そもそもの質問「牛って絶対肉食わないの?」
今回の配信は、AWAというアプリのリスナー・モノクロケンさんから届いた質問がテーマです。「牛って絶対肉食わないの?」という、シンプルだけど奥の深い問いです。
草食動物として知られる牛。でも川上さんは「牛も肉を食べるんですよ」と簡単に答えるのではなく、歴史や生物学、宗教、文化、法律まで深掘りして答えていきます。
草しか食べないと思われがちな牛。さて、どうでしょうか。肉食うんでしょうかってところをお答えしていこうかなと思います。
草食動物なのに「完全なベジタリアン」ではない?
まず生物学の話から。牛は反芻動物で、胃が4つあり、草などの繊維質を微生物の力で分解して栄養を得るタイプの生き物です。
ここでポイントになるのが、その微生物の存在です。牛自体は草しか食べていなくても、体の中では微生物を育てて、それを消化しているんですね。
つまり草だけを食べているようでいて、最終的には微生物という「生き物」を食べているとも言えます。この意味で、牛は厳密には完全なベジタリアンではない、というわけです。
かつては当たり前だった「動物性飼料」
ここから歴史の話に入ります。近代酪農が発展した20世紀前半、ヨーロッパやアメリカでは牛の栄養補給のために動物性タンパク飼料が広く使われていました。
使われていたのは魚粉や肉骨粉、血粉といった動物の副産物です。栄養価が高くコストが安く、特に戦後の食糧難の時代には家畜の成長を支える救世主のような存在でした。
日本でも1960年から80年代にかけて、輸入魚粉や肉骨粉が一般的な飼料として使われていたそうです。牛に魚の粉を食べさせるなんて、今からすると少し驚きですよね。
当時は効率よく育てることが最優先で、倫理的な問題や感染症のリスクはまだ知られていなかったんです。
BSEが変えた「牛が肉を食べる」ルール
その流れが大きく変わったのが、1980年代のイギリスで発生したBSE(牛海綿状脳症)でした。原因は、牛に牛や羊の肉骨粉を食べさせていたこと。つまり牛が牛を食べるという共食い構造です。
このとき異常なタンパク質プリオンが感染し、人間にも変異型クロイツフェルト・ヤコブ病として伝わることがわかって、世界中が大混乱になりました。
その結果、1990年代以降、反芻動物に動物性タンパク質を与えることは禁止されていきます。
つまり今は、牛が肉を食べることは法律で禁じられているんです。
牛の肉食は「悪」なのか?文化で変わる価値観
一方で、世界の文化を見てみると、牛の肉食に対する価値観は大きく違います。
インドでは牛は神聖な存在で、動物性飼料どころか、牛が肉を食べたミルクは宗教的に不浄とされています。実際、インドではノンベジミルク(非菜食ミルク)の輸入を禁止しているそうです。
イスラム圏でもハラールに基づき、豚由来や不浄な動物性の飼料はNG。一方でアメリカやブラジルのような生産重視の国では宗教的な制約が少なく、かつては動物性飼料が広く使われていました。
今の飼料と、これからの代替タンパク
現代の酪農では、牛の主なタンパク源は植物性です。大豆粕、菜種粕、トウモロコシ、牧草などを食べさせています。魚粉を少量使うこともありますが、それは子牛の離乳期や特殊な状況だけです。
肉骨粉や血粉といった哺乳類由来の飼料は、世界中の法制度でほぼ禁止されています。その代わり今注目されているのが代替タンパク源です。
科学的には、牛の消化管は動物性タンパクも分解できます。でも構造的には草中心に最適化されていて、肉を多く与えると胃の中の発酵バランスが崩れ、消化不良や病気を引き起こします。
食べようと思えば食べられるけど、体が望んでいない。人間で言えば、チョコだけ食べて生きるのは不可能じゃないけれども、健康には悪い、みたいなことですね。
結論と、酪農家・川上さんの本音
最初の質問「牛って絶対肉食わないの?」への答えはこうです。生物学的には食べられる。でも人間が食べさせないようにしている、ということですね。
理由はBSEのリスクと命を巡る倫理、そして文化的背景。牛が肉を食べないのは自然のルールではなく、人間社会が決めたルールなんです。
最後に川上さんは、自身の考えも語ります。安全性が確保された魚粉なら、牛に給与できる規制緩和をしてほしいと、かなり前の配信から発信してきたそうです。
今は魚粉が養殖魚や鶏、豚などに使われていて、なかなか牛にまで回らないのが現状。ただ陸上養殖が進んで効率化すれば、可能性はあると考えています。
昆虫食や藻類にも川上さんは強い関心があります。藻のユーグレナからバイオジェット燃料を飛ばそうとする企業の子会社が出雲市にあり、そこから出る食品残渣をもう10年ほど飼料に使っているそうです。
餌代が高いなか、こうした実例を増やして社会実装できたらいい、と川上さんは話します。世界的に人口が増えて動物性タンパクの不足が言われるなか、いかに無駄なく効率よく使うかが課題だと考えているそうです。
餌を海外から輸入している日本ならなおさら。海外の資源を買い、一方で国内では農産物が廃棄されるフードロスもある。このあたりを活用して変えていきたい、という思いを語りました。
インドは動物性のお肉を食べたものから出た牛乳は不浄だみたいなこと言ってますけども、めっちゃ牛、生ゴミ食ってます。
まとめ
「牛は肉を食べない」というシンプルな一言の裏には、微生物の生態、歴史的な失敗、宗教的な価値観、そして現代の科学が全部つながっています。食のルールの深さを感じられる一回でした。
- 牛は草食動物だが、胃の中の微生物を消化しているため厳密には完全なベジタリアンとは言えない
- かつては魚粉や肉骨粉が飼料に使われたが、BSEをきっかけに反芻動物への動物性タンパク給与は禁止された
- 牛の肉食への価値観は文化や宗教によって大きく異なる
- 牛が肉を食べないのは自然のルールではなく、人間社会が決めたルール
- 川上さんは安全な魚粉や昆虫・藻類など、代替タンパクの活用と規制緩和に関心を持っている
