質問は「牛と豚、実習するならどっち?」
今回の質問は、ポポポという配信アプリのリスナー、柿の木さんから届きました。
農業大学に進学して畜産実習を受ける予定で、牛と豚なら牛の実習がいいですよね、という内容です。
川上さんはまず、自分は酪農家であり養豚は専門ではないことを正直に伝えます。
私は酪農家で、毎日牛と生活しているので、養豚は専門ではありません。ここをしっかりお伝えしていきます。
そのうえで、牛と豚の一般的な違いと、酪農家の立場から感じることを話していきます。
最初の答えは「牛がいいとは言い切らない」
結論から言うと、川上さんは「牛がいい」とは言い切りません。
どちらを経験してもよく、自分が将来何をしたいかで選ぶべきだと話します。
牛がいいとは言い切らないです、私は。皆さんどちらを経験してもらっていいなって思うところに進んでもらったらいいかなと思います。
酪農家として牛の担い手が増えるのは嬉しいものの、進路は本人の将来次第だという立場です。
牛と豚で一番違うのは「時間」
川上さんが一番の違いとして挙げたのは、動物と付き合う時間の長さです。
乳牛は生まれてから初めて子牛を産むまで約2年かかり、その後も何年も飼います。
1頭と何年も付き合うため、性格や好き嫌い、歩き方の癖まで分かるようになります。
一方、肉用の豚は一般的に数ヶ月で出荷されます。繁殖豚は長く使いますが、肉豚は牛より短い期間で育てられます。
この期間の違いから、1頭との付き合い方が大きく変わってきます。
初産まで約2年。その後も何年も飼い、性格や癖まで分かる
一般的に数ヶ月で出荷。牛より短い期間で育てる
仕事内容と管理の考え方の違い
仕事の内容も違います。酪農は365日、朝夕の搾乳があります。
餌を食べているか、反芻しているか、乳量はどうか、乳房炎はないか、分娩は近いか。牛の体調を毎日細かく見ています。
一方、養豚は繁殖、分娩、哺乳、離乳、肥育など、成長段階ごとに管理方法が分かれています。
さらに多くの養豚場では、衛生管理を重視したオールインオールアウト方式などが行われています。
病気を予防することが最優先なのは、牛も豚も共通です。
ただ牛は1頭の価値が高く長期間飼うため、個体ごとの治療や管理に時間をかける場面が多くあります。
一方で養豚は群れ単位で管理する場面が多く、病気を農場全体へ広げないことが重要になります。
これはどちらが良い悪いではなく、飼養頭数や生産システムの違いから生まれる考え方だと川上さんは話します。
酪農家が感じる「牛の面白さ」
ここからは酪農家である川上さんの主観です。牛には本当に表情があると言います。
耳の向き、目、歩き方、食べる速度、反芻、寝方、乳量。1頭ずつに個性があり、毎日少しずつ変わっていきます。
牛は「今日は元気がないなー」が本当にわかるようになります。ここが酪農の一番面白いところだなと思ったりします。
観察力が鍛えられる点が、酪農の魅力だと語ります。
一方で養豚では、衛生管理や疾病予防、作業効率、生産管理、データ管理などを高いレベルで学べる農場がたくさんあります。
よりシステマティックなイメージで、どちらにもその分野のプロがいると話します。
大事なのは「誰から学ぶか」
将来酪農をやりたい、牛が好き、乳牛や遺伝改良を勉強したいと思うなら牛へ。養豚をやりたいなら養豚へ進めばよいと川上さんは言います。
そのうえで、牛か豚かよりももっと重視すべきことがあると強調します。
同じ牛でも牧場によって全然違うと話します。
牛舎が綺麗で、牛をよく観察し、学生に説明してくれて、数字も失敗も話してくれる牧場なら、何倍も成長できるといいます。
逆に「見ておいて」「ちゃんとやっておいて」だけの環境では、あまり学べないだろうと話します。
できれば牛も豚も両方経験してみて
時間があるなら、牛も豚も両方経験してみてほしいと川上さんは勧めます。
豚の経験が牛に活き、牛の経験が豚に活きるからです。
畜産業界は酪農、肉牛、養豚、養鶏などで専門性は違いますが、飼養管理や衛生管理、経営など共通する考え方も多くあります。
異なる畜種を知ることで、自分の視野は大きく広がると話します。
川上さん自身も、学生時代に養豚をやっていたら、そちらに進んでいたかもしれないと振り返ります。
品種改良や繁殖管理は面白そうで、1頭の繁殖豚から何頭も子豚が生まれる点に魅力を感じると言います。
一方で、子豚同士で尻尾や耳を噛みちぎるほど序列が激しいと聞くと、噛んでこない草食動物の牛の方がいいかな、とも話しています。
まとめ
牛と豚のどちらを実習するかは、動物と付き合う時間や管理の考え方の違いを踏まえつつ、自分が将来やりたい仕事に近い方を選ぶのがよい、というのが川上さんの答えです。そして最も大切なのは、誰から学ぶかという出会いだと語られました。
- 牛は初産まで約2年、その後も長く飼うため1頭ごとの付き合いが深い
- 豚は数ヶ月で出荷され、群れ単位・衛生管理重視のシステマティックな管理が中心
- 病気予防の最優先は共通で、違いは飼養頭数や生産システムから生まれる考え方の差
- 牛か豚かよりも、説明や数字、失敗まで話してくれる「誰から学ぶか」が重要
- 時間があれば両方経験すると畜産の奥深さが分かり、視野が広がる
