映画マトリックスから届いた「地下で牛は飼える?」という質問
この日の放送は、リスナーからの質問に答えるお便りコーナーです。
配信アプリのポポポから、関心さんという方が質問を寄せました。
映画マトリックスに出演されていた川上さんに質問します。ザイオンのような地下施設で牛さんを飼うことは可能でしょうか。餌の問題もあると思いますが、その餌も供給し続けることはできると思いますが。
川上さんはまず「マトリックスには出ていない」と冗談で返しつつ、この質問を「めちゃめちゃ面白い」と受け止めます。
SF映画の話に見えますが、川上さんは「実は世界ではすでに似たようなことが始まっている」と話します。
結論は「技術的には可能、経済的には難しい」
川上さんはまず結論から示します。
この「できるけれど割に合わない」という点が、今回の話の軸になります。
オランダの水上牧場という現実
その前提として、川上さんは「こんなところで牛を飼うの」という驚きの事例を紹介します。
代表例が、オランダにある世界初と言われるフローティングファームです。
名前の通り、牛舎が海や運河に浮かんでいて、ロッテルダムの港に実在する牧場だと話されています。
都市のすぐ横、ビルが立ち並ぶ場所で、約四十頭の乳牛を飼っているそうです。
餌は街から出るビールかすや食品残渣を与え、牛乳はその場で加工して近くのスーパーへ販売するといいます。
都市の中で循環する酪農なんですね。昔ならそんな場所で牛なんて、と思われたものが、今では普通に実証されています。
地下酪農に立ちはだかる四つの課題
では本題の地下ではどうか。川上さんは「地下になると問題は一気に増える」と説明します。
整理された課題は四つです。
太陽がない
牛は太陽を直接見なくても飼えるが、餌になる牧草は太陽がないと育たず、餌を全部外部から運び続ける必要がある
空気
乳牛は体重七百キロ近くあり呼吸もゲップもする。換気設備が止まると牛も人も生活できなくなる
糞尿
牛は一日に五十から七十キロの糞尿を出す。四十頭なら約二から三トンで、地上へ運び出す設備がいる
お金
照明、空調、換気、給餌、排水がすべて電気で動き、牛乳一リットルのコストが何倍にもなりうる
なかでも一番大きいのがお金だと川上さんは話します。
中国の豚マンションと立体飼育の現実
ここで川上さんは、もう動き始めている事例として中国の「豚マンション」を挙げます。
二十階以上の建物で、数十万頭規模の豚を飼育する施設だそうです。
給餌も飲水も糞尿処理も空調も、ほぼ自動化されていると話されています。
家畜を立体的に飼うという考え方は、すでに現実になってきています。ビルで家畜を飼うという発想自体は、もうSFではありません。
ただし、牛は豚より体が大きく運動量も必要なので、そのまま同じ設計にはできないと補足しています。
完全循環型の地下都市は理論上つくれる
もし本当にマトリックスのような地下都市を作るなら、と川上さんは思考実験を続けます。
牛舎とLED牧草
地下に牛舎を置き、LEDで牧草を育てる
餌の再利用
食品工場の副産物を餌として再利用する
エネルギー化
牛糞をメタン発酵させて電気と熱を作る
植物へ循環
発生した二酸化炭素を植物工場へ運び、植物が酸素を作ってまた牛へ戻す
理論上はできるが、現時点では地上で太陽を使った方が圧倒的に安い、というのが川上さんの見立てです。
これからの酪農は「どこで」より「どう循環させるか」
この回で川上さんが一番伝えたかったのは、飼い方そのものよりも資源の使い方だと話します。
オランダの水上牧場も中国の豚マンションも、発想は同じだと言います。
土地が足りない、環境を守りたい、物流を短くしたい。だからこそ、これまでの常識とは違う場所で家畜を飼う挑戦が始まっている、という整理です。
放送の終盤では、川上牧場自身の取り組みにも触れられます。
乳搾りや餌やり、飼料設計をロボットが担い、監視カメラとAIで牛の観察を行う仕組みが、すでにできてきているそうです。
酪農業界にいると、どうしても頭が固まっちゃうんですよ。既存のやり方でしか考えられなくなるので、皆さんの奇抜な発想、面白い発想をいただけると、とても刺激になります。
まとめ
地下で牛を飼うことは技術的には可能でも、餌、空気、糞尿、電力という四つの課題があり、現状では地上のほうが圧倒的に効率的だと語られました。それでも世界では常識を超える畜産が実際に始まっていて、これからの酪農は「どこで飼うか」より「どう循環させるか」が問われていく、という回です。
- 地下酪農は技術的には可能だが、コスト面でほぼ成り立たない
- オランダの水上牧場は都市の中で循環する酪農として実在している
- 中国の豚マンションのように、家畜を立体的に飼う発想はすでに現実になっている
- 地下酪農の主な課題は太陽・空気・糞尿・電力の四つ
- 未来の酪農の鍵は「どこで飼うか」より「資源をどう循環させるか」
