質問「牛乳石鹸に本当に牛乳は入ってる?」
今回の質問はTikTokから届いたもの。和彦さんからの投稿です。
牛乳石鹸はどうやって作るんですか?本当に牛乳が入ってるんですか?
赤い箱や青い箱でおなじみの牛乳石鹸。牛のマークがついているので、牛乳がそのまま入っていそうなイメージがありますよね。
川上さん自身も、牛乳石鹸のことは詳しく知らなかったそうです。でも酪農家としても気になる質問だからと、調べてまとめてきました。
これ酪農家としてもかなり気になる質問です。
先に結論から。実は、普段飲んでいる液体の牛乳をそのまま石鹸に練り込んでいるわけではないんです。
牛乳石鹸には、牛乳から得られる乳脂、いわゆるバターオイルが「潤い成分」として使われています。牛乳そのものではなく、中にある脂肪分を取り出して使っていると考えるとわかりやすいですね。
牛乳そのものが入っているわけではなく、牛乳由来の乳脂肪(バターオイル)が潤い成分として使われています。牛乳の中にある脂肪分を取り出して、石鹸に向く形で利用しているイメージです。
そもそも石鹸って何からできてる?
質問に答える前に、まず「石鹸ってそもそも何?」というところから。当たり前に使っているけれど、仕組みを考えると面白いんですよね。
石鹸は基本的に、油脂とアルカリを反応させて作るものです。牛乳石鹸の場合、油脂に水酸化ナトリウム、いわゆる苛性ソーダ水酸化ナトリウムのこと。強いアルカリ性を持ち、油脂と反応させて石鹸を作るのに使われる基本的な材料です。を反応させます。
この反応を鹸化(けんか)油脂とアルカリを反応させて石鹸を作る化学反応のこと。油脂が分解され、洗浄作用を持つ脂肪酸ナトリウムができます。と言います。油脂は脂肪酸とグリセリンが結びついた構造をしていて、そこにアルカリを反応させると、汚れを落とす脂肪酸ナトリウム=石鹸ができあがります。
つまり、油がそのまま泡立つわけではないんですね。化学反応を起こして初めて、汚れを落とす石鹸になるというわけです。
釜炊き製法と「塩析」という工程
牛乳石鹸は、昔ながらの釜炊き製法大きな釜に油脂を入れ、アルカリと反応させながら時間をかけて石鹸を作る伝統的な製法。短時間で大量生産する方法もある中で、あえて手間のかかる作り方を採用しています。を採用しています。
大きな釜に油脂を入れて、アルカリと反応させながら時間をかけて石鹸を作っていきます。でも、石鹸ができたら終わりではなく、途中に重要な作業があるんです。
それが塩析(えんせき)食塩水を使って石鹸成分とそれ以外のものを分離する工程。「塩を析出する」と書きます。石鹸成分は上に集まり、水分や余分な成分は下に分かれます。です。食塩水を加えると、石鹸成分は上の方に集まり、水分や余分な成分は下に分かれていきます。そこから石鹸になる部分を取り出して、品質を整えていきます。
イメージとしては、混ぜれば完成ではなく「反応させて、分けて、整えて、熟成させる」という工程です。水分や空気、時間、温度など、いろんな条件で最終的な品質が変わるので、ちょっと食品を作る感覚にも似ていますね。
本当に牛乳は入ってる?名前と中身のギャップ
いよいよ本題です。名前を見ると牛乳が入っていると思いますよね。でも正確には、生乳そのものではなく、牛乳由来の油脂(バターオイル)が使われています。
牛乳を成分で見ると、水分が大部分を占めていて、乳脂肪やたんぱく質、乳糖、ミネラルなどが入っています。でも、その全部が石鹸に向いているわけではないんです。
石鹸作りでは強いアルカリを使うので、牛乳をそのまま大量に入れると、タンパク質や糖も反応や変性を受けてしまいます。色や匂い、保存性、品質のばらつきも管理しないといけません。
だから、牛乳という食品をそのまま入れるのではなく、石鹸で使いたい牛乳由来成分だけを取り出して利用する。とても合理的な作り方なんですね。
