リスナーから届いた「なぜ毎年同じことが起こるのか」
今回の配信は、ポポポという配信アプリから届いた質問に答える回として進みました。
質問者はMKタロさん。春休みと牛乳が取れる時期が毎年重なるのに、なぜチーズやバター、アイスで対応できないのか。そして農水省やJAはなぜ放置してきたのか、という核心をついた問いでした。
なぜ酪農の歴史において、毎度同じ事象が起こるのか。春休みと取れる時期が重なるのを毎年見受けるのに、チーズやバター、賞味期限のないアイスで対応できない。この構造を農水省やJAはなぜ放置してきたのか。
川上さんは、コロナ禍からもうすぐ5年経つのに、いまだに脱脂粉乳が積み上がっている現状を認めます。
まだ飲まないといけないの、なんでこれ問題解決しないのって思いますよね。わかりますよ。酪農家の私も思ってますから。
そのうえで、この構造は分かりにくいので、歴史も振り返りながら説明したいと切り出しました。
牛乳が余るのは偶然ではない
まず川上さんは、冬から春に牛乳が余るのは偶然ではないと話します。
牛は暑さが苦手で、涼しい時期の方がよく食べて乳量も増えます。だから冬から春は自然と牛乳が増えていきやすいのです。
一方で、涼しい時期は牛乳の消費が伸びにくいと言います。さらに冬休みや春休みで学校給食が止まると、需要も減ってしまいます。
つまり、牛乳が増えるタイミングと、飲まれなくなるタイミングが毎年重なる。これが余りを生む基本的な構造だと説明されました。
涼しい時期
牛がよく食べ、乳量が増える
消費は伸びない
寒い時期は牛乳が飲まれにくい
給食が止まる
冬休み・春休みで需要が減る
供給と需要のズレ
増える時期と減る時期が毎年重なる
チーズ・バター・アイスにすればいいのでは?
では余るならチーズやバター、賞味期限のないアイスにすればいいのでは、という声はよく寄せられるそうです。
しかし川上さんは、牛乳はそう単純ではないと話します。
たとえばバターを作ると、100リットルの牛乳のうちバターになるのは脂肪分など10分の1ほど。残りはすべて脱脂粉乳になってしまいます。
つまりバターを増やすと脱脂粉乳が大量に増えるということです。
実際コロナ禍では、飲食店が止まって業務用需要も減りました。バターに回して長期保存しようとした結果、今度は脱脂粉乳の在庫が倉庫に積み上がったといいます。
倉庫に置けばいいと思われがちですが、保管には管理費や維持費がかかります。その負担は乳業や酪農の業界、一部は国の補助金で支えられているそうです。
さらに、加工の負担が酪農家側にかかる仕組みもあり、飲用向けの牛乳価格の手取りまで下がってしまうと川上さんは説明します。
アイスも同じで、長期保存はできても工場の処理能力には限界があります。設備、人件費、包装資材、物流がすべて必要で、乳脂肪や乳固形分の設計も重要な、いわば工業製品のようなものだといいます。
一つ解決すると、今度別の問題が出てくる。これが日本の乳製品の難しいところですね。
日本独特の仕組み「一元集荷多元販売」
そしてもう一つ、日本独特の仕組みとして「一元集荷多元販売」が挙げられました。
戦後およそ80年前、酪農家は乳業メーカーとの価格交渉で圧倒的に弱かったといいます。乳質や乳量の良い農家の牛乳だけが求められる状況があったそうです。
そこで組合を作り、みんなの牛乳をまとめて集めて販売することで価格を安定させた。これが今の仕組みの成り立ちです。
この仕組みは日本の酪農を守ってきました。一方で柔軟性が低く、牛乳が売れなくなるとどん詰まりになってしまうと川上さんは指摘します。
輸出という発想も構造的に乏しく、国内で余ったら国内だけで処理しなければならない。海外に売ろうとしても、各国が自国の酪農家を守るため輸入したがらず、長期輸送は鮮度も落ち輸送費もかさむといいます。
ホクレンなどが海外輸出に取り組む動きもあり、少しずつ良くなってきているとも話されました。
2018年の制度改正と、変わりにくい構造
大きく変わったのは2018年。畜安法の改正で、販売の自由度が増えました。
これはいい面もありました。しかし、需給調整を頑張る人と、組合を通さず自分のところで売る人との間で、負担の偏りが生まれたといいます。
なんでみんなでこうやってるのに、仲間にならずに勝手にやる奴がいるんだと、揉めるわけですよね。
昭和に作られた仕組みが令和にマッチしきれず、その間で揺れているのが今の日本の酪農だと川上さんはまとめます。
農水省やJAが何もしていないわけではありません。ただ、民間の業界に国がいきなり「おかしいから直せ」と指導するのは難しい面があると話します。
皆さんの会社で、いきなり国が指導してきて、お前らの業界おかしいから直せみたいなこと言われたら困りません? そういうことです。
実際には、暑さ対策の換気扇への補助金、海外輸出への予算、脱脂粉乳解消への予算など、国もJATも取り組んでいるといいます。
そして最大の難しさは、牛が工場ではないこと。子牛が生まれて乳を出すまで2年ほどかかり、今日減らそう明日増やそうができません。
これから酪農に必要なこと
最後にリスナーから「利権関係なく真っ白にして、どうするのが理想か」というコメントが届きました。
川上さんは、人口減少で牛乳の消費は確実に落ちると見ています。
さらにTPPやグローバルサウスとの関係で、海外の乳製品は日本に入ってきやすくなる。半導体を輸出したい日本には、農産物がより入ってくる形になると話します。
だからこそ、牛乳・乳製品の消費だけで酪農を維持するのは難しいのではないか、と個人的な見解を示しました。
若い世代で牛乳を飲む習慣が減っていることにも触れつつ、まずはコップ一杯を飲む人を増やすこと、そして知った現場の話を家族や友人、SNSで広げてほしいと呼びかけました。
まとめ
毎年繰り返される牛乳余りは、供給と需要のズレ、加工の難しさ、そして戦後から続く流通の仕組みが重なって生まれています。川上さんは、それを放置ではなく変えにくい構造として説明し、消費と付加価値の両面から未来を考える必要があると語りました。
- 牛は涼しい時期に乳量が増え、給食が止まる時期と重なって毎年牛乳が余りやすい。
- バターにすると脱脂粉乳が大量に生まれ、アイスも工場の処理能力に限界があり、加工は単純な解決策にならない。
- 一元集荷多元販売は価格を守ってきた一方、供給過剰時の柔軟性が低く輸出もしにくい構造になっている。
- 牛は生き物で、乳を出すまで約2年かかるため、需給の調整そのものが難しい。
- 人口減少と輸入増を見据え、牛乳販売だけでなく酪農の付加価値を打ち出すことが今後の課題として挙げられた。
