子牛の出産動画に届いた動物愛護コメント
収録は2月12日。研修生さんと一緒にお勉強しながらの配信です。
きっかけは、川上さんが逆子の出産動画をSNSに上げたこと。とくにInstagramのリール動画が伸び続けていて、動物愛護の観点からのコメントがたくさん届いているといいます。
そこで川上さんは、牧場に来るまで愛玩動物寄りの感覚を持っていた研修生さんに、その視点でコメントしてほしいとお願いします。
そもそも別に牛とか豚とか鶏を身近に感じてないから。食べ物として見てないから。
経済動物っていう価値観がそもそもないから。可愛いなくらい。愛でるような感覚です。
動物園にいる動物のように「可愛い」と見る感覚。だからこそ、出産で子牛を引っ張り出す様子を「かわいそう」と感じる人がいるのも自然だと研修生さんは話します。
ホッキョクグマの死と麻酔をめぐる論争
研修生さんは、横浜の動物園で起きたホッキョクグマの一件を例に挙げます。別の動物園へ移送するため麻酔をかけ、その間に精子を5回採取したところ、輸送前に死んでしまったといいます。
この出来事はSNSで激しく叩かれました。人間なら医療ミスだ、種の保存のためとはいえ採取までする必要があったのか、という声です。
採取しないとそもそも種は保存できてないわけ。あなたが今見れてる子たちも、これまでオスメスの卵子とか精子を採取して育て上げたクマなわけだから、それは違うでしょみたいな。
これに対し川上さんは、動物の麻酔は獣医が担い、効き方に個体差があること、合併症のリスクもあることを説明します。
子牛も授乳する時に麻酔を10分ぐらい効かせるんだけど、それも失敗すると100頭に何頭かぐらいはやっぱり危ない。戻ってこない牛とかも出てきたりとかする。
野生に近い動物ならなおさら難しい。それでも「ガーッとなる」気持ちは、悲しみの矛先を向ける先が必要だからだろう、と2人は受け止めます。
SNSの「かわいそう」は誰のためか
川上さんは、届くコメントに素朴な疑問を投げかけます。もし完璧に希望どおりのやり方をしたら、その人は納得するのか。そして、そのぶん牛乳を高く買ってくれるのか。
じゃあ坂後の出産、生まれて目の前でそれやってみてよって思う。
研修生さんは、SNSのコメントは動画が切り取られたものだと指摘します。今回も「コンクリートに頭を叩きつけている」というコメントが来たそうですが、実際には介入しなければ自然に頭を打つ場面でもあるといいます。
多分この人たちは、下にクッションを敷いて引っ張り出せって言ってるんだと思いますよ。
さらに研修生さんは、本当に歩み寄りたい人なら「かわいそうだと思うんですけど、どうなんですか?」と聞くはずだと話します。
でも「かわいそう」みたいな感じでコメントしてくるってことは、別に聞きたくないんですよ。
日本のアニマルウェルフェアはなぜ遅れたのか
話は、日本の動物福祉の基準が海外より低いと言われる背景へ。研修生さんが「何が原因でしたっけ」と尋ねます。
川上さんは、アニマルウェルフェアが叫ばれ始めたヨーロッパに対し、当時の日本は食糧難で、団塊世代のベビーブームによる人口増を支える必要があったと説明します。
少ない国土で生産性を上げるため、つなぎ牛舎や鶏のケージ飼いといった海外由来の方式を真似して工業化を進めた、というのが川上さんの見立てです。
さらに日本は、乳業や卵の生産を協同組合(農協)が担う構造で、株式会社が動物生産を工業化した海外とはそもそも仕組みが違うといいます。
他のところはもうすでに工業化をやって、動物福祉をちゃんとしないといけないっていう認識になってる時に、日本は遅れて工業化してる。そういうズレがある。
つまり基準が低いのではなく「スタートが遅かっただけ」。海外が先に上がり、日本は遅れて追いつく途中だ、という整理に2人はうなずきます。
食糧難と人口増
少ない国土で生産性を最優先する必要があった
遅れた工業化
海外由来のつなぎ牛舎やケージ飼いを真似て導入
構造の違い
農協中心で、株式会社が工業化した海外と仕組みが異なる
認識のズレ
海外が動物福祉を進める中、日本は工業化の途中だった
平飼い卵と、値段という現実
話題は身近な卵へ。研修生さんは、狭いケージに入れて歩けないようにする飼い方が批判され、平飼い鶏の卵が売れていることに触れます。
どう思うか、と問われた川上さんの答えははっきりしています。
食糧が少なくて、卵をお買い得で1パック100円で飛びつくような国民性なのに、何を言うとんじゃって思う。
研修生さんも、かわいそうだとは思うと前置きしつつ、現実的な問いを重ねます。
じゃあそれで卵の値段が600円とか700円になって、文句言わないんですかって言ったらなるじゃないですか。
1パック100円が200円になっただけで「卵が高い」と報じられる。牛乳も同じ道をたどるだろう、と2人は見ています。
ジャージー牛と「消費者が高く買えば」の構造
YouTubeには、ジャージー牛の雄が生まれると価値がなく殺処分される、という趣旨のコメントも届いたそうです。
川上さんは、ジャージーの肉も売れはするが「割が合わない」と説明します。体が小さく、同じように餌を食べても採算が合わないため、地域や歴史によって判断が分かれるといいます。
消費者が高く買ってくれれば、それって採算が合うんで、殺処分することがない。
農産物は安く買いたいのに、負担は農家だけに来ている。研修生さんは「正解はない」と受け止めます。
かわいそうって思う気持ちもわかる。わかるけど、でもどうしようもないじゃんっていう。
不毛な議論をどこかでやめたい
川上さんは、20年以上前から同じ議論が繰り返されてきたと振り返ります。基準は上がっているはずなのに、いまも同じ言葉が届く。これから酪農を志す学生がずっと言われ続けるのはかわいそうだ、と話します。
研修生さんは、批判の裏にある心理を独自の言葉で表現します。謝罪も、自分が悪いと思ったことを相手に伝える一種の快楽行為ではないか、と。
コメントも一緒で、自分がかわいそうと思ってることを伝えて、気持ち悪くなってる。
だからこそ、考えを持つのは自由でも、できる範囲でやっている現場をわかってほしい、というのが2人の着地点です。
わかった上でどうしようもないから、できる範囲のことをやってるわけじゃないですか。
川上さんは、農家は100人いれば100通り、牛への向き合い方もそれぞれだと言います。だからこそ、自分にぴったりくる農家を応援し、その人の農産物を食べる。そんな形が広がればいい、と語ります。
愛じゃないと、1日以上お腹壊して2回も乳絞れないですよ。
まとめ
「かわいそう」という言葉だけでは前に進まない。今回は、動物愛護の視点と経済動物の現実のあいだで、酪農家と研修生さんが率直に語り合った回でした。批判を否定するのではなく、その先にある値段や構造まで一緒に考えたい、という姿勢が伝わってきますね。
- 研修生さんは経済動物ではなく愛玩動物寄りの感覚を持ち、その視点から議論が始まった
- 日本のアニマルウェルフェアは基準が低いのではなく、工業化のスタートが遅かったという整理
- 平飼い卵やジャージー牛の例から、「消費者が高く買うか」という現実的な問いが浮かぶ
- 批判は簡単だが、負担は農家だけに来ている構造が課題として残る
- 自分にぴったりくる農家を応援し、その農産物を選ぶ形が一つの希望として示された