もうひとつ大事なのは、乳脂肪は石鹸の「主原料」ではないということ。石鹸の骨格を作っているのはあくまで油脂で、牛乳由来の油脂は特徴を持たせる潤い成分として配合されています。
赤箱と青箱の違いに残る流通の歴史
牛乳石鹸といえば、赤箱と青箱を見たことがある人も多いはず。この2つ、ただ箱の色を変えただけではありません。
赤箱はしっとりした洗い上がりとローズ調の香り、青箱はさっぱりした洗い上がりとジャスミン調の香りという違いがあります。赤箱にはスクワラン肌のうるおいを保つ成分として化粧品などに使われる油分。赤箱に配合され、しっとりとした使用感を意識した設計になっています。が配合されていて、よりしっとりした使用感を意識した設計です。
しっとりした洗い上がり/ローズ調の香り/スクワラン配合/西日本で多い
さっぱりした洗い上がり/ジャスミン調の香り/東日本で強い
面白いのは、西日本では赤箱が多く、東日本では青箱が強いという地域差があること。でも、関西人はしっとり好き、関東人はさっぱり好き、という単純な話ではないようです。そこには販売の歴史が関係しています。
つまり、赤箱と青箱の東西差には、味覚や肌質だけでなく、流通とマーケティングの歴史が関係しているんですね。スーパーに置いてある石鹸ひとつに、戦前から戦後の日本の流通史が残っていると思うと、かなり面白いです。
パッケージの牛に込められた意味
牛乳石鹸には大きく牛が描かれています。牛乳由来の成分を使っていることと相性がいいのはもちろん、会社としては牛そのものに意味を持たせているそうです。
「商いは牛の歩みのごとく」という考え方だそうです。派手に一気に進むのではなく、一歩ずつ粘り強く前に進む。
酪農家から見ると、牛って確かにそんなところがあると川上さんは話します。急いだからといって急に乳量が増えるわけでもなく、遺伝改良も餌作りも土作りも、1日で結果は出ません。
少しずつ積み上げていく。100年近く同じブランドが残っているというのは、ある意味「牛らしい」商品なのかもしれませんね。
牛乳を「売る」のではなく「機能を売る」
今回調べてみて川上さんが一番面白かったのは、牛乳をそのまま使うのではなく「牛乳のどの機能を使うか」を考えていることでした。
酪農家はどうしても、牛乳をたくさん飲んでもらいたい、牛乳として売りたいという発想になりやすいもの。でも、牛乳は飲み物としてだけに価値があるわけではありません。
乳脂肪やタンパク質、乳糖、ミネラルを分離して考えると、用途は大きく広がります。実際、バターやチーズ、ヨーグルト、脱脂粉乳、ホエイ、カゼインなど、牛乳はすでに多くの形に分解され、別の商品になっています。牛乳石鹸もその延長線にある商品というわけです。
将来、乳脂肪を化粧品に、乳タンパク質を新しい素材に、乳糖を発酵の原料に。牛乳を「白い液体」としてだけ見ない発想が、もっと広がるかもしれません。
最後に川上さんは、こんな補足も添えています。牛乳石鹸は乳成分だけを取っているので、海外の乳脂肪を使っている可能性もあるとのこと。ただ、そこまでは調べても分からなかったそうです。
牛乳が余れば牛乳石鹸作ればいいじゃないかっていう声が、コロナ禍にもあったりしましたけど、そういうこっちゃないってことですね。
まとめ
牛乳石鹸は牛乳を固めたものではなく、牛乳由来の乳脂肪を潤い成分として使った商品でした。お風呂場の小さな石鹸ひとつに、化学や油脂、牛乳製造技術、100年近い消費文化が詰まっていると思うと、ちょっと見方が変わりますね。
- 牛乳石鹸に入っているのは生乳そのものではなく、牛乳由来の乳脂肪(バターオイル)で、潤い成分として配合されている
- 石鹸は油脂とアルカリを反応させる「鹸化」で作られ、牛乳石鹸は釜炊き製法と塩析という伝統的な工程を経ている
- 赤箱と青箱の東西差には、肌質や好みだけでなく、戦前・戦後の流通とマーケティングの歴史が関係している
- これからの酪農は「牛乳を売る」だけでなく、乳脂肪や乳タンパクなど「牛乳の機能を売る」発想で可能性が広がるかもしれない
