リスナーから届いた「カゼイン発がん性」の相談
今回はメルマガに届いた長文の質問がテーマです。匿名希望のリスナーからの相談でした。
あるコミュニティで、WHOが牛乳の主要なタンパク質であるカゼインに発がん性があると発表した、と話している人がいたそうです。
その影響で、牛乳や乳製品を避ける人も出ているとのことでした。
WHOは本当にカゼインを発がん性物質と発表したのか、そして牛乳とがんの関係を私たちはどう受け止めればいいのか、整理してほしい。
相談者自身が確認したところ、WHOがカゼインを発がん性物質として認定した事実は見当たらなかったそうです。
一方で、乳製品の摂取と前立腺がんとの関連を示す研究はあるものの、カゼインそのものが原因と断定されているわけではない、という点も相談に添えられていました。
結論:WHOはカゼインを発がん性物質と認定していない
川上さんはまず結論から話しています。
WHOやIARCが「カゼインは発がん性物質です」と発表した事実はない、とのことです。
これは現在公開されているIARCの発がん性分類を見ても確認できると説明されています。
なぜ噂が広まったのか:ラットの動物実験
では、なぜこのような話が広まったのか。川上さんは誤解の発端を一つの動物実験に求めています。
発端になっているのは、コーネル大学のティー・コリン・キャンベル博士が行ったラットの動物実験だと説明されています。
この実験では、まずラットに非常に強力な発がん物質であるアフラトキシンを投与します。
その後、高濃度のカゼインを与えた群では腫瘍が大きくなり、低濃度では成長が抑えられる、という結果になったそうです。
ここだけ見ると「カゼインは危険」という印象になります。
しかし重要なのは、このラットが最初に強い発がん性物質を投与されていたという点だ、と川上さんは指摘します。
つまり、普通の人が牛乳を飲む状況とは全く条件が違います。人間では同じことが証明されているのかというと、現在のところそのような強い根拠はありません。
世界中の疫学研究をまとめたレビューでも、カゼインそのものが人間の発がん性物質という結論にはなっていない、と話されています。
IARC資料の「カゼイン」の意味を読み違えない
では、なぜWHOの資料に「カゼインとがん」が書いてあるという話になるのか。ここが今回一番重要なポイントだと川上さんは言います。
IARCでは発がん物質を調べるために、何千本もの動物実験を紹介しています。
その実験では、ラットの餌としてカゼイン入りの標準飼料がよく使われます。
つまり資料には「ラットはカゼイン入りの餌を食べました」という実験条件が書かれているだけ、という説明です。
評価されているのはベンジジンやニトロソ化合物などの発がん物質であって、カゼインではありません。
ここを読み間違えると、「WHOがカゼインを危険だと言っている」という誤解が生まれてしまう、というわけです。
実験条件
IARC資料にラットの餌としてカゼイン入り飼料が記載される
評価対象
実際に評価されているのはベンジジンなどの発がん物質
読み違え
「カゼインとがん」の記述だけを切り取って解釈する
誤解
WHOがカゼインを発がん性と発表したという噂になる
乳製品とがん:前立腺がんと大腸がんの両面
ただし、ここで終わらせてしまうのも科学的ではない、と川上さんは続けます。乳製品については、前立腺がんとの関連を示した研究もあります。
日本の国立がん研究センターが行ったJPHC研究では、乳製品をたくさん摂取する男性で前立腺がんのリスクが約1.5倍になる可能性が報告されています。
ただし、ここでも原因はカゼインとは結論づけられていません。IGF-1という成長因子、カルシウム、乳脂肪、生活習慣など複数の要因が関係している可能性があると考えられています。
そのため、世界がん研究基金でもこの根拠は「限定的で示唆的」という評価だと紹介されました。
一方で、乳製品には非常に強いメリットもあります。それが大腸がんの予防です。
世界がん研究基金では、乳製品やカルシウムは大腸がんのリスクを下げるエビデンスが強いと評価されています。
カルシウムは腸の中で有害な胆汁酸と結合して毒性を弱める働きがあり、さらにカゼインはカルシウムの吸収を助ける役割も持っている、と説明されました。
つまり、カゼインは危険と単純には言えないのです。食品の研究では、一つの食品を絶対に健康、絶対に危険と断定できるものはほとんどありません。
多く摂取する男性でリスク約1.5倍の報告。ただし根拠は限定的で示唆的、原因はカゼインと断定されていない
乳製品やカルシウムがリスクを下げるエビデンスが強いと評価。カルシウムが胆汁酸と結合し毒性を弱める
情報の受け止め方:出典と専門機関の評価を確認する
健康は一つの要因だけで決まるものではない、と川上さんは話します。
年齢や性別、家族歴、運動、喫煙、飲酒、体重、食生活全体。こうしたものが組み合わさって健康は決まると説明されました。
だからこそ、一つの研究だけを切り取った情報より、世界中の研究をまとめたレビューやガイドラインを見ることが重要だと述べています。
川上さんは、以前TikTokで「白い毒」として砂糖・米・小麦粉・牛乳を挙げる話に反論する投稿をしたところ、センシティブな投稿としてブロックされた経験にも触れています。
体質や環境によって合わない人がいることは認めつつ、すべての人にとって毒だという主張は間違っている、という立場です。
まとめ
今回は「WHOがカゼインを発がん性物質と認定した」という噂を、公的機関の研究をもとに整理する回でした。噂の出どころと、乳製品とがんの複雑な関係が見えてきます。
- WHOやIARCがカゼインを発がん性物質に分類した事実はありません。
- 噂の発端は、強い発がん物質を投与したラットにカゼインを与えた動物実験で、人間で証明された強い根拠はありません。
- 前立腺がんとの関連を示す研究はありますが、原因がカゼインと証明されたわけではありません。
- 一方で乳製品には大腸がん予防など強い科学的エビデンスもあります。
- 刺激的な言葉だけで判断せず、情報の出典と専門機関の評価まで確認する習慣が大切です。
