわけではなく、同じ数字でも脂肪の作られ方が違います。数字の向こう側にある牛の健康状態を見ることが、本当に大切な見方だと語られた回でした。
- 乳脂肪は高ければいいわけではなく、脂肪の「中身」が大事
- デノボ脂肪酸は良い草を食べた健康な牛が作る短い脂肪酸
- プレフォーム脂肪酸は体脂肪や餌由来で、牛が体を削ると増える
- 同じ乳脂肪率でも、作られ方で意味がまったく変わる
- 乳脂肪の数字の向こう側には、牛と草と酪農家の管理がある
