リスナーからの質問「牛は熱中症で元に戻る?」
牛さんが熱中症にかかった場合、治療の後、元通りに戻りますか?ミルクが出ないとか、とても深刻な症状が残ることがありますか?この暑さだと人間も命の危険があるので、牛さんはどうかなと思っています。
質問はポポポという配信アプリのリスナー、ポルトマルテさんから寄せられました。
この暑さで人間も命の危険があるなか、牛はどうなのかという素朴な疑問です。
なぜ牛は暑さに弱いのか
川上さんはまず、牛がなぜ暑さに弱いのかを説明します。日本で飼われる乳牛の99パーセントはホルスタインで、原産地は北欧です。
つまり涼しいところが得意で、暑いところが苦手な動物だと話されています。
牛さんは革のジャケット、牛革のジャケットを体に着込んでいて、なおかつお腹の中で草を分解消化するために発酵させてるんですよ。その時に発酵熱が出るので、お腹の中に湯たんぽを入れたような状況ですね。
その状態で1日30リットルほどの牛乳を出すのですから、体内で発生する熱はかなりのものだと言えます。
熱中症になると牛の体で何が起きるか
川上さんは、暑さが大変というだけでなく、牛の臨床学や暑熱ストレスの研究でわかっていることを中心にまとめてきたと話します。
牛は汗腺が少なく、人間ほど汗をかけません。そのため体温が上がると、まず呼吸を早くして熱を逃そうとします。これをパンティングと呼びます。
それでも下がらないと血液が皮膚へ集まり、逆に胃や腸、乳房への血流が減ります。すると餌を食べなくなり、反芻が減り、脱水になり、乳量が減っていきます。
さらに重症化すると体温は40度を超え、42度近くになると細胞そのものが障害を受け始めると説明されています。
暑さの危険度を測る指標として、現在はTHI(温湿度指数)が世界中で使われています。川上牧場にもTHI計があり、30度を超えると80パーセントを超えてレッドラインに入ると話されています。
体温が上がる
汗腺が少なく熱を逃しにくい
パンティング
呼吸を早めて熱を逃そうとする
血流の変化
皮膚へ血液が集まり、胃腸や乳房への血流が減る
食欲・反芻の低下
餌を食べず、脱水が進む
乳量の減少
栄養不足で牛乳を作れなくなる
軽症は回復、重症は後遺症が残ることも
質問への結論から、川上さんはこう答えます。軽症で早く対応できれば元の状態まで回復する牛もいます。
一方で、重症の熱中症では生産能力や繁殖能力に長期間影響が残ることもあると話されています。
重症度と、どれだけ早く体温を下げられたかが大きく関係します。
体温が非常に高くなると、筋肉や腸、肝臓、腎臓、脳などに障害が起こることがあります。回復しても採食量が戻らない、乳量が以前ほど出ない、慢性的な体調不良になることもあると説明されています。
乳量が下がるのは、乳腺が壊れるからではなく、まず牛が餌を食べなくなるからだと川上さんは強調します。栄養が不足し、体温を下げることが優先されるため、乳量が低下していきます。
体温を下げ、脱水を補正し、餌食いが戻れば乳量も徐々に回復する牛が多い
内臓障害が起こり、採食量や乳量、繁殖成績に長期間影響が残る場合がある
酪農家が最も心配するのは繁殖
川上さんが最も心配するのは、乳量だけではなく繁殖だと話します。
暑熱ストレスは発情が弱くなったり、受胎率が低下したりします。さらに受精卵が途中で育たなくなる早期胚死滅も起こると説明されています。
これは世界中で報告されている現象で、暑い地域では夏の受胎率が冬より低くなることは珍しくないと話されています。
治療より予防が最も重要
だからこそ、獣医学の現場では治療より予防が最も重要だと考えられていると川上さんは語ります。
暑くなってから治療するより、暑くならない環境を作る方が牛にも人にもいいのです。
牧場では送風機や換気扇、ミスト、十分な飲水、日陰や換気、給餌時間の工夫、暑熱対応の飼料設計など、様々な方法を組み合わせています。
川上牧場でも毎年この時期は暑熱対策を最優先にしています。飲水環境を改善しただけで乳量が増えたこともあると振り返ります。
重症で体温が下がらない牛には、夕方に全身へ水をかけたり、保冷剤で冷やした水をかけたりします。首の周りの大きな血管を急激に冷やすこともあると話されています。
ただし、これから8月に入り暑さが本格化する時期は、助けても治る確率がかなり低くなるといいます。事故は起きてから対応するのではなく、4月や5月から早め早めに備えることが大切だとまとめています。
まとめ
牛の熱中症は、軽症で早く対応できれば回復する牛が多い一方、重症では乳量や繁殖、内臓機能に長期間の影響が残ることもあります。だからこそ現場では、治療よりも予防が最も重要とされています。
- 日本の乳牛ホルスタインは北欧原産で暑さに弱く、体内でも大量の熱を出している
- 熱中症は食欲低下から始まり、乳量減少や重症化につながる
- 軽症は回復しやすいが、重症は乳量・繁殖・内臓に後遺症が残る場合がある
- 酪農家が特に心配するのは繁殖で、暑さは受胎率を下げる
- 治療より予防が最重要で、早め早めの環境づくりが鍵になる
